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釈迦の手のひら戻り方  作者: 黒田挙響


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4/5

――決して

「は?……どういうことだよ帰れないって――」

「そのままさ、もう僕達のいた世界には帰れないのさ――二度とね」

「意味わかんねぇよ、そのままって……理由になってねぇぜ」

「いいかい――あの世界は何かに依存し合う因果に縛られた世界なんだ。僕達という体が宇宙という物質が意識や感情を取り込んで作り出した幻覚だ……僕達はそれに目覚め、解放されたんだ。帰るというよりは元に戻ったと言ってもいい」

「じゃあ、その幻覚というのはどうやったら……」

「トリックアート……知ってるかい?」

「なんで話を変え――」

「初めは何か物に見えたり大きさが異なったりと錯覚を起こしてしまう。けれど、答えを見るとそれは突然別の物に変わって大きさが同じに見えてしまうんだ。そして、それっきり――その絵に錯覚を起こさなくなるんだ。なぜなら本当の姿を目にしてしまったからね……」


話を変えてくだらないトリックアートの話をしたと思っていた。くだらないなんの意味もない話だと……。

けれど違った――それは俺の質問への返答であり……絶望の理解でもあった。

その説明の意味が理解できてしまって……あってはならない恐ろしい結末を想像してしまって……鼓動が素早く動き出していた。


「分るかい僕の言いたいこと……もう僕達は涅槃寂静(真の世界)を見てしまったんだよ。もう元の錯覚には戻れないんだよ……決してね」


ああーー……。俺はようやく本の意味を、理由を、理解できてしまった。残酷で恐ろしい事実で……それは、それこそが俺が感じていた真っ黒い何かの穴だったことに……。


「なんで……俺を……こんな……ところに」


恐ろしい事実を目の前にして俺の口は震え上がっていた。それはきっと俺の言葉をぐちゃぐちゃにして聞き取れないほど歪ませただろう。けれど平山はしっかりとそれを聞き取って冷静に笑って答えた。


「さっきも言ったでしょ、良いところだからだよ。なんか嫌な風に聞き取れたし戻れないのも事実だけどさ、ここで想像すれば本物そっくりの現実に戻れるんだしそう悲しまないでよ」

「なん……で……おれ……なんだ」

「君が親友だからさ、それに本のことを知ってるのも君だけだからさ」


帰れない絶望が俺の心を根絶やしにする。


「さっ、ほら見てよ――僕達の通ってる大学だ、ほらあそこっ――ザビエルがいるよ」


平山は励まそうと突如周囲を大学に変えて元気づけようとした。けれども、それは俺には届いておらず絶望で膝を付けて下を向くばかりであった。


「うーむ、困ったなぁ――……」


平山は頭を掻いて落ち込んだ俺を見つめていた。


やっぱり――。


こうするしかないのか――……。


「がっ―――………!!」


突如として――俺の体に鍾乳石のようなつららばった尖った石が俺の右胸を突き刺した。

その石の向こうには手からその石を生やした頭が鹿の頭の骨のまるで魔道士のような平山がいた。


「ごめんね、君が辛そうだったからさ――その記憶を取って上げようと思ってさ」

「な……んで」

「大丈夫だよ、記憶取ったらすぐに治すからさ」


体に突き刺さった石はまるで――生き物のようにうねうねと内部を抉り苦痛を与えていた。


痛いっ……痛い――!!


「うん、痛みも忘れさせてあげるから――あと少し」


絶望ですり減り消えたと思われた俺の心――どうやらそれは、まだここにあって未だ絶望に抗おうと必死に滾っていたようだ。


何されているのか分らねぇけど、平山――お前は……!!


それはとっくに絶望を振り払い、怒りを呼び起こして、平山をぶん殴りたいという気持ちを生み出した。


「ふざけんじゃ……ねぇぞ」

「ちょっと動かないでよ、取りにくいでしょ」


けれども――その意志は実行するどころか立ち上げることさえ出来なかった。平山から出た石は俺を真っ直ぐ刺してるだけなのに……百何十キロで押しつぶされるような上からの圧をかけていた。


「さっ、もうちょっとで取れるから……」


平山が何かを準備し終えて記憶を奪おうとしたその時だった――。

バキンッ――と石が砕けだして突如目の前に真っ黒い荒々しい服を纏った筋肉質の男が現れた。


「立てオラァ!!早く逃げやがれ」


男は荒々しく怒鳴るように声を上げた。その目からは怒りや殺意が濃く放たれていてどうにも落ち着かない、吐き気のする、そんな気分になってしまった。


「助ける邪魔をしないでよ」

「へぇ〜記憶取ることが助けかい?イカれてんなぁテメェ……」

「……僕達をどうするつもりだい」

「一人はどうでもいい、テメェは殺す」

「……初めて涅槃寂静ここで会う住民でそれが決闘でそれも侍だとは……」

「テメェ……俺がなぜ」


平山はその動揺の隙に大学の壁から俺に突き刺したやつと同様の石を何百本と生やし出し筋肉質の男に向けて放った。


ちっ――ゲロうぜってぇ……。


筋肉質の男は嫌味な舌打ちをすると、右腕を自身の何倍もの大きさに膨れ上がらせて――銀色のまるで鋼鉄のような硬い表皮を身に纏った。


「オラァ――!」


その右手から放たれる振り上げは幾つもの石をへし折り粉砕させて平山までもふっ飛ばした。


「フハハハッ――どうだ!ゲロ痛てぇだろ……ん、おいオメェ!なんで逃げねぇんだよ」

「なんでって……」

「君、結構強いね――」

「あん、たりめぇーだろボケ……ゲロ頭ワリィのか?」

「そうだね、同じ戦い方なら僕は少し負けてるかもね……だから少し考えて戦うことにしてみるよ」


こいつ……なんかやばい気が……。


「おいガキ、早く逃げろッ……ん!!」


右腕に棘が――見えなかった。

こいつ……さっきとは打って変わってゲロやべぇ……。


「二人とも……逃げないでね」

「逃げるかボケェ!空っぽの骨の頭で考えて物を言え!」


筋肉質の男は右腕の拳を地面に振り下ろすと地面から岩が生えだしてそれは徐々に平山に近づいて生えだしていった。その岩は殺意がハッキリと映し出されていてナイフのように鋭利で尖った岩の先は平山の放った石の比ではない。けれども、全く平然としていた平山は俺と筋肉質の男に向けて手を伸ばし、光を作り出した。


「わざわざ下から岩を生やす意味が分らない……真っ直ぐ僕が光線を放てば……?」


平山は下の岩の動きを見て疑問を抱いた。


僕の目の前で岩が止まった……これはいったい――………。違う、止めたと見せかけたブラフ!!

どこから岩が……!!。


平山は頭上を見上げた。そこには大きな――そして鋭利に尖ったトドメの岩が生えていた。刹那の時間で認識した平山にさえその岩の進撃は素早く回避できないものであった。


正解――岩はテメェの頭から。


筋肉質の男は平山が振り上げた姿を見て、まるでこの瞬間までもが予想通りだったかのように不気味に歯をむき出しにして笑った。


うん……まぁ、惜しかったね。


岩は平山の頭上に衝突すると思われた。しかし、平山が手から作り出した光が刹那以上の光速で頭上に飛び出して岩を粉砕した。


「光は秒速299792458キロメートルで動くんだ――どんなに早く攻撃しようとも光の前では無意味なのさ――って……どうやらこの内に逃げるのが狙いだったわけか」


「あっ……あのぉー」

「うるせーガキッ!!話しかけんな」


筋肉質の男は俺を左腕でまるで荷物のように持って平山から逃げていた。その動きは人間離れしていて積み木のような建物をウサギのように飛び越えたと思ったらジェット機のようなスピードで一瞬で景色が真っ白になる速度で移動していた。


筋肉質の男は遥か彼方に到着すると、周りを一旦見回して頷いた。


「よし――ここまで来りゃ大丈夫だな」


安心すると筋肉質の男は俺を投げ出して座り込んだ。


「よう新入り――オメェ飲み込まれるところだったな……」

「あの――助けてくれて……ありがとうございます」

「しかしオメェ――ありゃなんだ。ゲロやべぇもんと一緒にいたが……」

「えっと……友だちです……」

「友だち?へぇー記憶取るやつが友だちねぇ……」

「俺も――もうよく分りません」

「まあいい一旦考えるのはやめじゃ――まずは自己紹介といこう」


筋肉質の男は俺に向き直り座ると歯をむき出しにして笑った。


「俺の名は拾右衛門とうえもん――ゲロよろしくな」



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