忘れた
掲載日:2013/12/31
「もう、忘れてしまったんだね」
その人は、さみしそうに呟いた。
僕は、その人が誰か、全く思い出せない。
「本当に?」
本当のことだ。
何も思い出せれない。
「……ごめん」
自然に声があふれ出た。
でも、彼女が何者か分からない。
敵か味方か、友人か親友か恋人か、何も無いのか何かあったのか。
一瞬で頭がフル回転するが、それについての記憶は何もない。
それでも、声は漏れ続ける。
「……君を、ずっと覚えてられなくて、ごめん」
「ううん、いい」
なにがいいのだろうか。
自然に漏れ出た声は、それ自体が意味を持ち、彼女の耳へと間違いなく届いている。
「お医者さんがいってたよ、あなたは全てを忘れるだろうって。この世界のことも、愛情も、私のことも」
そうだ、その人が彼女だとなぜ僕は分かる。
なにも覚えていないと思ったのは、なぜだ。
だが俺の脳裏に浮かぶのは、真っ暗な空間ばかり。
何も分からない、何も思い出せない、ナニもワからない。
「大丈夫」
彼女は言う。
「私がずっとついているから」
なら、きっと大丈夫だ。
なぜか、それだけは確信できた。




