七章 第1話 秘密の屋上
まずは改めて京都アニメーション放火殺人事件に哀悼の意を捧げます。
いつかまた誰かを救う作品を紡いでくれることを願いつつ、
多くの方々のご冥福とご回復を祈っています。
よく焼けた小麦色の肌に珠の汗が流れる。
朱色の長髪が風に乗って軽やかに踊る。
黒い塵と赤い火の粉が彼女の周りを彩っている。
ルビーの瞳に映る俺は……皺の目立ち始めた顔に涙を流している。
―イクス―
綱守を指が白くなるほど握りしめて、振り抜けないまま止まってしまった俺。
そっとその頬を乾いて爪の割れた指で撫で、彼女は微笑んだ。
とても悲しそうに微笑んだ。
―待ってくれ、違うんだ―
叫びたくなる。しかし口を開いて出てきたのは、ただ情けない声で相手を呼ばう少女の声だった。
「マリーベル」
~★~
最低最悪の目覚めから始まった俺の休日は、その後も最悪な調子で終わった。ネクロリッチと戦った翌日、今となっては昨日になるその日は色々な意味でよくない日だった。寝坊して朝食を食べそこね、ギルドに報告にいくと事情聴取かと思う程しっかり報告書作りに付き合わされ、商店街では支払いまで財布を忘れたことに気づかず……。
いや、そんなことはどうだっていいんだ。
一番俺を悩ませているのはエレナのことだ。学院に入って初めて別々の部屋で眠った俺たちは、それ以降一度も顔を合わせていない。ちゃんと早起きした彼女は朝食を食堂でとった後ずっと外出していて、俺が出かけている間に寝室へ戻ってしまっていた。週明けの今朝も俺が家を出る前に登校している徹底ぶり。0歳からずっと近くにいたエレナだ。こうも露骨に避けられるとさすがに辛いものがある。
脅かしすぎて嫌われたか、それとも俺が怖くなったか。
一昨日の晩に彼女が見せた怯えの目ははっきり覚えている。目の前の人間が平然と人を殺すのだと知った少女の恐怖心。俺の胸にわずかな痛みと大きな躊躇いを植え付けた眼差しだ。
躊躇い、すなわちこのままエレナを冒険者にしていいのかという疑問。それは昔から抱いていたものでもある。あれほどの魔法の才能を開花させないのはもったいない。だから英才教育を施してきたし、彼女もそれを嬉々として受け入れた。だがここから先は魔法が好きというだけで進める場所じゃない。殺し合いをさせずにすむなら、その覚悟なく生きていけるなら、その方がいいんじゃないか。そうも思うのだ。
「それでは皆さん、また明日」
優しさに満ちた声でヴィア先生が言い、ホームルームが終わる。机に伏していた俺は気怠く顔を上げてクラスを見渡す。エレナは先生と何かを話しながら出て行くところだった。それをただ見送ってからどうしようか頭を巡らせる。
俺が彼女にしてあげられることは、今はない。自分で考え、自分で決め、自分の道を選ばなければいけないのだから。彼女にとって半ば上位自我のようになっている「アクセラちゃん」は必要ない。
「なあ、エレナと喧嘩でもしたのか?」
そんな質問をするのは動物的勘に優れるレイル。場所塞ぎな少年は心配そうな表情を浮かべて首を傾げている。
「違う」
「悩み事なら相談に乗りますよ」
レイルの脇を抜けて顔を出したアベルもそう言ってくれる。マリアは眉根を寄せて刻々と頷いていた。遠目にはネンスとマレシスもこちらを見ている。愚直な近衛騎士からは先日の試合から強烈な敵対を向けられることはなく、距離感を測りかねているような雰囲気が漂っていた。
「ん、大丈夫」
「本当か?」
「冒険者として、師弟としての問題だから」
「そうか。ならしかたねえな」
「なんでレイルはそういう時だけ物わかりがいいんですか……」
武人としてのセンスはピカイチだからだよ、アベル。
文人気質のアベルには伝わりにくいニュアンスや考え方がレイルにはすぐ伝わる。どちらかと言わなくとも武人気質の俺としては会話が楽でありがたい。マリアはよく分かっていなさそうだが、心配してくれること自体は嬉しい。その点はアベルも同じだ。
「ん、なんとかなる」
「はは、お前好きだなそれ」
実際なんとかなると思っている。どちらに転んでも。
まあ、それとこれとは別問題だけど。
エレナが将来をどう選んでもそれを受け入れるつもりだが、避けまくられている現状の部屋にいたいかと言われればノーだ。というわけで荷物を持って教室を後にする。そしていつもは行かない方へ足を向ける。さらに上の階、つまり屋上に。
「開いてるのかな」
そもそも屋上が生徒に解放されているのかすら、実のところ知らない。一応階段は繋がっており、踊り場を挟んで折り返した先には重厚な扉が待ち構えている。そこに誰かが上がっていくのは見たことがない。生徒でも先生でも。
レイルたちを含めて他の生徒が粗方教室を後にするまで待って行動を始める。ちなみに学院の生徒は放課後あまり長々と教室に残らない。教室は原則として飲食禁止なので、友人と談笑するにも寮かカフェに移動するのだ。
「ん……」
階段まで移動した俺は特に意味もなく周りの視線を確認して、こっそり上がってみる。扉は……閉まっていた。
残念。
4階まで戻れば廊下には誰もいない。そこを堂々と渡って別の階段に向かい確認する。こちらも施錠されていた。
「立ち入り禁止とは書いてない」
それなのに施錠されている。暇がゆえか、こうなってくると俺はどうしても屋上に上ってみたくなってきた。装備の整備は昨日の内に済ませたし、買い出しも同じく。夕飯まで気を紛らわせてくれるならなんだっていいのだ。
ピッキングの道具は置いてきたんだっけ
冒険用のポーチに入れたままだ。制服に巻いているベルトは剣帯こそついているものの、デザインがマッチするようなちょっと高級なやつだった。さすがにゴツいポーチは似合わない。
「となると」
ちらっと最寄りの教室を覗く。生徒は誰もいない。もう帰ったのか、それともたまたま出払っているだけなのか。どちらにしても好都合だ。するりと教室に忍び込んでから魔法を使う。
「貫き通せ、曲がらぬものよ。我を知らずに進みゆけ。引き止むもののないままに、我が身と汝は交わらぬ。光の原理は我が手に依らん」
光魔法中級・インビジブル
透明になった俺はそのまま窓を開けて身を乗り出す。いつも座っているあたりだから、外の構造はきちんと把握していた。少し出っ張った枠に足をかけ、つま先で窓を閉める。すぐそばにある雨樋は頑丈そうな石造り。掴みやすい装飾もついた、立派な梯子だ。試しに指を掛けて動かないか揺らしてみるが、きちんと壁に作りつけられているようでびくともしない。
「ん」
躊躇することなく窓枠から雨どいに飛び移る。落下しても4階建てくらい怪我はしない、と思ったのだが……遥か下では下校中の生徒が談笑しているので、あまり落ちても大丈夫じゃなさそうだ。インビジブルがなければスカートの中を覗かれ放題な、それ以前に教師一同から大目玉を喰らいそうな姿のまま、落下物にだけ気を付けて雨樋をよじ登る。
「んっと……っしょ」
屋上の縁から大きく出っ張ったガーゴイルに捕まり、鉄棒の要領で半回転する。逆立ちの状態から建物側に着地すればそこはもう屋上だ。
「ん、簡単」
「誰だ?」
「!」
登れたことにひとまず満足していると声を掛けられてしまった。慌てて振り向くとそこに居たのは意外な人物、メルケ先生がいた。いつもの服装を上着だけ崩して、高さ2m以上ある箱の上に座っていた。貯水槽か何かだろうか。
「私」
インビジブルを解除して空間から滲みだすように姿を現す。それを見た先生はわずかに目を見開いて驚きを示した。
「アクセラか、今の魔法は……また危ない物を披露してくれる」
「ん」
透明化する魔法は使い方次第でかなり危険な魔法になる。実際俺はこれを使ってシザリアの代官屋敷でスパイ行為を行ったわけだし。とはいえ冒険者に禁じ手はほとんどない。それを分かっているから先生も苦笑するにとどめてくれているのだ。
「先生はここで何を?」
「ここはオレの休憩場所だ」
話を聞いてみると、どうも屋上は基本的に立ち入り禁止らしい。それは教員であっても同じで、先生も本当は来れないそうだ。
「まあ、そこは元魔法騎士団の特権だな」
口元を歪めて彼はベルトの杖を見せてくれる。室内向けにしても小さな黒い杖で、面白みのないシンプルなデザイン。魔法騎士団で正式採用している短杖だそうだ。
「魔法騎士団は魔法使いと騎士の混成部隊でな。どっちの使い手でも多少両方に通じている必要がある。オレは攻撃魔法が得意じゃない分、鍵開けとか小細工の魔法を鍛えていた」
鍵開けの魔法か、その発想はなかったな。前世で鍵開けといえば道具でするものだった。なにせそこまで魔力が多い方じゃなかったし。
「誰も来ない場所で休憩、ですか?」
「ああ。それに学生時代の思い出の場所でもある」
昔は屋上も解放されていたらしい。それでも風の強いここに来るのは物好きくらいで、彼も変わり者の先輩から教えてもらったのだと言った。
「座るか?」
「ん」
貯水タンクの梯子を伝って上り、先生の隣に腰かける。日中の熱を蓄えているのか、そこはじんわりと暖かかった。しかしこうして並んで座ると親子のように体格が違う。大柄だが重たげな様子のない先生は、間近で見るとやっぱり大柄だった。
「どうにも覇気がないな」
「そう、ですか?」
「ああ」
お互い言葉数の多い方じゃないので自ずと沈黙が流れる。といっても嫌な沈黙じゃない。段々高度を下げる夕日を見ながら、なぜか落ち着くこの瞬間を楽しんでみる。
「相談ならのるぞ。これでも教師だ」
彼がそんなことを言ったのは空の半分が藍色に染まった頃だった。わずかに冷えた風が吹き始めている。もうすぐ夏だというのに、夕暮れの温度差はまだまだ明確らしい。
「ん……実は」
長い間剣士を育ててきた俺だ。本当に相談の必要があったわけじゃない。ただ言葉にすることは自分の心の整理にもなる。それだけのつもりで、俺は先生に事情をかなり省いて伝えた。エレナに覚悟を問うたという話だけを。
「殺す覚悟か……そうだな、マクミレッツはその覚悟をしなくてもいい立場にある」
そう。エレナにはそれ以外の選択肢がいくらでもある。
「マクミレッツのことはほとんど知らないが、大体の覚悟ならできるタイプのようにも感じる」
ヴィア先生からの情報だろうか。なんにせよ、それも的確だ。
「お前はマクミレッツの師匠なのか?」
「冒険者としては」
「そうか……だがそれ以前に家族でもある、と」
「ん」
弟子ならこんなにも迷うことはない。本人が望まなければ自ら道を選んで剣を置くだろう。置かないのなら俺は覚悟を決めさせ、剣に生きる人物へと育て上げる。何十年も師範の地位にあったがために固められた考え方だ。ただエレナのようなケースは別なのだ。俺が師範らしく振る舞うには心も考えも近すぎる。距離がなさ過ぎて本人の意思と俺の意思が区別しづらい。
「まあ、今お前がしているようにマクミレッツの結論を待つ以外にないだろうな」
結局メルケ先生の導き出した結論は俺と同じもの。問題提起をした後は余計なことをせず、判断材料を提供してあげる程度に留める。
殺す覚悟の判断材料なんてなかなかある物じゃないけどね。
「大したことを言えなくて悪いな」
「ん、大丈夫です。間違ってないと思えたから」
「そうか」
そこで俺たちの会話はまたも途切れる。夕日はいよいよ眩く金色に輝いていて、この高い位置からでもほとんどが外壁の向こうに隠れてしまっている。
「沈む間際の夕日を見ていると」
「?」
「目玉焼きを食べたくなることがある」
「ふ、ふふ……たしかに」
急に何を言いだすかと思えば。でも夕日の色は半熟卵の目玉焼きに似ている。そう思うと無性に食べたくなる。
「今夜は目玉焼きと……何にするかな」
「お腹空く……」
昼は食堂できちんと食べたが、俺の燃費はあまりよくない。もう夕飯時に片足を突っ込んでいるような時間だし、いよいよ空腹が堪えてきた。
「寮の食事なんだっけ」
断じて目玉焼きではないはず。食べたい気分から抜けられないままそう呟くと、メルケ先生はにやっと笑って予想外の提案をしてきた。
「商店街に食べに行くか?奢るぞ」
「……いいんですか?」
時々先生や研究員と制服を着た生徒が一緒に食事に行く姿は見るが、奢ったりしていいのだろうか。そういう意味を込めて尋ねると彼は肩をすくめて否定する。
「あまりよくはないだろうが、手遅れだろう」
まあ、もう木兎というプレゼントを貰ってしまったし。ただ下手に見られると変な噂を立てられそうでもある。火のない所に煙は立たぬというが、立たぬ煙を見てしまうのが貴族でありうら若き乙女たちなのだから。
「ヴィア先生に悪い気もする」
「なぜシャローネ先生が出てくる」
「……」
いやだって好き合ってるでしょ?とはちょっと言えない。傍から見ているヴィア先生なんか露骨に輝いていて、その方面に疎い俺でも「ああ、これは恋しているな」と思う有様なのだが。この様子では確実にヴィア先生の気持ちには気づいていないはず。自分自身の気持ちすら分かっているか不明だ。それを第三者の俺が言うのはよろしくない。
「今日は特に約束もしていない。嫌なら無理にとは言わないが」
「嫌じゃない。むしろお呼ばれしたいです」
「なら決定だ。行くぞ」
夕日の残光に照らされながらメルケ先生が立ち上がる。手を借りて俺も立ち上がった。最後の光が壁に遮られて消える。
「しかしお前、どうやって上がってきた?」
「雨樋を伝って」
「……」
さすがの先生にも呆れの眼差しを向けられてしまった。
~★~
「ふう」
商店街の比較的いい店に連れて来てもらった俺は、食後の紅茶を飲みながら椅子に深く腰掛け直す。ちなみに目玉焼きの伴侶は2人ともハンバーグにした。
「どうだった?」
「おいしかったです」
「これでも長いからな、どこがいいかは知っている」
そういえばメルケ先生は教師歴もそこそこあるんだっけ。魔導騎士団に在籍していた期間が短かったのか。そこら辺を詮索する気は毛頭ないのでただ頷いておく。
「実は生徒と食事をするのが小さな夢でな」
紅茶のカップを手に包むように持って、彼は独りごとじみた声でそう言った。
「信じられないかもしれないが、魔導騎士団にいた頃は堅物で通っていたんだ」
今でも十分堅物っぽい。少なくとも軟派には見えないと思う。
「騎士団をクビになって、爵位も返上して、教師になったあともしばらくは肩肘張った癖が抜けなかった」
噂では聞いたことがある。魔導騎士団を不名誉除隊になったと。世の中は複雑だ、本当に不名誉なことをしたのかなんて誰にも分からない。だからこそ、俺は今目の前にいる彼が本当の姿だと思いたい。
にしても、爵位を返したのか……。
ビクターもマクミレッツ子爵家の跡を継がないことで実質返還したわけだが、それは貴族にとって非常に大きな決断となる。なにせ家を手放すというのは後ろ盾の最たるものを手放すこと。加えて自分の代まで先祖が代々積み立ててきたものを無にしてしまう行為でもある。大抵の貴族はどんなことをしてでも爵位を次代へ残そうとするものだ。
「最近になってようやく、こうして小さい夢をちまちまと叶えているところだ」
「なるほど」
教師らしいこと、あるいは肩の力を抜いた付き合い方。そういうモノに一種の憧れを抱き、彼もまたこの年齢で己の壁を打ち破ろうとしている。マレシスが壁を直視して越え方を考えだしたように。エレナが壁を越えるべきか悩んでいるように。レイルが壁を超えて冒険者になったように。
俺も新しいことに挑戦してみたいな。
そろそろ布教の具体的なことも考えないといけない時期が近づいていることでもある。
「他に何がしてみたい、ですか?」
小さな夢というならいくつもあるはずだ。普段から思う何気ない望みは星の数ほど、誰にだってある。
「そうだな……猫にエサをやってみたい」
「猫?」
「職員寮の裏の茂みに親子で住んでいる猫だ。エサをやってみたいが、オレが近づくと怯えるからな」
たしかに人間でも威圧してしまう巨体の彼が歩いて来れば猫は逃げる。その願いはよっぽど地道に慣らさないと無理だ。
「あとロシペルの帽子亭で鹿肉のパイが食べたい」
「ロシペルの帽子亭?」
「貴族街に屋敷があった頃によく行っていた料理屋だ。鹿肉のパイは王都で一番のを出す。いい店だったが、爵位を手放してからは行っていない」
昔の行きつけということはきっと同僚だった魔導騎士団の団員も来るのだろう。それなら顔を出しにくくて当然だ。
「持ち帰れる?」
「どうだったかな……たしかできたはずだ」
「今度買ってくる。奢ってくれるお礼に」
オルクス邸執事頭のホランあたりに買って来れるか確認してもらおう。可能なら依頼のついでに買ってくればいい。俺も食べてみたいし。
「それは助かる」
「他には?」
「他にか。いざ列挙してみるとなかなか出てこないものだが、そうだな」
口元に拳を当てて考え込むメルケ先生。確かに日々の小さな望みは多くあれど、思い浮かべようとすると途端に思い浮かばなくなる。そんなあるあるの前にしばらく悩んでいた先生は少しして「ああ」と声を漏らした。
「3つほど思いついた」
一気に3つか。
「練習用の木製武器だが、あれを入れ替えたい」
「?」
「頑強の付与魔法が掛けられているが、そろそろアレも対応年数が来るからな。知っての通り頑強が施された武器は壊れるときに砕ける。授業中にそうなっては危ない」
それは果たして先生が管理すべきことなのだろうか。とはいえ一番見る頻度が多い戦闘学の教員がチェックするのも、理にかなったことと言えるかもしれない。
「あとシーメンスに騎士としての戦い方を教えてやりたいな」
「マレシスに?」
「ああ」
メルケ先生曰く、彼の戦い方は真っ直ぐすぎる。ただ愚直に教わったことと思い込みで戦う不器用さは、まるで若い頃の自分を見ているようで気になるんだそうな。
「オレは馬鹿正直すぎて魔導騎士団で痛い目を見た。シネンシスの傍であいつが騎士を続けるなら、そう言う部分を少しは直さないとな」
ちなみにその相手を務めるレイルに関しては、適度に力が抜けているから大丈夫だろうと見立てているようだ。これについては俺も同意見。あれはいい具合に緩い部分がちゃんとある。
「最後の1つは?」
3つの望みの最後。それが何か、俺はなんとなく予想できる。同じ剣士の業を背負った、底抜けの馬鹿者として想像がつくのだ。そして続く先生の言葉は案の定。
「アクセラ、お前と真剣勝負がしてみたい」
「ん、私も」
自然と口元が緩む。見れば彼もそんな気配を頬に漂わせている。だが生徒と教師で真剣の戦いなど、許可が出るのだろうか。
「実はな、遅くともお前たちが卒業するまでにオレはこの仕事を辞めるつもりなんだ」
「学院を?」
「ああ。だからそのうちにな」
意外な言葉を最後に先生は席を立つ。
「もう遅い。寮まで送っていこう」
「ん、ありがとうございます」
キッパリと話を終えた先生に俺は食い下がろうと思わなかった。どうせ卒業してしまえばそう会えないのだから、彼がどこで何をしているかなんて俺には関係ない。そんなことよりもいつか味わえる戦士としての彼の力量にこそ、俺の心は踊るのだ。
突然ですが前章の終盤あたりを改定するかもしれません。
もう少しディテールの配置を考えてエレナとアクセラの内面を描きたいと思っています。
改定を実施した暁にはまたお知らせいたしますのでどうぞよろしく。
それと活動報告やTwitterでお知らせしているのですが、逢神天景さん、喜々直割さん、kobalt-9さん、虹矢さんの4人とサークル「BackStreet 裏通り小説倶楽部」を立ち上げ夏のコミケより活動をおして参ります。
技典ともヨハンナとも関係ない、新作を3万文字+用語解説の大容量でお届け予定です。
A5版で合計308ページ、巻頭カラー2ページという大作ですのでたっぷり楽しんでいただけるかと。
11日(日)西地区B-19aですので、おいでの際は是非是非お立ち寄りください。
~予告~
戦闘学の授業を全て吸収しようと奮闘する少年たち。
一方少女たちは静かに覚悟の意味を考える。
次回、鎖と下着




