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テスト

 キーンコーンカーンコーン。


教室のスピーカーから確かに聞こえた。今からテストが始まる音だ。

その音を聞いた途端にクラス中が持っていたプリントを次々と裏返し、名前を書き始める。中には名前を書かずにそのまま始めてしまう者も居る。

第二学期、期末テスト。今日行うテストの範囲は数学、理科、そして音楽だ。

昨日は5時からはじめ、10時までやったのでざっと勉強時間は5時間程度だろう。しかし、その5時間はただの5時間ではない。テストで高得点をとるための濃密な5時間だ。

中学3年生の二学期の期末テストというのは高校へ入るための成績を決める大事なものだ。ここでつまづいて点を落としてしまったら僕は志望校に入れない。しかし、入れないのは志望校だ。別に高校に入れるのだったらどこだっていい。バカな高校は嫌だが。


おっと、そんなことを考えていたらもう5分経ってしまった。テストのときの時間の速さといえば異常なものだ。問題を全て解く前に終わりの音が鳴り響くのだから。

どうせ時間が早く過ぎるのなら、大好きなRPGゲームをやっているときに過ぎて欲しいものだ。いや、むしろ退屈な授業な時間の体感時間とゲームをするときの体感時間を入れ替えて欲しいものだ。

わけのわからないことを考える前に、さっさとテストを終わらしてしまおう。


さて、今日の最初のテストは数学だ。授業でやった範囲は2次関数だ。まったく、こんな線を描く時が人生で来るのだろうか?あったとしても1、2回あるかどうかだ。いや、むしろ無いかもしれない。だって僕の夢は通訳者になることなのだから。

そんな文句を言ったって仕方が無い。やらなければいけないのだ。

まずは第一問。「y=○x²…○に入る英字を入れなさい。」

なんだこの問題は。簡単すぎる。バカにしているのか。

…まぁ先生のサービス問題といったところだろう。あまりのバカが少しは点数を取れるようにするための。

しかし、こんな簡単な問題を解けないバカは居るのだろうか?


…いるな。

ちょうど僕の後ろの席の坂本くん。彼はテストで10点台は当たり前。最悪で0点なんてこともあるほどのバカだ。おそらく学年ワースト3には入るぐらいの。

彼がバカだという証拠は数え切れないぐらいある。九九は3段目からもう言えない。さらに驚くべきことは、足し算や引き算の筆算ができないということだ。ここまでくるとまったく手に負えない。

しかし、彼はバカだが人は良く、悪口を言っているところは一度も見たことが無いし、噂に聞いたことも無い。だれかれ構わず話しかけ、すぐに仲良くなる。そんな部分は僕も見習いたいものだ。僕なんてすぐにデリカシーの無いことを言って女友達がすぐに離れていく。


さて、1問目を解いたぞ。頭で考えていたせいで2分ぐらいさらに無駄にしてしまった。どうも悪い癖だ。考えてばかりいて大事な時間を失ってしまう。

では第二問。「y=3x²のグラフを描け。」

難しいか簡単かで言われると簡単だ。しかし、簡単な問題でもケアレスミスをしてしまえば間違えてしまうだろう。人間である以上、それは避けて通れない。

でも、野本くんならそんなことはしないだろう。


野本くんは昔から知っている。小学生の頃からの友達だ。席は同じラインで窓際だ。

彼は坂本くんとは間逆でとんでもなく頭が良い。高校の問題も解けるんじゃないだろうか。

そんな彼は前回のテストでは上から…いや、そんな言い方をしなくてもいいだろう。彼は一番だ。なにせテストで100点をとったのだから。

0点なら小学校のときに1回はとっていたであろう。しかし、今では0点をとるというイメージは彼に無い。もしも0点をとったらこの学校は翌年には廃校となるだろう。毎回90点台。100点は単元テストも含めて5回に1回はとっているのではないだろうか。坂本くんほどではないが、人当たりも良くて友達も多い。もちろんその友達の一人に僕も入っている。

…彼を中心としたグループではなく、僕を中心としたグループを一度は作ってみたいものだ。


二問目終了。やっぱり今回も考えてしまった。それでも問題を解いてしまう僕はひょっとしたら天才の部類に入るのではないだろうか。前回の成績も悪くは無い。上から数えたほうが早かったし。

それでは三問目へといこう。第三問「次の放物線の式を求めよ。“点(3.5)(6.8)”」

やり方がわからなければ難しい問題だろう。だが僕はやり方を知っている。やり方さえわかれば簡単な問題だろう。恐らく、美恵ならもう解いているだろう。


光田美恵。ちょうど野本と僕の間の席に座っている女の子だ。考えるだけでも恥ずかしいが、実を言うと美恵のことが好きだ。だって幼馴染だし。

幼稚園の頃からの付き合いで、よく家族で遊園地に行っていた。今でもたまに遊ぶ仲。友達としたら一番の親友といったところだろうか。好きになったのは小学校高学年のころ。ふと見せた笑顔に惚れた。

良い部分をあげるとすれば、やっぱり美人だしかわいい。身長は自分より3cmほど小さい。つまり丁度良い。他にもあげたいが、恥ずかしくなってくるのでやめておこう。

逆に悪い部分は、頭が少し悪いところとか、少しおてんばなところだろうか。むしろそこが良いと僕は思う。

勉強で分からないところをたまに僕が教えることがある。そんな時が一番楽しくて嬉しいときだ。できることならもっとバカになったって構わないのだが、坂本くんほどに悪くなられたら手に負えなくなるだろう。何事もほどほどが大事だ。


そんなことを考えているうちに第三問は解き終わった。ふと時計を見ると、始まってもう20分経っているじゃないか。

まずい。まだたったの三問だ。とはいっても小問ではなく大問だ。小問だったら既に諦めていることだろう。テストが終わるまでのタイムリミットはあと30分。残された大問はあと三問。早く解かなければ。


第四問「3≦x≦32の変域を求めなさい。」


問題を聞いた途端に冷や汗が出た。

「まずい、こんとき休んでたぞ…」

つい小声が出てしまい、先生がこちらを向いた。「静かにしろ」とは言わなかったが。

変域の部分は前から苦手で、解いて合っていた事は五回もない。しかも二次関数の変域のところをやっていたときは丁度休んでしまっていた。完璧主義であり、負けず嫌いの僕はこの問題を解くために問題用紙の余ったスペースにたくさん式を書いた。間違っていればすぐに消すので、プリントの素の色は白というより、もうグレーになっていた。


 キーンコーンカーンコーン。


動かさなければいけない手は、この音を聞いた途端に止まり、手からシャーペンが落ちた。

結局、変域の問題を解くことはできなかった。ここに時間をかけすぎたせいで、大問五と六を解くことができなかった。後の問題の方が驚くほどに簡単だったのに。

口はぽかーんと開き、プリントをじっと見つめていた。ちらりと見えた野本の解答用紙は空白無く書けていた。美恵のプリントはわずかに空白があるだけで、ほとんど埋まっていた。それが合っているかは返されるまで分からないが。

大問三までの点数は最高で50点。変域までの問題は全て解答した。せめてすべて合っていてくれ。すべて合っていれば、僕にとっては100点のようなものだ。

少しポジティブに考えてみたが、すぐに思考は再びネガティブへと移り変わった。

何故なら、後ろから回ってきた坂本の解答用紙は変域のところをしっかりと書き込んでいたからだ。


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