八章 第21話 王家の夏休み
フラメル川の源泉、ファールッツ湖の西側にある天領。王族の避暑地として確保されたその小さな領地に今、私たち王家の者は来ていた。顔ぶれは国王である父、私、妹3人と弟1人。珍しい事に今年は大半のメンバーが揃っている。
「たまには家族全員で羽を伸ばすのもよい。そうは思わぬか、ネンスよ」
口調は普段の威厳あるそれだがまったく威圧感を伴わない言葉。気楽な様子でそれを口にしたのはラトナビュラ=サファイア=ユーレントハイム、現ユーレントハイム国王だ。戦士の現役を退いて長いというのに鍛え上げられた筋肉と、年齢に応じて突き出した腹が上手く組み合わさって実に王者らしいどっしりとした風格を出している。ただ服装の方は膝丈の下衣に派手な柄のシャツを第二ボタンまであけて、これ以上なく台無しにしている。
「は、はぁ」
似たような恰好をさせられた私はただ曖昧な返事を返すしかない。
「そう硬くなるでない。ここ数年は控えておったが、お前がまだ小さい頃はよく連れ立って来たものだ。この別荘でくらい地位を脇に置いて父と子として過ごそうではないか?」
「そういえば、そうでしたね」
記憶はさすがにあやふやだが、その時は母がいたのを覚えている。浅瀬で母と侍女に支えられて泳ぎというのも恥ずかしい、水面でもがくと水鳥のようなバタつきをしていた。
「はっはっは、そのようなこともあったな。唇が紫になるまで自ら出ようとせず、侍女の方が顔色を悪くしておったわ」
そうだったろうか。だとしたら申し訳ない事をしたものだ。
「まあ、ゆるりとせよ、ゆるりと」
父は広々としたテラスに立つパラソルの下、白いキャンバス布を張ったデッキチェアへと腰かける。「よっこらせ」と一声かけて背もたれに体を沈める姿は、やはり国王のものではない。それでもその腕がローテーブルを避けて隣のチェアをパンパンと叩いたとき、私は自然とそこへ腰を落ち着けた。直前まで日に晒されていたようでたっぷりと熱を蓄えている。
「思ったより熱いですね」
「南方の醍醐味よのう」
にやりと笑って腕を組む父。つられて私も正面を改めて見る。大理石の手摺越しに見える広い湖。波が砂浜を削る音。全てが水を纏い、太陽を照り返して輝いていた。
「美しいであろう」
「はい、父上」
「夕日の頃になればまた違った美しさがあるのだ。道中もランカとセイランが見たがっておったわ、後で連れ出してやると良い」
ランカとセイランは3歳下の双子の姉妹だ。他に1つ下の妹ルフナ、5つ下の弟ジョルジ、母と王都に留まる1歳のグレイ。まだ10を迎えていない弟は男性扱いされていないので、4人揃ってビーチに遊びに行くことだろう。私と父は家族と言えど年頃の娘と水着でうろつくわけにはいかない。
「今日は護衛も側仕えも最低限にしてあるのでな、お前も肩の力を抜いておればよいのだ。妹たちほど自由気ままになれとは言わぬがな」
それは例え王命でも無理なことだ。特にお調子者でお転婆な双子ときたら、家庭教師が時折発狂したような叫びを上げて追いかけまわしているのだから。ただ護衛を遠ざけていると言ってももちろん別荘の周囲はがちがちに固めてあるはず。そうとなれば多少、肩の荷を下ろしてもいいのかもしれない。
「それもそうですね……お言葉に甘えて」
ローテーブルから南国らしい黄色のジュースを取って飲む。贅沢に氷が入っていて冷たいが、元がかなり甘いようで水っぽさは微塵もない。王都ではなかなか味わったことのないものだ。
「ところで学院はどうだ。問題なく過ごせているか」
しばし無言で景色を楽しんだ後、父は突然そんなことを尋ねてきた。
「全てが意のままにとは行きませんが、それがむしろ楽しいくらいです。友達には恵まれましたしね、父上と同じように」
「余と同じようにか。それはなかなか苦労しそうであるな」
最初はそう多くなかった。まったく王子扱いする気のないアクセラとそれに腹を立てるマレシス。そのドタバタを通じて戦闘学を受けるクラスメイトと仲が深まり、レイルのようにただの友人として扱ってくれる者が増えていった。こうして半年を過ごして分かったが、学院の掲げる身分を考慮しない方針というのは、貴族からも一歩引いて見られてしまう王族にとって救いでもあるのだ。
「だが、よかった。騎士シーメンスのことで酷く気落ちしていると聞いていたのだが、これなら大丈夫そうであるな」
はっとして父を見る。一国を背負う王ではない、家族を想う親の微笑みを浮かべていた。
そうか、父上は私のために一同で旅行に行こうと言ってくれたのか……。
「何だ、驚いたような顔をして。確かに忙しい身ではあるが、これでも6児の父であるぞ。人並み以上には心配もしているのだ」
「あ、ありがとうございます」
なんとも気恥ずかしい気分がこみあげてきて視線を前へ戻す。言葉も普段以上に硬くなる。それでも折角なので自分の今を知ってもらおう。そう思って言葉を紡いだ。
「マレシスの事は、実を言うと数日に一度ほど夢に見てしまいます。あの時、私がもっと白陽剣を上手く扱えていれば違った結果があったのではないかと」
少なくともアクセラに置いて行かれることはなかったはずだ。最後の瞬間に立ち会えたかもしれない。あるいは助けられないまでも、私自らが引導を渡すこともできたかもしれない。そう思い始めれば自然と奥歯に力が入ってしまう。
しかし、今はそんなことを思っている場合ではない。悲嘆も悔恨も、いずれ一線を退くときまで取っておかなければいけないのだ。
「王になれと言われました」
「王になれ、か」
「はい」
最後の最後、マレシスがアクセラに託した想いを私は受け取ったのだ。そうである以上、前へ進む以外の道がどこにあるだろうか。
「マレシスからは多くを貰いました。返す前にあの者は逝ってしまったけれど、せめて報いてやらねば男が廃ります」
未練を言えばきりがない。この旅路でも相変わらず私は紅茶を飲めないでいるし、アクセラに課された鍛錬を2割増しで行って筋を傷めたりもしている。それでも歩みを止めないことだけは、貫き通さなければ。
「その意気やよし!だがお前は気負いすぎだ」
腹に響く大声に続くのは穏やかに諫める言葉だ。
「ロイヤルファミリーと言えどもファミリー、家族にくらい気を許さねば潰れてしまうぞ」
それはそうかもしれない。私はどうにも物事を硬く考えすぎるきらいがあるとは、アクセラにも言われた気がする。この旅行が私のためを思ってのことなら今くらい羽を伸ばさなければいけないかもしれない。
「それと無理無茶無謀は勇気でないということを、肝に銘じるのだ」
一転して厳しい口調となった父に私は申し訳なく思いつつ頷くことしかできない。思い当たる節がまさにこの休みに入った頃にある。
「本当に、まったく、バハルの奴め」
宰相を務めるリデンジャー公爵バハル。忌々し気にその名前を吐き捨てる父だが、別に王と宰相の仲が悪いということではない。むしろ忌憚なく意見を交わせる間柄だからこそというべきか。
「北方貴族の不穏な動向、探るいい機会ではありませんか」
「その通りだ。その通りだから承認したのだ。だが余は納得しきってはおらぬからな」
今回、リデンジャー公爵と私が共同で王へ奏上し許可を受けた作戦。それは来たる遠征企画において、私自身をおとりにちょっとした釣りを嗜むというものだ。
「北方の小領を治める貴族たちとティロン王国の貴族が懇意にしているのは、あまり良い状況とは思えません」
ユーレントハイムの北側に位置するティロン王国は貴族が強い権限を持っている国だ。権力的にも軍事的にも王家はお飾り程度で、野心に溢れた上級貴族と入れ替わりの激しい下級貴族の軋轢を処理しきれていない。そのようにあまり好ましくない隣人であるところの彼らが、ここ数年やたらと北方貴族とやり取りをしている。それもトライラント家や薄暮騎士団、その他の暗部を伝って聞こえてくる上であり北方貴族自身はコトを秘密にしているつもりなのだ。
「もともと北方の領地はいずれも小さく貧しい。そのために補助金も出しているが、やはり豊かな土地を治める夢は諦めがたいのかもしれんな。先祖代々の思う所もあるであろうし」
この国は全土を見渡してあまり過酷な土地がなく、押しなべて火種の少ない方だと言える。手前味噌だが王家も善政を敷いてきたという自負さえある。それでも皆無ではない。南方の方がより豊かであれば、北方は実態以上に惨めだと感じるだろう。そこへ来て誰かが燃料をくべているとなれば、対応せざるを得まい。
「ティロン王国の援助で力をつけたところで、それは何の意味もないことだと理解……できぬのだろうな」
「だからこその釣りです」
北方貴族には他にも問題がある。社交的ではない風土のためか、あるいは連帯感を生み出すことで惨めさを消すためか、彼らは何世代にもわたって狭い婚姻を繰り返してきた。濃くなり過ぎた血は毒となり、内向的になった貴族は害をもたらす。新しい風を吹かせなければいけない時期がきているのだとは、御前会議にてザムロ公爵が振るった熱弁の主旨だった。
「不穏な動きをしておる北方貴族の鼻先に第一王子が、少ない護衛で放り出される。まともな貴族であれば罠だと感じるであろうが、どう動くと思う?」
「まともな貴族なら、そうでしょう。なので食いつく輩はまともでない者です。直接的に問題のある貴族が釣れて、血縁を理由に他の北方貴族にも王家の手を入れる。私に箔もついて将来は安泰というわけです」
「いけしゃあしゃあと言いよる。だがそれでかかる貴族がおらねばどうなる?余が心労を覚えるだけ損ではないか」
「まだ北の状況はそこまで悪化していないと、今後数年の安寧が得られましょう。トワリ家の再興も猶予が生まれます」
そこまで答えると父は大きなため息をついて飲み物を大きく呷った。もう何度もこのやり取りをしているが私はプランを変更するつもりがない。近衛騎士の側付きが居なくなり、新たな警備態勢に切り替わった直後。多くの者が意識を悪魔や悪神という大きな災いに向けていて足元がおろそかになりやすい時世。遠征企画という私が一番危険にさらされるイベント。そしてその行先が北方のトワリ侯爵領。これだけの条件が揃うことはそうないのだから。
「心配されますな、父上。仰る通り罠にかかる愚か者はそういますまい。それにトワリ侯爵の領軍は弱兵ですが、さすがに自領で木っ端貴族に裏をかかれるほどではないと思います。あれで元は国境の守りですから」
トワリ侯爵は建国の時代から続く大貴族だが、近年目に見えて衰退している。当主が国の催しに現れなくなり、領地同士の関わり合いすら絶え始めているのだ。跡取りもおらず、このままでは広大な領地がいつか宙ぶらりんになってしまう。北において極めて重要な領地がだ。
「トワリ侯爵が敵側に付く可能性はどうであろうか。ないと言えるか?」
「ないでしょう。侯爵の領地に王国と敵対するだけの貯蓄も兵力もありません。仮にティロン王国から援助があったとして、それだけでどうにかなる規模の援助を見過ごすほどユーレントハイムの国境警備はざるではありません」
特殊な武器などや薬物は究極的にスキルのある人間がいれば作れる。しかし物資とは作るのに時間と資材がかかり、加えてかさ張るものだ。ティロンからそれだけの物資を持ち込めばどうやっても目に留まる。
トワリ侯爵を引き込むメリットは北方貴族に圧をかけること。これに勇み足となれば返り討ちにして口出しの口実とし、静観するなら蜂起しにくい環境を整える。また引き込めなかった場合も大きな問題にはならない。次の方策を練るだけだ。
攻めるには足りず、警備だけなら十全に機能する程度の兵力……侯爵家として情けなさすら感じるが。
この作戦がどちらに転んでも大した痛手にはならないが、それでも後々の後継問題だけ見ても成功させたい気持ちは大きい。いずれにせよできるだけ無防備な瞬間をうまく使わなければいけない。
「ふむ、問題なく状況を理解しておるようでなによりだ。あとは護衛であるな」
やけに心配性な質問ばかりされると思えば、父なりに私の準備を確かめていたらしい。
「護衛についてはアクセラがいます」
「使徒は確かに恐ろしいほど強い。だが過信してはならぬぞ」
「私は彼女が使徒だから信頼しているわけではありませんよ、父上」
確かに使徒だと聞いて以前より強さに対する信頼を置けるようになったが、それは単純に見てきたモノに対して裏付けがされたことによる安堵だ。アクセラの鮮烈な戦闘はマレシスとの決闘やダンジョンでの戦闘で思い知らされている。
「であればなおの事、気を付けねばならぬぞ」
しかし父は心配が尽きないようで。
「よいか、ネンス」
重々しい口調で父は言う。それは戦士としての経験からもたらされる言葉だと、未熟ながら同じ道へ足を踏み入れた私の中のナニカが察する。同時に父の心配がアクセラを知らないために沸き起こるものでないことにも気づく。
「あれは狂花だ」
「狂花?」
「美しく可憐に見えるかもしれぬが、あれの本質はもっと狂ったところにある」
狂った花。なんとなく否定的な言葉に不快感が芽を出すが、同時にアクセラと相性の良い言葉でもあると感じる。白い髪と紫の瞳はまるで夜にだけ咲く希少な花のようだが、彼女は刀を振るって戦う戦士でもある。それも飛び切りに強い戦士だ。
「何を考えているのか分かるぞ、ネンスよ。だが強さの問題だけではないのだ。そうだな……では、お前は何のために戦う」
問いかけてから父はグラスを干す。
「民を守るため、国を守るため、そして偉大な王として名を残すためです」
「……即答か」
すぐに答えが来るとは思っていなかったのか、彼が飲み物を嚥下して短く応えるまでに少しの時間がかかった。
「それこそアクセラに転がされながら何度も言われましたので」
「ふむ。それを問うということは余の思う程狂ってはおらぬのか?いや、冷静で温厚であろうとも芯の性根がそうとは限らぬな」
顎に手を当て考えながらこぼれる呟きはかなり失礼な物になってきている。さすがに友人をそこまで言われると私でも気分がよろしくない。
「父上、流石にお言葉がすぎるかと」
「戦いが好きで好きで堪らない、そういう壊れた人間が時折いるのだ」
苦言への返答は上手く会話の噛み合っていないものだった。
「身を滅ぼしてでも、何を犠牲にしてでも、戦いという行いを骨の髄まで貪らずにはいられない厄介な病を抱えた者がいるのだよ」
「アクセラがそれであると?」
「余はそう見立てておる。そも、彼女が仕えるエクセルという神からして人だった頃は随分な荒武者だったようであるしな」
エクセル=ジン=ミヤマ、150年ほど前にアピスハイム王国で奴隷の子として生まれた男。その後数奇な運命を幾度も経て彼は技術という思想を打ち立て、奴隷やブランクを大勢率いて不毛の土地であった大砂漠に都市国家を産み落とす。多くの戦争を潜り抜けて超越者の筆頭格まで上り詰めた英傑は死して神へ列せられた。最も新しい神にして、まったく新しい神。
たしかに彼の神は奴隷を救うために奴隷商会を焼き討ちし、ブランクの力を示すように強敵を屠り続けたという。その最たる例が当時のロンドハイム帝国が仕掛けた戦争。人類史上最も多くの超越者が1つの戦場に集い、そして最も多くの超越者が死んだと言われている。その最中で2人も手にかけたエクセルはガイラテイン聖王国の聖王が直接厳しく咎めたとも伝えられる。
「それでも、アクセラが全てを擲って戦いに堕ちて行くとは思えません」
「あの者なりに後ろ髪を引かれる思いや者がいるのだろう。家のことについては随分真剣だったように見受けられた」
だが、と続ける在位20年あまりの国王。
「本質が狂い咲く刃の花であることは見誤るでないぞ」
真っ赤に染まる鋭い鋼の花。そのイメージは否定したい私の思いを超えて胸の中へすっと納まった。そのことが私は嫌で嫌で堪らなかったが、アクセラの淡い微笑みよりも狂喜を湛えた満面の笑みが思い浮かんで切ない気分になるだけだった。
「気を付けておきます」
今、私に言えることはそれだけだった。
~★~
「お兄様、お兄様!」
「素敵な水着よ、見て見て!」
沈黙が明けて色々と日々の執務にも関係のある雑談を父としているところへ、まったく同じ黄色い声を二つ重ねながら走り込んでくる人影。王家の証であるアッシュブロンドを長い三つ編みにして、まるで小動物の尻尾のようにそれを跳ねさせている。
「ランカ様、セイラン様!」
後ろから慌てた侍女が数名追いかけてくるが二人はまったく意に介さず、肩から被ったバスタオルを前で会わせながらキャッキャと走り回る。これで11歳なのだから、少し兄としては頭が痛い。心に引っかかったイメージから視線を逸らせる点は素直に感謝したかったが。
「淑女が水着姿を殿方にお見せしてはいけません!」
「陛下と殿下のご歓談を遮るのもおやめください!」
「あら、いいじゃない。お兄様はお兄様よ、殿方じゃないわ」
「そうよそうよ、それに私たちだって殿下だわ。ゴカンダンに混じってもいいでしょう?」
こんな調子でああ言えばこう言うを繰り返すのがこの双子の常だ。道理が通っているかどうか以前に、その勢いと手数で侍女が撒かれてしまうのだから馬鹿にならない技能かもしれないが。
「またそんなことを仰って!」
「ランカ様、セイラン様、お二人ともいい加減に……」
「そうだわ、わたしたちの区別がついているなら言うことを聞いて上げるわ」
「それがいいわ。ランカとセイラン、どちらがどちらか分かっているなら聞いて上げる」
「いつもセットで呼んでおけば間違えないと思って油断しているんじゃなくて?」
「しているんだわ、わたし達がいつも一緒にいるからって」
「さあ、当ててごらんなさいよ。あ、もちろん聞いてあげるのは今日だけよ」
「そうよ、当たり前よ。でも一日は聞いてあげるわ」
全く同じ形をしたイエロートパーズ色の目を悪戯心で満たして二人はくるくると場所を入れ替わる。姿形は完全に一致した双子を見分けるのは非常に難しい。特に生活習慣や成長の過程で差異が出る前の子供となればいよいよ。侍女も困惑しながら妹たちを交互に見つめ、恐る恐る右に立つ一人に向かって「セイラン様……でしょうか」と聞く。
「ざーんねん!わたしはランカよ、セイランじゃないわ」
「セイランはわたしよ、残念だったわね」
ケラケラと笑いながら二人はもう数回踊ってから私の前へとやって来る。
「お兄様、見て見て!この水着とても素敵なのよ」
「そう、素敵なの。見てよ、お兄様!」
並んでタオルを広げ、着こんでいる水着を見せる双子。体にぴったりと張り付くワンピースタイプのベースにドレスのようなフリルがスカートを作っている。肩から胸元にもギャザーが入ってスッキリとした体形を出しつつも品よく纏まっていた。色は白に黄色や水色が入っていて夏の日差しに映える。
「確かに綺麗な水着だな、ランカにセイラン。でも嘘はよろしくない」
「「!!」」
フリルの動きを見せつけるように体を左右へ揺すっていた少女たちが停止する。
「先ほど侍女が話しかけた方がセイラン、セイランだと名乗った方がランカだろう」
「ど、どうしてそう思うの?」
「そ、そうよ。してないわ、ズルなんて」
「見分け方まで教えてしまっていいのかい?」
ニヤリと笑ってやれば彼女たちも私がしっかり区別がついていることを理解し青ざめる。それは私に双子トリックが効かないからでも、侍女の言うことを今日一日聞かなければいけないからでもない。父である国王が嘘を許さない性格だからだ。
「ランカ、セイラン」
「「はひっ」」
重々しい声に双子の肩が大きく跳ねる。
「余も見ていたぞ、そなたらが嘘を吐くところ」
「「み、見分けがつくの!?」」
思わずと言った様子で問い返す双子だが、それは父にとって禁句だ。確かに我らが父上は政務が忙しくあまり子供と過ごせていない。しかしその中でも彼なりに私たちを愛しているので、それが伝わっていないように振る舞うのは家族のご法度なのだ。
「つかいでか!余はそなたらの父であるぞ!!」
案の定、烈火の如く怒った父はデッキチェアから跳び起きて逃げようとした双子を片腕に一人ずつ抱え上げてしまった。
「あ、待って待って!父さまは、その、殿方だから!」
「そうよ、ダメなのよ!殿方の前で水着が見えるのは!」
あわあわとしても全ては後の祭り。太ってきたとはいえ今でも近衛騎士と鍛錬を重ねている父の腕力から少女たちは逃れられない。
「兄であるネンスが殿方でなくて父である余が殿方である道理もないわ!」
「「きゃー!」」
どこか悲鳴が楽しそうなのはこうしてじゃれ合うのが彼女たちにとって親を独占できる瞬間だからかもしれない。もちろん彼の王はそのことを理解しているのだろう。ただ嘘を許さない姿勢は崩れないようで。
「どれ、久しぶりに親らしく尻でも叩いてくれるか」
「「や、やめてぇー!!」」
今度こそ必死の悲鳴が上がった。
次回、絵師のぽいぽいプリンさんに依頼して描いていただいた絵を掲載します!
超絶可愛いので見てね!!
~予告~
待ち受ける虎、レグムント侯爵。
牙持つ兎アクセラは何を証とするのか。
次回、虎と兎の会談




