08.義兄様と私01
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ここ暫く。友人であるディートリヒが、やけに仕事に力を入れている。いや、いつも真面目なんだけどさ。(自分と比べて)「何々?何かあんの?」って人が気安く接すると、返って来たのは「煩い」だの「どっかいけ」と言って追い払われる。(相変わらず冷血漢めっ!)幼馴染様が、万年友人の数が少ない奴ランキング入りしてるお前に、フレンドリーに接してるのというのに……!げふうぅ…!何てやつだ。親切心だというのに殴りやがった。しかし、何時もの反応だしそういう日か。みたいな?
こいつとはそれなりの腐れ縁だ。元々親父同士が仲が良くて、会ってる内に次第そうなった。”ダニエル・ネーウッド”と初めて自己紹介したのは何歳だったか?ノリが悪くて同じ年頃の友人がほとんど居ない奴だが、元々テンションが高すぎるらしい自分とは空気が合うらしい。あいつも口ほどには嫌ってないのは分かるし。
それとなく様子を見ていると「ダニエル……女の喜びそうな店、知らないか?」……はあ?「どうも自分じゃ分からなくてな」マジで言ってるみたいだ。幻聴じゃなさそうだな。奴が自分から、それも女に誘いを入れるようになるなど初めてだ。明日は雪か、嵐か、台風か!?
「ふ、ふぅーん……でも、女の喜びそうな店ったって趣味によるぜ?派手な子と大人し目な子だと全然違うじゃん?」
何やら再び考え出す。何々?性格は何にでも興味があって無邪気、美味しいもの好き。
「あー、食べ物かあ。女と一緒に入れる様なセンスのある店、ね。北大通りにある店なんてどうだ?あそこだと、ちょっと高級感もあって締めくくりにもいいし肉が美味しいって評判良いんだぜ。」
「そうか、分かった。調べてみる。」
下調べ、ね。あーこりゃ本気っぽい。上手くいったらオメデトウといってやろう。今は職場だが(士官クラスに割り振られた個室)に居るが、取り巻きたちが知ったら騒動だろうなあと思う。
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朝食は洋食が並ぶ事が多い。クロワッサン風なパンにハムエッグ、軽めのサラダにベリースムージー。甘い味が口に広がっていった。
今日も魂を飛ばそうと思っていた矢先、義兄がやって来た。「これ以上家に居ても気が滅入るだろうから街へ出かけないか?」と誘われたのだ。突然の外出許可に嬉しくなる。
「ようございました。坊ちゃまと回る場所はもうお決めに?」
「うん」
無駄に時間があったしねー。部屋にある本には、王都の観光ガイドやグルメマップなど寄りたい店など山程あった。我が家は外出に厳しい。やっとの事で許可を経ても、必ず護衛と一緒に出かける。父が軍人で責任ある立場だから、その家族も気をつけないといけないのは分かってるつもりだが、こう缶詰が続くと辛い。まさか、ネットで買い物何て前世の様にはいかないもんねえ。
「表通りにスイーツの美味しい店があるみたいなの。他にもね……」
老執事に見送られ、私たちを乗せた馬車は街中に駆けて行った。
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日が傾いた頃。残念ながら、”南の火竜亭”では食事は出来なかったけれど(警備上、人の密集してる所はダメだって)連れて行ってもらったレストランはとても美味しかった。家での食事も絶品だが、ソースが違うと食材以上に味が変わる。
「…ディー義兄様?」
ここに入る頃から何だか難しい顔をしている。何かまずいことした?マナーとか、やっぱり?今一つ自信のないものが頭をよぎっていき不安感が増す。そうこうする内、ますます表情が厳しくなっていく。
「あらぁ、奇遇ですわこんな場所で貴方に会う何て。ディートリヒ様?」
声の主は何時の間に近づいたのか。若い女性だった。
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(いや、絶対狙ってきたって!!)
斜めの何席か離れた席。本人だと思われないための変装を完璧にしてる自分と、一人じゃ入りづらい店なので、婚約者と一緒に来ている。彼女は、もう諦めてるのだろう。出されたスープを飲んでるが、時々冷たいジトッとした視線を感じるのは気のせいではないだろう。(済まない、今回だけだー!)
心の中で、突っ込み入れた。途中から自分以外がディートリヒたちを見てるとは思ってたんだが。取り巻き連中の耳にもう入ったとは。
あの、あいつが。いつも仏頂面でクール決めこんでて、完璧主義者。軍人の鏡目指してますってな奴が。可愛らしい店に入ったり(フリルが一杯。ピンクに白に。)笑え…じゃなく良い笑顔がまたまた。もう見れないのを残念に思う。あいつの恋もこれで破局かあ……ご愁傷様。