第一話
厳しい冬の寒さが終わり、しかし外気は冷たく、日によっては吐く息が白いそんな日。
外は朝日が昇り始め、仕事や学校へ行く為に外に人が増え始めたそんな時間。
青年---「九十九 康太」は、目覚ましのアラームによって気持ちの良い目覚めから起こされ---
「よっし、いよいよ今日からか。」
なかった。
何時もなら目覚ましのアラームが鳴り、スイッチを押し、止めてまた眠る。
そして二度目、または三度目のアラームによってようやく起きる訳だが、今日に限り、いや、これから暫くは目覚まし無しに起きるであろう。
なぜなら---
「いよいよ、今日から「IMO」がサービス開始かぁ・・・うぅ~早くやりてぇ~!」
IMO---正式名称を「Infinite Magic Online」---という、最新のVRMMOの正式サービスが今日の午前十時に開始されるのである。
このゲームはゲーム開始後、始まりの街「クリーア」にて数十と居る魔法使い(NPC)の流派に弟子入りし、その師匠に当たる魔法使い固有の魔法が使えていくように成るが、最初に弟子入りした魔法使い以外に弟子入りすることが出来ない・・・といったゲームだ。
しかし、その師匠が使える魔法だけしか使えない、という訳ではない。
例えば、店などで売っている魔法のスクロールを買い、それを広げるとその魔法が使えるようになったり、特定のエネミー(他の作品ではモンスターや魔物とも言われている)を倒すと、そのエネミーの魔法が使えるように成ったりと、様々な方法で魔法のレパートリーを増やしていくことが出来る。
だがここで不思議に思うことがあるはずだ。
何故、こんなにも魔法を覚える事に制限があるにも関わらず「Infinite」なのかと。
それは最初に弟子入りをした魔法使い、師匠から免許皆伝---大体は一体一で戦い勝つと---を受けた者は、自分の流派を持つことが許される。
そして此処からがタイトルの由来にもなったことだが、自分の流派を持つことが出来る様に成ったのともう一つ、複数の魔法を合わせることが出来る様に成る、つまり、自分だけのオリジナル魔法が創れる様に成るという訳だ。
もちろん、沢山の人が居れば被ってしまう物も有るかも知れない。
しかし、組み合わせる順番でも魔法は変わるという、まさに無限大---「Infinite」なのだ。
「あ~サービス開始まで、まだ時間あるからどうすっかな~二度寝して開始時間に遅れるのやだしなー」
俺はそう言いながら両手の指を指の間に挟み、手に平を上に向けて伸びをする。
次に体を捻り、腰や背骨の関節を鳴らしていく。
「康太~ご飯できたよ~」
と、ちょうどストレッチの様な事が終わった頃に、階段下から母親の声が聞こえてきた。
「あぁ~い、今行く~」
珍しいな・・・俺が早起きなんて滅多にないんだが・・・。
まぁ気にする程の事でもないか・・・と考えながら下のリビングへ向かった。
「おはよう、康太。」
「おはよ~ね、なんで俺が起きてんの分かったの?」
俺は挨拶を交わし、朝食が用意されているテーブルの席に着き、食べ始めながら聞いてみた。
「ん?だってあんたの部屋って下まで物音が聞こえるわよ?」
「へぇ~そうだったんだ~言われるまで気づかなかった。」
初めて聞いたそのことに相槌をしながら味噌汁をすする。
すると、この母はとんでもない爆弾を落としやがった。
「そうよ、だから夜中とかあんたがベットの上でギシギシ何かしてたりすると下に響いて煩いのよねぇ・・・ねぇ、夜中ナニしてるの?」
「ブフォッ!!」
俺はいきなりの事で口の中の味噌汁を吹き出してしまった。
「ゲホッ・・・な、何ってストレッチとかだよっ!」
「ふ~ん、「とか」ねぇ・・・」
そう言いながら母が澄まし顔で味噌汁を啜っている。
「まぁ、あんたも年頃の子なんだし、ナニしてても良いけど・・・楓にはバレないようにね。あの子も年頃なんだし。」
「なっ、なっ!?」
楓とは今年中学三年になる俺の妹で、文武両道でしかも兄の傀儡目なしに可愛い自慢の妹だ。
今は陸上部の合宿に行っていて、今日の夕方には家に帰ってくる予定だ。
「あの子も今日帰ってくるんだしどうせ部屋に行くと思うから、ゴミ箱とかちゃんと掃除しとくんだよ?」
「~~~~~~~~~!!」
俺は恥ずかしくて悶え死にそうになりながらも、急いで飯を食べ、部屋に戻った。
・・・これからは音を立てないようにしよう。