七章 第8話 騎士の心
「マレシス、少し前へ!フォートリンはやや下がれ!」
ネンスの勇ましい声に応じて2人の騎士が立ち位置を調整する。できるだけ一直線に並ぶように、スキルも併用して堤防を築くように。
「アクセラ、いまだ!」
待ちに待った合図を受けて俺は白木の杖を振るう。魔力ストックという珍しい効果でチャージした魔法化寸前の魔力を解き放つ。それはシンプルで洗練された色白の杖から溢れると同時に漆黒の球体群へ変化し、騎士たちの頭上を越えて盾の向こう側へ着弾する。鈍い打撃音とやかましい破砕音が一緒くたに鳴り響いた。
「報告!」
「弾着5、外れ1です!」
「敵残り2だぜ!」
「マレシスが討伐を、フォートリンはその補佐に回れ!」
必要以上に張った声で飛ばされる指示。それに従ってマレシスが一歩前に、レイルがその斜め後ろに移動する。山ほどの瓦礫に佇む素焼きの人型2体は豪快に振るわれた騎士剣によって木っ端微塵にされ、足元の破片群に参加した。
「アクセラ!」
「敵影なし」
「よし、いい感じだな」
満足げに頷いたネンスはようやく肩から力を抜く。
「警戒は私がする。2人も休んで」
レイルとマレシスにそう伝えながら、俺は杖を片手に刀の柄へともう片手を乗せる。不測の事態に魔法使いとしても剣士としても対応できるように。
「認めたくはないが、なかなかいい演習になります」
「そうだな」
「マレシスも素直になってきたな!」
「か、からかうな!」
いつものように気軽なやり取りをする3人を見て、俺は内心でほっと胸を撫で下ろした。場所は少し前にレイルを連れてやってきた王都最寄りのダンジョン「狂宴の廃城」だ。乗合馬車ではなく貸し切り馬車を利用した、週末にギリギリ収まる行軍。ネンスの肝いりで実行されたこの攻略には冒険者嫌いのマレシスもしぶしぶ同行している。何がしぶしぶかと言うと、身分に寄る例外を認めない学院の規則に従って2人も冒険者の資格を取ることになったのだ。
「最初は冒険者など絶対にならん!って言ってたのにな」
「仕方がないではないか。殿下が行かれるなら俺も行くに決まっているだろう」
そんなわけで一国の王子と近衛騎士、伯爵家の嫡男、隠れ使徒の4人で戦闘訓練をしている。せっかくなのでネンスを指揮官、俺を魔法部隊に見立てた演習風にしてみたりと色々な経験を積んでいるところだ。ちなみにエレナは男性陣と一泊するには差し障りのある体調なので欠席である。
「しかしダンジョンとは不思議なものだな、アクセラ」
腰のベルトから水筒を取ってのどを潤しながらネンスが言う。知識として知っていてもダンジョンの不思議さは体感しないと分からない。そんな初心者らしい感慨がその声には籠っていた。
「この城の周り全域に特殊な魔法がかかっているのか?」
「ん」
この「狂宴の廃城」は人工物がダンジョン化したタイプにしてもかなり珍しいパターンだ。なにせ最初からエリアが指定された大規模魔法と魔道具によって構成されたキルゾーンが、そっくりそのままダンジョンになっている。
「なんだってこんな場所作ったんだろうな、その技師ってやつはさ」
レイルが言っているのは元になった廃城の主である狂気の魔道具技師サザールのことだ。このダンジョンにあふれかえる無数のゴーレムは彼が作った巨大ゴーレム製造装置によって生み出されている。廃城の地下深くにあるソレから出現したゴーレムは大まかな配置命令に従って移動し、あとは生きとし生けるものを殺戮し続ける。
「技師自身が狂っていたのか、装置が後から狂ったのか」
なんにせよ、放っておけば大量生産されたゴーレムがいずれ廃城から溢れだして近隣に被害を及ぼす。それを阻止するため、また地下深くから装置が掘りだしてくる資源をゴーレムという形で回収するために国はギルドへ定期依頼を出しているのだ。まさか第一王子がそれをこなしに行くとは想像もせずに。
「資源調達のために停止させないというのは、大丈夫なのか?」
溢れだす危険があるなら多少の利益を無視しても停止させるべきではないのか。そんな意味を込めて訊ねるマレシス。それに首を振って見せたのはレイルだ。
「オレもそれは思ったんだぜ?でも無理らしい。無理に止めると魔法が変になって大爆発するとかなんとか」
「ん、よく覚えてた」
「へへ、だろ?」
ダンジョンの中心でもある製造装置は、巨大な魔法と魔力の流れのまさに心臓になっている。これを止めれば流入する魔力に魔法が圧迫され、最悪はダンジョンに渦巻く膨大な魔力全てを消費する大暴発に繋がりかねない。そうなったら近隣に被害どころか、ユーレントハイムの地図に文字通り穴が開く。
「慎重に数を減らしながらちまちま資源を回収するしかない。永遠に」
「・・・そうか」
根は真っ直ぐな騎士道の信奉者であるマレシスは、その白黒つかない状況に思う所があるようだ。だが白黒つけようとすれば確実に黒々とした負の結果に繋がる以上、飲み込んで頷くしかない。
「ん、休憩おしまい」
そんな彼も俺が手を叩いて号令すると意識を切り替える。近衛騎士としてネンスを守り、その意思の通りに振るわれる剣として。
「次はネンスも前に出て」
「ああ、そうしたいところだ」
王子殿下は今日も今日とて腰に下げている白陽剣のレプリカを軽く叩いて頷いた。太陽の性質を持つ古代の魔剣は金属系のゴーレムに効果覿面。それを見越して今度はそういう系統を集めてくることにする。
「行ってくる」
「気を付けてくれ」
「ん」
既に数回繰り返したやり取りをもう一度してから俺は走りだす。運よく他のパーティーが居ない今、俺はともすれば迷惑行為になる方法で効率よく戦闘経験を彼らに積ませていた。走り回ってただただターゲットを引きつけ、十分な数になったところで仲間の下に戻る。すなわちトレインと呼ばれる行為である。
「いいかんじ」
しばらく走り回って10体ほどのゴーレムを引き寄せる。現在地である廃城の1階には金属製の個体が多い。上層階や地下になるとしっかり武装したゴーレムが増えるのだが、ここら辺はほぼただの人形だ。それを3人の待つエントランスホールへ向かって牽引する。離れすぎて興味を失われないよう、追いつかれて戦闘にならないよう距離を工夫しながら。
「連れてきた」
「早かったな」
待ち構える前衛3人にバトンタッチ。一度に襲来するのは3体、3体、4体、2体で合計12体。手早く倒せば複数体を相手に立ち回る必要はない。
「スキルが発動するタイミングを覚えて」
俺は火の支援魔法を一人一人にかけながら注意点を教える。
「体、姿勢に対してスキルの出る向きや角度を意識する」
「角度?」
「同じスキルの同じ技は誰が出しても同じ軌道。だから体の相対的な位置、角度も必ず同じ。それをまず覚えて」
そこまで言ったところで第一波と接敵した。3人は俺の言葉を理解しようと一番シンプルな『剣術』の踏み込み切りを放つ。体を薄い青の光が包み、素早く右足の一歩を踏み込む。そして右上から中央下方向へと剣を斬り込んだ。全く同時に発動した3人の体と剣は傍から見ていると面白いくらいに揃った動作でホワイトメタルゴーレムを切り裂く。違うのは騎士2人と殿下の続くモーション。2人は盾で半身を守っており、二撃目を放つ体勢を移行している。ネンスの方は初撃で白陽剣がゴーレムを斜めにぶった切り、二の太刀を必要としていない。
「は!」
「やあ!」
騎士たちも追撃を揃って決めることでゴーレムを打倒した。
「今の技、今後いつ使っても一緒の軌道になる」
「なるほど」
「あとでスキルの発動条件も確認して」
「発動条件?」
スキルは特定の動きや姿勢で発動を意識すると技が出せる。踏み込み切りを出したいと念じながら前に踏み出すと『剣術』は踏み込み切りとして発動するのだ。これをバックステップしながら念じても踏み込み切りにはならない。
「なら踏み込む強さは?前傾になるだけで出る?剣の位置は影響する?」
「言われてみれば意識したことがないな」
俺は答えを知っている。知り合いに手伝ってもらって検証した。
踏み込み切りに踏み込みの強弱や剣の位置は関係ない。全力で飛び込もうと軽く前に進もうと、発動すれば等しい速度で体幹から真っ直ぐ前に踏み込む。剣を下段に構えようが上段に構えようが右上段から中央下部へ切り降ろす。そして剣を持っていない片手や顔はスキルの対象外であり、どんな姿勢でも相互に影響しない。
自分で見つけないと意味がないからもちろん言わないが。
「実戦でやると危ないから気を付けて」
「お、おう!」
3人は第二波も第一波と同じ要領で切り伏せる。その顔を見れば、2回繰り返しただけでスキルの共通性はなんとなく分かってもらえたようだ。
「その2つを熟知すると技術は究められる」
「それだけでか?」
簡単に言うが、それだけのことが難しい。一体戦士が戦闘でいくつのスキルとその中の技を使用すると思っているのか。全てを熟知して組み合わせられるようにならなくてはいけないのだ。下手な上級スキルやジョブを取得するよりはるかに難易度は高い。
「熟知すれば相手の弱点へスキルを的確に当てられる」
スキルカウンターとでも言うべきこの技術は説明だけならご覧の通り簡単。スキルの自動化された部分を突いて攻撃するだけだ。しかしそれはスキルのメリットをデメリットに変えることと道義であり、瞬発的な洞察と理解が必要とされる。いわばこれこそ技術の奥義なのだ。
「あるいはスキルとスキルを繋いで独自の連撃にもできる」
「そ、そんなことができるのか?」
懐疑的なマレシスのために実演することに。ちょうど目前に迫ったゴーレムは4体、3人で相手をしても1体余る。
「魔法スキルのボール系は杖に対して真っ直ぐ射出される」
腕を前に突き出し、白木の杖の先端を天井に向ける。腕と杖の向きは直角だ。その状態で『火魔法』のファイアボールを放つと、火の球は頭上に撃ち上がってボロボロの装飾を焦がした。腕や視線の向きは関係ない。
「つまり杖を敵の急所に向ければ」
杖の先を迫るホワイトメタルゴーレムの胸に向けて『火魔法』。普段俺が使うより速度も威力も低い火球だが、的確に中心部を溶かしてコアを焼き尽くす。ゴーレムはけたたましい音をたてて地面に倒れた。
「的確に倒せる。射撃系のスキルは半分くらいこれを当然してる」
ターゲティングまでスキルがしてくれるタイプならそうでもないだろうが、弓矢や魔法、魔導銃による攻撃は基本的に直線なので発動者が自力で狙っている。だがこれが近接攻撃となると、自ら狙うのではなくただ有効なスキルを選んで叩きつけている場合が多い。
もちろん上位の冒険者や騎士たちは経験的に体の動きで補正するなど、何も考えずにスキルを放っているわけじゃない。ただそれは経験的に、本能で無意識にしていること。普段使わない技や戦い慣れない相手にはなかなか適用できないのだ。
「きちんと理解して使いこなせば、戦力は各段に上がる」
「はあ!」
裂帛の気合でもって第三波のゴーレムを倒した3人は分かったような分からないような顔で頷く。言葉でもある程度は理解できるが、やはり見てみなければ無理な部分はあるものだ。
「残り2体で見せる」
綺麗に3体ずつにできなかったせいで第四波は1人分足りない。なのでデモンストレーションに使うことにした。
「レイル、剣貸して」
「え?でも、お前カタナあるだろ」
首を傾げるレイルに構わず手を差し出す。
「刀でスキルは使わない。折れる」
「そんな脆いのかよ、それ」
「繊細と言って」
本当はそこまで簡単に折れはしないけど。
スキルは刃筋や斬線を無視して放たれる上にアシストで勢いだけ無駄につく。刀でスキルを使うというのは、大きな石を適当に殴りつけるのと同じ意味を持つ。つまり、まず間違いなく刃が欠ける。もちろん剣も刃筋を無視しすぎるとそうなる。ただ元がスキルなどない世界の武器である刀よりは、スキルに合わせて作られたこの世界の剣の方がいいのだ。
「まあいいや」
肩をすくめてレイルは茶色く輝く卑金虫の剣を俺の手に載せた。受け取ったそれを軽く振って重さやリーチを確かめ、まだ微妙に遠い2体のゴーレムめがけて踏み込む。3人が見やすいように横から回り込み、1体目に『剣術』を発動。
「ん」
踏み込み切りの挙動で剣がゴーレムの胴体を切り裂き、中空のはらわたを外気に見せた。体を包む薄青が消える前に左手を引き絞り、薄赤を纏って放つ。『体術』の二本貫手、人差し指と中指を揃えて相手を穿つ技だ。指先は裂け目から的確にコアを叩き、ゴーレムの活動を停止させる。
「や」
ようやく消えたスキル光をもう一度全身に灯す。今度は『長剣術』のリープスラッシュ、踏み込み切りの直系強化技だ。深い青のアシストに任せて2体目までの距離を一気に詰め、寸分たがわぬ軌跡を描いて外殻をこじ開ける。左手は移動中に太腿からナイフを抜いていた。
「おお・・・!」
誰かの感嘆が聞こえたのは、左手のナイフが薄赤い光を引きながらコアを切り捨てるのと同じタイミングだった。決まり手は『ナイフ術』の掬い上げ。
「スキルに縛られていない部分を使って追撃を入れる・・・確かに使えるようになれば対人戦でも魔物討伐でも重要な一手になるな!」
「すっげえ!今の、何をどうつなげたんだ?」
珍しく興奮した様子のマレシスと平常運転のレイル、そして無言で目を輝かせるネンス。3人とも意欲は十分漲ってきたようだ。
「今のがスキルにスキルを繋ぐ技術、スキルチェーン」
スキルカウンターと双璧を成す、あらゆる戦闘系技術にとっての奥義だ。
「まずは踏み込み切りを理解する。全部それから」
「「「おお!」」」
ぴったり揃った返事に俺は気分を良くしながら、実戦の的となるゴーレムを探しに走りだした。
~★~
たっぷりと技術の基礎訓練を積んだ後はダンジョンの入り口に戻って野営だ。レイルと俺で用意した料理を食べ、大型のテントに寝袋を敷いて眠る。ポーション屋は前回と違う男が店番をしており、食料屋も2軒に減って実に寂しいかぎりだ。
折角の機会なので拠点は商人たちのテントからわずかに離し、交代で火の番を務めることにした。最初は男3人と俺が同じテントで寝ることに否定的だったネンスとマレシスも順番決めをする頃にはすっかり折れて、ローテーションに意見を出していた。ちなみにレイルは前回で諦め、もとい信頼関係を築けたので最初から否定派に回らなかった。
ネンス、俺、マレシス、レイルの順番に従って俺が引き継いだのは月も落ちはじめにかかった頃だった。さすがに眠そうな顔のネンスにこっそり回復魔法をかけてから見送り、自分は焚火の前に移動する。灯りは本を読むには小さすぎて、簡単な刀のメンテをしながら空を見上げて過ごした。
「オルクス」
どれほどたったのか、小声で名前を呼ばれた。振り向けばマレシスがテントから這い出してきたところだった。体感では交代よりやや早い。彼なりに気を回したのか、それとも戦闘に高ぶって眠りが浅かっただけなのか。なんにせよその目に寝ぼけた様子はない。色々と未熟でも正規の騎士に任命されただけのことはあるようだ。
料理がからっきしだったのは、近衛騎士が野営時に炊事を行わないからだろう。当直や警備以外、いわゆる雑用には下男を連れていく身分だ。
「おはよ」
「ああ」
マレシスは腰に剣だけ下げて鎧を脱いだ姿のまま焚火の前に腰を下ろす。真っ暗な空の下、赤々とした光が彼の全身を染め上げた。寝る前に『生活魔法』で服ごと体を洗ったので汚れは見えない。
「オルクスって呼ぶの、止めてくれない?」
とりあえず気になったことを一つ指摘しておく。
「・・・嫌か」
感情の読みにくい声音で問い返すマレシス。
「貴族は皆、嫌な意味で言うから」
俺だって堂々と名乗れるならそうしたい。ただこの名前には色々な意味が込められすぎている。他のどこでもあまり気にはならないだろうが、こと学院ではそう呼ばれるのが嫌だった。
「・・・そうか」
どこか神妙な面持ちで彼は頷いた。そして唇をそっと舐めてから口を開く。
「だが、お前は「オルクス」だ。それは変えられない」
様々な意味を含んだその名前。マレシスが口にする俺の家の名は重い。その重みには多くの貴族、それも良い貴族たちが抱いている無数の嫌悪感が込められている。
「ん」
「・・・名を捨てるのか?」
「捨てない」
嫌なモノの込められた名前だ。それでも捨てる気はない。素敵なモノも沢山込められた、今を生きる俺の名前だから。
「・・・そうか」
彼は再びそう呟いた。今度はわずかに沈黙が長く。
「ならアクセラ、お前に聞きたいことがある」
「?」
すっかり素直になった近衛騎士は炎から視線を俺に移した。真っ直ぐに見た彼の目はどこか疲れているように感じられる。それは今日の激しい実戦訓練だけが理由ではないようにも。
「お前は殿下の味方なのか?」
聞いて意味があるのか。真っ先に俺はそう思った。味方でない人間が違いますとは答えないだろう。
いや、でも、そうだな・・・。
彼は本来ただひたすらに真っ直ぐな性格なのだ。それこそレイル以上に真っ直ぐで、俺並に意固地。だからこそ思いこんだままに走り抜けてしまう。
「ん。ネンスが学友として振る舞う限り、私はネンスの味方」
「学友として振る舞う限り?」
「ネンスは王子だから、友情だけで動けないときもある。でしょ?」
俺は味方でいるつもりだが、ネンスが立場や状況で敵に回るなら俺は信念を曲げてまで味方でいられない。
「殿下は・・・お優しい方だ」
「ん」
そう言ったマレシスの顔には俺の言葉への理解が表れていた。もしオルクス家を丸ごと断罪すると王家が決定すれば、ネンスは俺を裁かなければいけない。きっと彼はそんな状況を勝手に想像したのだと思う。
「俺は・・・近衛騎士だから、どこまでも殿下の味方だ」
「ん」
「だから、もしお前と殿下が敵対する日が来れば、俺はお前に剣を向ける」
「・・・ん」
「この剣は殿下に捧げた忠義の証だ。手ずから授けて頂いた、騎士の心だ」
マレシスはそっと剣を撫でる。
「敵うとは思えないがな。それでも剣を向けるだろう」
「それでいい」
人には誰しも立場と信念が、守りたいモノと許せないモノがある。そのために覚悟を決め、力を蓄えて生きている。今や友人と言ってもいいほどに和解できた俺とマレシスだが、ネンスのためならその俺をも斬るというのが彼の覚悟なのだ。
俺は・・・どうだろう?
殺さない選択肢を選べるだけ強い。その状態に長年あった俺は、殺す覚悟を失ってはいないだろうか。6年前の誘拐犯たちとは違う、自分にとって温かみを感じさせてくれる人を大儀や信念のために斬れるのか。エレナに問うておいて、自分はそれを直視できなくなってはいないか。
「そんな日がこないといいな」
考え込む俺を他所にマレシスは呟く。大きな声ではなかった。しかし心が籠った呟きだった。
「そうだね」
この夜、俺とマレシスは本当に分かり合えた。少なくとも俺はそう思えた。
思えたんだ。
夏コミで頒布した小説の委託販売を始めました。
テイストはもう一つの拙作、ヨハンナ寄りですがもう少しライトです。
続きモノになる予定なので、もしよければ私のTwitterからチラっと見てやってください。
ところで「評価お願いします!」っていうと素直にくれるそうですが、いただけるんでしょうか?
~予告~
その名はただの偽者のはずだった。
祝福の子が授かるまでは。
次回、エレノア




