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十章 第4話 紅衣の狙撃手

 泣き果てて疲れ切ったエレナを置いて前線へ向かう道すがら。大きく息を吸って気持ちを入れ替える。彼女は一頻り泣いたあと、気持ちを整理してやるべきことを見つめ直したいと言った。だから私が彼女の友達としてできることは、隣で背中をさすってあげることじゃない。泣き腫らした賢者が心を落ち着けて、赤くなった目元を貸してあげた簡易の化粧道具で隠して、魔導銃のように閉塞した未来を吹き飛ばしてくれる案を考えられるように時間を稼ぐことだ。


「バート先生、私が交代いたしますわ」


「ああ、アレニカ君か……助かるよ」


 高台のさらに一段高いところに陣取って魔法隊を取り仕切っていた眼鏡の男性、火属性魔法の高等教師であるバート先生に話しかける。彼が隊に休息を命じてから降りてくるのを見て、文字通り交代にそこへ上がる。

 土に寝そべるのも苦にならなくなってきたわね。

 場違いな感想を抱きながら魔導銃を据え付けて腹這いになる。臙脂色の上着が硬い高台との間で緩衝材になってくれるが、それでもお腹や胸に違和感を覚える。苦にならなくなっても変な感じはするのだ。


「眼鏡は、今はいいですわね」


 独り言ちて藍黒の装甲と臙脂のストックを抱きかかえる。裸眼でスコープを覗き込む。高倍率の視界には焼け焦げて随分広くなった門前広場の向こう、繁みの奥から姿を現す魔物が映った。

 どれだけいるのよ、一体全体……。

 呆れながらスコープ内の十字の線を使って目測を付ける。小型は無視だ。エレナの魔法と違って魔導銃はあまり連発ができない。大火力を叩き込むにふさわしい相手に絞らないと意味がない。それ以下は前衛が片づけてくれると信じる他ないのだ。


「いた」


 木々の合間から広場に着地したばかりの大猿の魔物。黒い体毛に赤い目を持つそれは実に頭を狙いやすい敵だ。十字の(レティクル)が赤い目と重なる瞬間に引き金を引く。スコープ越しの世界で大猿は内に秘めた汚い色を見せて倒れた。一瞬顔を離して全景を視界に納め、銃身を右に振って同じ魔物を捉えて覗き込み直す。狙撃。火焔の弾丸はまた頭を弾け飛ばしてみせた。


「あれは!」


 死んだ猿の向こう側へ森の奥に捻じれた角が見えたと同時、わずかに上を狙って魔法を解き放った。跳躍しようとした角の魔物の角の下、ちょうど頭がある場所に火弾は命中して強く輝いた。


「我ながら今のはナイスショットですわね。さ、次は……」


 そのまま少しずつの間をあけて3体ほどを屠ったところでこちらを意識した動きをする魔物が現れた。これまで滅多に出現していなかった人型の虎のような敵だ。筒先が自分に向いた瞬間、右に大きく跳んで見せたのだ。しかし私の動きはもっと小さくて済む。射角をずらして引き絞った引き金が、虎人間の飛び込んだ場所に弾丸を着弾させる。綺麗に頭を抜くことはできなかったが、胸元を吹き飛ばされた黄色と黒の縞柄はそれ以上立ち上がってこなかった。

 そろそろロッドを交換しないと。

 6発撃っただけなのでまだ4発から6発は残っている。しかし限界まで使うと冷却時間が長くなる。途中で切り替えた方がどうしても特定のロッドでないといけないときに対応しやすい。

 次は、雷のロッドにしようかしら。

 白を含んだ黄色のクリスタルの棒を取り出し、赤いクリスタルの棒を引き抜いた場所へ押し込む。ハンドルを操作してチャンバーに収めたロッドへ魔力をそそぎ、突出していた大きめの魔物へ打ち込んだ。猪の魔物はガクガクと痙攣して膝を折り、そこへ騎士の誰かが剣を振り入れて首を刎ねた。


「これ、本当に便利ね……」


 呟く。攻撃力の高い他のロッドに対して雷は魔力消費が少ない代わりに殺傷までいかない。もちろんチャージモードにして魔力を込めれば殺せるだろうが、あくまで支援兵装としての立ち位置が与えられているのだ。だから、昨晩はとっさにエレナに打ち込んでしまった。もちろん定格より少ない魔力でだが。

 あとで謝らないとね。

 あそこでエレナを解き放てば、彼女はもう戻ってこないような気がした。それで咄嗟に思いついた強硬手段を用いたわけだが、そのことで彼女が自分をどう思うか。それを思うと引き金を引くほどに冷たく燃え上がっていた心臓が一気に燃え尽きそうになる。


「変な話ですわね……」


 ふと思って自嘲する。今の自分はきっとこの砦で誰よりもストレスなく過ごしている。せいぜい魔獣を直接見たとき沸き起こったどうしようもない恐怖心と、アクセラさんが連れ去られたことに対する動揺や心配。それ以外はまったく負担に感じることがない。というのも、魔導銃を撃つのが楽しすぎるのだ。

 本当によくできた道具ですものね、これ。

 素人の私が使ってもほぼ正確に急所を撃ち抜ける。それにずっと憧れていた魔法だ。しかも殿下の役に立てている。これ以上ないほど爽快な気分だと言える。そしてそれが異常なことくらい、自分でもよく分かっている。


「……どうしましょうね……」


 どうもする必要はない。ブツブツ呟く己の声を聞いて即答する自分もいるにはいるが、良識がそうはいかないだろうとも告げている。どこまで行っても自分は貴族の娘で、学院の生徒で、王都で暮らす国民なのだ。オカシイままではきっと生きていけない。

 そしてそのことすら、生きていけないことすら、どうでもいいかもしれないと思っているんですもの……いよいよかしらね。

 とりあえずエレナに一言謝ろう。それだけ決めて私は視線を戦場へ戻す。


「ラスト……」


 見事麻痺した敵の首が刎ねられ、私はもう一度ハンドルをかち上げた。装填するのは氷のロッド。構えざまに撃ち抜いたコボルトの頭は、巨大な氷のオブジェと化していた。


「二人抜きできる……?」


 魔法の範囲が広いことに目を付けて私は考える。雷のロッドでエレナを鎮圧できたように、他のロッドもうまく使えば面白い撃ち方ができるかもしれない。そう思うとなんだか更に楽しくなってくる。

 折角だし、色々試してみようかしら。

 そんなことを想いつつ魔導銃を撃つこと1、2時間。ひたすら試行錯誤したことで照準精度も射撃までの時間もかなり上達したが、さすがに連日の戦闘で両腕が痛くなってきた頃。私はエレナが遣わした伝令に呼ばれて前線を離れた。


 ~★~


「それでエレナ、どう思う?」


「むぅ……ネンス君の護衛がアテにならなかったのは分かってたけど、到着の遅れが出てるのは見過ごせないね」


 意見を求められて唸る。唇を指でなぞりながら、頭の中で色々な可能性を検討する。視線を落とす先は走り書きのような砦の現状とこれまでの会議で出た作戦の数々。正直相当に良くない。思考のスピードを『静寂の瞳』で一段上げる。


「あーっと、司令官さん一ついいッスか?」


「なんだ?」


 まずここに全員で残る選択肢だけど、これは緩やかな自殺だ。絶対的に物資が足りない。


「なんで隊長から外したはずのお嬢さんが参加してるッスか?」


「その件は既に手打ちとしただろう」


 パンが足りなくなっても肉があるとか、野草があるとか、そういうことじゃない。体力の消耗をカバーするため、美味しくない料理を腹に収めるため、塩を使い過ぎてる。


「そりゃあ下っ端が知らなきゃ降格処分で示しは付くって、そう納得はしたッスよ。したッスけど、だからってこうも堂々と作戦会議に口出しさせるのは如何なもんなんスか?」


「それは、天幕に出入りする姿を見られた場合の士気の話をしているのか?それともお前の感情の話をしているのか?」


 ここでパンが無くなれば有り余る肉でお腹を満たすことになるわけだけど、この塩の濃さで食べる量を増やすのは拙い。短期的には問題ないけど、更に数日となると確実に体調を崩す。いくら塩が多く持ち込まれてて、しかも保存が効くからって注意しなさすぎた。


「どっちもッスね。というかオレがそう感じて、同じように感じる奴が出てくるだろうなって思ったんスよ。あとそういう奴から文句が出た時にオレは宥めすかす自信がないッス」


「部下に対しては、そうだな……実際に最高火力を誇るのはエレナだ。作戦を立てるにしても彼女が実現できることとそうでないことの境界線がなにより大事になる。そう伝えてくれ」


 現状、飲み水を作れる魔法使いはわたしを除いて4人。けど彼らも最悪の場合は魔法部隊として戦う必要がある。わたしだっていつまでそっちをカバーできるか分からない。


「オレの感情の方はどうなんッスか」


「自分の感情なら自分で処理してくれ。雇われた冒険者ならな」


「いや、ごもっともッスね。というか言い方が間違ってたッス。感情っていうか、信用ができないんッスよ」


 あー、一日二日のことならと思って手を打たなかったのが問題だったなぁ。

 こうなってくると、アクセラちゃんが言ったように料理の改善をしておけばよかったと思う。味さえマシだったら塩に頼った調理をしなくても済む。けれど今から限界近い輜重隊の料理担当に美味しいご飯を作ってくださいと命じてもどれほど意味があるか。


「これだけの働きをしているのにか?」


「戦果は確かにすごいッスけどね。そこのお嬢さんは自分の感情を優先して暴れまわって、おかげで8人も一時的にオチたんスよ?」


 それに加えて城壁の耐久値がかなりキツい。氷で作ったのはその方が手っ取り早く、必要に応じて組み替えやすかったから。だから整形し直す必要がなさそうだと思った段階から順次、土や石の壁に置き換えてはきた。


「100人いる中の8人じゃないッス、30人ちょっとの中の8人ッス。それがどれだけ大きな数字か、頭のいい貴族サマに講釈垂れる必要はないッスよね?」


「たしかに、その点については私からフォローできることはない」


 これ以上魔法で置き換えをするのは無理だ。なにせ防衛の役割を魔法で担い過ぎてる。魔力は貴重な戦略資源と言ってもいい。加えて氷の壁の維持、昨日の昼あたりから少しずつ気温が上がってるし、温い通り雨が降ったのも最悪だった。そろそろ負担が馬鹿にならない。それでも作り変えるよりはメンテした方がまだマシだけど。


「そうッスよね。で、そういう考えナシが立てた作戦に従うことに不安があるんス」


「……だそうだが、エレナ。お前から弁解はあるか?」


「……いっそ森を焼く?」


「エレナ?」


 二度か三度か、名前を呼ばれてることに気づくまで少し掛かった。


「……え?ごめん、作戦のこと考えてて聞いてなかったかも!」


「……こういうとこッスよ」


 何故か険のある視線を向けてくるリーマンさん。正直あまり詳しくは知らない人なので、どうしてそんな目を向けられてるのかも分からない。


「……あー、うむ。エレナ、お前が取り乱して味方をノックアウトした件で、彼は君を信用できるのかと聞いているんだ」


 あー、なるほど。

 丁寧な説明に状況を理解する。ぐうの音も出ないほど、わたしが悪い話だった。『静寂の瞳』の感情抑制と思考強化をした状態の今、手早く謝るのが吉だと判断する。


「その節はすみませんでした。考えなしが過ぎたと自覚してます。ごめんなさい」


「……」


 すんなり謝られるとは思っていなかったようでリーマンさんは困ったように押し黙る。彼自身、別にわたしに他意があるわけじゃない。単純に冒険者として信用を置けないと思っただけなのだろう。たぶん。


「わたしの作戦を聞いて、それでも反対だと思えばそう言ってください。OKが出るまでわたしも試行錯誤します。誰かの命を掛ける作戦ですから」


「……そういうことなら、まあ」


 なんとも釈然としない表情ながら首を縦に振ったところでネンスくんへ視線を戻す。


「今まで出されてた案を見てアリだなと思ったのは、少数で森を突破するやつと城壁を伸ばすやつだね」


 なぜここで粘る作戦を否定するのか、そこに重点を置きつつ他の案を切った理由を答える。特に水と塩の問題は戦いに意識を持っていかれる隊長たちにとって盲点だったようで、はやくもリーマンさんからの視線に変化が生まれたのを感じ取る。


「で、まず城壁を伸ばす案だけど、やっぱり魔力量や防衛との両立が厳しいと思う。でも発想としてはアリだから、これを少数突破の作戦に組み込みたいな」


「組み込むっていうと?移動式の壁を馬に押させる、とかッスか?」


 首を傾げる戦士隊の隊長……今は前衛部隊の第二隊長さんか。彼が言うような物はもっと西のアル・ラ・バード連邦で実際に使われてる。頑丈な木箱に窓を付けたものを牛馬に押させる、盾戦車というものだ。ちなみにちゃんと専用スキルもあるくらい古い道具だったりする。でも森の中では機動性最悪のシロモノ。


「いえ、壁そのものである必要はないんです。魔法による支援を追従させられるなら、速度を殺さず生存率も上げられるかなと思って」


「魔法使いを同行させるということを言っておるのかのう?」


「いえ、違います。でも魔法使いが参加することは前提になると思います」


「ふむ……?」


 コルネ先生の質問に乗っかってわたしは説明する。迫りくる魔物を始末するのに必ずしも魔法は必要じゃない。それは後ろの敵を速度で撒き、横の敵は接するわずかな個体数を斬ればいい話だから。ただ前方に限って言うと、速度を落とさないためにはかなりの距離をクリアする必要があるのだ。当然剣や槍では届かない。


「魔法使い1か2、戦士系1か2くらいが森を踏破するならベストかと思います」


 あくまで通常の魔物が相手の場合だけど。


「その辺の具体的な人数はレントンくんに相談した方がいいかな。たぶん旗手は彼になると思うので」


 レントンくんは国一番の早駆の名手だという。またウッドバウト子爵家の持つ馬に干渉するスキルは強化系にも富むと貴族名鑑にはあった。そうなれば彼が先頭を走るのは当然だろう。そもそもネンスくんの班に入れられてた理由もそこを見込まれてのものだ。


「それはもっと具体的になった段階でするとしよう。それで、城壁の話がどうつながってくるのか分からないのだが?」


 先を促された私は一つのクリスタルを机に置く。拳大のそれには色がいくつも入り混じってて、一見すると複数属性を兼ね備えた高価なダンジョンクリスタルのよう。けれど各色が小さく濁りもあるこのクリスタルはもっと粗悪な品。


「細かいことは冒険者としての秘密にさせてもらうけど、コレが私の感知網の正体。一応コアしかないけど魔道具だよ」


「見たところ……あまり高価なクリスタルには見えないが」


「そうッスね、たまにあるんすけど、属性がやたらに混じって使えないクリスタルッス。ギルドに売れば各属性に砕いてくれるッスけど、いよいよ小さくなるんで価値はあんまないッスよ」


 もっと大きくなればとんでもない価値がでるんだけど、こう小さいと普通は邪魔なだけ。でもわたしは六属性を使えるので、何の魔法糸を放っても接続できるコレはとんでもなく重要な素材なのだ。


「これを大量に森に埋めてもらってるんだけど、いくつか掘り出してくれば改造できるんだよね」


「魔道具を改造なんて、できることなのでしょうか?」


 シスター・ジェーンの言葉に視線が集まる。頷くと反応自体はそれぞれだったが、特に深堀もせずそういうものと受け入れてもらえた様子だ。冒険者をしていれば色々と隠し玉を用意するもの、というのもあるだろうか。あるいは追及する労力が無駄だと思っただけかもしれない。


「これの感知方法は遠隔でマナソナーなど、魔法を遠隔で発動してるんですが」


「ま、待ってください!」


「なんだ、シスター」


 クリスタルを指で突いて説明を始めたところでシスター・ジェーンが大声を上げる。彼女の視線はそれまでにないほど鋭い。ただ反対にネンス君とコルネ先生は面倒くさそうだ。


「遠隔で探知しているということは、他の魔法も使えるということではありませんか!?」


「あ、はい。まさにそれが趣旨で……」


「それは、それは聖魔法にも使えますか!?」


 私の言葉を遮るほどの圧に少しだけ気おされる。同時に彼女が何をそんなに焦って尋ねるのかも、なんとなく察せられた。それはネンスくんも同じだったようで、彼は憐れみと理解の入り混じった言葉を投げかける。


「シスター、貴方の献身は素晴らしい。我々は感謝しているし、今以上の奮闘を求めるような無理難題は言うつもりがない」


「でも、でも!」


 すっかり汗と埃と煤で汚れた神官服の裾が揺れる。シスターはきっと、自分も同じことができれば前線へ直接支援ができると思ったんだ。


「できるできないはこの際置いておこう。だが今以上に負担が増えて、貴方はその魔力を贖えるのか?」


「……」


「残念だが、耐えてくれ」


 押し黙った彼女にネンスくんは少々キツイ現実を見せつける。彼は戦場にで希望的観測に頼らず、現実を直視する。そしてそれを周囲にも求める。少なくとも自分の周りを固める指揮官には。


「わかり、ました」


 血反吐を飲み込むようにして絞り出した声は、わたしに改めてコトの重さを認識させる。

 たしかに「そんなこと」なんて投げ捨てちゃいけないよね。


「エレナ、続けてくれ」


「う、うん。これを持たせることで、突破に向かう人たちの状況がわたしに分かるようになる。その性質を使って危機感知や支援魔法をかけられると思うんだ。さっき言ったように、少し改造は必要だけど」


 加えていくつか敷設してあるのを掘り出して来れば敷き直してもっとしっかりしたサポートができるはずだ。あいにくとわたしの練度、クリスタルの属性配分、遠隔発動の難易度を考えると火、水、風の三属性しか使えないけど。


「なるほど……位置と現状を把握し、お前から攻撃やバフの支援を適宜するということか」


「そう」


 オペレーションの難易度は非常に高い。だって私は拠点防衛をこなしながら突破に向かう方の支援も複雑に行わなければいけない。けどそこは手持ちの道具を弄ることで対応できる。いや、してみせる。


「まあ、ロジックはある程度分かったッス。魔法の話が多すぎてイマイチ理解はしきってないッスけど、先生方が納得してるなら」


「正直、意味が分からんくらいトンデモな発明品が飛び出したんじゃが……まあ、今言うても仕方ないしのう。それにあんな壁や合成魔法の後ではもうなんでも来いじゃよ」


 諦めきった表情でコルネ先生が首を振るとバート先生もそれに追従する。その振る舞いはシスターの異常な反応と合わせてそこそこの説得力をリーマンさんに示したようで、彼は頷いて話を先へ進めた。


「問題はッスね。聞く限りかなり現実的な範囲になってきてるとは思うんスよ?でもリスクは依然として高いわけで、誰を行かせるかって話ッスよ」


 レントン君がどれだけの人数を連れて行けると言うかにもよるけど、たしかにそれは大きなネックになる。ただ、わたしの中で一人は既に決まっている。


「突破力の要、前方への攻撃は……」


 そのタイミングでようやく、わたしの呼んでいた人は来た。息を切らして、天幕の入り口を淑女らしからぬ勢いで跳ね上げて、赤の衣を纏って。


「も、申し訳ありません、遅くなってしまいましたわ!」


 隊長たちの視線を一心に浴びる少女、私の一番新しい親友。彼女を指示して私は言う。


「彼女にしてもらおうと思います」


「え?」


 急に話題を振られて目を白黒させるアレニカちゃん。一拍を置いて様々な声が吹き荒れ始めた天幕の中、わたしは彼女にもう一度笑いかけた。


「アレニカちゃんにしか頼めないことだから」


「……え?」

~予告~

必ず帰ります。王子に誓うその言葉。

それは戦場に刻む恋の願掛け

次回、後悔のないように

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― 新着の感想 ―
[一言] これはちょっと、自分は冒険者達を非常に嫌いに成ります。。。 冒険者は8人をノックアウトしたエレナさんに怒りを感じていますが、私からすれば、エレナさんを止めた人間達の方が100%全面的に悪いと…
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