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九章 第17話 課題:魔物狩り

 実習最初の朝が来た。真ん中のシフトが一番辛いのは何度かの冒険で知ってたが、状況がいつもより緊迫感のあるものな分、余計にそう感じる。


「ふぁ……」


「レイル、眠い?」


 小さくあくびを噛み殺してるとアクセラがこっちを覗き込んで来た。こいつは朝番だったのでもうしっかり目覚めてる風だ。シフトは夜更かしに慣れたアレニカ、バフを色々展開できるネンスが夜番。防御力の高い前衛のオレと火力高い後衛のエレナが、集中力の切れやすい中番。早起きに慣れたレントンと一番戦闘力の高いアクセラが朝番。そういうことになってる。


「いや、大丈夫だぜ。朝飯も食ったし、あと3分くらいで頭も動く」


 ちなみに朝は持ちこんだパンに昨日からふやかしてあった干し肉を解したものを挟んだ簡易サンドイッチ。それとふやかすときに使って肉の味が移った水へ乾かした植物を入れてスープにしたもの。塩味が中心だったけど、まあ、スープはちょっと甘みがあって美味かった。

 案外ちゃんと持って来てるんだよな。

 他の班が持ってきたみたいな肉や野菜や果物はない。でもその分アクセラは保存食をいくらか持ちこんでる。どれも冒険者向けの栄養価が高く、保存性も高い代物。ダンジョンの入り口で店を広げる商人から色々買うにしても、軽くて長持ちする食料は必須だ。


「持ち込んだ荷物、ほとんど魔石とダンジョンクリスタルだよな」


 ふと他の荷物、やたらと重かった鞄を思い出して尋ねる。


「ん、用心のため。使わなければあとでエレナの玩具になる。使ったらネンスの支払い」


 冒険者らしいというか、そういうところはどっちに転んでも問題ないようにしてあるらしい。ただ気になったのはアクセラの見立てだ。こいつはあの量のクリスタルを使う事態になると思ってるのか。

 やっぱり不安なんだろな。

 昨日の番の間にエレナと話したことを思い出す。アクセラは今焦っていると。マレシスを守れなかったこと、自分一人で全員を守らなくてはと思っていること。そこまでは推測できる。けれど実際問題、それが目の前の小柄な戦士にとってどれくらいの重圧でどういう意味を持っているかは分からない。だってそもそもアクセラの実力がオレにはまだ分からないんだから、仕方ない事だと思う。


「まあ、とりあえずは課題やらないとな」


「ん、そう」


 目の前の課題もこなさないと、たとえ何事もなかったとしても大団円とはいかなくなってしまう。特にアクセラは例の戦闘学教師と折り合いがつかないせいで単位が危ういんだし。


「なあ、ネンス。今日はどれからやるんだ?」


 話を振ると丸太に座って剣の手入れ中だったネンスが顔を上げる。難しい表情を浮かべてるのはきっと習ったばっかりのそれが難しいからだ。アクセラの教え方は自分でできるオレにとっても勉強になるくらい分かりやすかったけど、実際に自分の手でやるとなるとやっぱり初めてには難しく感じられるだろう。


「そうだな、とりあえずは明るいうちに戦闘系を一つこなしたい」


「夕飯の調理は任せていいんだよな?」


「ん、それくらいはする」


 これで一安心だ。肉さえ持って帰って来れば飯にありつける。地味に昨日の課題で厄介なのは毎晩の夕飯を自力で確保することだったし。なにせ他の課題と違って一度ミスするとリカバリーが厳しい。そこをアクセラが請け負ってくれるなら心強かった。


「じゃあオレとネンスで魔物狩り、レントンとアレニカで薬草採取とかか?」


 自分では妥当な提案だと思ったんだが、ネンスは少し考えてから首を横に振った。


「最初は全員で狩りをしてみよう」


「そりゃいいけど、なんでまた?」


「一つにはアレニカ嬢、いや、アレニカの訓練だな。魔導銃で生き物を撃つ練習は積んでおいた方がいい。最悪の場合、数日以内に実戦で撃つことになる」


「ああ、なるほど」


 オレはあんまりアレニカのことを知らない。話は聞いてたから同情はしてるけど、正直それだけと言ってしまえばそれだけ。だからどれくらい戦えるのかも分からない。そこを知っておくのは大切かもしれない。ただレントンは知ってる分、戦闘に加えることに抵抗が……。


「レントンは動物に影響するスキルをいくつも持っているのだそうだ。使い方によっては魔物狩り、非常に楽になると思わないか?」


「!」


 ネンスの言葉にハッとさせられる。動物の体調を知ったり動きを予測したりできるならそういう使い方もできる、かもしれない。できないかもしれないが、それを試してみるのがアクセラの言う技術だ。

 やべえな、オレの方が付き合い長いのにネンスの方が理解してきてねえか。


「一旦狩りに出て、もし他の班が見つけられれば別の課題もする。そういうことでどうだ」


「いいと思うぜ」


「ハンコと板、忘れないでね」


 アクセラが指摘したのは例の課題が書かれた板と、今朝になってもう一度見て見たら付属してた印鑑だ。それぞれの班に番号があって、他の班と関わるものはそれを押してもらう。自分たちで行うものはもう一つの付属物、笛で教師か監督の冒険者を呼んで押してもらう。そういう方法で課題のクリアを確認していくんだ。


「拠点の防衛は任すぜ」


「ん」


 大まかな方針が決まったところで女性陣の天幕が開かれた。自信満々の笑みを浮かべたエレナが胸を張って登場し、その後ろからアレニカがおずおずと出てくる。その姿はかなり異質というか、あまり見かけない衣装だった。なんというか、利便性と独自の文化を突き進んでる冒険者らしさが込められてる。

 一番に目を引くのはタイトそうな形状なのに上半身の線を完全に隠す上着だ。暗い赤色でスカウト系の冒険者がよく着る外套のように袷が左側に大きく寄った独特のデザインをしている。表面はシルクのように滑らかだが、どことなく魔力を感じさせる。高めに作られた襟には四枚花弁の花をデザインした金のブローチが輝く。


「スワローズケープ、リオリー商会の服飾部門と魔法用品部門が協力した新開発素材と技術の結晶だよ。凄いでしょ!」


 誇らしそうなエレナ。彼女が最近王都に出店したリオリー魔法店の関係者なのは知る人ぞ知る話。そういう手の話はことごとく知らないはずのオレまで知ってるのは、マリアが便利魔道具を彼女から色々買ってるからだ。カートリッジとか言う小さなパーツをクリスタルの代わりに付けて使うんだが、これが結構安い上にどの道具でも使えて楽なんだとか。


「それもカートリッジが使われてるのか?」


「ううん、こっちはまだ未対応。とりあえず試作品をニカちゃん用に仕立ててもらったから、本人の魔力を使って色々な特性を出せるんだ。衝撃緩和とか耐熱とか」


「付与魔法を切り替えるってことか?」


「ん、近い。魔剣に似てる。でもまだ効率が悪い。アレニカくらい魔力がないと実戦、それも魔導銃と組み合わせるなんて無理」


 もともと魔導銃が魔力をバカスカ食う武器だったはずだから、効果を得る度に魔力を消費するような防具とは相性が最悪だろう。そんな組み合わせを運用できるアレニカは本当にとんでもない魔力の持ち主なのだと分かる。


「逆に言うと魔法を全く使わない人には向いてるかもね。なんにしても我ながらイイ感じだよ!!」


 大興奮のエレナだが本人はなんとも恥ずかしそうだ。おそらく下が太股の真ん中あたりで絞られたカーゴパンツのようなズボンだから。膝上の丈で服を着る女性はそれこそ冒険者や一部の接客業くらいだ。もちろん森の中でむき出しの足というわけじゃなく、厚手の靴下……でいいのかオレには分からないけど、黒い布でつま先まで綺麗に隠してる。


「そ、その、このレギンスはもう少しなんとかなりませんの?」


 レギンスか、よし覚えた。


「それも防刃性に優れた布なんだよ?肌にぴったりくっつくくらい柔らかいのに引っ掛けても破れないし、作業用ナイフくらいなら受け止めてくれるんだから」


「そのぴったりが嫌なんですわよ!だ、だってこれ、足を露出してるのとほとんど変わらないじゃないですわよね!?」


 たしかに生地が厚そうなわりに密着して、膝やふくらはぎの形までしっかり分かる。あんまり眺めるのもよろしくないから視線を逸らしつつ、今度マリアにも買ってやろうかななんてことが脳裏に浮かんだ。

 いや、最近危ないしな。安全の為、安全の為。


「むぅ、動きやすい方がいいと思ったんだけど。それに可愛いよ?」


 困ったように顎へ指を当てたエレナがそう言うとアレニカは騒ぐのを止めて少し考え、それからネンスへ向いて小さな声で訪ねた。


「……で、殿下はどう思われますか?」


「わ、私か!?」


 まさか自分に振られると思っていなかったように驚くネンス。オレなんかでも見てればアレニカが誰に気があるかなんて明白なんだが、どうも本人にとってはそう分かりやすいものでもないらし。


「あー、そうだな。うむ、いいのではないかと思う」


 じっくり見るわけにもいかず、かといって見ずに言うわけにもいかず。ちらちらと横目で見ながらネンスは顔を赤くして答えた。大抵の女性はそれで納得するとも思えないが、アレニカは嬉しそうに頬染めて俯いてしまった。

 朝っぱらからオレは何を見せられてるんだ……。


 ~★~


「おらおらおらぁー!食っちまうぞー!!」


 蛮族かよって声を出して走る。森の中、大樹の根を踏み越えて鎧のまま走るのはとんでもなくしんどい仕事だった。『騎士』の威圧と大声を使いながらだから余計に。ただその甲斐あって面白いくらい目の前の魔物、スモールブラッドベアは真っ赤な毛におおわれた尻を揺らして猛然と逃げて行く。


「右に行こうとしてる!」


「おう!」


 レントンの声に何度目かの攻撃スキルを起動する。白銀のショートソードに青い光が灯って、振り抜いた剣が地面と平行になるところで射出された。

『騎士』内包スキル『速剣術』エッジショット

 最近取得したばっかりの数少ない遠距離技。青い光の刃は真っ直ぐに木々の間を駆け抜けて右へ意識を向けた小熊の鼻先を掠める。


「ボァ!!」


 野太い悲鳴を上げて血色の体毛は右折を止めて真っ直ぐ走り続ける。


「ナイスだレントン!」


「そ、そろそろキツイかも!」


 横目に確認すればレントンは滝のような汗を流して今にも足を止めそうだ。これ以上は厳しいか。


「もうすぐ目的地だからちょっとずつペース落としていいぜ。でも急に止まるなよ!馬だってそうだろ、人間だってそうだ!」


「え、ああ、なるほど……」


 レントンは戦士に向いてない。けど体力はあるし馬鹿じゃない。アクセラなんかは見るからに扱い辛そうにしてるが、こいつはきっと伯楽って仕事に誇りを持ってると同時に蔑まれてるんじゃないかって劣等感も抱いてる。それが面倒くさいんだと言われればそうだ。ただ騎士は馬と馬の世話をする人間を大切にするものだ。この班でレントンのことをちゃんとフォローできるのはオレだけだから、そこら辺はしっかりしてやらないとな。


「じゃあちょっと、お言葉に甘えるよ……」


 速度の落ちるレントンに対してオレは逆に上げて行く。身体強化のスキルを全開にして熊を追い立てる。すると馬鹿に太い木の向こうから光が見えてきた。アッシュブロンドの髪とイエロートパーズの目を持つ頼もしい仲間、ネンスが金色の剣を構えて立っている。


「食っちまうぞぉおおお!!!」


 最後の最後に一声吼える。頭の中にはアクセラが作る熊鍋を浮かべて。その瞬間、スモールブラッドベアの速度が更に上がった。それは持続的に走れる速度を超えた、いわば全力疾走だ。


「ちょっと待て、追い立て過ぎだ!」


 ネンスの悲鳴に続いて彼の後ろの空間が白く濁る。鈍い音が聞こえて熊の足がおかしなステップを踏み、速度を保ったまま崩れ落ちる。落ち葉をこれでもかと吹き飛ばしながら巨体は地面を数度跳ね、慌てて進路から逃げ出したネンスを通り過ぎて停止した。見れば頭部が弾けて赤と黒と白がモザイク状になってる。


「お、おう。アレニカ、ナイスショット……」


 空気の白味は消えて、かわりに落ち葉の中から立ち上がったアレニカが絡む枯葉を振り払う。一瞬巻き起こった白い空気は狙撃用の魔導銃スワローズハントで氷の魔法を撃った反動だったようだ。


「うぇ……」


 彼女は無残にも外向きに開いた熊の頭を見て顔を顰めた。死体には人並みの忌避感があるらしい。それでも躊躇いなく引き金を引けるのは魔導銃使いとしてはいい事かもしれないが、貴族の娘としてはかなり致命的な気がする。アクセラという例外中の例外はおいておいて。ただ今の彼女はそういうことより先に気になることがあるようで、慌てて地面に突っ伏したネンスを見やった。


「あ、殿下、大丈夫ですの!?」


「ああ、大丈夫だ。むしろ助かった」


 やる気満々だったところから一転、落ち葉だらけでむっとした顔を浮かべるネンス。原因のオレは手を貸しつつ謝るしかない。


「いや、悪かった悪かった。まさか最後のがあんなに効くとは」


「死ぬかと思ったぞ……大体なんだ、あの食っちまうぞという叫びは。それでも騎士か」


 大恥をかかされた形になる彼は恨みがましい目で見上げてくるが、そこについてはそもそもがネンスのアイデアに理由があった。


「レントンがよ、動物が一番怖がるのは自分を食おうとする相手だって言うんだよ。だから本当に食うこと考えながら言葉にして追いかけるといいかなって思って、やってみたら効果覿面!」


「覿面過ぎだ!あやうく全速力の熊に突っ込まれるところだったぞ」


「悪かったって」


 かっかと怒る王子をなだめながら待つことしばし、息を整えながらレントンが追い付いてきた。オレたちは同じ方法で既に4度の狩りを行っているわけだが、待ち伏せ組のアレニカとネンスはまだ大丈夫だろう。オレも体力には余裕がある。ただオレと一緒に追い込みをしてるレントンはそろそろ限界だな。


「魔物狩りはこれくらいにしようぜ」


「ふむ……まあ、そうだな。これ以上は今日中に消費しきれないだろうし」


 ネンスが同意するとアレニカも頷く。彼女は意思決定に噛む気はないらしい。


「とにかく戻るか」


「そうだな……ああ、そういえばここから少し行ったところに別の班の拠点があるらしい。肉でも持って行くか?」


 金色に木目模様、特徴的なコンクライトの剣を鞘に仕舞いながらネンスが言う。オレはそれに首を傾げた。どうしてそんな情報を仕入れているのかと。接触があったにしてはあやふやな、しかしただの憶測にしては変な内容だ。


「いや、なに。しばらく時間があったのでな、アレニカを周辺の観察にやったのだ。あちらへしばらく行くと拠点が設けてあったらしい」


「ええ、でも誰も居ませんでしたわ。誰の拠点かまでは……」


 拠点の守りに誰も残していないのは妙だ。なにせ演習中、人間関係が悪くなるのを気にしないなら、物資の略奪は禁止されてない。生徒同士の戦闘に関する取り決めもかなり緩和されていて、課題の戦闘に乗じて私闘じみたことをする輩もいる。


「うーん、じゃあ行ってみるか。あ、でもアクセラたちも心配させるからな。オレが肉を持ってその拠点にいくぜ」


「いいのか?」


「熊の足一本でも持って行けば十分だよな」


「そ、それはそうだと思うけれど、いいの?」


 心配するネンスとレントンに手をひらひらと振って大丈夫だとアピールする。今の所レントンもアレニカも狩りに大きく貢献しているとはいえ、2人とも本職の戦士じゃない。オレかネンスが付いてないと拠点まで帰せない。となるとどっちが単独行動すべきか、誰が言うまでもなく全員分かっていることだ。

 まあ、もしかしたらアクセラが今もどこかで監視してるのかもしれねえけど。

 あいつならやりそうで怖い。誰かが危機に陥ったら木の上からふらっと落ちてきて戦闘に加わる。そんな無茶苦茶を当然のような顔でする破天荒さがある。


「まっすぐ帰れよ」


「お前も気を付けてな」


 手短に動き方だけ打ち合せして別れる。ネンスたちはもうしばらくここで熊の処理をしてから拠点へ直帰だ。オレは根元から切ってレントンのスキルで粗っぽく血抜きだけした小熊の足を抱えてその拠点とやらに向かう。ちなみに食肉処理のスキルはあくまでジョブに付属しているだけで高レベルのものじゃないとか。なので食えるが抜群に美味いとまではいかないらしい。


「それくらいは我慢してもらわねえとな。あとは魔物の肉を食ってもいいって連中かどうか、か」


 確かに最初はちょっと勇気がいる。なんだって食べたことのない物を食べるときにはそうだ。で、これが意外と美味い。食肉用に育てられてる家畜化された魔物なんかは下手な猟師が取って来た森の肉より断然上質だし、種類によっては食べたことのない触感や味がして面白い。


「これがブラッドベアだったらもっと面白かったのにな」


 血塗れになったような毛色の足を見ながら思う。スモールブラッドベアはブラッドベアの近縁種で立ち上がっても2mないくらいの小型魔物だ。対してブラッドベアは3m近い体格を持つ魔物でかなり強靭。ただしスモールと違って血まで食べられる。スモールは血が臭くないだけで食用には向かない。

 ブラッドソーセージとか一回食べて見たいな。

 そんなことを思いながら示された方向へ真っ直ぐ歩いて行くとしばらくして木が途切れる場所まで来た。森には落雷や立ち枯れでぽつんと開けてしまった場所がいくつかあって、そう言う間隙を見つけて野営をするのが常道だ。


「……こりゃあ」


 ようやく着いたかと木々の中から出て見ると、その拠点はほぼ崩壊していた。天幕を支えるロープは切られ、無残に踏み荒らされている。荷物も漁られたのか周りに散らばっているし、持ちこんだポーションや水は叩き割られている様子だ。そんな惨状のなかに3人の生徒が2人を介抱しながら途方に暮れていた。


「おい、お前ら大丈夫か!」


 慌てて駆け寄ろうとすると慌てて3人のうち2人が剣を抜いて構えた。明らかに焦りと怒りを滲ませている。


「いやいや、待てって!オレはたまたま通りがかっただけだ!」


「……どこのクラスの誰だ」


 低い声で唸ったのは小柄な女子だった。


「Aクラスのレイルだ」


「Aクラス!?」


「レイルって、フォートリン家のレイルか……?」


 ざわつく3人を刺激しないように空いてる左手を上げながら頷く。


「それで、エリートクラスのお偉い騎士様がアタシらに何の用だよ!」


「いや、課題で他の班と協力しろってのがあるだろ?それで肉を持って来たんだ」


 3人の目は変わらず疑惑に満ち満ちていて、一ミリたりとも信じてなさそうだ。


「あのさ、そこの2人怪我してるんだろ?」


「だったらなんだ」


「ポーション、ないならやるからさ、とりあえず剣を修めてくれねえか」


 オレの言葉に3人の内2人は大きく反応した。


「ポーションだって、ミラちゃん!」


「馬鹿、ダグラス!あいつがアルヴィルフたちの仲間じゃないって保証がない」


「いやでもさ、フォートリン家って言えば公明正大な英雄だよ?領地の治安は国内有数の良さだって」


「領主が優秀だからって息子が優秀とは限らないだろ!」


 なにやら嬉しいような悲しいような。そんな話を繰り広げる間、残された一人だけがじっとオレを見ていた。剣を持たずにぐったりした2人を頻繁に見下ろしている。


「レイルさん」


 しばらく剣を持った2人が口論をしていると彼は口を開いた。


「この2人が獣人だって言っても助けてくれるかい?」


「ロベルト!」


 獣人。獣の特徴を併せ持つ人種でユーレントハイム王国ではかなり珍しい。国法としては平等に扱っているが差別する領地も少なくないし、なにより自分たちとは違うのだと排斥したがる貴族も多い。もちろん法的にはアウトだからこっそりやるんだが。

 その獣人が2人して拠点ごと襲われたのか、そりゃあ神経質にもなるよな。


「見くびってもらっちゃこまるぜ!俺はレイル=ベル=フォートリン、ユーレントハイムの法と民を守る騎士の家系に列なる男だ。獣人だろうがなんだろうが、そんな小さいことで掲げるのを止めるような軽い盾は持っちゃいねえ!」


 剣を抜く。3人はびくりと体を竦ませた。オレは構わず切っ先を地面に突き立てて手を離し、熊肉と盾だけ担いで近寄る。当然、数歩も離れればすぐに剣は握れなくなる。それを見て警戒を解くべきかいなか迷う連中に腰のケースから出した瓶を差し出した。オレンジに薄っすら輝く液体は一番効果の高いポーションだ。


「こ、これ……!」


「酷く殴られてるんだろ。使ってやれよ」


「いや、けど、これ」


「オレは盾があるから怪我をしない!」


 我ながら無茶苦茶を言って、まだ困惑する相手にそれを握らせた。彼は少し考えた後でそれを半分ずつ2人に呑ませた。ぼうっと光が体を伝ってすぐに小さな傷が治り始める。オレも初めて最高位の魔法薬を使う所を見たが、なかなか凄い絵面だ。


「けほ、けほ……」


「メルヴィン!ディーク!よかったぁ……」


 それまで手負いの獣のような顔をしていた少女、ミラが涙を浮かべる。


「よかったな。で、話くらい聞かせてくれるか?」


 喜ぶ3人に尋ねるオレは、きっと相当怖い顔をしていたと思う。


読者の皆様にお願いです。評価、感想、ぜひお気軽に投げてやってください。

度重なるイベントの中止とPV低下、次章の難航により作者のモチベが瀕死でございます。

アカンところはアカン!と言ってくださって構いません。

好きなところは好きと言っていただけると書き続けるエネルギーになります。

(ゆっくりですが感想返しもしていきます!)

よろしくお願いしますm(__)m


~予告~

計らずも始まる次なる課題。

しかし相手は手負いの少年と怒れる少女で。

次回、課題:他班と……

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― 新着の感想 ―
[一言] 「じゃあオレとレイルで魔物狩り、レントンとアレニカで薬草採取とかか?」 ここの「レイル」->「ネンス」
[良い点] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! PV低下についてはすみません、数話を纏めて読むという考え、そして丁度忙しく成った時も有ります。。。一響さんモチベ、死なないでくれ! そうか、一流の冒険…
感想一覧
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