表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

第4話「とりあえずソイツぶっ倒せばいいんだな?」

 夕食も終わり、手を合わせ神への祈りを捧げる。二人は手慣れたものだが、見よう見まねな俺はどこかぎこちなかった。


 中世ヨーロッパ風の世界なだけあって、電気や水道などという文明の利器は当然存在しない。夜はランプ頼りだ。


「ありがとうございました」


 俺は席を立とうとするユーリに深々と頭を下げた。


「当然のことをしたまでさ、この村は来るもの拒まずってね」

「それにしても、ここまでさせてもらって……。なにかお礼でもできれば」

「うーん……」


 ユーリは顎に手を添えながら、深く考えるポーズを取った。


「じゃあ、皿の水洗いをしてくれるか?水場は外にある」



―――――



 裏手の水場は、石で組まれた簡素な流しだった。井戸から汲み上げた冷たい水が、細く絶え間なく流れている。


 俺は袖をまくり、皿を一枚ずつ洗い始めた。洗剤なんてものはなく、冷水が指をじんと痺れさせる。


「冷たっ」


 その刺激が肌を突き刺す度に、俺はこの世界のことについて考えを巡らせた。


 ――魚、メーアトキシン、魔族、魔王……。


 俺は元々運のない人生を送ってきたと思っていた。修学旅行は感染症で吹き飛んだし、就職にもだいぶ苦労した。


「まさか、ここまでとは……」


 それでも、まさか寿司のない世界に飛ばされるとは夢にも思っていなかった。


 ――寿司のない世界なんていっそのこと……。


 そう思った時、裏口からバナーが顔を見せた。


「食器洗い、進んだか?」

「まあ、これぐらいは」

「おっ、なかなか上手いじゃん。雑用係の仕事でもやってたのか?」

「ま……まあ……」


 回転寿司の調理場は、ある意味雑用係と言えるかもしれない。少なくとも、職人と言えないのは確かだ。


「……バナーは、魚食べたいと思わないのか?」

「うん?なんだ、藪から棒に」

「魚。焼きでも生でも、食べたいと思わないのか?」

「全然。あれは家畜の餌だ」


 バナーは腕を左右に広げ、当たり前のように言った。


「まあ、昔は食べてたらしいけどな」

「そうか……」


 俺はしゃがみながら夜空を見上げた。満天の星空は、都会寄りだった現実世界の街では見れないものだ。


「……なあ」

「ん?」

「そのメーアトキシンっていうのは、魔王が撒いたものなんだろ?」

「ん、ああ、そうだけど」

「じゃあ……」


 俺は立ち上がった。瞳には確かな炎が宿っている。


「とりあえずソイツぶっ倒せばいいんだな?」

「は?」


 バナーは驚いた顔でこちらを見た。


「な、何言ってんだ。数百年もの間、数多の勇者すら倒せなかった強敵だぞ?今日知ったばかりの奴が倒せるわけ……」

「いいや、倒す。倒して俺はこの世界に寿司を広める」


 俺は拳をグッと握りしめた。強い覚悟をきめながら。


「ま……まあ覚悟は伝わったよ。でもどうする?金もないんだろ?」

「それは……とりあえず店を開いて稼ぐ」

「何の店なんだ?」

「もちろん、寿司の店だ」


 バナーの呆れ顔が次第に深まっていくのが分かる。


「じゃあ……まずはギルドに行かないとな。この島の真ん中、一番大きい街にある」

「島?」

「そこからか……」


 バナーが額に手を当てる。明らかな面倒臭さが滲み出ている。


「この島、マハー島の中央にマハーという街がある。この村の何十倍もでかい。そこまでの牛車が明日出る予定だ。それに乗るといい」

「街か……そこまで行けば。ありがとう!」

「ふっ、どういたしまして。今日は早く寝ろよ」



―――――



 翌日。広場の中央に牛二頭に引かれた屋根付きの牛車が止まっていた。


 俺はすっかり乾いたコートを身にまとい、周囲の目を気にすることなく牛車に乗り込もうとした。


「昨日はありがとう、色々教えてくれて」

「いえいえ。まさか魔王を倒すなんて言うとは思わなかったよ」

「それが俺の使命な気がして……」


 俺は開いた手のひらを見つめた。どう倒すのか、これからどうするのか。全く見当がつかなかったが、それが唯一の道であるような気がした。


「これ、持っていきな」


 バナーがバスケットを差し出す。


「中に果物がいくつか入ってる。三日ぐらいの旅だ、腹減ったら食べな」

「……ありがとう」


 俺は言われるままにバスケットを手に取った。結構ずっしりとした重さがある。


「じゃ、達者でな!」


 バナーが右腕を突き出し、親指を立てる。


 ――ここでも合図は同じか。


 俺も倣って親指を立ててみせた。


 それは、途方もない旅へ出る、決意の合図だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ