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六章 第15話 捜索以来

「お金がない」


「……急だね」


 延々と雨が降る平日最後の夜、俺は寮のリビングで眉間を揉んでいた。別にお金がなさ過ぎて頭が痛いわけじゃない。ただ昨日は夜遅くまで本を読んでいたので、いつもより早く眠くなってしまって目がしぱしぱするのだ。


「ちょっと散財しすぎた」


 俺とエレナは学院入学からまだ半年経っていないというのに、これまでの稼ぎの7割ほどを使ってしまっていた。学費や食費とは無関係な財源なので、尽きたところで生活に支障はきたさない。とはいえ使いすぎという問題に変わりはなく……。

 まずは寮の家具だが、これは備え付けからあまり増やしていないのでそこまで負担になっていない。荷解きをしてみれば意外となんとかなったので、本当に足す物がなかったのだ。せいぜい魔道具の加湿器をマイルズ経由で買ったくらいか。

 次にギルドでの情報料が出費の中ではマシな方になる。といっても何が必要になるかは分からないので手広く情報を買っており、割と馬鹿にならない。特に国外の情報が高い。さすがにしばらくは「魔の森」より向こうの情報だけでもカットしようかと思っているところだ。

 リオリー魔法店で買った布教用魔道具いくつかは、冷静になってみると今買う必要がなかったかもしれない。ただ技術の凄さを広めるには生活に根差した便利さが重要だ。特に戦士系でない女子生徒に対しては。この前もマリアがうちの加湿器を羨ましがっていたし。必要経費、必要経費と念仏のように唱えて目を反らしている。逸らしたところで財布は軽くなっていくのだが。

 で、同立一位になったキングオブ出費はというと、エレナの新しい杖作成費とファティエナ先輩の魔斧修理代だ。当然と言えば当然。ただエレナの杖が魔斧の修理費と並ぶとは思っていなかっただけに、大打撃になってしまった感がいなめない。


「なんとか払えたけど」


 昨日請求書が来たとき、俺は変な声が出ましたよ。分かってますか、エレナさん。


「むぅ、確かに残高ほとんどないけど」


 エレナは貧乏貴族の家臣とはいえお嬢様育ち。他の貴族に比べれば質素と言いつつ、不自由を感じない程度には恵まれた環境で生まれ育った娘だ。そもそも今の俺たちの立場から考えれば彼女の感覚の方が正しいとさえ言える。

 でも残高が減ってくるとなあ……稼がないとって強迫観念がなあ。

 一度骨身に染みついた貧乏根性と飢えへの恐怖は、どうやら骨も身も朽ちた後でさえ消えないらしい。生活は伯爵家の方で完全に保証されていると分かっていても、口座の残高が減ると戻さずにはいられない。


「これ以上はまずい。主に私の精神的安寧の問題で」


「あー……うん。稼ごうか」


 エレナもエクセルとしての俺の経験は知っている。加えて何度か金儲けのダークサイドに転げ落ちそうになった姿も見ているので、苦笑いを浮かべて同意してくれた。


「杖の試し撃ちもしたいし!」


 それが本音か、この魔法マニア。

 エレナの新しい杖は先ほど工房から届いて、今はベッドルームに安置されている。軽く検品だけしてそれ以上触っていない。というのも本格的に弄りだすと絶対に魔法を使ってみたくなるので、せめて明日ギルド出張所に行ってからにしようという話になったのだ。タイミングよく外に出られる依頼がなければ練習場の人に見えにくい場所を借りて代用する。


「でも、よくあんな杖考える」


「えへへ、頑張ったんだよ?」


 キュリオシティという銘をオリバー氏から与えられた新しい魔法杖は、ほぼすべてエレナが設計を行ったものだ。魔法使いとしての彼女のスペックに見合う性能と天才児らしいぶっ飛んだ発想のギミックを、王都最高の魔法杖設計者であるオリバー氏が整えて再設計したというのがより正確か。

 しかし好奇心ね……よくまあそんなにピッタリな名前がついたことで。

 ケイサルの屋敷では好奇心の魔物とからかわれていたエレナだ、これ以上にふさわしい杖はない。そもそも設計思想からして「面白そう、試してみたい、使ってみたい」という、欲望を詰め込めるだけ詰め込んでしまおうというもの。ギミックも相当凝った仕様で、おそらく老職人にとっても初めての試みだったろう。既存のスキルの組み合わせで行ける範囲だが、エクセララで研究されていた技術もある程度組み込んでいたはずだ。その証拠に請求書と同封されていた手紙にはいつでもメンテナンスに来ていい旨が記されていた。あちらも興味深々なのだ。


「討伐や狩りの依頼がなかったらどうしようか?」


「外ならどうとでもなる。死角で試し打ちすればいい」


 見えさえしなければ『完全隠蔽』で音も魔力の流れも気配も消せる。本当にこのアビリティがいままで見たあらゆるスキルの中で最も便利だと感じるばかりだ。結局誘拐されて以来対策を考えているが、手掛かりすら得られない状況が続いている。


「久しぶりにアクセラちゃんと組み手したい気もするなあ」


「今度しよ」


 そこでふと最近は接近戦闘の練習を見てあげていないことに気づく。俺が外で刀の鍛錬を積んでいる間に彼女も魔法のコントロールや筋トレはしている。それに魔法的なアドバイスもたまにする。だが肉体的な指導はすっかり欠いていた。


「週に1回、一緒に練習する?」


「え、いいの!」


「ん。エレナもそろそろ実戦形式で仕込んだ方がいい」


 この優しくて愛らしい妹を痛めつけるのは俺としても気が乗らない。いくら鍛えていても接近戦闘力だけで言えばレイルやマレシスに劣るのだから余計に。それでもここで手心を加えては冒険者として弱点を作る。かつての灰狼君戦やこのまえのファティエナ先輩戦で分かる通り、魔法使いの彼女にも接近戦を生き残る技能は必須だ。


「骨の2、3本は折れるけど、ごめんね」


「む、むぅ……」


 髪と同じハニーブロンドの眉が真ん中に寄る。骨折が冗談じゃないくらい痛いのはエレナもよく知っている。ようやく治ったばかりの手を無意識にさすっているのが証拠だ。

 ああ、気が重い。

 そう思いながら鍛えること自体には確かな楽しみを感じている俺だった。


 ~★~


「ふぁ……あぅ」


『お、お疲れのところ、た、た、た、大変失礼いたします!』


「ん、気にしないで。ただ読書しすぎただけ」


 夜も更けてきたころに俺は普段使っていない方のベッドルームに来ていた。ここですることと言えばたった一つ、『神託』を使って天界とコミュニケーションをとることだ。けどこれは定時連絡じゃない。相手もパリエルではなく、俺のところにいる唯一の戦乙女キュリエルであった。


『そ、それで、お呼び出しのご用件はなんでしょうか。その、パリエルさんからは主がお呼びとしか窺っていませんので、あの、申し訳ありません』


 あいかわらず戦乙女のくせにおどおどした調子の娘である。とはいえ下っ端から最上位神の戦士長にいきなり取り立てられれば、誰だって委縮くらいするかもしれない。ここら辺はきちんと交流を図ってこなかった俺の落ち度でもある。

 今度ミアに頼んで懇親会でも開いてもらおうかな。


「久しく話せていなかったから、直接調子を聞きたかっただけ」


『それは、その、ありがたき幸せです!』


「硬くならなくていい。それで、鍛錬の方はどう?」


 今キュリエルは戦神兄妹の末子テナスが下で修業に励んでいる。戦乙女としての大先輩たちに習って能力を向上させることと、俺の部下として戦闘の技を磨くために。こうして会話をするのが定時連絡とずれたのも、その修業の関係で抜け出せなかったからだ。


『べ、勉強になることばかりで、毎日色々と教えていただいています』


「指導は誰が?」


『ひ、非番の先輩が交代でしてくださっています。たまにですが、その、テナス様御自らが教えてくださることも……』


「セクハラされてない?」


『せっ……!?さ、されてませんです!まったくされてませんです!』


 慌てて否定するのはいいけど、そう繰り返されると邪推したくなってしまう。とかくテナスは可愛い物に目がなく、キュリエルにもご執心なのは既知の事実だし。


「まあ、それならいい。困り事は?」


『……困りごとは、ないです』


 答えまでに一瞬の間が空いた。そのわずかな沈黙を見逃すには、俺は師匠という生き方を長く続けすぎた。すかさず追及の言葉が出ていた。


「困りごとはない。でも悩み事はある。違う?」


『……は、はい』


 言ってからそこまでぐいぐい入っていいものかという疑問が沸く。考えてみれば俺と彼女は今回でまだ2度目の会話で、その性格や性質についてまったくと言っていいほど理解していない。学院での態度からすると今更に見えるかもしれないが、彼女と俺はこじれて困らないような間柄じゃないのだ。

 ……いや、それでもキュリエルは俺が半ば強引に引き入れたんだ。きちんと面倒は見なくては。


「私は君の主であり師。悩み事があるなら話してごらん」


『………………私でいいのでしょうか』


 長めの沈黙のあとにぽつりとキュリエルはそう言った。何にかは聞かなくても分かる。技術神の戦士長という大役に着くのが、と言いたいのだ。戦乙女は神の剣であり盾である。何かあれば神やその眷属である天使を守り戦う。その長とは主に属する全てを守護する立場だ。


「なんでそう思う?」


『な、なんで、ですか……?』


 自分に自信が持てない。そう言ってしまえばそれで終わりだ。しかしそれには理由がある場合とない場合があり、対処方法も微妙に違ってくる。理由があるならそれを理解し、克服する過程で自信を付けさせる。もしないのなら、信じるに足る理由を与えてやればいい。実際はもっと長く難しい道のりだが、つづめて言えばそうなるのだ。


『わ、私より強い戦乙女はいくらもいます。戦士長どころか、その……わ、私ではテナス様の宮殿で稽古をつけてくれる方々の、誰にも勝てません』


「……ん」


『あ、主が下さった聖鎗にも負け続きです』


 天界へそうそう行けない俺の代わりとして、キュリエルには技術を教え込む疑似人格を組み込んだ鎗を渡している。具体的にどういう存在かと言うと、周囲の神力から疑似的な肉体を生み出して師匠代わりを務めるようにしてあるのだ。


『取り立てていただいた日から……実は、誰にも一度も勝てていません』


 今にも泣きだしそうな声でそう告白したキュリエルだったが、聞いている俺は実に困ったと頭を悩ませるしかない。というのも、よくあるパターンであると同時に面倒くさい悩み方をしているのだ。

 一言で言うなら、前提が傲慢だな。


「キュリエル」


『ひゃ、ひゃいっ』


「そもそも、勝てると思う方が間違い」


 勝てるほど実力があるならそもそも戦神の宮殿へ修業に出したりしない。戦神3柱のところには天界でも随一の戦乙女が揃っている。そこで学んで来いと言ったのは勝つためではなく、経験を増やすためなのだ。


「相手に勝とうとしないで。それは今の君に求められていることじゃない。君が勝つべきは一瞬前の自分。前日の己と戦って勝利を収められるなら、それが君にとって勝ったということ」


 修業を他人と比べる者は長続きしない。それゆえに紫伝一刀流、ひいては仰紫流刀技術で他者との勝敗はそこまで重要視されない。勝てない相手は絶対に出てくるし、それを超えんと努力できるものは特に初心者であればそう多くない。だが肩越しに振り返った先にいる昨日の己となら距離を比べられる。進んだかどうかがはっきりと分かる。それにこの考え方は初心者から達人まで、修業の人生を通してずっと使えるのだ。


「次に鎗と戦って勝てないのは当然。気にするだけ無意味」


『そ、そう言われましても……』


「その鎗に宿っているのは私の模造品。10年や20年で追いつかれるなら、キュリエルが技術神になったほうがいい」


『……あ』


 言われてようやく気づいたらしい。教えるための疑似人格とは言ったが、本質的にそれがなんであるかは教えていなかった。神としての俺の外見が青年で、鎗の人格の外見が中年だから気づきにくいのもあるか。アレは俺の道場での記憶を模倣した、いわば基礎的な戦闘訓練を施すことに特化した技術神そのものなのだ。


「もう一度言う。鎗に勝てないのは気にしないでいい」


 他の戦乙女や道具ならまだしも、主である神に勝てないと嘆く戦乙女はいない。なぜなら戦闘を得意とする神で己の戦乙女に負ける者などいないのだから。強い戦乙女というとすぐに浮かぶのはミアの戦士長シェリエルと冥界神の戦士長カディエル。それからミアの転移宮を守る寡黙な彼女もおそらく2人に並ぶ強さのはず。そしてその3人、おそらく束になったところで本気のトーゼスやミアには勝てない。ヴォルネゲアルトは直接会ったことがないので何とも言えないが、その子供であるアルキアルトやヴォーレンでさえいい勝負になるはずだ。

 分かりやすく言うと、ドラゴンに殴り勝てないから俺は弱いとか言いだす人間はいない。そういうことだ。


「キュリエル、そもそも敗北は恥ではない」


『そ、そんな!』


 初めて強い調子で反論しかけるキュリエル。戦うことが全てとされる戦乙女にとって敗北とはそれそのものが大きな意味を持つのかもしれない。だがそれでも俺はあえて言う。


「恥とは敗北から何も学ばないこと」


『……』


「敗北し、学び、その次のステップでまた敗北する。そしてまた学ぶ。勝利が1のことを教えてくれるとしたら、敗北は10教えてくれる。10の勝利と1の敗北は同じ価値を持つ」


 今はいない師の口癖だ。勝利は10の喜びと1の教訓を、敗北は10の教訓だけを与えてくれる。


『そ、それでも……負けるばかりじゃ、その、何も守れないですよ』


「ん。だからこそ今負けることが大事」


『……分かりません』


「今負けて失うものはある?あるとすれば、少しの自信とやる気だけ」


 まさにキュリエルがこの状態だ。もともとなかった自信が敗北ですり減ってしまっている。なにより深刻なのはやる気の方で、師匠の仕事とはその部分を補充してやることだ。


「歯を食いしばって1000回敗北しなさい。そうすればもっと大きな物を失う戦いに負けずに済む」


 俺だって師やライバルたちと戦って数え切れない敗北を喫してきた。そのおかげでエクセララを守ることができたし、長じて神にまでたどり着いたのだ。


「その戦いに勝てば、失った1000回分を超えて余る自信も手に入る」


『……もう少し、頑張ってみます』


 自信のなさには自分でも嫌気がさしていたのか、それともただ言われたから頷いただけなのか。それは分からないが、キュリエルは少し黙考したあとにそう言った。

 今は無理に従うだけでもいい。いずれわかるようになるから、負け惜しむなよ。


 ~★~


 さて、次の朝早く。俺とエレナは冒険者ギルド学院出張所へ足を運んでいた。なぜ朝早くかというと、そろそろ冒険者の資格を持つ生徒たちが外出目当てに依頼を受け始めるから。最近は行く時間帯によって多少人がいるのだ。ギルドとしてはいいことだろうが、俺たちからしたら面倒ごとの種になる。何より列に並んで待つより早めに行ってさっさと用事を済ませる方がいい。


「カレム、おはよ」


「おはようございます、カレムさん」


 窓口にはいつもように昔なじみの事務官カレムが座っていた。それとは別に一人、男性の事務官が箱を抱えて外側に立っている。


「あ、おはようございます」


 にこやかに対応してくれるカレムと違い、外側にいる男性事務官は小さく会釈をするだけだ。見ればまだかなり若いので、もしかすると新人なのかもしれない。そうだとすれば貴族がほとんどの学院に入って緊張しているのか。


「彼はトーマス君、ギルドの連絡員ですよ。下ギルドの所属ですから、実質お2人の専属連絡員です」


 冗談めかしてカレムがそう言った。連絡員というとギルド間での連絡事項や依頼書を持ってくる下級の事務官だ。やっぱり入りたてで、本部から依頼書を運んできたところというわけだな。


「ト、トーマスです」


「ん、アクセラ。所属は下ギルドだから、よろしく」


「わたしはエレナです。よろしくね」


 出張所は上ギルドの管轄なので来る依頼は貴族向けに仕分けがされた物、それも学院の生徒に任せられる安全な内容に絞られている。俺とエレナだけ下ギルド所属なので、トーマスが持ってくる依頼はほとんど俺たちに提供するためのものだ。もちろん下ギルドでも同時掲載しているので受けるかどうかはこちらが決めていいわけだが。

 あ、レイルも下ギルド所属か。当分関係ないけど。

 彼の依頼はしばらくこっちで選ばせてもらうことになっている。それを含めての教導だ。


「えっと、ここにサインを」


「はいはい……これでよしと。ご苦労様、トーマス君」


「し、失礼します」


 箱を置いた彼はそそくさと帰っていった。最後にちらっと俺たちを見て顔を赤くしたのは、まあ触れないでおこう。


「さーて、お2人にオススメできる依頼はあるかしら。今日はどういった依頼をお望みですか?」


「野外活動ができる依頼。出たついでに杖を試したい」


「なるほど……それなら上ギルドからの物はアウトですね」


 トーマスが持ってきたのとは違う箱、上ギルドからの今日の依頼は既に開けられて仕分けられていた。そこには王都に行く依頼しかないという。


「下ギルドから来る依頼は基本的に外での活動ですけど、報酬や内容が微妙な物が多いんですよね」


 もともと王都近郊は危険な生物が少なく、ギルド所属者も多いので余る仕事がそうない。特にボリュームゾーンであるCランクになるとその傾向は顕著だ。結果的に回ってくるのは嫌がられて残ることの多い依頼になる。


「あ」


「ん?」


「あー……」


 新しい箱の中身を確認していたカレムが、眉根を寄せてうめき声を上げた。その手には一枚の依頼書。


「どうしたんですか?」


「いえ、この依頼なんですけど」


 遠慮がちにカウンターに置かれた依頼書へと俺たちは視線を移す。行方不明のGランク冒険者捜索願いだ。依頼書に付属している要項をカレムが読み上げてくれた。薬草採取の依頼に出かけたGランクの孤児が3日経っても戻ってこない。一帯の孤児を管理している教会からそんな相談が来たことが発端となっているらしい。驚いたことに依頼主はギルドとなっている。


「ギルドとしては本来冒険者であっても失踪人の捜索を依頼することはないんですが」


 根無し草も多い冒険者だ。いちいちそんな依頼を出していたらそれだけで大仕事になってしまう。


「失踪は依頼の最中であり、何があったのかを確認する義務がギルドにはあります」


 Gランクの孤児ではふらりとどこかへ行ってしまえるような実力もコネもない。十中八九なにかの問題に巻き込まれたと推測できる。また依頼で出かけた場所は子供の足で往復できる場所、つまり王都のすぐ外だ。今後も同じような依頼を仲介する以上は安全確認をしておく必要があった。


「そういった事情での依頼ですので……」


 仕方なくギルドが出している依頼、報酬がいいはずもなかった。そもそもC

ランクに回ってくるような依頼とは思えない。


「これ、Eランクだけど」


「一応戦闘力がないと話にならないとのことで、Eランクからとされています。今回は特殊な状況であることも踏まえ、上限はないそうですから……」


 要は依頼を選り好みせず日銭稼ぎに四苦八苦していないパーティに向けて、無差別にとりあえず受けてくれという依頼なのだ。


「アクセラちゃんはどう思う?」


「受ける」


 どうせ魔法の試射がしたいだけだ。手掛かりが見つかるにしろ見つからないにしろ、帰り際に杖の使い勝手を確認してしまえばこちらの目的は達成できる。それにいくら金欠といっても生活はかかっていないのだ、うちのようなパーティが率先して受けるべきだろう。


「あ、ありがとうございます!」


 早速受諾の処理をするカレムに俺たちはカードを手渡した。細かい傷が目立つそれを端末に読ませた彼女は、依頼書にサインをして渡してくれると同時にこんな話を始めた。


「お2人の依頼ですが、あと3件でBランクへの昇格権利が発生します。昇格試験を受けるかどうかを考えておいてくださいね」


 Bランクへの昇格試験か……。

 Cランクになってからもうかなりになる。受けてきた依頼は多く、達成できなかったものはほとんどない。もとから信頼度についてはマザー・ドウェイラの裏書が担保してくれる。そう考えるとようやくという気もする。なにはともあれ、俺とエレナは揃って決断をしなければならないというわけだ。

 Bランクに上がれば、無名じゃいられないからな。


「では、いってらっしゃいませ」


「ん」


 あとで話し合うべきことができたが、今は依頼をこなすために準備をしなくては。カレムに礼を言ってから、寮で装備を整えるために一旦俺たちは戻った。


見える人には見えるはずです。

ここに、います。

回収されるはずのまま回収されなかった、

報われない伏線の怨念が。


~予告~

地の底へ、深く、深く。

ほの白い支配者の待つ場所へ。

次回、骨塚の戸口

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