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八章 第25話 過ぎゆく夏

 ドン


 練習場の床に布1枚広げて横になったエレナが引き金を引き絞る。そのたびに無骨な白い魔導銃は唸りをあげて火弾を吐き出す。今使ってるのは火の魔法が込められたロッドとかいうクリスタルで、発動される魔法もファイアーボールに近いものだ。厳密には違うんだろうと、速度や威力を見て思う。

 このロッドだっけ?自分で設計したって言うんだから、とんでもないわよね

 しかもアタシやティゼルと別れてから魔導銃の勉強を始めたと聞いた。そこからどうやったら自分でロッドを設計して工房に発注できるんだか。全く理解の外だ。天才だ天才だとは思っていたけど。


「うーん、魔力の効率が逆に悪くなってる気がするんだよね……」


 ドン


 ぼそぼそと自分に話しかけながら彼女はさらに撃つ。伏せたまま銃身を抱き込むような姿勢がしんどいのか、それとも硬い床が痛いのか、エレナはときどき居心地悪そうに身動ぎして見せる。そのたびに裾がずり上がっていって、後ろでソファに座るアタシからはそろそろ下着が見えそうだ。


 ドン


「連射間隔は8秒半に一回くらいかな」


 変換で余った魔力が熱として溜まるからか、一定の時間を空けて撃っているようだ。それでも意識を集中させて詠唱するより発動はずっと早い。威力は遠くの的が魔法抵抗の高い素材だからよくわからないけど。


「それが広まればアタシたち廃業ね」


 呆れを込めて横に振られるお尻に話しかける。


「アティネちゃん、そんなことないよ。鍛えれば魔法使いはもっと早く連射できるし、オーバーヒートはしないからね。理由はまあ、色々あるんだけど」


 言われてみれば魔導銃が余剰魔力でオーバーヒートするのに、何故か人間は魔法を連続行使しても大丈夫。不思議だ。


「例えば何があるのよ」


「むぅ……一番の理由は人の魔法がその人の魔力を使ってるから、かな」


 ドン


「もうちょっと詳しく」


「あー、ちょっと待ってね」


 適当な返事をしたエレナはごろんと寝返りを打つ。天上から降り注ぐ光魔法の照明に銃をかざして何かを弄り始めた。銃自体が連射に向いてないらしくて時々調整が必要になるのだと彼女は言った。


「よし」


 元通りに寝返りを打った彼女のスカートは遠心力でお尻の半分まで一気にまくれ上がった。淡いグリーンのシルク地で全体をすっぽり覆うタイプ。筋肉の下地がしっかりしていることをうかがわせる、張りのある形だった。

 無難な下着ね……。

 見える限りでは何のレースも施されていない、シンプルといえばいいのか子供っぽいと言えばいいのか分からない下着。飾り気がなさ過ぎていっそ子供っぽい印象すら受ける。


「魔法を使う時、基本的に人は自分の中の魔力を扱うんだよね。内在魔力とか呼び方は色々あるみたいだけど。で、空気中にも魔力があって、性質が違ってるの」


 頭の中に納まっている本をすらすら読み上げるように説明するエレナ。アタシはその説明を聞きながらじっと味気ないショーツと柔らかなお尻を眺めている。


「凄くざっくりいうと体内の魔力は魔法にしやすかったり、他人に奪われにくかったり、とにかく属人的なんだって」


 ゾクジンテキ……人に属しやすい、人に付随するってことよね。

 ショーツの端からわずかに零れる尻肉を見ながら脳裏では図を描く。魔法にはイメージが大切だと、散々アクセラからもこの尻娘からも聞いているからお手の物だ。


 ドン


「逆に自分のものじゃない魔力は扱いにくくて……魔法使いが連発してもオーバーヒートしないのは変換できなかった魔力を体で吸収できるからだと思うよ。あ、ロッドが灼けてきた」


 つまりそれは外の魔力を使えば使うほど、体内魔力を消費しないかわりにヒトがオーバーヒートするということで。なるほど、いくら魔力が空間やクリスタルから補充できても魔力切れの宿命から逃れられないわけだ。


「魔導銃には当然自分の魔力なんてないからね」


 銃の右側に付いている握り棒を立ててから後ろに引くとスリットから赤熱するクリスタルが外れる。取っ手ごとそれを石の床に転がしたエレナは脇に置いてあった別のロッドを差し込んで逆順にセットした。結構手慣れてる。


「なるほどね」


「練習次第で余剰魔力を自分の、消費魔力を外の魔力に指定できたりもするけど」


「ちょっと待ちなさい、今の話詳しく!」


 さらっと凄い事を言われて思わずソファから腰を浮かす。それが本当なら無限に魔法が使えるようになるのでは、と。お尻なんて眺めてる場合じゃない。


「あとでね。それと理論的には無限に魔法が使えるんだけど、実際は結構ロスするからちょっとした節約くらいに思っておいてね」


「なんだぁ……でも後で教えなさいよ」


「うん」


 ドン


 試射を始めてからずっと意識の半分以上を銃へと向けて生返事を返す彼女は、いよいよ御開帳になっているスカートを直す気配ゼロだ。

 そりゃこんなに曝してたらアクセラだって意識してても興が乗らないでしょうよ。


「見せ方考えないと価値が下がるわよ」


 肺の底からため息をついてやる。


「何の話?」


「何って……コレの話よ」


 うわの空で聞き返す親友の傍らまで歩いた私は屈みこんでぷりんとしたお尻へ指を突き立てた。


「ぎゃわ!?」


 ドン


 驚きのあまり上体が跳ね上がり握り込まれた銃が暴発する。氷の塊がどこかあらぬ方向へ射出された。


「な、なな、なにするの!?」


「エロい尻してるなと思って」


「わたしのことどう言う目で見てるの!?」


「アタシにそっちの気はないわよ」


 ガシャン!!


「「!」」


 顔を真っ赤にして怒るエレナとその反応に笑いが止まらないアタシ。2人そろってけたたましい音のした方へ目をやる。的のすぐ手前の石床に黒い魔導具が落下してひしゃげていた。時折痙攣するように光が零れる。どうやら暴発した弾は灯りの魔道具に当たっていたらしい。


「「あ……」」


 絶対に怒られるやつだ。アタシたちは仲良く顔を青くした。


 ~★~


「うぉおおおおおおおおおおおお!!」


 夜の木々の間へと轟くレイル=ベル=フォートリンの雄叫び。アクセラの張り巡らせたスキルのおかげで外には漏れないその叫びが鼓膜より先に胸の奥を振るわせる。

『騎士』ウォークライ

 逃げることが許されない騎士を奮い立たせる戦意高揚の技。つまり集団で魔物を狩るためのバフだ。それに応じて私も腹から声を出して吼える。


「はぁあああああ!!」


 両手で握り込んだ白陽剣ミスラ・マリナから聖なる太陽光が溢れだす。私とレイルの体を包んだそれは一種の鎧となってステータスと防御力を引き上げてくれる。その分シャレにならない魔力の消耗を強いられ、それもすぐに宝剣の力で回復していく。


「右からくるぞ!」


 裂帛の気合が乗った指示を受けて私は初手、受け止める構えを見せる。人工林の闇に潜む敵が狼のような速度でこちらへ飛び込んできた。思いのほか距離がある。咄嗟に受けを解いて迎撃に構えを変じる。

 跳びかかってくるタイミングで切り上げ、横へ抜ける!

 しかしそのイメージは切っ先の届くギリギリ外で直上へ跳ねた目標に崩される。

 上!?たしか、そう、後ろへ下がる!

 何度も頭を掴まれて地面に叩きつけられた。鼻の奥をツンとさせる記憶が私に正しい行動をさせる。視界や体勢を極力変えないよう数歩跳び下がって重心を前へ戻す。直後に私のいた場所へ四足の敵は着地、湿った土と枝が破裂して四方へ散った。


「せぁ!」


 両手両足の関節が衝撃を吸収する間の一瞬を突いて斬りかかる。


「罠だ!」


 横から跳び込んできたその言葉に、しかしもう体は止まらない。どうせ下がれないなら全力で斬り込む。躊躇っていては何もできない。


「ぁ」


 強烈な衝撃に肺の中の空気が絞り出され、体は私の躊躇いの有無に関係なく背後へ押しやられる。一時的に絞られる視界の縁では確かに小さな手が一対、私の鎧の胸を叩きつけていた。掌底の衝撃に呼吸が停止する。


「オラァ!」


 続く攻撃を受けずに済んだのはレイルが飛び込んで斬りかかってくれたからだ。彼は地面すれすれまで切り降ろした剣を筋力だけで反転させ、一歩下がった相手の顔面目がけて振り抜く。それを白い毛並みを棚引かせて敵はするりと逃れる。


「行けるか!?」


「ああ!」


 無理やり吸った空気が脳を動かしてくれる。構え直した赤髪の友人に並んで私も白い宝剣をたてる。ここまで来たら乱戦をどれだけ上手くこなせるかにかかってくる。幾度となく練習を重ねてきた私たちならきっと。


「ォオオオオオオオオオ!!!!」


 ぶつけられるのはレイルの発したウォークライが屋内犬の鳴き声に思えるほどの圧を伴った叫び。それでも私とレイルは硬直することなく走りだす。怯えてはダメだ。怯えれば死ぬ。獣を前に一歩踏み出す勇気こそか弱い人間を勝利に導くのだ。


「イチ!」


 打ち込むレイルの声に負けじと喉を振るわせる。


「ニィ!」


「サン!!」


「シィ!!」


 時間差をつけて掛け声と呼応し縦横に放たれる斬撃。彼の剣が切った空間を更に私が切り、つぎつぎに逃げ場を奪っていく。そのコンビネーションを前に敵は残った場所へと押し込まれるように逃れるしかない。


「シィ!!」


「ゴォ!!」


 二度折り返して25連撃に到達した瞬間、ふと違和感に襲われる。追い込んでいるはずなのにまったく相手には危機感がない。むしろ我々の背にこそ寒い物が走り始めているのだ。そう思ってしまうと切っ先をゆらりゆらりと逃げ回る尻尾や耳が誘い込んでいるように感じられた。

 また罠か!?


「シチ!!」


 心に猜疑が湧いたときだった。下がるばかりだった相手が一転、獣の瞬発力で前へと踏み込んだのだ。


「カバー!!」


「ああ!」


 短い指示に応えるも体は追い付かない。27撃目を担当した腕が戻り切らない。そこへレイルは突っ込んでくる相手を迎え撃たんと前へ出る。虚空で戻る私の剣と出る彼の剣が横並びになったとき、真横から大きく広げられた小さな手が叩きつけられる。


 ズガァン!!


 凄まじい音が轟いて私の手は痺れる。掌の感覚がホワイトアウトするなかでクリアな視界は、敵の爪先がミスラ・マリナの柄尻を蹴り飛ばすのを捉えた。宝剣はそのまま撃ち出されたように遠くの木の幹へ刺さる。レイルは剣をぎりぎり握り込んでいるがその分次の動きがとれない姿勢だ。


「まだッ」


「一人」


 痺れる左手を捨ておいて右の短剣を引き抜く。その間にもレイルが蹴り飛ばされて近くの大樹に叩きつけられた。太鼓でも打ったような音がして彼は動かなくなる。今度は彼が体勢を立て直しきれなかったのだ。

 刺し違えてでもっ!!

 切ることより刺し貫くことを重視した鋭角の短剣を引き抜いたままに振り下ろす。狙うは……どこだ!?


「二人」


 がぶり。

 熱く柔らかい感触と激痛が首を襲う。仕留めた得物の数を数えた敵は私の首筋に小さな口で噛みついたのだ。鉤爪のように突き立てられた指が私を地面に引き倒し、弱者の命を奪い取る。

 というところで敵はすっと離れて行った。


「ん、80点」


 端的すぎるその言葉。白い狼の毛皮を被ったアクセラに見降ろされ、今日の訓練が意外と悪くない結果だったと俺たちは知った。


 アクセラの聖魔法で傷を治してもらった我々が切株へ腰かけ反省会を開いたのは、対魔物戦闘の修業を終えてほんの数分後のこと。内出血や大きな切り傷を治してもらってもスタミナは戻らず筋肉痛もひどい。見た目以上に満身創痍のまま一際大きい切株を自分の椅子にした少女を見つめる。


「お疲れ様」


 獣に扮して散々私たちを蹴散らした彼女は肩で息をすることすらなく平然と言ってのける。頭から継ぎ接ぎの毛皮で作った白狼を被り、右手で尻尾をくるくる回している。まるでどこかの原住民のようだ。


「今回はあれだな、オレのミスが多かった気がするぜ」


「カバーまで意識が回らなかった私も拙かった」


 各々に反省を口にするとアクセラからも評価が入る。


「一番の問題は掛け声。注意が声に向きすぎ。相手の状況が把握できていない」


 たしかに。

 攻撃に腐心した私たちはお互いの立ち位置にこそ気を払っていても、次の動きに対応できるかどうかを考えていなかった。これまでに学んだ知識で言うなら、お互いの余裕を食いつぶしてしまっていた。それは慢心と少し似たところのある失敗だ。


「ネンスはネンスで、ネックガードの意味が分かった?」


「あ、ああ」


 色素の薄い唇を見てかっと頭に血が上る。あの口で今しがた喉を噛まれたのだから。これは数日前、私が鎧のネックガードに意味があるのかと聞いたためだ。対人戦ならまだしも、対魔物ではアクセラのように機動力を重視する方が正しいと思えたので聞いただけだったのだが、彼女はそれを見立ての甘さととったらしい。

 だからといって年頃の娘が男に唇を触れさせるか、普通……。


「今更だろ、ネンス」


 すっかり気安くなったレイルの言葉に私はまた頷くしかない。アクセラを前に普通などという言葉は何の抵抗力もないのだ。


「ところでアクセラ、あの深々と大樹に刺さったミスラ・マリナをどうするつもりだ」


 その後も80点とは一体?と思うほどの指摘を受けた私は、アクセラに遠くで刀身の半分近くを樹皮に埋めた宝剣を指さす。密度のある木に刺さった刃物を抜くのはとんでもない労力が伴うのだ。いくらなんでも私にあれを引き抜くことはできない。かといって資格のない私以外の者にはなおのこと無理だろう。あれは契約をしている王と王太子でもなければ扱えないくらい重く振る舞うのだ。


「……あの剣を抜いた者が次の王になる?」


「ちょっとまて、勝手に聖剣伝説にするな」


 世界で最初に魔獣の駆逐を成し、600年前に魔物の大氾濫で滅ぶまで大陸の8割を版図とした偉大なる古代国家、ディストハイム帝国。その建国者でもある最初の勇者。彼の物語はよくそのシーンから始まる。史実として、あるいは経典の一部として残る物語では旅を始めて随分経った頃に聖剣が出てくるので真実ではないのだろう。それでも一般に劇の題目や絵本としては多いパターンだ。


「自分で抜けない?」


「無理を言うな」


 素手で板に打ち込んだ釘を抜くのはとても難しいことだと誰もが知っている。その釘が巨大で重たい剣に、板が私の肩幅くらい直径のある樹木に代わったらどうだろうか。難易度は上がる。とてつもなく、上がる。


「つーか、よくあそこまで刺さったな。普通表面で弾かれねえ?」


「ミスラ・マリナの切れ味は凄まじいからな。うっかり取り落としたら石の床に突き立ったという逸話もあるぞ」


「さすが神器のレプリカだな……んで、アクセラ。どうやって外すつもりなんだよ」


 2人分の視線を向けられたアクセラは肩を竦める。彼女にしてみても、真面目に選べる選択肢はそう多くないのだろう。


「ひとつ、ネンスが抜けるようになるまでこのまま」


「それは困る。式典などでも使うのだ」


 年始の挨拶などで仰々しく展示されている装飾過多な白陽剣は国の威信を示すためのものであって、建国の時代から王家に伝わる本物のレプリカではない。本物が美しいもののシンプルな姿をしているので作られたハリボテだ。


「ダミーがあるのに?」


「あの白陽剣がレプリカではないというのは、四大貴族を含め知っている者は知っている事実なのだぞ。あそこで木に刺さっているアレが私の腰に収まっていなければ何事かと勘繰られるではないか」


 大派閥を取りまとめる貴族たちはいずれも王家に忠誠を誓ってくれているが、自ら不安がらせるような行動をしてはいけない。それに少数ながら腹に色々抱えている貴族とているのだ。


「ん……木を切り倒して取り出す」


 自分の頬が大きく引き攣るのを自覚する。見ればレイルも似たような表情だ。きっとその気になれば彼とて同じことができるのだろうが、それではするかと言われるとノーだろう。


「それだけのために学院の人工林の大木を切り倒して、その、大丈夫なのだろうか」


 一応聞いてはみる。


「校則では不必要な備品の破壊が禁止されている。でもこれは非常事態」


「非常事態にした奴が言うと盗人猛々しいってカンジだけどなぁ」


 まさにそのとおり。そして校則違反はできるだけしたくない。ここでは私も一介の生徒に過ぎないのだから。


「他に何かないのか」


「人を呼んでくる?」


「大勢で縄をかけて引っ張るとか、なんだか童話みたいで面白ぇな。でもそれヤバくねえ?」


 日が暮れて随分経った時間帯に男と女が山の奥深くで会っていた。貴族の学院としてはアウトな話だ。剣を引き抜いてほしいと頼むわけだから、懸念されるような変な噂もたたないとは思う。しかしそこはつい先日、かなり危険な噂話が流布されたばかり。


「そうでなくても真剣を用いた自主練は禁止されているしな」


「「え」」


 アクセラとレイルが声を揃え、私は頭痛を抑えるように頭を抱え込む。


「知らずにしていたのか!?」


「ん」


「オ、オレもだ」


 少し考えれば分かりそうなことだろうと怒鳴りたくなる。決闘は先生たちの監視のもと、ルールを厳格に決めて行われる。医者や聖魔法が使える神官の手配がしやすいように。同じようなリスクのある真剣での練習に制限がかかっていない方がおかしい。


「なら、バフをかけて三人で抜く?」


「それしかないだろうな」


「うぇ、もう疲れたぞオレ」


 ぼやきつつも真っ先に腰を浮かすレイルに私たちは苦笑を浮かべた。


「さっさと抜いて帰ろうぜ」


「そうだな。私もまだ仕事が残っていることだしな」


 夏の前と後ではすっかり公務の量が増えてしまった私だ。今まであえて意識はしてこなかったが、おそらく先立ってしまった我が騎士の言葉によるところが大きい。気負いがどこかに生まれたのだ。


「元気だなぁ、ネンスは。オレは寝るぞ。明後日には冒険者の仕事もあるしな」


 最近ではアクセラたちと同行せずとも簡単な依頼を他の冒険者と受けているらしいレイル。素直で現場主義的な彼の性格は幼少期から古参の騎士に人気だったと聞くが、冒険者にも好ましく映るようで臨時パーティを組み仕事をしているとか。


「私も早く帰って風呂上りのアイス食べたい」


 私たち以外にも色々と鍛錬の相手をしたり自主練をしたりと忙しいアクセラ。さすがにここからもう一練習とはいかないようで、いつも何かしらおやつタイムを挟んで寝るらしい。一瞬だけ脳裏をかすめた浴槽の想像はなかったことにしておく。


「氷菓子か、贅沢だな」


 アイスクリーム、シャーベット、グラニテ。硝石を使ってかき混ぜるのでも魔法を使うのでも高くつくのがこれらの氷菓だ。王子とはいえここでは一学生にすぎない私からすると羨ましい限りだった。


「ん、最高」


 どこか勝ち誇ったように言われると何か意趣返しでもしてやりたくなる。そんな心の狭い思いに、しかしこれだけ暑いのだから仕方あるまいと私は思考を投げた。

 学院の規則以上に身分を問わず平等に接してくれるのは夏の気温と湿度だな。


「ん、まあ、エレナを釣れる何かを用意して。振る舞ってくれるから」


「友達価格では駄目か?」


 ミスラ・マリナの柄に手を伸ばしながら冗談めかして言うが、アクセラは立ち止まって首を傾げて見せた。


「エレナとネンス、友達だっけ?」


「……」


 言われてみると違うのか。

 改めて己の交友関係の狭さに驚かされる夏休みの夜であった。


八章が終わりましたね。ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

重たーい七章のあと、息抜きと成長とサービスの八章でした。楽しんでいただけましたでしょうか?

この章を皮切りに子供たちが少しずつ大人になってくれればうれしいですね。


とかいいつつ九章からまた結構大きなイベントがやってきます。

そう、遠征企画こと野外訓練です!まあ野外だけじゃないんですが。

少年少女を取り巻く環境の変化、新しい仲間と新し局面、降りかかる過去最悪の災い。

エレナやレイルたちは、ネンス、アレニカ、ヴィア先生といった学院メンバーは、どう切り抜けるのか。

二章構成になる予定ですが、是非是非お楽しみに^^


前回も告知しましたが、下記の日程で1か月のお休みを頂きます。

ゴリゴリ書くのでちょっとだけお待ちいただければと^^


8月15日(土)八章 第25話

~お休み~

9月19日(土)間章1 異界の迷子1

9月20日(日)間章2 異界の迷子2

9月21日(月)間章3 異界の迷子3

9月22日(火)間章4 異界の迷子4

9月23日(水)間章5 異界の迷子5(新規イラスト付き!!)

~通常連載開始~

9月26日(土)九章 第一話


※挿話の内容が決まりましたので正確な日程とタイトルを加えました!


~予告~

学院に戻ったアクセラたちは思い知る。

事件の爪痕の深さと、少女たちの残酷さを。

次回、傷だらけの日常

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― 新着の感想 ―
[一言] 技術的にむずいんだろうけどガトリング砲みたいなのならもっと連射できたりして
[良い点] 作者さん、最近の更新もお疲れ様です! 第8章の無事完結、おめでとうございます! 魔導銃はちょっとロマン的な武器ですね!自身の魔法と魔導銃を交替に同時使用したら凄く強いかつカッコ良いかも! …
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