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幸せ者の蛇足


 凛五が死んだあと。僕は一度だけ麻木先生と会って話をした。

 そして全てを聞いた。

 麻木凛は、先生が三十の時に生まれた娘で、十代の内に事故で植物状態となってしまったこと。

 娘の身体を生き返らせるために各方面の技術を学んだこと。

 もともと研究で開発した細胞トレーニングによって、自分の老化を極力抑え、研究に打ち込める寿命を引き延ばしていたこと。

 見た目から、僕が六十前後だと思っていた年齢が百十三だということ。

 だから、凛五の母も、何十年も前に死んでいること。

 長い年月をかけて、機械と人口臓器、提供臓器などでヒトの形を作ったこと。

 脳の電気信号を読み取り、それをコンピューター言語に変換して、機械化した身体を反射レベルの反応速度で動かすための小型演算処理装置を開発していたこと。

 完成品を提供する代わりに、海外の組織から莫大な資金を受け取っていたこと。

 凛五の前に、四回、同じ様な人間モドキを作って失敗したこと。

 全てを話した後。先生は姿を消した。もしかしたら、凛五の後を追ったのかもしれない。

 きっと、百年以上も生きた動機が無くなってしまったのだろう。若くして亡くなった娘をなんとか生かしてやりたい。その一心で、とんでもないことをしてしまったと、気付いたのかもしれない。

 先生の中では、凛五――凛はずっと生きていることになっていたのか、彼女の墓は存在しなかった。

 僕は今、病院の屋上に居た。

 春になると、ここからの景色は桜で覆い尽くされる。

 冬の内はまだ一本しか咲いていない。ところどころ赤黒く染まった、桜色のロングマフラーに首をうずめて。

 高い山に囲まれた小さな町。

 凛五が生きた小さな町。

 僕はおそらく、一生この町を出ないだろう。

 ちっぽけだけれど。大切なものがたくさんある。

 忘れたくなかった。

 風が吹けば、凛五の笑い声でも聞こえてきそうだ。……そんなことは、もうあってはならないことだけれど。

 凛五の死んだこの町で。

 凛五の生きたこの町で。

 罪とともに、僕はずっと生きて行く。

 広い世界のことなんて何にも知らないけれど。

 残された桜色から感じる。作った人間の想いを。

 僕は絶対に忘れない。

 確かに凛五は生きていたんだ。

 大の字になって背中を床に着ければ、一斉に視界は、混じり気ない空色に染まった。

「あーあ。なんかいいこと起んないかなぁ」

 確かに凛五は、僕が殺した。



 恐怖感としてはホラーっぽくない作品ですが、ここでキャラクター達のことを少し思い出してみましょう。


 主人公:殺人鬼

 ヒロイン:半アンドロイド

 ヒロインの父:マッドサイエンティスト


 うん、ホラーですね。よかったよかった←


 作品について、少し喋ってみましょうか。

 今回は『沈黙Fall Snow』に続く第二のSnowタイトルだったのですが、僕が『沈黙』でやりたかったことって情景描写の練習だったわけですよ。なのでそれに伴い、今回も同じ目的で書かせていただきました。とはいっても、前回よりは意識低めです。『人間モドキ』は、いろんな意味で『沈黙』とは真逆の話になっているので、そこまで情景に喋らせる必要もなかったのですね。


 二人の関係について。彼ら、久田里王(りょうくん)と、麻木凛(凛五)の関係って、なんだか不思議なんですよね。きっと二人ともお互いのことを大好きで大好きで仕方がなくて。それでも、恋愛をしたり、交際するみたいな展開はあり得ない。家族とも友達ともなにか違う。強いて言えば、ヒーローとヒロイン、ですかね。

 最終的にヒロインを殺してしまったわけですけど、もしもこの一件がなければ、凛五はいずれ勝手に死んでしまっていただろうし。謎の組織さんたちに解体されていたかもしれないですし。無事に生き続けたとしても、老いることのない身体です。いずれは破綻していたのでしょう。りょうくんはそれに気付いたから、誇りと罪を抱えて、凛五の額を打ち抜いたのでしょう。本当に書く直前まで、凛五を撃つのか撃たないのかは僕にもわかりませんでした。だけど彼はやってしまいましたね。それがこのお話のヒーローの正しさだったと。そういうことなのでしょうね。



 珍しくたくさん喋ってしまいました。

 それでは皆様。読了。ありがとうございました。

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