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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

これは、私の宣戦布告

作者: 一希

 パーティー会場から少し離れた、月明かりとわずかな照明に照らされた鮮やかな花が咲く庭園で待っていると、リリーはすぐに来てくれた。夜に染められ少し青みがかって見える白のドレスは肩甲骨の辺りまでの桜色の髪と、よく感情を表す紅い瞳のリリーによく似合っていてドキドキしてしまうくらい可愛らしい。


「あ、あの何かご用でしょうか、アレイシア様」


 リリーは何故自分が公爵令嬢である私に呼び出されたのかが分からないからかだろう、先ほどから僅かに震えている。まあ、今まで関わりなんてなかったのだからしょうがないのだけど、私がリリーに怖がられているこの状況は少し傷つく。


「そんなに怖がらないで、リリー。私が貴方を呼んだのは貴方と一緒にお話したかったからですわ」

「お話し、ですか? 私は学院に入ったばかりですし、何かした覚えもありませんけど……」

「ふふっ、まあこの姿じゃ分からないわよね」


 そう、私はリリーが大好きでもリリーからすれば私、アレイシア・フォルティリアはほとんど初対面なのだ。だから、リリーが私に気づいてくれるようにいつもの魔法を使う。


『夢幻の力よ、偽りの力よ。私が望むは仮初めの姿。ほんの一時の間だけ、私の姿を覆い隠してくださいな』


 魔法の言葉を唱えるにつれ私の姿が変わっていく。ゆるく波打っていた、腰まであった銀髪は肩より少し下までの亜麻色の髪へ。女性にしては高めの身長は平均的な身長であるリリーより少し小柄なくらいに。公爵令嬢の名にふさわしい美しい薄水色のドレスは、多少裕福な商人の娘が着てそうなクリーム色のワンピースへ。


「ふふっ。これなら分かるかしら、リリー?」


 リリーは本当に驚いているらしく、口をぽかんと可愛らしくあけて、薄いピンクの髪に良く似合うルビーの瞳を大きく見開いている。


「あ、アリス⁉︎ ってあ、アリスってアレイシア様だったんですか⁉︎ えっ、じゃあ私今までアレイシア様にあんなに馴れ馴れしく……」


 リリーはいままでアリスでいた時の私との会話を思い出したらしく徐々に顔から血の気が引いてきていたので、落ち着かせるためにリリーの柔らかな体を抱きしめてあげる。


「落ち着いて、リリー。いままで黙っててごめんなさいね。今日私がここに貴方を呼んだのはこのことを知って欲しかったのよ。せっかく同じ学院には入れたのだから、もっと貴方とお話ししたくて。だから、私に対してはアリスの時みたいに普通に話してくださいな。リリーにアレイシア様、なんて他人行儀に話しかけられたら悲しいわ」

「で、でも私とアレイシア様じゃ身分が違いすぎますし、今まで通りなんて」

「まあ、流石に人前では無理は言わないわよ。ただ二人きりの時は私はアリスって呼んで? 私はリリーともっと仲良くなりたいもの」

「え、あ、うん。分かったよ、アリス」

「ありがと、リリー」


 そう言って、私は抱きしめていたリリーから離れつつ、偽装の魔法を解く。


「これからもよろしくね、リリー」


 リリーと本物の姿で会って話せることが嬉しくて、そう笑いかけたのだけど。


「は、はい。あ、アレイシア様」

「アリス」

「う、だってさっきまでは見慣れた姿だったからまだ普通に話せたけど、その見た目だとまさに公爵令嬢さまーって感じで畏れ多くて」

「駄目、アリス」

「う、うん。よろしくねアリス」

「よろしい」

「でも、どうして今まで私と一緒にいてくれたの? アリスって公爵令嬢さまなんだよね? 今でも子爵と公爵じゃ全然釣り合ってないけど、平民だった私と関わるなんてありえないと思うんだけど」


 リリーの疑問は最もだと思う。今でこそリリーは珍しい平民の、それもかなり強い魔力持ちだと分かって貴族の養子となったが出会った時はリリーは本当に普通の平民だったのだ。一方で私は奇跡の子なんて言われてる、この国で最も力ある貴族、フォルティリア家の長女である。普通ならどう考えても身分が釣り合っていないし、話すことすら許されないだろう。


「リリーは私と初めて会った時のこと、覚えてる?」

「初めて会った時? 確か、アリスが市民街の公園の長椅子に座って泣いてたんだよね」

「ええ、私は生まれつき魔力が多かったし、それに公爵家長女として色々と嫌なことが多くてね。魔力もよく暴走させていたからあの時は本当に生きてることが辛かったのよ」


 一般に魔力は属性が多く、また量が多くなるほど安定させるのが難しくなる。だからか、普通は2つ、3つと属性を持つ人は自然と魔力量が少ない傾向にある。ただ、何故か私は光以外の全属性、つまり火水風土に闇の5属性を持ちながらも他人と比べて非常識なほどに多い魔力を持って生まれた。せめて光も持って生まれてくれたら逆に完全に調和がとれることで安定しただろうけど。とにかく、そんな極端に不安定な魔力を持って生まれた私は少し感情を揺らすだけで体調を崩し、泣いたり怒ったりすれば周囲のものを傷つけ、壊した。だから私は家族と話せることもほとんどなく、使用人からも常に距離を置かれていた。それでも公爵家として常に礼儀と勉学は学ばされて、私は常に孤独感と苦痛に苛まれていた。

 それで8つになるかならないかといった時に偶然偽装や隠密に関する魔法が書かれた書物を見つけ、姿を隠し、物語で読んだ女の子の姿を真似、家から逃げ出したのだ。そのまま貴族街から逃げ出したは良いものの、走り続けた足は棒のようだったし逃げてから帰り道が分からないことに気がついた。そしたら急に怖くなって、たまたま近くにあった公園で膝を抱えて泣いていた。その時にリリーと出会ったのだ。


「あのとき、リリーがどうしたのっ大丈夫って初対面の私を抱きしめてくれたでしょう? 当時私が魔力暴走を起こして泣いてるときに近づいてくる人なんていなかったからびっくりしたのよ?」


 普通、魔力暴走を起こした人に近づくなんて魔力の弱い人はただでは済まない。リリーは私と同じで強い魔力を持っていたのと、私に欠けている光属性を持っていたので私の漏れ出した魔力と混ざり自然と調和され暴走が収まったのだと、今なら分かる。でも、当時の私にとっては何故リリーが私に近づけたのかが分からなかったし、漠然とリリーは特別なんだと思った。


「それからどんなときでも、週に三回はリリーに会いに行ったでしょう? あれはね、私はリリーの隣でだけは自然に生きられるからなの。リリーの隣にいるときだけは魔力暴走が決して起こらなかったから、私はリリーと一緒になら笑えたし、リリーと一緒になら泣けた。リリーには貴族だと言ってなかったから、身分的にも自然体でね。」


 当時の私は強い感情を持つことさえ満足にできない状態だったため、リリーといる時の私は本当に楽しかった。姿を偽らなくてはいけなかったのは残念だったけどね。それに多少家から抜け出しても、腫れもの扱いだった私は幾つかの魔法で細工をすれば少しの間くらいなら全くばれなかった。ただ、頻繁にリリーと会えば気持ちも魔力も安定してきて、腫れもの扱いから5属性の膨大な魔力持ちってことで奇跡の子なんて言われだしてからはほとんどリリーと会う時間を作れなかったのだけど。


「だから私は学院でもリリーと一緒で本当に嬉しいし、ずっと一緒にいたいのよ。私は貴方と一緒なら私でいられるから。私だけが学院に通ってたら、リリーと会える時間がほとんど取れなくなってたかもしれないしね」


 まあ、一緒に学院に行くために子爵の中で一番人柄が良い人を調べてこっそり脅し……お話しして孤児院にいたリリーを養子にしてもらったんだけどね。まあグランド子爵からしても、知られてなかった強い光属性持ちで可愛い可愛いリリーを養子にできるなら充分利益があるし、良い話だったでしょう。リリーに不自由させないために私からの秘密裏の資金援助もあるしね。


「そっか、それで……ふふふ、そういうことなら私はアリスと一緒にいるよ! 大親友の頼みなら断れないもんね!」


 そういって私の手をとって笑う。その無邪気な笑顔は本当に可愛らしくてそれだけで満足してしまいそうになる。

 でも。そう、私は決めたのだ。私はもっと欲張りたい。身分的にも感情的にも厳しいことになるのは分かってる。下手したら、ううん、下手しなくても私達の関係が壊れ二度とは戻らないかもしれない。そんなことになれば私は魔力暴走が止められず死んでしまうかもしれない、いや、きっと死ぬだろう。今も堂々として笑顔を見せてはいるが、足は震えてるし私の心臓は割れてしまいそうなほどに暴れまわっている。

 でも、私は欲張ると決めたのだ。もう我慢なんてできないほどに、『もっと』と望んでしまったのだ。

 だから。


「ふふ、ありがとうリリー。でもね、私はもうリリーの大親友なんて立ち位置じゃ満足できないの」


 そういって先程ののように、けれど前よりずっと強くリリーを抱きしめる。ふわりとリリーの淡い花のような、しかし花よりずっと良い匂いがして頭の中が侵されそうになる。


「えっ?」

『闇の力、制約の力よ。私が望むは絶対の秘密。この場で起こるあらゆることを、二人の永遠の秘密へと』

「いっいきなりどうしたのアリス⁉︎」


 魔法言語は日常で使う言葉とは異なるので、リリーは私が何の魔法を使ったのかが分からないのだろう。急に魔法を使った私にとても驚いてるみたいで私に抱きつかれて止まっていた体を動かそうとする。


「安心して、これからここでのことを私もリリーも誰にも話せなくなった。それだけよ」

「えっ、そんな秘密にしなきゃいけない話があるの?」

「そうね、私と貴方だけの秘密。そうさっきの話。私はもうリリーの親友だなんて我慢できないわ」

「ええっ? わ、私の親友が嫌って…私が嫌になったちゃったの⁉︎ どうしてっ」

「そうじゃないわよ。私はリリーの特別になりたいの。リリーは私の特別だから」


 そういってリリーの背中に回していた手を外しそっと両手を頬に添えて吸い込まれそうなほど深く紅い瞳をじっと見つめる。視界がチカチカする。リリー以外の全てが私の世界から消える。胸が痛くて死にそう。

 それでも、私は、軽く目を閉じ、一歩踏み出して。


 リリーの唇に私の唇を重ねた。


 多分口づけは一瞬だったと思う。でも私には永遠のようにさえ感じられた。


「えっ?」


 リリーはまだ状況が理解できていないようで、眼を見開いてぼぅっとこちらを見つめている。


「これは私の宣戦布告。私はもう貴方なしじゃなきゃ生きられないもの。私はもう貴方のものなのに、貴方は私のものじゃないなんて、不公平でしょう?」


 そして、リリーの耳にそっと口を近づけ、


「だから、貴方も私に惚れさせてあげる。私が貴方の特別になってあげるわ」


 そう、囁いた。


「え、あぅ、あ、アリス⁉︎」


 リリーは顔を真っ赤にして右手の人差し指でまだ信じられないっといった風に自分の唇を抑えている。その姿はとても可愛らしかったのだけど、もう、私の方が限界だった。


「それじゃあ、またね、リリー。愛しているわ」


 そう言って、手ぐしで後ろ髪を靡かせ、月明かりに自慢の銀髪を煌めかせ、少しでも魅力的に、色っぽく見えるように私を見せつけて、堂々とその場から歩き去る。

 嫌われないだろうか、同性愛なんて気持ち悪く思われないだろうか、拒絶されたらどうしよう、そんなことばかり考えながら。

 歩く足はギリギリまで抑えた。それでもリリーから見えなくなった瞬間に我慢できなくなって全力で駆け出した。顔が熱い、涙がぼろぼろと溢れてくる。パーティーの途中で抜け出すことに躊躇いなんてなかった。誰にも見られたくなかったから透明化の魔法を使ってただただその場から走り去って、気がついたら家のベッドの上に倒れ伏していた。不安と羞恥心で死にそうだった。それでも、それでも。リリーが好きだから。同性なんて関係なかった。大好きだから。桜色の髪も、ルビーの瞳も、太陽のように輝く笑顔も、私の名前を呼ぶ鈴のような綺麗な声も。リリーを愛しているから。リリーの特別になりたいから。

 だから私は、私の戦いの狼煙を上げたのだった。

小説を書くのは初めてですが、少しでも面白いと思っていただけると幸いです。もっとこうした方がいいだとか、こういうところが面白かった、こういうところが良くなかった等あれば是非教えていただけると非常に嬉しいです。


他にも百合短編書きましたのでもしよければ読んでいただけると嬉しいです

バレンタインはキスの味

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