六章 第11話 杖と魔道具 ★
「いらっしゃいませ!」
色ガラスがたっぷり使われた瀟洒な扉を潜ると、着飾った少年が元気に出迎えてくれた。見える範囲には部屋を埋め尽くすほど展示ケースや棚がおかれ、大小の棒が客に己を主張している。それらは全て魔法使いのメインウェポン、魔法杖だ。
「学院の生徒さんですね!新しい杖をお求めですか、それともメンテナンスでしょうか?」
溌剌とした様子で話しかけてくれる少年には悪いが俺たちはそのどちらでもない。ここは王都でも珍しい魔法杖専門店だが、今回の目的は店頭にある品物じゃない。
「杖職人のオリバーさんはいますか?」
「大先生にお客様ですか?失礼ですが、紹介状はお持ちですか?」
エレナの用事なので今回矢面に立つのは彼女自身だ。よくある申し出なのか苦みを含んだ少年の質問に、彼女はそっと一枚の手紙を取り出して渡した。レメナ爺さんが屋敷に戻ってこないと手紙で知らせてきたときに同封されていたものだ。この魔法杖専門店を経営する職人オリバー・ナイン氏への紹介状だ。
「これは……少々お待ちください!」
紹介状を受け取った少年は慌てて奥へ下がった。レメナ爺さんが己の名前と身分を隠すことなく書いてくれたものなので、その効力は店番の弟子にもしっかり発揮されたようだ
「アクセラちゃん、すっごい綺麗な杖があるよ」
「ん、どれ?」
壁の棚を見ながらエレナが指さしたのは水晶にダンジョンクリスタルをはめ込んだ不思議な杖だった。ただし大きさは拳2つ半ほどで室内向けなのが分かる。今日ここへ来たのは決闘で破壊されたエレナの杖を新調するため、つまり大杖である。
いや、室内杖も新調しないとだめだった。
そう思って少し真剣にケースの中をのぞいていると、店の奥からのそのそと1人の老人が出てきた。傍らには店番の少年がいる。状況からみてこの男が杖職人オリバーだろう。
「あ、オリバーさんですか?」
「そうだが……お前さんらがレメナの寄越した客か?」
「ん、紹介状に書いてある通り」
とはいうものの、どんなことが中に書いてあったのかはよく知らない。
「ふーむ。もっとグラマーな娘を期待しとったのに」
一発目からナニ言ってるの、この爺。
ぼさぼさの長い白髭を扱きながら無遠慮に俺とエレナを見てくる。手と胸を重点的に。手はおそらく魔法の習熟度だろうが、胸を見る理由はあまり知りたくない。
「そっちの娘は将来が楽しみだわ。こっちのは……まあ、ええか」
おいこら、エレナは楽しみで俺はノーコメントって、魔法の話だよな?
どうやらこの杖職人はとんだエロ爺らしい。本当にエレナを任せていいのか一気に心配になってきた。雷嵐の賢者のお墨付きだから、腕に不安はないんだけど……。
「レメナが書いてよこした娘は金色の、お前だな?」
「えっと、今日お願いしたいのはわたしですけど……」
「そっちの白い方は嫌だ。わしは自分の気に入った相手にしか杖を作らんのだ」
「ちょ、大先生!」
「どうしてもというならうちの弟子に頼むんだな」
弟子と思しき少年が慌てて止めるも、取り付く島もないといった様子で言いきった老人はそのまま奥に引っ込んでしまった。その様子にエレナも少しむっとしたようだが、俺は別に気にしない。
「たしかに魔法がメインじゃない。エレナ、作ってもらっておいで」
「でも……」
「いいから」
渋る妹の背中を押して店の奥に向かわせる。今日は折角ギルドの依頼にかこつけて王都まで出てきたのだ。ちゃんと用事を済ませなければ。具体的には今後使う、本格的な杖を準備しなければいけない。
向こう数年間の冒険と戦いを任せる相棒をね。
「むぅ……じゃあ、行ってくるね」
今回の用事の重大さは彼女が一番分かっている。エレナほどの魔法使いでも杖があるのとないのでは制御や収束に大きな違いが出てくるのだから。特に事前に教えてくれた杖の構想を考えると、作る機会を逃すのは大きな損失と言える。
「行ってらっしゃい」
工房に続く扉へ消える彼女を見送って、俺は残された弟子の少年に視線を向ける。
「ほ、本当に失礼しました。大先生は尊敬すべき魔法杖設計者ですが、少々偏屈でして……」
「気にしないで。実際私は魔法剣士、魔法使いじゃない」
「魔法剣士ですか……?」
王都でも魔法剣士というスタイルは珍しい。結局のところ、剣か魔法のどちらかを補助に回す方が安定するから。かくいう俺も普段は魔法を補助にする剣士スタイルだ。ただ魔法を纏わせた剣戟を頻用するし、剣の間合いでないなら魔法使いとして戦う。
「だから室内杖を買いたい」
「あ、わかりました!」
不思議そうに首を傾げていた少年はにこやかな店員の顔に戻って、俺を室内杖の棚の1つに案内する。頑丈そうな木製の杖が主体になる。
「冒険者の方にはここら辺がオススメです。金属製より軽くて強度もそこそこありますから。失礼ですが属性は?」
杖にも適正というものがある。材質や使われているクリスタル、あるいはかけられた付与魔法の効果だ。
「火と光と闇」
「さ、三属性ですか。主にどれを使う予定ですか?」
主に……主には火だろうか?
とはいえ火魔法は杖で使用する状況が少ない。剣と併用するならもちろん、中距離程度なら体に組み込んだ魔術回路で火焔魔術として使用する。そう考えると光か闇なんだが、どちらもあまり使わない。
杖の意味から考えて……。
光魔法はスキルを使わない場合かなり難しい。なにせ凄まじい速度で突き進む光に干渉してその向きを弄るのだから、コントロールとイメージのしにくさはダントツだ。だが闇魔法も暗闇や夢を媒介にするので、操作をミスすると重大な問題を起こしかねない。相手を眠らせるだけの魔法ならまだしも、悪夢を見せる魔法でミスをすると起きていても夢に付き纏われたりする。
「光と闇を見せて。気に入った方を買う」
「わかりました」
結局そういうことにした。初めての補助魔導具を選んだときも、最後は性能の方向性を比べたのだし。ちなみにあのとき買ってもらった髪飾りは今でもたまに使っている。といっても完全に髪留めとしてであり、効果に期待して装備したことはないままだ。
「ん、材質は木でなくてもいい」
最初に見た水晶製は困るけど。
「それでしたら……ここらへんですね。少々お待ちください」
端っこに置いてあった移動梯子を持ってきた少年は慣れた様子でするすると昇っていく。そして棚の色々な場所に置いてある杖を持って来て、丁度いい高さのショーケースの上に並べていく。
「こちらはニワトコの古木に光のクリスタルをはめ込んだ物です。こちらはイチイに闇のクリスタル」
順々に並べた杖を説明しだす少年。言われるままにその性質を比べて選択肢を削っていく。といってもやはり光や闇のクリスタルは珍しいので、並べられた杖はそこまで多くない。いや、王都で一番の魔法杖屋なのだからこれでも多い方か。
「これとこれは外して」
「はい。あ、一応火のオススメも持ってきますね」
「ん」
意外と商売上手な少年に追加の商品を任せ、俺は自分の新しい杖を探すのだった。
~★~
「ありがとうとございました!」
少年に見送られて俺たちは杖屋を後にする。エレナと杖職人オリバーの話し合いは長く、もう昼食の時間をややすぎていた。このあとは入学式前に行くつもりだったとある店に寄るつもりだったが、先に昼ご飯を食べたい感じだ。
「どこで食べようか?」
「ん、そこの食堂は?」
とりあえず視界に入った食堂を指さしてみる。人の入りが多いので不味くはないはずだ。外には山羊をさかさまに火へとかける絵柄の看板が出ている。
「塩山羊亭……なんかヤギ料理ばっかり出てきそう」
「ふふ、たしかに」
そんなことを言いながら俺たちはその食堂に入る。年季の入った木造の店内には大柄な肉体労働者を中心に8割ほどを埋める客がいた。しかしほとんどが常連なのか、驚いたような視線が集まる。いちいち気にしていては王都で生活できないので無視して席につく。
「ご、ご注文をどうぞ!」
緊張した面持ちの少女が注文を取りに来てくれる。特殊な髪色で貴族とわかるのか、それとも帯刀しているからか、とにかく彼女の緊張具合はかなりのものだ。まだ12歳くらいの子供が相手だと少し申し訳なくなる。
「オススメは?」
「オ、オススメですか……えっと、塩山羊定食です。山羊肉のつけ焼きとパン2つで800クロムです」
結構な値段だな。とはいえ安宿の夕飯の倍だから、庶民の食堂とはいえ王都ならそれくらいなのか。
にして山羊か、やっぱり。
「私はそれにする」
「うん、わたしも同じので」
「あと果実水2つ」
「は、はい!」
特にトラブルもなく注文を取れてほっとしたのか、少女はニッコリ笑って厨房の方へと走っていった。心なしか周りの空気も緩んだような気がする。貴族の間じゃオルクスとして、庶民の間じゃ貴族として、どこに行っても警戒されるのはさすがに少し疲れる。
「この後は予定通り?」
「ん、そのつもり」
応えながら俺は鞄から箱を取り出す。さっき買った杖だ。ベルトから今まで使っていた銀の杖を抜いてテーブルの上に並べる。
「買ったんだ?」
「ん」
エレナの全力に彼女の室内杖は耐えられなかった。おそらく俺の全力にも無理だろう。そうなると咄嗟の時に困るので、名残惜しくはあるが交換することにしたのだ。
「魔力容量の大きいのにした」
箱から取り出したのは真っ白な木製の杖。手に馴染む柔らかい木肌と白の濃淡で刻まれた木目が気に入っている。見える所にクリスタルははまっていない。芯として埋め込まれているのだ
「綺麗な杖だね」
「シンプルでしょ」
「うん、似合うと思う」
こんな色なのにクリスタルは闇。補助効果が魔力のストックという珍しいものだったので、悩んだ結果こちらを選んだ。他にも面白い杖が売っていたので覗くだけでも楽しい店だったな。
「今後はそっちをメインにするの?」
「ん、私の杖もだいぶガタが来たから」
エレナのように咄嗟の魔力量で杖を破裂させるようなことは多分ない。ただ使いこんだそれはかなり傷んできている。何かあってからじゃ困るし、うっかりじゃなくわざとでも全力を注ぎこめないのは問題だ。
「今度使ってみようか」
「たぶんすぐに機会があるはず」
ベルトの定位置に白い杖を差し込み、銀色の杖を箱に収める。
そろそろレイルを冒険に連れて行きたいからね。
「お、お待たせしました!」
杖を入れ替え終わってからしばらく話をしていると、注文をとってくれたのと同じ少女が料理を運んできた。鉄板の上には大振りな肉と人参のスライス、脇に大人の拳ほどのパンが2つ。肉は玉ねぎかなにかのタレに付け込んであるようだ。値段だけあって結構なボリュームである。
「ありがと」
果実水も揃ってから俺とエレナはナイフとフォークを取る。じゅうじゅうと音を立てる鉄板からは甘い脂と玉ねぎの匂いがしていた。
「さ、いただきます」
「いただきます!」
貴族以下、平民以上のテーブルマナーで俺たちは昼飯に手を付けた。
~★~
昼を食べ終えた俺とエレナがたどり着いたのは王都の中でも庶民に向けて開かれている商店街、その一番賑わう区画に設けられた一軒の店だ。まだ開店してから長くないのか、塗装も傷一つない美しい状態。掲げられた看板には杖に停まる椋鳥の紋章と飾り文字で店名が刻まれている。
「ようやく来れた」
「だね」
ここはリオリー宝飾店の姉妹店、リオリー魔法店の一号店だ。
「店構えはとてもいい」
「うん」
全体は木造で、空のような明るい青色に塗装されている。前面は透明度の高い高価なガラスを使ったショウウィンドウ。中には売り物を中心に見栄えのする小物がいくつかと、雰囲気要員の骨董品が展示されている。これだけなら珍しい物を揃えた雑貨屋のようだが、ショウウィンドウの奥には不思議な布がかけられていた。布、というよりは大きな旗だろうか。
マイルズ……。
それを見て俺は嬉しいような恥ずかしいような、なんとも言えない気分になる。というのも、その布は若紫に染められたシルクの生地に真鍮色の糸で俺の紋章が描かれた代物だったのだ。本の上に刀と金槌と稲穂が交差して置かれたその図案を使う店は、少なくともユーレントハイムにここだけだろう。技術神エクセルの聖印を掲げるということは技術を扱っていると主張することでもある。
ただこれ、エクセララで認可してもらわないといけないとかないよね?
もしそうであってもここで扱っている物を見せて改めて認可を得ればいいだけか。
「よし、入ろ」
「ちょっと緊張するね……」
自分の発明品が商品として並べられている。そう思えばエレナの緊張も理解できる。どんな反応をするだろうかと思いながら、俺は彼女の手を握って店の入り口を潜った。
「わぁ……」
そこは外から見た印象と同じで、庶民向けとしてはいささか小洒落すぎな雑貨屋風だった。壁際と真ん中に合計で4つの棚があり、そこに商品の見本が狭苦しく見えないように置いてある。客はそれを見て店員に質問をしたり購入を頼んだりするわけだ。魔法店で扱う物は1個でもそこそこの値段がするため、こうした防犯対策はしっかりしているらしい。
「いらっしゃいませ!」
「ようこそリオリー魔法店へ。ゆっくりご覧ください」
俺たちを出迎えてくれたのは2人の店員。片方は元気のいい女性で、人好きのする笑顔を浮かべている。もう片方は落ち着いた雰囲気の女性で1人目より少し年が若そう。両者共に金色の髪だが、一房だけ青が混じっていた。
「先にちょっと見てみよ」
「そ、そうだね」
俺はとりあえず一番近い棚に視線を移す。そこは一番目に入りやすい列であり、俺が最初に作った魔力カートリッジがいくつも展示してあった。製品版のそれは金色っぽい金属の筒で、両側が緩やかな円錐形になっていた。よく見れば片側の円錐が蓋の役割もしているのか継ぎ目が見える。それに筒本体の側面には円錐同士をつなぐように盛り上がりが何筋か作られていた。魔力を通す導線が増やされたことで試作品より高い伝導率を叩きだしているのだ。加えて魔道具に同じ形の溝を切っておけば入れる向きを間違えてねじ込むということもなくなる。ここら辺の工夫はエレナが思いついて、マイルズがお抱えの職人に再現させたものだ。
「アクセラちゃん、これこれ」
エレナが指さす先にはカートリッジの説明が書かれた張り紙が数枚。効率がいいことやコストが低いことを文字で記したものもあれば、絵でカートリッジと魔石が何個で釣り合うのかを描いたものもある。文字が読めない客にも分かりやすくしてあるのだ。
「うまい工夫」
素直に感心する。
「あ、カートリッジ対応魔道具のカタログだ」
カートリッジの横には一般的な魔道具を改造してカートリッジ対応にした物の一覧が置いてあった。いままでの魔道具を下取りするとも書かれており、買い替えた方が魔石代とカートリッジの差額分お得になるよう価格設定がされている。2回目以降のカートリッジは充填した物と空の物を交換することで普通に買うより安く提供するようだ。
予定とそこまで乖離していないようでなにより。
「そちらの商品にご興味が?」
しばらくカートリッジ関係を見ていると、大人しそうな方の店員が俺たちに近づいてきた。微笑を浮かべているがその目は侮れない商売人のソレ。まだ若いのに面白い人材をマイルズは使ってくるな。
「ん、ちょっと顔見せに来ただけ」
「顔見せ、ですか?」
いぶかし気な顔で店員はとりあえず俺たちを奥のテーブルに誘った。そこは会計用のカウンターの横で、まとまった商談なんかもできるような場所なのだろう。この規模の店だと別に応接室を作るということはできない。二階は彼女たちの住処だろうし、裏は商品の在庫をおいてあるのだろうから。
「イレージア?」
「このお客様が顔見せでいらっしゃったと」
「顔見せですか?」
こちらを見て首を傾げるもう1人の店員。こうして並んで同じ表情を浮かべると分かるが、彼女たちは姉妹のようだ。
「私たち、一応リオリー魔法店の職員」
「「……どういうことですか?」」
完全に一致した問いかけに懐から出したカードを見せる。白い金属にいくらかの情報が彫り込まれたそれはリオリー魔法店の職員である証明、マイルズが発行してくれた正式な物だ。とはいえこれも偽装のかかった代物である。エレナも同じものを差し出す。
「アクセラ=ラナ=オルクスとエレナ=ラナ=マクミレッツ、リオリー魔法店専属テスター……?」
「ん」
リオリー魔法店での俺たちの正式な身分は商品開発部開発主任アクシア=レノンと商品開発部研究主任エレノア=レノンとなっている。これは開発者が俺やエレナだと知られればブランド力にマイナスの影響が出ることと、面倒なしがらみができることを回避するためにマイルズと決めたこと。さらに偽装をかけているのは俺たちという生の情報と偽の身分を繋げられないようにするためだ。面倒と言えば面倒だけど、念押しはしておいた方がなにかといい。
「それとこれ」
ついで銅色のギルドカードを出す。
「Cランク!その歳で……いや、失礼しました」
「別にいい」
いつも通りのやりとりを交わしてから本題に入る。
「私とエレナは魔道具のテスター。商品化前の物を試すよう、マイルズから雇われてる」
「そうだったのですね……確かにリオリー宝飾店でも使っていた社員証ですし、ギルドカードの情報とも合致します」
「じゃあ念願の同僚だね!」
あっさりと敬語を放棄した推定姉の店員。しかしようやくの同僚ということは、ここはこの2人で切り盛りしているのか。あれだけ力を入れていたマイルズ本人がいないことを含め、いくつか不審な点がある。
「ああ、それはですね」
敬語がデフォルトらしい推定妹の店員、イレージア曰く予定が狂ってしまっているのだと。王都には上流階級向けの店をもっと壁の内側にもう1店舗用意しているのだが、開店直前で同業者から横やりを入れられてしまった。そのせいでマイルズを含め多くの従業員が宙ぶらりんの状態になり、開店までは経費削減のために王都入りを延期している。
「なるほど。しばらく、よろしく」
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ!あ、私はテレージア=マトロキンね。一応こっちのお店の店長だから、困ったらなんでも言ってね」
「私はイレージア=マトロキンです。テレージアの妹で副店長ということになるかと」
挨拶を終えた俺たちは少し店の現状について話し合う。具体的には客がどれくらいくるか、何を買っていくか、試作品のやり取りの中継地点としてここが使えるかなどだ。彼女たちには開発室から試作品を送ってもらい、俺たちが使ってから評価と試作品を送り返すと説明した。実際には俺たちが試作品を送って向こうに製品モデルを送ってもらうわけだが。
「緊急の連絡があるときはギルドを通して。すぐに伝わるはず」
この件は下ギルドのギルマスに手紙で伝えてある。本来は手紙を送るのに手数料がかかるところ、下ギルドと学院出張所の間だけ無料で配達をしてくれるよう手配してもらった。先日のゴタゴタの詫びとしては妥当な我儘だったようで、あちらからは喜んで承諾するという返事が来た。出し惜しみも大事だけど、小さい借りは小さいことで返してもらうものだ。
「それと、カートリッジと魔道具をいくつか買いたい」
忘れる前にと話が一段落したところで言う。
「ご自宅用ですか、贈答用ですか?」
テレージアがカタログをテーブルの下から取り出す傍ら、イレージアが商売モードに変わって尋ねる。
「自宅用でいい」
より正確には布教用だ。
社員割で少し安く買えるのだ、しっかり買って帰って知り合いに見せよう。技術の布教と商品の宣伝が両方できて俺には得しかない。金銭的にはやや負担ではある。それでも布教は俺の使命だからな。
積み重ねだよ、要は。




