ヘルモードの悪徳領主に転生した
「ハッ、まだそんな茶色い粉を舐めてんの? 遅れてるねぇ、この世界のレベルは」
胸やけを煙草で制する朝の執務室に、頭のネジが吹き飛んだ阿呆が現れた。
「見てください領主様、この真っ白な輝きを!
市場で見つけた時の驚きは忘れられません。ユキト殿との出会いに感謝を。
商業ギルドは彼と組むことにしました。
つきましては、領主さまの黒砂糖との取引は今月末で終了いたしますッ」
アポなしで商業ギルドの組合長まで押しかけてきたのだから始末に負えない。
「でも、逆恨みとかは無しに頼むぜ。この赤足傭兵団のロイドの顔に免じて、ここは穏便に済ませてくださいや、領主の旦那」
臭いにおいがすると思ったら、傭兵団風情まで部屋に入れるとは。
ゴキゴキと手や首を鳴らし、威圧を掛けてくるが、それよりも臭い。
戸口の衛兵はよく我慢しているが、脱力した手元の槍が今にも粗ぶりそうな勢いだ。
「見なさい、スグリ様。これぞ神の粉! 黒い塊が混じる貴方の不良品に無い清廉とした輝き。革命をもたらす至高の甘み……これぞ、まさに『白砂糖』!」
もったいつけて、遅れて現れたのは、貴族街に立つ協会の司祭か。
「皆さん、ずいぶんな言い様ですね」
「そりゃ、領主様。アンタの作る砂糖がショボいからだろ?」
興奮気味にガラス瓶を掲げるのは、一ヶ月前に領内の村で保護された自称・冒険者の小僧だった。ちなみに冒険者ギルドでの正式認可は、まだ、承認していない。
彼は銀皿の上にさらさらと真っ白な結晶をあけ、ドヤ顔で胸を張る。
まぁ、たしかに。
「王都でも見たことの無い白さだな」
「おいおい? 知ったかぶりしなくても良いんだぜ。
まぁ、認めたんなら話は早いや。城下の特等地に店を出すからさ、営業許可をくれよ」
「資金も提供をよろしく頼みますぞ」
「従業員も綺麗どころを頼むぜ、貸し出しってことで」
「利益の三割は協会に寄付して頂きますので、領主様も取り分が欲しければ、神の御前にしかるべき態度を示すべきでしょう」
勝ち誇るような小僧、強欲な商人に傭兵崩れ、悪徳司祭。クズのオンパレードだな。
軽く拍手を送ってやりたいほどだ。差し伸ばした手を握ってきたのは、握手と勘違いしたのか?
俺は、深いため息をついて優しく手を解くと、"取ろうと"していた分厚い法典を掴み寄せ、バラバラとめくった。
「さて、諸君。君達は『専売制』と『関税』という概念を知らんのか?」
「……あ? 専売…………関税ぇ?」
「当領において、嗜好品の製造・流通・販売は、すべて領主である私の『認可』がいるのだよ。許可なき私造および流通は『重罪』に該当する事からして――」
言葉を止めると、ようやく雲行きの怪しさを感じ取ったのか、一同の笑みが固まった。
「――法により、お前達は死罪が順当だ」
「は、はあ!? 横暴だ、砂糖を作っただけだぞ。俺が作ったんだぞ。俺のアイデアだッ」
「自由競争に反している! そんな領主法など先代の頃にはなかったぞ!!」
「てめぇ、俺達が無知だと思って、あることない事言ってんじゃねぇッ」
「神の御前に、嘘を吐くなど、恥を知りなさい!!」
いや、普通に特許権とかあるから。先代の頃に無かったのは、そりゃそうだ。
俺が制定したからな。
「うるさいぞ、君たち。まぁ、私とて朝から死体を見るのも気分が悪い。私財没収で手を打とうじゃないか」
「ふ、ふ、ふざけるな! 俺の知識は俺のモノだ。この能力も、誰が教えるか!」
教える、教えないのは自由だが。……いや、もういい。こいつらの背後が見えてきた。
「仕方のない奴らだ。アーディ―、うまくやってやれ」
「かしこまりました」
執事のアーディ―が深々と頭を下げて、迷惑な輩を強引に鷲掴み退出した。
傭兵団長、弱っ。
喧騒は遠ざかり、室内には再び静けさが戻る。
――シュボッ
「ああ……。頭がガンガンする」
新しい煙草に火をつけ、灰を新鮮な煙で満たす。
すぐさま、体に仕込んだ浄化魔法が発動し、有害な毒素は中和され、冴えわたるような清涼感が全身を駆け巡る。
「スグリ様」
後ろに控えていた護衛の重騎士が重い口を開いた。
「宜しかったのですか? 素性も怪しく品性もなく、とても口汚い男でした。奴隷にに落として強制労働させることもできます」
「良いんだよ。楽しみだからな」
「たのしみ、で、ございますか?」
ああ。楽しみでしかたない。
これから彼らに待っているのは同じようなものだから。
冒険者ギルドに申請された、彼の登録証の認可は、俺の承認待ちなのだ。
身元保証のないものが、この街から出られるほど、ざるな警備体制は敷いていない。
ユキト何某は、俺が「良い」というまで、街から出られないし、白砂糖の生成にいそしむ日々をこれから送るのだ。
彼がここに来る前に荒稼ぎしたという金額は、……たった粗鉄500枚程度か。
貨幣の価値もわかっていない小僧を騙し、集ろうとした商人等もアーディが"処理"するだろう。
「白砂糖なぞ、王都に売れば50万倍はくだらん」
まぁ、ちょうど向こうから藪を突きに来てくれたのだ。しっかり出迎えてやろうじゃないか。
吸い殻を消して、ニヤリと笑った。
「素晴らしい甘さを受け入れよう。国内に出回ってしまった分について処分は任せたぞ」
「ははッッ」
下手に流通されると、我が領の原価が崩れかねんしな。
この砂糖は隣国に流してやる。市場を一気に狂わせ、経済をかき回す。
「それじゃぁ、始めるか。砂糖を土産に、隣国を切り取るぞ」
「はッ!? ――――――ははッ!!」
第2幕短編はこちら▼
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