八章 第15話 燃える斧
「もう一人には逃れられてしまいましたか」
「副頭目に怒られてしまいます」
感情を持たないかのように淡々とお互いに言葉を向ける双子の魔法使い。彼らは一対と思しき赤と青の金属製の大杖を構える。ステッキを大きくしたような不思議な形状と中途半端な長さの杖だ。
「珍しい杖だね」
「貴方の室内杖ほどではありません」
「室内杖であるかすら判然としませんが」
「しかし分かる必要もないでしょう」
「ええ、ないですね。我々は貴方たちの手足を折って連れ去るだけが仕事ですから」
淡々としてるなぁ。
ちょっと気持ち悪さを感じるほどの反応だ。
「燃えよ、赤き炎よ、熱き物よ。燃えて走りて……切り裂け。風の理は我が手に依らん」
「そよぎ、断ち、舞え。渡る物よ。色無き刃で……大きく爆ぜよ。火の理は我が手に依らん」
火魔法初級・ファイアボム
風魔法中級・ウィンドブレード
「!」
濃い赤の火球と無色の風刃が同時に2つずつ放たれる。
「聳えよ、柔き水よ!切り裂け、風よ!」
杖の一振りで作りだしたウォーターウォールにファイアボムが連続して着弾し破裂する。多目の魔力で組み上げた水壁は文字通り爆発的な水蒸気を向こうへ発するが、こっちには飛沫が少し散る程度。その壁をゼリーのように切り裂いたのはわたし自身のウィンドブレード。双子のウィンドブレードと不可視の刃同士が切り結び、破裂音とともに両者霧消する。
「短縮詠唱ですか。しかも威力が高い」
「これはなんとも珍しいですね」
珍しいって言うなら、2人で詠唱を分割して2人分放ってくるそっちのスキルの方がよっぽどだと思うけど。一つの詠唱で2発魔法が出せるのなら実質短詠唱みたいなものじゃない?
「火よ!水よ!」
「「阻め」」
小手調べと放った二種類のボール系魔法。どちらも着弾する前になにかに当たったように弾けて消えた。その反応が少し気になったので連続で弱い魔法を発動させ、手数の応酬に繋げる。一人が防ぎもう一人が魔法を撃つスタイルに切り替えた双子は、普通の魔法使い程度の弾幕しか張れない。そのかわり鉄壁の防御がこっちの魔法を受けて薄っすら空間の揺らぎを見せる。魔法で薄い膜を作ってるのかな。
「詠唱時間の短さ、厄介ですね」
「それならこちらも本気を出しましょう」
淡々と、だからこそどこか間延びした空気すら感じさせつつ語り合う双子に、わたしも内心で同意する。単発の魔法を撃ちあっている間にブラックエッジの暖機が終わった。ここからは本気で行かせてもらう。
「「『詠唱貯蔵』解放、制限をレベル2へ変更」」
聞いたことのないスキル名と文言。それを口にした途端、双子の纏う空気が変わった。それぞれが二色の魔力を全身に纏い、杖から別の魔力が体へ流れ込んでいく。それはどこか頭目と呼ばれていた斧使いと似た現象だ。ただあそこまで濃密な魔力じゃない。
「手足くらいは無くなってもいいよな!なあ!」
「あはっ、副頭目も許してくれるわぁ。きっとそうよ」
口調までガラリと変化した双子は完全にシンクロした動作で杖を構える。
「「ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール」」
「!?」
魔法の名前を連呼しだしたとたん、詠唱を行ったかのように火球が生成されて発射されだした。一息で6発。咄嗟のことに横へ飛び込む。背後で熱の爆発が広がり、逃れたわたしは弧を描くように走りだす。
「「ファイアボール、ファイアボム、ウィンドブレード、ウィンドブレード、ファイアボム、ウォーターボム、ウォーターボム、ウィンドブレード、ファイアボール、ファイアボール、ウィンドボム、ファイアボム、ウォーターボム、ウィンドブレード、ファイアボール、ウィンドブレード、ウィンドブレード、ファイアボム、ウォーターボム、ウィンドブレード、ファイアボール、ウィンドブレード、ウォーターボム、ファイアボム、ウィンドブレード、ウィンドブレード、ファイアボム、ウォーターボム、」」
ひたすら連呼される対の魔法。間断なく降り注ぐ速度重視の攻撃の数々。目の前で弾ける紅蓮に水壁を張り、迫る風刃を風刃で撃ち払い、追いすがる水球を土魔法で受け止める。キュリオシティとブラックエッジを距離と属性で使い分けつつ、魔力糸もフル稼働させて雨あられの攻撃の中を走る。時折取り回しに優れるブラックエッジから反撃を撃ちこむも、その全ては双子の「阻め」という言葉に打ち消される。
「降参したらぁ?捕獲って言われてるし、怪我くらいで済ませてあげるわよ?」
「怪我の程度もその後の扱いも保証しないけどなあ!」
攻め手の間に双子は口々に言う。あれで降伏勧告をしてるつもりなら頭のネジが取れてるとしか思えない。あるいは一見、わたしが完封されてるように見えるから調子付いてるのか。
でも、もう見切った。
決り手に欠ける猛攻は、防いでいる間中わたしにチャンスをくれた。この魔眼には彼らが魔法を放つ時の魔力の流れが全て見えるから。それに視線とタイミングもしっかり観察した。法則性やできること、できないこと。大体分かった。
「火の原理は我が手に依らん」
そっと唱えてブラックエッジに魔法を流し込む。発動ギリギリの状態で留めるイメージを付与したので、見た目には何も変化はない。それから両方の杖で体に強化魔法をかける。筋力や速度を底上げする、接近職御用達の火属性を中心に。
あとはタイミングを……
「ファイアボール、ファイアボール、ファイアボム」
来た!
「聳えよ、水よ!」
待ちの姿勢に入ろうとしたときだった。火魔法が3回連続したことに勝機を見出したわたしは、これまで以上に分厚いウォーターウォールを張る。半透明の壁に火球と爆弾が激突し、膨れ上がる熱に従って水壁が一気に気化。真っ白な蒸気が吹きあがる。
ここまでは同じだけど。
「氷よ」
小声で氷魔法を発動させ水蒸気を急冷する。風にのって室内に微量混じってた煤や塵を核に、冷えた蒸気は雲へと変じる。もくもくとまるで個体のような密度と存在感で広がった白雲は、ちょっとやそっとの事で散って消えはしない。
「目くらましだと?舐めてんのか」
「子供だましなんてシラケちゃうわぁ……やっぱ手足もいじゃいましょっか?」
双子から完全にわたしを隠しきった白く厚い壁。その中を走りながら魔法を、ウォーターボールを撃ち出す。
「馬鹿だなあ!位置が丸わかりじゃないか!」
「ウィンドブレード、ウィンドブレード、ウィンドブレード」
雲の端からいい加減な狙いで飛び出してきた魔法に嘲笑を浮かべる男。早口の魔法でわたしの命を狩り取ろうとする女。色のない刃が音を立てて水球を切断、雲を切り裂き、そのまま誰もいない床に深々と傷をつけた。
「あ……?」
「どうしてぇ……?」
目を瞠る双子。それは魔法糸による陽動の攻撃だ。本当のわたしは雲の中心を突き抜ける。魔法の発動地点から大きく離れた、雲のど真ん中から。
「「!?」」
ほんの一拍の空白が彼らの思考を支配する。その致命的な隙を強化された脚力で駆ける。手に大杖はなく、ブラックエッジの黒々とした刃だけが頼りだ。
「ちっ……ウィンドブレード!」
再び放たれる風の刃。おそらく全長1mはある極薄の飛刃を、わたしはブラックエッジで迎え撃つ。手首に強い衝撃が走る。しかし破裂音を響かせて消し飛んだのはウィンドブレードの方。それを成した黒い刃は今や目が覚めるような青い炎に彩られている。
「青だと!?」
「ロダ、ストックがまずいわぁ!」
双子はそれぞれ別の悲鳴を上げる。その間にも距離を詰めたわたしは腰を落とし、慌てて杖を掲げる男に肉迫。
「やぁ!!」
精一杯の気合と共にブラックエッジを一閃。鉄塊をバターのように切る青い刃物は赤金色の杖を半ばで切断する。やはり中に埋め込まれていたクリスタルが高温と魔力に焼かれて瞬く。
「危ない!」
ナイフを引き戻す力で杖を絡め取り、できるだけ遠くへ投げ捨てる。もう二度ほど瞬いた結晶体は独特の高音を奏で爆発する。ギリギリ間に合ったおかげでその衝撃は天井に大穴を開けるに留まる。
「ウォーター……」
「!」
息を吐く暇もなく追撃を加えようとする女魔法使い。咄嗟に無手となった男の背後に潜って射線を躱し、回り込んだところでブーツの底を使い速度を殺す。ブレーキのせいで下がった重心から一気に体を伸ばし、その勢いで青金色の杖に切りかかる。
「阻め……ぎゃ!?」
障壁を薄紙のように裂き、杖を守ろうとした女の腕を半ばまで切ってしまう。それでももうギクリと停止したりしない。流れるように振り下ろして腕を断ち切る。
「あぁああああ!!」
悲鳴を上げて動きが固まったところを狙い、今度こそ杖に青を突き立てる。金属とは違う、極端に硬い感触がクリスタルの存在を教えてくれる。ブラックエッジを抜き去ると同時に杖を奪い取って部屋の隅へ投げる。数度の瞬きと誘爆をやり過ごし、大きく一歩後ろへ後退。
「腕が、腕、腕、腕ェ!!」
「レダ!?」
灼けたナイフで切り落とされた腕の断面からは、肉が焦げる不快な臭いだけが溢れて血は一滴も漏れない。
「よくもレダの腕を!」
「痛い、痛い!殺してやる、このクソガキがぁ!!」
最初の印象が嘘のように感情全開で吼える双子。まるで束縛されていたものが解き放たれたような激しい反応に、彼らもまた何かしら手を加えられてるんだと察する。人肉を断つ感触よりその推測の方がよほど胸を締め付ける。
でも、もうレイルくんの方にいかないと。
「迸れ、唸れ、天なる力よ。我が声に応え来たれ、雷鳴よ」
「こ、これはぁっ!?」
「一体いくつ属性使えるのよ!?」
詠唱から魔法の種類を察した双子はわたしを睨み、「阻め」の言葉で防壁を展開する。
「雷の原理は我が手に依らん」
ゴロロロ……
室内にあってなお不穏な音はわたしの前方、彼らの後ろから轟いた。いまだに留まる目隠しの雲から。
オリジナル雷魔法・中級ライトニング・ホリゾンタル
「「ひっ」」
慌てて振り向こうとした彼らの視界に濃いグレーの雷雲が入るか入らないかのタイミング。耳をつんざく大音響と青白く枝を伸ばす見事な稲光がこちらめがけて迸った。
「「!!!!」」
真横に落ちた雷に頭長からつま先まで張り詰めて痙攣させ、双子は悲鳴すら上げられずに崩れ落ちた。死なない程度に抑えたものの、落雷の威力は凄まじい。体中から黒い煙をあげて時折手足を跳ねさせる姿はかなり痛ましかった。
「悪く思わないでね」
どういう改造を受けてるか不明な以上、体の機能を奪って無力化する以外に安全な倒し方がなかった。相当苦しいとは思うけど、これまで彼らが奪った命を思えば我慢してもらいたい。
「がぁ!?」
勝ちを意識する暇もなく状況が変わる。雲を散らして置き去りにしたキュリオシティを拾った直後、苦悶に歪んだ声が聞こえたのだ。
「レイルくん!」
わたしに配慮してか、隣の部屋まで敵を誘導してくれたレイルくんの方へ急ぐ。枠ごとごっそり破壊された扉を潜ると、そこに広がっていたのは激闘の痕跡。床や壁はところどころ穴が空いて、木製の机は木っ端微塵になり、書類があちこちでチロチロと燃え上がる。部屋の中心で向かい合う大男と少年はどちらも煤塗れになりながら武器を打ち合ってる。
「風よ!」
ウィンドボールを頭目に叩きつけて姿勢を狂わせ、レイルくんが下がる時間を稼ぐ。よろめいたあとの立て直しにもたつく大男。その脇を走り抜けてレイルくんに火と水の回復系魔法をかける。
「助かったぜ」
しんどそうに笑う彼はかなり酷い有様だった。卑金虫の頑丈な甲殻でできた盾は3割ほどが焼け崩れ、残った部分も原型がないほどボコボコに歪んでる。体を守る鎧も一部が砕けてしまって、頬と肌がむき出しになった脇腹は火傷で赤く腫れてる。
「結構頑張ってるつもりなんだけどな、あいつタフすぎだろ……」
ため息交じりに言うレイルくん。頭目に目を向けると、彼の言う通り奮闘の甲斐あって両腕に無数の傷が刻まれてる。特に無手の左腕は腱が切れたのかだらりと伸びて、極太の指も3本に減ってる。
「す、すごいね」
「へっ、まあな。騎士の中でも俺たちフォートリンは魔物狩りが得意なんだ」
言われてみれば、彼のお父さんは鬼首と呼ばれる大型魔物討伐の功労者。家柄として得意不得意が騎士にもあるとは、意識したことがなかったが当然なのか。ただ彼の言葉を信じるなら、目の前の頭目はもう人より魔物に近い異形ということになる。
あれ?でもたしかに、最初に見た時より圧迫感が増してるような……。
わたしの表情を見てレイルくんはニヤリと笑う。それはもう笑うしかないとでもいうべき、投げやりな笑みだった。
「気づいちまったか。おう、あいつデカくなってる」
「本当に人間?」
「さあな、たぶんもう違うんじゃねえか?」
曰く、戦ってる最中に何度か全身から血を吹きだすことがあった。そのときに筋肉や骨格が歪むような異音がして、終わると体が一段階膨れ上がっていたらしい。
「さっさと仕留めないとヤバイ気がするんだよな、なんとなく」
「じゃあ急いで倒そう」
いつもアクセラちゃんが言ってた。レイルくんの戦闘に対するセンスと嗅覚はずば抜けて優れてると。彼が理屈抜きで危険だと感じたならそれは本当に危険なモノの可能性が高い。
「魔力はどれくらい残ってる?」
「あんまり。特に土、水、氷はそろそろ厳しいかも」
土や水がない状態でこういう魔法を使うとなると、物質自体を魔法で出さないといけないので魔力消費が増える。実はスキルで発動してもこの部分は同じなので、スキル経由の魔法に切り替えても意味がない。
「あと雷は室内だし、準備がいるかな。魔力沢山とられるし」
「雷も使えたのか……今使えそうなのは?」
「風だね。火は効かないし」
「火が効かない時点で人間じゃねえだろ、もう。いや、ちょっと待ってくれ!エレナっていくつ使えるんだよ!?」
「マナー違反だよ?」
わたしたちが話している間、頭目は血を失いすぎたせいか停止してた。それがようやくのっそりと動きだしたことでこっちもお喋りを止める。
「気になるけど、まずは生きて帰ることだな」
「うん、そうだね」
頷きあってそれぞれ戦闘態勢をとる。連携して相手を倒すにはお互いの体力が厳しいし、なによりそういった練習をしてない。即興でできるほどわたしたちは達人じゃなかった。
「おぉ……オォオオオオ!!」
理性の欠片も感じられない雄叫びを上げて頭目はずしんと一歩を踏み出す。二歩目で呆れるほどの速さに達する巨体。
「おおおおおおおおお!!」
負けじと怒声を上げて真正面から受け止めるレイルくん。激突で部屋に残る火が消える。3つ以上のスキル光で対抗する少年に頭目はただ力で押すだけ。意識がないのかスキルを使う様子は皆無だ。
「や!」
火魔法を強化に絞り、ブラックエッジには無属性のマナエッジを走らせ、滑り込むように頭目の足元を横切る。踵の上、アキレス腱をこれでもかと切り裂いてから踏まれるまえに脱出。あまりの硬さに手がしびれた。
「ぐぅ!?」
うめきを上げて振り向く巨人じみた鉄仮面めがけて風の刃を放つ。乱雑に振り回した左腕が盾となって体や顔には届かないが、おかげで左腕はいよいよ千切れかけになる。
「余所見してんじゃねえ!」
薄青い光を宿した剣が閃く。
「ごぁ……ッ!!」
ふくらはぎに浅い傷が入る。それだけのことでも頭目の優先順位はわたしから彼に移り、乱暴に振り上げた魔斧の落下先も併せて変更される。
「効くかァ、そんな、モンがァ!!」
眩い空色の光を放つ盾が斧を受け止める。硬質な物体が割れる音が耳を打ち、両者の破片が周囲へまき散らされる。レイルくんは深々と斧頭がめり込んだ大盾をかなぐり捨てた。つられて頭目の腕が外へ広がり、胴体が完全にがら空きになる。
「風よ!」
伸びきった腕に風刃を連続で叩き込む。二の腕の繊維を切断されて腕の戻りはさらに遅くなる。
「やぁあああああ!!」
美しさすら感じるフォームで繰り出される必殺の突き。青い光の尾を引く一撃は頭目の胸板の真ん中へを穿ち、根元まで一気に入って背中から切っ先を見せた。
「ガハ!?」
鉄仮面の下の口からゾッとするほどの血が吐きだされる。すっかり馬鹿になった鼻でも分かるほどキツい腐敗した果実の臭い。しかし一番恐ろしいのは、その血液が床に触れるなり燃え上がったことだ。
「は!?」
「レイルくん、下がって!!」
「ぐ……ぉ……」
骨格が軋むような異音をたてて動きだす頭目。わたしは全力で走り、レイルくんの鎧に手を掛けて引っ張る。
「うぉ!?」
筋力を強化してもまだ重い彼を適当に投げる。振り向いて杖を掲げ、残った魔力のほとんどをかき集める。
「オォ、オォオ」
喘ぐように胸を上下させる巨人。傷口からはどこにこれほどの血液が入っているのかと驚くほど血潮が噴き出し、それがどんどん燃え上がる。レイルくんの言うとおり、ギシギシと音を立てながら全身が膨脹しだす。
「オォ、グォア!!」
巨人がばっと腕を開き、天を仰ぐ。噴き出す血だけじゃない、血管までが赤く光りだした。左腕がちぎれ、勢いよく噴き出した血液が壁に掛かって燃え上がる。
「揺蕩う力、全てを統べる一なる力、根源より湧き出でる神の慈悲!」
皮膚が内圧に負けたように裂け、それでも筋肉はメキメキと膨らみ続ける。もはや巨大化のする人といより爆発寸前の革袋を繋ぎ合わせたような有様だ。
「汝、佇立する不可視の巨人也!何人たりと汝の背後を侵すこと能わず!」
盗賊団の名前でもある斧は右腕と溶け合い、ひび割れた金属の隙間から生きているかのように血を滴らせる。そして全身を輝かせた、かつて人だった存在。
「始原の力よ、その姿は我が言葉に依らん!」
ソレが臨界点を迎える直前、わたしの詠唱が終わる。
系統外魔法最上級・オーラギガント
珍しく一人で発動できる類の最上級防御魔法。ごっそり体から抜け出した魔力と室内の魔力が溶け合い、手から先に生じた虹色の巨人が輝く爆弾へ掴みかかる。
「オォオオオオオオオ!!」
皮膚を引き裂いて爆発する炎と光。それをまるで抱きしめるように体の内側へ、まるで閉じ込めるオーラギガント。半透明の虹色の巨人は内圧と衝撃で形を歪にしながらも、太陽のようにぎらぎらと燃え上がる破壊の塊に耐え続けた。
「あ……」
息を飲んで見守ってたレイルくんが小さく声を漏らす。そう長くはない時間のあと、わたしたちの視線の先で輝きは少しずつ小さくなりはじめた。もともとあまり多くの血が残っていなかったのかもしれない。
「……終わった、みたいだね」
最後は蝋燭が酸素を失ってふっと消えるように、あっけなく光が収まって魔力の暴走も収束した。赤と黄色の輝きが消えたオーラギガントの腕の中には、塵一つ残ってはいなかった。鉄仮面の残骸すら残さず消し飛んでしまったのだ。
「いや、冗談抜きで魔物かよ……」
武器も防具もほとんど失ったレイルくんが尻もちとため息をつく。
「あ、まずい……」
オーラギガントが役割を終えてほどけて行く中、わたしは急に立ちくらみに襲われた。
「お、おい、エレナ?」
慌てて立ち上がった彼が支えてくれるけど、意識はどんどん希薄になる。
「ご、ごめんなさい、魔力切れに……」
ああ、まずいな。退避場所の魔法、わたしが気絶してから何分まで稼働できたっけ。
思考を保てたのはそこまでだった。
どうも、一響です。せっせと次の次の章を書いております。
そんな私から今日は読者の皆様にお願いがあるのです。
感想、評価、切実に欲しております。いえ、ネタではなくて。
作者は各々に「これはゆずれない!」というものを持っているわけですが、それ以外の部分については読者諸氏の思っているよりはるかに影響されやすいのです。
なので渾身の回に反響がなければもうその手法・演出はしなくなるかもしれませんし、皆さんが仮に「そうそう、それでいいのよ」と思っていても別の誰かが「あれはイマイチ」と感想に書けば(それが譲れないポイントでない場合)わりと簡単にひるがえします。
作者と作品にとって譲れない部分以外、基本的に作者は読者さんに楽しんでほしいからです。
なので楽しいと思えた小説には「これがいい」「これでいい」「ここが好き」「あのキャラは気に入っている」というのは、私の作品に限らず不安定なネット小説に対しては言って欲しいのです。もちろん逆もまたしかりだと思います。(批判はノーセンキューって人もいるのでそこは一概に言えませんが)
少なくとも一響はいただいた感想は受け取った後しばらく反芻しますので、無駄には決してしませんので、ぜひぜひお便りをくださいまし。
~予告~
凶賊を打ち破ったエレナたち。
得たものと、与えられたものは……。
次回、恩と謝礼




