零
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其ノ忠誠ハ、同情カ。
儘為ラヌ脚ヘノ。
意否、御嬢様。
貴女ノ心ヘノ、誓イデス。
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名は皇前 史朗と申します。今年、二五歳を迎えました。
訳有って御両親を亡くされた一人の小公女に仕えております。
吾が主の名は、佐久間 透子様。御歳一五歳。
佐久間財閥の正式な後継者でありながら、その巨財を継ぐには幼過ぎる故に身元引受人である御親族から金銭保護を受けつつ、教育や生活そのものへの束縛を受け、不自由な生活を強いられておいでです。尤も、幼いという理由は仮初の物で、余りの遺産に目が眩んだ御親族が半ば強引に代理人を名乗られ、元来身辺が内訌する事を好まぬ透子様が渋渋承知なさったという事情がございます。
ですが、此の内輪揉めは然して問題ではありません。気高く賢明な御嬢様でも、決して解決の手立てを見出せぬ、此れより深刻な問題があるのです。
其れは、不自由な脚。
幼き日に遭われた事故に因り、下肢が全く動かぬのです。
歩き回る事も出来ぬ透子様は、何時も窓辺の椅子に腰掛け、過ごされます。
唯幸いな事に、御嬢様には不自由さが障碍とならぬ類の特技が在り、透子様も其れについては些かでも溜り込む心的負担に有効と自覚為さっており、深く悩む事もなく過ごされている事が、救いでしょうか。
扨、前置きはこのくらいにして、其の透子様の特技に纏わる御話を御聴納賜りたいと存じます。
但し…。
お聞き召された御話は、ゆめゆめ口外なさらぬ様…。