二章 第1話 追憶の湯舟
「はっ」
正眼に木剣を振り下ろす。本日最後の素振りが終わった。俺はそのまま構えを解かず、目の前の虚空を睨みつける。ぴったりと止めた切っ先、その延長上に仮想の敵がいる。
「っ」
踏み込んで斬りかかる。想定するのはかつて山ほど相手してきた仰紫流門下生。今の俺よりも体格に優れ、技の冴えも熟練の粋に達しかかったその幻影を相手に立ち回る。
頭上から振り下ろされる刃を軽く横に避け、斜め上へと突きを繰り出す。躱されるのも織り込み済みの一撃に続いて刀を引き戻し、半回転して勢いを乗せた横薙ぎにつなぐ。しかしこれも躱された。
筋力があっても体重が少なすぎる今の俺は回転と踏み込みの加速で威力を増す必要がある。必然的に昔の戦い方よりもアクロバティックな動きを要求される。そう思って訓練しているが、やはり回転運動は動作が大きすぎて躱されやすい。
「はぁっ」
影の放ってくる突きや払いを回避しつつ、その動きを吸収して瞬発力に変える動作を考える。重要なのは筋肉のしなやかさとバネの柔軟さだ。
「ふ……うぁ!?」
何度目かの跳躍でブレーキをかけ損ねた足が滑る。慌てず受け身をとったおかげで怪我はしなかったが、それでも強かに背中から倒れてしまった。容赦なく影は俺の喉元に刀を突きつける。
「……はぁ、まいった」
溜息と共に立ち上がって衣服の泥を払う。ここ2か月ほどで達人1歩前の影を相手に良い勝負ができるようになってきた。師範を超える経験と知識と慣れがあっても6年かけてようやくここまでだ、あまりアクセラの体には剣の才能がないらしい。
「アクセラちゃーん!」
持ってきていたタオルで軽く汗を拭っていると、どこからかエレナの声が聞こえてくる。向こうも終わったみたいだ。
エレナが俺の侍女になると決めた日からもう6年。あいかわらず俺たちは一緒に遊ぶし一緒に食べるし一緒に寝ている。俺の危惧は杞憂に終わった。
「ここ」
「あ、もう!さがしたよ?」
茂みから顔を出すと昔より大人びて可憐に育った我が乳兄弟がこちらに歩いてきていた。ハニーブロンドの髪に早苗色の瞳の少女。今はお仕着せの侍女服に身を包んでいる。手にはバスケットが1つ。
周囲にかけている『完全隠蔽』の範囲を広げて彼女を入れる。範囲指定で使った場合、効果範囲内に入りさえすれば隠蔽効果は効かなくなるのだ。3歳の頃のようにこっそり誰かに見られていたのでは思う様に練習できないので、訓練時間はこうして『完全隠蔽』を併用している。とはいえ視認できなくするわけではないので、察知されにくくなるだけなのだが。
「はい、果実水と乾いたタオル」
「ありがと」
先に乾いたタオルで汗を拭く。持ってきていた分だけだと拭ききれなくなって困っていたのだ。
「今日の成果は?」
「悪くない。そっちは?」
「お皿割って怒られた」
「……また?」
今月に入ってもう5枚目、まだ幼いとはいえ流石に多くないだろうか?
「だってさぁ……」
「……ん」
もの言いたげに唇を尖らせて頬を膨らます妹君に俺は納得の声を洩らす。もうじきレメナ爺さんの魔法テストがあるのだが、その訓練のために耐えず魔力を活性化させたまま生活をするという修行をしているのだ。ときどき集中を乱してポカをやらかすのでラナからは嫌がられる修行だった。
「エレナは才能がありすぎる。制御が下手なわけじゃない」
「むぅ、制御できないことに変わりないもん。あ、はい」
汗を拭き終った俺にガラス瓶を差し出してくれるエレナ。コップを2つ出す彼女をしり目に、押し込まれたコルクを引っこ抜いて直に口に当てる。
「お行儀悪いよ」
俺には甘すぎるメロルオレンジの果汁も果実水にするとちょうどいい。彼女の魔法でよく冷やされたそれは火照った体に染み入るようだった。
「ぷは。ん」
半分まで一気に飲んでエレナに渡す。
「……はぁ」
軽い溜息をつきつつ自分も受け取ったそれを直に口に当てるエレナ。
誰も見ていなければいいんだよ、見ていなければ。
「ぷはぁ、おいしい」
「ん」
2人で顔を見合わせて笑う。まだ少し寒さの残る春先だが、日が落ちるのは随分と遅くなった。この前までは鍛錬を終えて屋敷に戻るともう夕焼けだったのに、それが今ではまだ日は高いままだ。
そういえば長らく一緒に魔法の練習をしていないな。ふとそんなことを思った
「ふわぁ……魔法の練習する?」
「いいの?なんだか眠そうだけど」
「ん、大丈夫。なんとかなる」
レメナ爺さんに師事するようになっても俺とエレナの魔法特訓は終わらず、よく一緒に魔法糸のあやとりや手織り、奪い合いをして遊んだ。だがそれもここ数年はしていない。単純に飽きて来たのもあるが、お互い慣れてきたせいで勝負が長引くようになったのが大きい。
「なにする?」
「エレナの微調整訓練」
懐かしいからと言って今から魔力糸のやりとりをしていては夕飯時になってしまう。練習なら今最も重要なことをやるべきだ。
「火魔法?」
「ん」
俺とエレナが共通で使えるのは火属性。なので制御を教えるのならそれが一番いい。
「いくよ」
「一応詠唱して」
レメナ爺さんの方針で俺たちは最初から無詠唱の練習をしている。スキルとしての『無詠唱』は数ある失われたスキルと言われているが、方法を知っていればそう難しいことではない。エレナもすでに初級魔法なら無詠唱で使えるようになっている。といってもタイミングを合わせるのには詠唱したほうが便利がいい。
「燃えよ、赤き火よ、熱き物よ。燃えて走りて在れなるを焼き払え。火の理は我が手に依らん」
エレナが目の前に手をかざして呪文を詠唱する。かざされた手の先に魔力が集まって真っ赤に燃える火の玉を生み出す。
火魔法初級・ファイアボール
攻撃魔法であるファイアボールだが、放たずに留めておくこともできる。その分魔力を消費するし維持も困難になるのだが、これがいい制御力の練習になるのだ。かつては俺もやった懐かしいその方法をレメナ爺さんは知っており、俺たちに教えた。
「いくよ」
「うん!」
エレナが維持するファイアボールに火の魔力糸を伸ばす。火の魔法に火の魔力を触れさせればどうなるか、当然燃える魔力が増して制御が難しくなる。それも他人の魔力、不安定になるタイミングもまったくつかめない。これほどいい制御の訓練もないだろう。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………」
「……………………」
最初は涼しい顔だったエレナも段々と汗を滲ませ、15分がすぎるころになると服がしっとりと肌に貼りつくほどになる。
「そろそろ降参?」
「ま、まだまだ……」
負けず嫌いなエレナはそう言うが、そろそろ制御可能なエネルギー量の限界だろう。
奪って止めるか。
魔力糸を一気に増やしてファイアボールを取り囲む。
「あ!」
「食い尽くせ」
ファイアボールを緩く囲っていた魔力糸を引き絞る。急激に締め付けられた魔法は圧縮され、取り囲む魔力の糸に段々とその力を奪われてあっという間に大量の魔力糸へと分解された。
中級火魔法・アンチファイア
俺がこの6年で編み出した特殊な対抗魔法の技だ。タイミングが分かっていなければ使えない難しい技術だが、あるのとないのでは雲泥の差を生む。
「むぅ……」
「引き際が大事」
「……はぁい」
肩を落とすエレナにバスケットの中からもう1枚乾いたタオルを取り出して手渡す。そして頭を撫でてやり、いくつかアドバイスをする。
「一度に魔法に注がれる魔力を同じにしたらいい。足すのも大事だけど引くのも大事」
「そっか、入ってくる分だけ自分で入れる量を減らせばいいんだね!」
すぐに理解できるエレナは本当に頭がいい。俺だったら言われた意味を理解するだけでもしばらくかかるくらい言葉足らずな説明だと思うんだが。
「ん、汗ふいたら帰ろ」
「そうだね」
引っかかっていた部分が解れたからか嬉しそうな笑みを浮かべる少女。彼女の頭をゆっくり撫でてから、俺たちは何もない裏の茂みを立ち去った。
~★~
「今日の授業はおさらいじゃ」
夕飯の後、俺とエレナにとって本日最後の授業が書庫でおこなわれていた。それは今週最後の歴史の授業である。1週間で習った内容の復習が主になる。今週はこのユーレントハイム王国の成り立ちについて。
「初代ユーレントハイム王の名は?」
「キャメロン王」
「ユーレントハイム王国成立はおよそ何年前じゃった?」
「400年前です」
「建国以来この国を支える貴族家を何と呼ぶかのう?」
「四大貴族」
「ではその内訳を」
「公爵と侯爵が2家ずつです」
「それぞれ名は?」
「リデンジャー公爵、ザムロ公爵、レグムント侯爵、ビシケント侯爵」
「反乱を防止するために第3代国王によって制定された法律の通称は?」
「えっと……ハイルント法」
「ホホホ、いい調子じゃのう」
6年前と変わらない姿で顎鬚をしごく痩身の老人、レメナ爺さんが笑った。簡単な問題の途中でいきなりややこしいのを入れてくるあたりに悪辣さがうかがえる。このタヌキ爺の担当科目も今ではかなり増え、歴史と魔法以外に高等算術と詩編が加わった。
「これなら来週のテストも簡単じゃな」
「ねえ、レメナ爺」
「わかっておるわかっておる、約束じゃろ?」
「ん」
鷹揚に手をパタパタとさせる爺さんに「分ってるならいいんだよ」という視線を送っておく。明日の魔法のテストから始まる定期試験、高得点でクリアすれば何でも言う事を1つ聞いてもらうという約束をしているのだ。これを使って俺はしたいことがある。
「しかし一体何を要求する気なんじゃい?大抵の事ならラナやビクターに頼めばよかろう」
ときどきあまりにも近い姿勢に忘れかけるが、俺はこの家のお嬢様なので大体の我儘なら聞いてもらえる立場にある。といってもほとんど言ったことがないが。
「言っても反対される。レメナ爺なら約束は守るし、多少の無理も通せる」
「ホホ、儂ゃえらく信頼されたようじゃ」
この6年間でこの爺がタヌキでも信頼に足るタヌキだと俺は思うに至った。というのも、この爺さんには特別な思惑がないらしいのだ。ビクターやラナはなにか将来について思っていることがあるらしい。それはきっと家に関わる全て大人たちがそうなのだろう。
だがレメナ爺さんだけは違う。良くも悪くも強い意志を感じない。精々優秀な魔法使いに仕上げたいと思っている程度で、育てた俺たちにこうなってほしいとかああしてほしいといった展望を抱いていないのだ。
もちろんラナたちの事だって信頼はしているが、こと俺自身の思惑についてとなると頼りづらい面がある。
「先生、ここの意味なんですけど……」
「ホホホ、そこはな……」
短いやり取りを済ませた俺たちはエレナからの質問に合わせてそれぞれのやることに戻る。約束通り要求を呑んでもらうにはまず勉強してテストでいい点をとらないことには話にならない。
「ふぁ……あぁ」
「眠そうだね、アクセラちゃん」
歴史の授業開始から1時間ほどたったころ、俺は大あくびをしていた。心配そうにこちらを覗きこんでくるエレナの頭を撫でて微笑む。
「大丈夫」
「でも……」
彼女の言わんとするところも分る。最近の俺はやたらとあくびをしては場所問わずうつらうつらとしているときがあるのだ。
「寝不足かのう」
「しっかり寝てる」
子供ならおかしくはないかもしれないが、生前ならまずありえなかった10時間睡眠だ。
何にせよ疲労が残っている感じはないから寝不足ではないはず。
「まあ、そろそろいい時間じゃしな、今日はおしまいじゃわい」
「ん、ありがと」
「ありがとうございました」
一礼して俺たちはレメナ爺さんの居城である書庫を後にする。あの爺さん、どうもあそこで寝泊まりしているらしい。あきれた本好きだ。
「エレナ、お風呂いこ」
「うん!」
急激に増す眠気に耐えながら浴場に向かう。専属侍女としてエレナは俺の湯あみの手伝いもしている。俺自身はいらないと言っているのだが、ラナとイザベルからは侍女としてエレナに必要な技能なので黙って洗われろと言われている。
「ん……」
手早く簡素なシャツを脱ぐ。本当は脱衣も練習がてら任せた方がいいのだろうが、どうせそれくらいならもう完璧にできるエレナだ。それに俺自身なにかしていないと今に膝から崩れ落ちそうだ。
動きやすい膝下のスカートと下着類も脱いで起伏に乏しい体を外気に晒す。ここ数か月、自主的に付けた筋肉以外にも脂肪がついてきた感がある。女性らしい丸みとでも言うのか、そういう何かが加わりつつあるらしい。
「んしょっと」
横でエレナも服を脱ぎおえる。当たり前だが本来侍女は主人と一緒に風呂には入らないし、当然風呂用の仕事服がある。ただし彼女はあくまで侍女の練習中であり、子供2人が分けて入るのも面倒なので俺たちは一緒に入る。したがって風呂用の侍女服も出番はない。
風呂場に繋がる引き戸をあけるともうもうとした湯気があふれ出す。磨き石でできた床が洗い場を兼ね、その向こうには人が5人は余裕で入れる浴槽が置かれている。
「ふわぁ……」
「はい、アクセラちゃん」
湯気の中であくびをしていると洗い場の片隅から木の腰掛をエレナが持ってくる。言われるままそれに座ってスポンジで芋のように洗われながら俺はふと思った。この眠さはもしかすると厄介なものかもしれない。石鹸を取って泡立て、スポンジで俺を洗うエレナ。普段ならその動きを気配でしっかりと追えるはずなのに、なぜか今はまったく追えないのだ。眠くても気配には敏感なはずの俺が。
「!?」
そんなことを考えていると視界が突然ブレた。
「わ、大丈夫!?」
声が上からして顔を向けるとすぐそこにエレナの顔があった。頬に泡をつけている。バランスを崩して後ろに倒れそうになって、受け止めてもらったようだ。
「……ん、眠かっただけ」
「むぅ、ほんとに体なんともないの?」
「ん、まったく」
シャワーで泡を流してもらい、そそくさと湯船に逃げ込む。熱いお湯の温度が体を解してくれると同時にぼやけていた頭を覚醒に誘う。
「わたしも体洗っちゃうね」
「ん」
縁に腕を置いてその上に頭を乗せ、見るともなしにエレナをみた。俺と同じ年齢1桁の肉付きの薄い体だ。肌の色も大して変わらず、後ろからみると髪の色と長さだけが違う。俺は背中にかかる程度に伸ばしているが、彼女は昔と同じ肩を軽く覆う程度。
正面から見れば顔立ちのせいで2人は全く違って見える。エレナは太陽のように暖かい表情をうかべた愛らしい顔立ちだ。目の色も初夏の草原のような早苗色。対して俺はというと、切れ長な目と無表情が相まって冷たい印象の顔立ちに曇った紫の瞳をしている。自分の容姿にそこまで拘りはないが、人に安らぎを与える妹のことを少し羨ましく思わないでもない。
「なに?」
じっと見ていたせいで気付かれた。
「んー、なんでも」
体の芯まで熱が達してまた眠たくなってきた。俺は韜晦しながら自分の腕のなかで目を閉じる。
「あちちっ」
横から聞こえた小さな悲鳴と細波が湯船にもう1人入ってきたことを教えてくれた。
「ねむい?」
「すこし」
言葉とは裏腹に尋常じゃない眠気に襲われる。
風呂場で寝ると溺れるな。
そんなふうに考えながらも、枕にした自分の腕の柔らかさとお湯の熱に負けて俺は意識を薄めて行った。
~★~
「なあ、墨頭」
「んだよお頭」
窯で茹でられるようなお湯の中、俺は隣で同じ湯につかる男を見上げた。赤茶けたボサボサの髪に狡猾そうな三白眼、そのくせ人好きのする笑みを浮かべた青年だ。俺と同じく傷だらけの体を晒して茹でられている。
「おまえもうちっと可愛らしい顔できねえのか?」
「お頭、頭ん中まで火が通っちまったのか?」
「ちげえよバカ」
俺は短い手足を起用に動かして煮上がりそうな岩の湯船の中を青年から遠ざかる。
「誰に似たんだかお前には愛想ってやつがねえんだよ。こんなヤクザな商売でも愛想があるのとねえのじゃ雲泥の差だぜ?」
俺とお頭は盗賊だ。それでも通りかかる商人と物の売り買いをすることもあるし、お頭の人好きのする笑みが有利に働いたことだってままある。
「まあ、そっかもな」
「だろ?だからおまえももう少し可愛い表情の1つでも身につけろって」
「いいよ、別に。それにどうせ顔で交渉するならお頭1人で足りるじゃん」
「おいコラ、人を顔だけの奴みたいに言うんじゃねえよ!俺様は天下にとどろく武闘派盗賊の流鏑馬ジン様だぞ!?」
冗談でも睨み下ろすお頭の顔は怖い。愛嬌のある顔と任侠にしか見えない顔がなぜ同じパーツで同居するのか俺は甚だ疑問に思った。
しかし俺が白けた顔で見返すと彼はすぐにいつものふにゃけた表情に戻る。
「マジな話よ、ちゃんと色々なこと覚えた方がいいぜ、おまえ」
その言い方が俺はなんだか気に入らなかった。まるで俺の将来を案じているようで。
「……いんだよ、俺はお頭たちと盗賊やんだから」
そっぽを向いてそう答えた俺の首が万力のような力で引き戻される。
「いででで!」
悲鳴を上げる首に耐えかねてお頭の方を向けば、滅多に見たことのない真面目な顔でこう言われた。
「エクセル、俺様たちだっていつまでもいるわけじゃねんだ、ちったあ考えな」
「…………」
気に食わない。
名前で呼ばれたことも、これからなんて曖昧な物の話をされたのも、おいて行かれるような心細い気分にされたのも。
気に食わない。
「ヤブサメがなにかもしらねえくせに威張んな」
「ソレは言うなっつってんだろ!てかお前もしらねえくせに偉そうなこと言うなっ、カッコイイからいいんだっつの!」
拳骨を落とされた。
「いってえな!なにしやがんだよ!?」
「うるせえ、お頭様を敬わねえからだよ!」
「敬えるか猪頭!」
「んだと、墨頭の分際で!!」
いつもの低レベルな喧嘩が始まる。
こんな、こんな楽しい日々が終わるわけがない。終わるわけがないんだ……。
「おーい、お頭に墨頭ァ。そんなに興奮すっと体に悪ぃぞォ!ただでさえそんな熱いモンに浸かってんだ、茹っちまってもしらねぇぜェ!」
岩場から顔を出した隻眼の仲間が呆れた様に叫ぶ。
「うっせぇ、片目!テメエが体にいいとか抜かすから入ってんだろうがっ。こちとらとっくにタマまで茹りそうだっつの!!」
「誰が源泉にそのまま浸かれっつったよォ!そっちに浸かるのは卵か饅頭だけだわァ!」
「ああ!?早く言えよコラ、マジで熱いんだぞココ!」
こんな拷問はもう終わりだと湯を蹴立てて立ち上がるお頭。
「ほれ、いくぞ墨」
差し伸べられた手を俺は迷わず掴んだ。
「おう、お頭」
なぜ開幕一番に風呂の話、それも追憶なのか・・・それは作者にもわからない(キリッ
でもお風呂っていいですよねー。
人類の発明した最高の文化が風呂だという論に心から賛同する作者であります。
夏場の風呂にはムカデという強敵がいますが、正直寝間に出られるよりは勝率高い。
そんなところを含めて風呂万歳です。
~予告~
微睡と小波に垣間見えたそれは遠き日の思い出。
それはエクセルがまだ人であった頃の、苦しくも大切な日々であった。
次回、時を駆ける神様




