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技神聖典―刀と少女と神の抒情詩―  作者: 一響 之
十一章 祝福の編
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十一章 第3話 聖刻の実験

 翌日、さっそく実験材料を買ってきてもらった俺は聖刻への挑戦を開始した。まずは市販の鉄のナイフ。普通のスキルメイドだが数打ち品で小銀貨二枚とそこそこ値のする奴だが山ほど買ってきてもらった。同じ店で似た大きさのミスリル製ナイフも、こちらも山ほど買ってきてもらったので順番に確認していく。


「エレナ、観測よろしく」


「うん!」


 ベッドサイドでエレナが目を輝かせながら頷く。上半身を起こした状態で横たわる俺は、自らの手の中の刃物に意識を集中させた。神眼を使わず魔力の確認をエレナに一任するのは、感覚を掴むために魔力操作へ集中したいからだ。それから彼女の新しい魔眼の方が神眼よりはるかに魔力視の精度が高いのもある。

 使徒が万能とは言わないけど、天界の神眼を借りてきているのにそれより精度がいいってどういうことなんだ。


「ゆっくり流し込むから」


 そんな疑問を頭の片隅に追いやりながら魔力を練り上げる。体の深い所から汲み上げた魔力を呼吸で得た外の魔力と混ぜ、使徒の力をもって聖属性へ塗り替えて行く。


「真鍮色になったね」


「ここから」


 もう一段、魔力に意識を染み渡らせる。技術神エクセルの魂を触媒に聖属性の度合いを強めて行く。布を二度三度と藍に浸けて色を出すように。


「あ、紫になってきた……エクセルさまの色だね」


 技術神の貴色を持つ聖属性の魔力ができあがった。いつの間にかできるようになっていたコレを、戦闘時とは比べ物にならないほど丁寧に行っていく。それからナイフの芯材、全体、刃へと馴染ませていく。


 仰紫流刀技術・聖巫装


 淡い紫の輝きが全体を包む。アンデッドや魔獣に対して絶大な攻撃力を誇る、神官限定の仰紫流だ。そこに火種をそっと与える。


「燃えろ」


 俺の言葉に従いボッと音を立ててナイフが燃え上がった。エレナが一瞬びくついて少しだけ顔を離す。熱い。けれど焼ける心配はない。幻想的な若紫の炎はエクセルの神炎。それは炎であって炎でない、邪悪だけを燃やす天界の力。


「これで仰紫流刀技術・神炎装の完成」


 ゆらめく貴色の炎を纏ったナイフ。溢れ出る熱すらも神々の善なる力を秘め、届く範囲の微細な邪気瘴気を払う。聖巫装より高い攻撃力と強烈な祝福の性質を持つ技だ。その神炎をイメージの力で収斂し、ナイフをピッタリと覆う刃へと成形していく。やがて刃の部分に紫の炎は集約され、金属そのものが染まったように光を宿した。火の魔力を刃に集める火巫装の変化、烈火刃とよく似た状態であり、先日の最後の一太刀のときの後継だ。


「烈火刃の神炎版だから……烈聖刃?」


「烈紫刃の方が綺麗じゃない?」


「ならそれで。この後は……」


 あの時はありったけの魔力を流し込んだ。それこそ蹈鞴舞で底上げした魔力全てを。さすがにもう蹈鞴舞は使いたくないが、幸いなことにあれを連用しすぎたことで俺の魔力量は遠征企画の前から結構増えた。上手く使えば近いレベルを確保できるだろう。


「それなら魔力刃で全体を覆って、そこに魔力を注いでみれば?大量の魔力が注がれたことで聖刻が発生したんだとすれば、圧力を増してあげれば似たような感じにならないかな」


「圧力鍋の発想。試してみよ」


 まだまだ手探りなのだ。なんだってやってみればいい。ということで烈紫刃でナイフ全体を包み込み、内側の魔力密度が高くなるよう躊躇いなく注ぎ込んでみる。鉄の分子構造の隙間へ入り込むように、あるいは鉄という概念を侵食するように。すると、まるで多孔質の素材に水を注いだような勢いで魔力が吸い取られて行く。


「これ、結構持っていかれる……っ」


 注げば注ぐほど、無限に魔力を吸いあげるようにも思えた鉄のナイフ。これを何度も実験は厳しいぞ。そう言おうとした瞬間だった。音もなく稲妻のような模様が金属の表面に走ったかと思うと、ナイフはバサッと灰になって崩れ落ちた


「!?」


「うわっ」


 腰までかけた白いブランケットの表面に片手一杯より多い量の灰はぶちまけられ、俺もエレナも固まってしまう。手の中には稲妻、あるいは血管、それでなければ木の根のような紫の枝分かれするオブジェが一掴みだけ残っている。


「な、なに……?」


 さすがに飛び跳ねた心臓を片手で押さえながら、とりあえず握った紫の枝をサイドテーブルに置く。カチャカチャと軽い金属音を立てるそれは、やはりナイフの末期に現れた模様そのものに見える。


「えっと、確かわたしが魔力を分けてもらった後、紅兎の鍔もこんな灰になったような……もしかして、聖刻の副作用?」


「分からない。そもそもこれ、本当に灰?」


 ナイフは鉄だ。いくらか他の金属が混じっていたとして、灰になるとは思えない。息を整え終わった俺は指先で積もる粒子を摘まんでみる。異様に細かく滑らかで、しかし若干の棘感があった。


「錆?」


 赤錆の粉に似た感触だ。触っていると傷から入りやしないか心配になる、あの独特の手触りに近いものがある。ただ色は完全に暖炉の灰そのものだ。魔力を加え過ぎたことで生じたのだから、これも一種の魔鉄なのだろうか。


「もしこれが副作用だとしたら、とてもじゃないけど人の体になんて施せないよ!?」


「ん」


 流石の俺も戦いが終わったとたん灰になって死ぬような禁断の力は欲しくない。もっと安定的で今後の戦闘が楽しくなるようなモノが欲しいのだ。


「まずは他の属性でもしてみようよ!聖属性だけの現象なのか見極めないと」


「あとはこの紫の金属。これも調べたい」


「そうだね、なんで灰にならなかったのかは気になるし……」


 失敗の理由が知りたければ、失敗した場所から条件を変えて1つ1つパターンを試していくしかない。地道な地道な技術の一歩だ。


 ~❖~


 実験の開始から一週間と三日が過ぎた昼時。午前のリハビリを終えた俺は枕を積み上げて背もたれにしいつも通りの病人スタイル。足を跨いで架ける木の橋のようなベッド用テーブルと、その上に置かれたスープスパゲッティの器を見てため息を零す。


「もう普通に歩き回れるのに」


「テーブルがないんだから仕方ないでしょ?」


 本来はここまで長期のリハビリが必要になることなどあまりないからだろう、この病室は食器もカトラリーも揃っているくせに机がまったくない。

 まあ、神官の魔法と医者のスキルがあれば大体は怪我を負う前の通りに治るしね……。

 逆に言えばそれらで短期リハビリまで戻らなかった怪我はいくらリハビリをしても戻らないものばかりということ。俺のように筋力が衰え切った状態が正しい状態になってしまっている人間は、鍛えたところで知れている年寄りか重病人だけだ。衰弱しきってから大怪我を負って、鍛えたらもとに戻せるなんて珍しいケースはそうない。こういう設備にもスキルの弊害がこっそりと顔を出していやがる。


「貝も飽きた」


「自分で魔力回復にいいからって頼んだんでしょう?」


「味付けが薄いトマトスープ一択だとは思ってなかった」


「病院食だから仕方ないよ」


 毎日トマトとフラメル貝の薄味スープスパゲティはきつい。硬めの黒パンと味の濃い酒蒸しにしてほしい。


「むぅ。馬鹿なこと言ってないで、確認始めるよ!」


 エレナは俺の足をペチリと叩いてから定位置となったベッドサイドの椅子に腰かけた。その手には十数枚に及ぶ実験結果の書かれたレポートが握られている。


「今わかってることは……」


 まず烈紫刃を発動して圧を単純に高めて行くと痕跡が刻まれ、ほどなくそれ以外の部分は灰化して崩れてしまう。痕跡が現れた直後に魔力を込めるのを止めると灰化までは至らない。痕跡というのは例の根のような稲妻のような模様で、呼び方を確定させないと書類に纏めにくかったためそう呼ぶことにした。

 次に聖属性以外で同じ工程を行った場合だが、痕跡は現れるもののどこまでいっても灰化はしない。ただし火属性はナイフが赤熱してえらいことになった。光は目が灼けるかと思ったがそれだけ。闇が一番大人しかったが、痕跡がまるで悪魔に憑り殺された者の烙印のようで気持ち悪かった。まあ、その様子が痕跡という名前の由来なのだが。


「ここで大事なのは痕跡ができたあと、もう一回魔力を込めた時だね」


「光も闇も変化はなかった。でも聖は痕跡に魔力が偏った」


「そう!あれ記録できないのはなんかもったいないよね!映像記録の魔道具は馬鹿みたいに高いし……いっそ作っちゃおうか?」


 実に楽しそうなエレナだが、俺もこの発見には驚かされた。聖属性以外は極めて乱暴に言ってしまうと色がついただけだったが、本命はたしかに痕跡の部分が他とは違う反応を示した。具体的には吸収した聖の魔力がそのまま淡い輝きとなって留まったのだ。紅兎のあの状態とよく似ている。そう俺は思った。


「痕跡は性質も違ってた」


「うんうん、刃部分にできた痕跡は鉄板に切れ込みを入れられたね。記録だと……5mm。普通の部分だと鉄板には掠り傷しかつかなかったから、明らかに強くなってる」


「耐久力も段違いだった」


「打撃耐久試験はオンザさんのアックスでそのままだと一発、痕跡部分だと二発で折れてるよ」


 まだ非力な俺と所詮は魔法職のエレナだ。そういう荒っぽい試験は三枚モヒカンの友人を呼んで試している。しかしあの大男の斧を一発耐えきっているのだから凄い。これは灰化したナイフから回収した痕跡でも実験したので、性質がそこだけ変わってしまっているのは確かだった。


「結論、わたしたちが聖刻と呼んでる状態は、おそらく聖属性の痕跡部分のことである!っていうのはもう十回くらい言ってることだけど」


「まあ、成果を繰り返し確かめるのはいいこと。そうでもしないと停滞期に心が折れる」


 技術はスキル以上に道のりが長い。特に研究ともなれば、過去の功績でもなんでも確実な成果を持ち出して擦り切れるくらい愛でていないとやっていられないのだ。時間を無為に費やしているような気になってくる。


「でも結局あの灰が何かも分かってないんだよ?」


 ギルドの『分析』持ちにマスター・フェネス経由で声をかけてもらったが、結果はシンプルに分析不能の物質扱い。少なくとも『分析』で分かるような一般的な組成ではなく、熟練のギルド勤めの知識にも存在しない物質だ。とりあえずアホほどあったのでグスタフ親方の黒釜工房に持ち込んで活用できないか聞いているところである。


「ん、でも灰は副産物。聖刻をやりきれば発生すらしなくなる物だから」


 とはいえそれが難しいのだ。聖属性の痕跡に魔力を流せば紅兎と同じ反応が見られて、しかも痕跡自体が拡大しているのであれば、そのまま魔力を丁寧に流し込めばいいと思うかもしれない。だが何をどうしても三割超える前に灰化してしまう。


「灰化する前、烈紫刃の中で歪みが発生してるよね?」


「ん」


「あれって魔力の歪みだと思うんだけど、アクセラちゃんの魔力でいいんだよね?」


 突如エレナがそんなことを聞いてきた。


「それ以外ないと思うけど」


 痕跡が現れてからも魔力を込めて行くと、外殻のように圧力を閉じ込めている烈紫刃の内側に奇妙な魔力の偏りが生まれる。シーツにできる皺のようにゆっくりとその影を濃くし、危険は魔力量に至るほど強まっていくのだ。ただ魔力の注ぎ方を変えて皺を潰して広げるようにしてやれば、それだけで消えてくれる。


「でも色がおかしいと思うんだよね」


「まあ、たしかに」


 魔力は属性がなければ半透明な輝きに見えるのがエレナの魔眼だ。そして属性があれば、対応した色の濃淡で識別できる。人によってとらえ方が違う感覚だが、小さいころから聞かされてきたその表現に釣られてだろう、俺の神眼はほぼ同じ形式で見えている。しかし生じた魔力の皺が強い歪みに変わるとき、俺たちの目にはそれがべっ甲色に色づいて見えるのだ。

 火の赤、水の青、風の薄荷、土の黒茶、氷の薄水、雷の鬱金、闇の黒、光の白、それから聖の真鍮と俺の貴色である若紫……べっ甲は思い当たる属性がないよな。


「まあ、一旦色は置いておこう。分からないものは分からない」


「むぅ、そうなんだけど……歪んだところにしか出てないし、一種のノイズなのかな?」


 ノイズというのは魔術回路を設計するときに使う言葉で、想定と無関係なところで発生する魔力の流れを指す。とはいえ属性の種類は同じで、法則的に色も揃うはずなのだが。


「現象自体は、確かにノイズっぽさがある。でもそっちは潰してる」


 だからこの歪みそのものが灰化の原因とは思えないのだ。


「灰化はたぶん魔力キャパシティの限界と関係してるはずだよね。ミスリルは鉄よりかなり長い時間耐えれるし」


「ん、キャパに近づいてこないと痕跡も出ない」


「歪みを潰した時に魔力の波みたいなのが出てたよね、確か。あれがキャパを圧迫してるとかは?」


「ん、それは私も考えた」


 例えばミスリルナイフの魔力許容量が100だったとして、70を超えたところから痕跡が出始めている印象だった。けれど80から90で限界を超えて灰になる。もし10注ぐ際に発生する歪みを潰したとき、1の魔力が1から10の幅でブレていたとしたら……厳密には91の魔力でも瞬間的に100として振る舞うかもしれない。


「コップにジャバジャバ水を入れたら、満タンになるまえに零れる。そういうことでしょ?」


「直感的な言い方をすると」


「そっと注ぐようなことは……やったね。やったけど歪みは出たよね」


 歪みは別に荒っぽく入れているから発生するわけでもないらしい。密度が上がってくると勝手に生じる。どれだけ慎重に魔力を注いでもだ。


「加圧してるしね」


「加圧止めてみる?」


「かけ流し?私干からびちゃう……」


 ただでさえかなりの魔力を消費するのだ。ポーションと休憩を贅沢に投じても数本試すのがやっと。あの戦闘のときのような使い方は負担が大きすぎる。


「あるいはどこかで圧を抜いてあげるか」


 余計な圧を抜きながら丁寧に魔力を込めていけば、たしかに今までとは違う結果が見えてくるかもしれない。


「……」


「……」


 しかしそこまで決まると俺もエレナも黙ってしまった。なにせ圧力は難しい。自分で封をして加圧しつつ、適度にそれを減圧するなんて芸当ができると思えない。できると思えないことは、魔法の理論上できないことになる。


「……」


「……」


 更にしばらく首をかしげる。かしげる。かしげる。二人で真横まで首を傾けてからやっとのこと、揃って投げ出した。


「ダメだ!一旦休憩しよ」


「ん、考えてもわからないとき、無理に考えても仕方ない」


 俺は枕に体を沈める。そろそろ運動不足で体が痛いのだが、所定のリハビリ以上に動くのは禁止されている。普通はリハビリが痛すぎてそれ以上に動こうとは思わないものだと、例のまん丸い医者には呆れられたが……100年近く戦士をやっていればリハビリの痛みすら慣れてしまうのだ。一方で動きたい欲求は底なしである。


「考えるのやめると、今度は暇……」


「そうだねぇ」


「……ん?」


 帰って来た生返事に俺はもう一度体を起こす。エレナはいつの間にか取り出した紙に何かを書き込んでいるところだ。覗き込むとそれは何かの図面のようだった。


「杖?剣?」


 形は剣だが図面の雰囲気はどう見ても杖のそれである。となると魔剣だろうか。魔法陣を内側に仕込んである刀剣、魔剣は杖と少し似たような図面になる。


「これはブラックエッジの改良型だね」


 大杖とリンクしている室内杖を差し込むことで大規模かつ多彩な魔法の運用と、中近距離での魔法戦闘を両立させる。ブラックエッジはそんな目的で作られた魔法杖キュリオシティのオプションだ。しかし黒い異形のナイフは先日の戦いで折れてしまっている。構造の弱さや杖なしでの扱いづらさが露呈した形だ。


「なるほど」


 それを踏まえて作る後継品ということはギミック満載なのは当然として、刀剣の強度や切れ味も必要となってくるだろう。


「見てあげようか?」


 しかしエレナは首を横に振る。


「だーめ。これはアクセラちゃんをビックリさせる用の武器だからね」


「……」


 目的が色々オカシイ。

 弟子に拒否された俺は頬を膨らませてまた枕へ沈む。


「グスタフ工房の親方さんが武器としての設計は見てくれてるんだけど、すっごく丁寧にフィードバックしてくれるんだ」


「ふぅん」


「魔法使いが前で戦うなんて思ってなかったらしくて、ブラックエッジの強度が不足してることに気づいてたけど指摘しなかったんだって。いい加減な仕事したって凄く凹んでるんだよね。だからその分、二本目は頑張ってくれてるよ」


「ふぅん」


「何?もしかして拗ねてるの?」


 俺が枕の山から気のない返事をしているとエレナが身を乗り出して覗き込んできた。にやっと笑って俺の頬に指を立てる。


「あはは、拗ねてる。かわいー!」


「……がぶっ」


「あっぶな!」


 噛みつこうとしたが綺麗に回避された。当のエレナは余裕の笑みを浮かべたまま自分の椅子に戻り、広げた図面へ視線を戻す。


「アクセラちゃんに頼ってばっかりだと、いつまでたっても隣で支えられないからね」


 カリカリと線を全体に書き加えながら彼女は言う。


「だから仕上がったらちゃんと評価してね」


「エレナ……」


 この子もこの子で、ちゃんと考えているんだな。そう思うとなんだか胸が熱くなってくる。


「それにもう六極の大魔導(セキスタプルソーサリー)は使えないだろうし」


「そうなの?」


 あっさりと言って見せる彼女の顔に未練はない。


「うん、あれはやっぱりあの時だけみたい」


 六極の大魔導(セキスタプルソーサリー)がどんなものか実際には知らないが、六属性の混合魔法というだけではない何か大きな違いのある魔法であることは分かる。いや、もっとシンプルに言おう。人間の用いる魔法だとはとても思えない。エレナいわく、魔法を使っているというより大きな魔力の流れの中でそれを操るような感覚だったとか。


「今でも空白の魔眼だった頃よりはずっとずっと広い範囲の魔力を従えられるし、魔力を掌握することのイミというかコツというかが分かったから魔法自体が断然強くなってるんだけど」


 さらっととんでもない事を言いながら彼女は自分の目元へ触れた。早苗色の瞳は今までにない魔力を感じさせる。きっと神眼で見れば光り輝いていることだろう。


「でもこれ、いくら鍛えてもあんな感覚には至れないと思うんだよね」


 やはり魔眼そのものが違う何かだったのか、あるいは開花したときだけ一時的に何かのパスが天界かどこかと繋がったのか。ありえない話じゃない。俺の神力が関係していたというのならなおのこと。


「あっ」


 突然悲鳴を上げるエレナ。喋りながら図面を弄っていたせいで何か書き間違えたのか、と思ったら彼女はガバッと顔を上げて俺を見た。


「聖刻で一個試してみたいことができたんだけど、魔力ある?」


 まだ実験は終わらないらしい。


~予告~

実験に実験を重ね、完成に近づく聖刻。

その最中に奇妙な現象が観測され……。

次回:べっ甲色の輝き

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