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釈迦の手のひら戻り方  作者: 黒田挙響


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2/5

誘われて恐怖して

授業中――ふと平山の事を考えていた。

あの仏教の話以降突然と現れなくなって――本当に……本の言うどっかに行っちまったのか?


別に杞憂なんだろうが何故か心配でしょうがない。考える度に頭の中にあの本が過ってくる。


……うん……考えすぎだ――そうだ、たまたまだ――……。


その日に丁度インフルエンザになっただけだ……そう。


……キーンコーンカーンコーン―――……。


大学のチャイムが教室に響いた。それは授業の終わりを伝えるチャイムだった。


「えー……これで一旦授業は止めます。次回は……ここからやっていくのでぇー……しっかりと!ノートを写すように……」


特徴的なトーンで話すザビエルの授業が終わり教室はシーン――……と静まり返っていた。


俺は一人ぽつんと椅子に座っていて教科書もノートも全て開きっぱなしで乱雑していた。


別にこのあと友だちを呼んで一緒に授業を受けたり帰って遊んだりすればいいのだろう。そうすれば平山に対して抱いた心配も不安もすぐに消えるのだろう。


けれども――あれ以降連絡がつかないきり、ポッカリとなにかの穴が空きはじめて、切り替える気持ちがそのまま全て穴に飲み込まれていって動くことが出来なかった。


ボーっとして少しづつ目の焦点が逸れていく。意識なんてまるで初めからないみたいに―――………。


ブーー……ブーー―――………。


ポケットからの振動が――スマホからの通知音が――薄れかけた思考を突如呼び戻した。


ブーー……ブーー―――………。


振動は鳴り止まない。俺はポケットからスマホを取り出してその通知の正体を確かめた。

その通知の正体は――平山からだった。


突然のことで俺は立ち上がると椅子を倒してしまった。


「もしもし、平山か?今までなんで電話に出なかったんだよ」


……ザアーー――……。


スマホから聞こえたのは平山の声でも人の声でもない――テレビの砂嵐の音だった。

こんなものがあるとは知らず驚いたが、やがて一つの答えに気づきゾッとした。


聞こえたのは丁度俺が話し終わる頃だ……。初めからあったなら分かる――……。

この砂嵐――どうしてはじめから流れなかった。


………。


気付いた途端、その砂嵐はピタリと音を止めた。まるでなにかの返答を求めるように砂嵐は突如止まったので、体はとてつもない不快感を抱いた。けれども、更に考えるとそれはただの電波障害でそこには聞こえない平山の声があるんじゃないかと思って、もう少し会話をしてみようと思った。


「平山……?俺からはお前の声が砂嵐にしか聞こえない。きっと通信環境だろうがお前の方は大丈夫か」


……ザアーー――……。


またしてもスマホからは砂嵐が流れてきた。間違いなく砂嵐の先に誰かがいる、この砂嵐の正体はきっと雑音化した声なのかもしれない。


………。


砂嵐はピタリと音を止めた。またしても何も分らず終了した。これでは結局会話が出来ないと思い、諦めてスマホを一旦切るべきだと思い、俺は終了ボタンを押そうとした。


……ザアーー――……。


まただ……。


「おい、何回やったてずっと砂嵐……?」


……ザアザアー――ザアー……ザアー――……。


三度目の砂嵐――今度は砂嵐が出たと思ったら止んだりまた出てきたりと不規則な出入りを繰り返していた。だが、その不規則なリズムの何回かの出入りを終えた途端――その不規則だったリズムが周期的に繰り返しているのだと気づいた。


「これっ……モールス信号か」


ザアーー―――……ザッザッザッザッザッザッザッザッ。


その砂嵐は連打でもするように素早い音を繰り返した。そのとき『そうそうそうそう』と言いたげな平山の姿が目に浮かび少しおもしろくなった。


……ザアザアー――ザアー……ザアー――……ザー――……ザザッ……。


再び砂嵐は周期的に繰り返して俺にメッセージを残そうとしている。俺はスマホでモールス信号を調べてその砂嵐のメッセージをよく読み取ろうとした。


「ほ……んを……あ……ず――けた」


それは七字のメッセージだった。読んでいて五文字目の時点で俺は察して六字と七字はそのまま呼び飛ばしたがその内容は『本を預けた』だった。やはり平山は本でどうにかなったんだ。


「はぁ?預けたってどういう意味だよ」


ザー……。


続けて次のモールス信号を送ってきた。今度はさっきよりも長い十字だった。


「さ……と……り―――………」


「知ってるか平山のやつ、あいつ今行方不明なんだって」

「えっ平山が?なんでだよ」

「知らねー、うちの地区に行方不明の紙が貼ってあったからさ」


プツ……―――。


二人の男が教室に入ってきた途端通話が切られてしまった。そのためメッセージを三文字しか読み取ることが出来なかったが、唯一記憶したリズムから二文字読み取ることができ当てはめると『悟りには』となった。


悟りには――なんだ、いったいなんなんだ。それとさっきの男どもの言っていた行方不明――。

知らぬ間に平山はどんどんと何処かに消えていってまるで真っ黒な何かに飲み込まれたような――この世の禁忌に触れたような――そんな想像をしてしまった。そして俺もその片足をもうとっくに突っ込んでいて時間の問題かと思って恐怖を感じてしまった。


おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません――……。


平山に電話をしたがやっぱり繋がらない――……。


別にこのあと友だちを呼んで一緒に授業を受けたり帰って遊んだりすればいいのだろう。

そうすれば平山に対して抱いた心配も不安もすぐに消えるのだろう。


けれども――もうとっくにポッカリと空いた真っ黒の穴は俺を掴んで離さない。


『本を預けた』――もう既に俺は呪の言葉にかかって忘れるどころか目を背くことさえ出来ないでいた。


けど平山……お前ん家、知らねーんだよ。


高校がどっちも遠いせいでいつも学校の近くでしか遊んでねーじゃん。

お前は手当たり次第に家を探せとあのとき言いたかったのか……。きっと違うはずだ、平山がそんな大事なところでミスをするわけはない。

預けたとなればそれはきっと図書館に返したという文言なのかもしれない。


俺はどうしてもその答えを今すぐ知りたいと思い、大学の授業を受けるのを辞め図書館に向かうことにした。


「はい、現在は借りられております。またお伺いした作者についても出版社についても明かされておらず書店での販売を行っていないようです」


平山が借りたであろう図書館に行ってもなんの成果も得られなかった。

分類は確かに宗教学で間違いなかった。しかしそれ以上の情報は全く乗っておらず、平山は現在も借りていた。


「そうですか……ありがとうございます」


頼みの綱だった図書館さえ失えば今度こそ俺は平山の言葉を忘れられると思っていた――信じていた。

けれどもなぜかぼんやりとまだ可能性があると平山の言葉が強く叫びだし俺の体を心を縛り付けていた。


「ちなみにこの本について聞かれたので申しますと、私共もいつからあったのか見当がついておらず、登録も知らぬ間に済まされていたんです」

「え――?それってどういうことですか」

「それが本当に分っていないのです。以前に図書館の遠い関係者が登録をしたのかもと館長がこの本に関するであろう言語学、宗教学、考古学、自然人類学、形態学等々の図書館に関係したことのある教授に聞いて回ってもやはり分らなかったそうです」

「そうなんですか……」

「本の日焼けや経年劣化から年代を推測もしてみたのですがどうやら八十年前にできた本のようで、やはり八十年代の本を調べてもどの出版社とも本とも類似性を持たず未だに正体が不明なんです。館長は気味が悪いので処分しようとも思ったみたいですが、その前に現在借りているお客様が借りに来られたので辞めたそうですが」


あの本はどこからきたのか誰も分からない。

けれど、唯一分ったのはそれはたしかに実在した八十年前の人間が書いたということだ。


さて、いよいよ手詰まりだ。


あそこの図書館にしかないことを重々知っていて俺は日が暮れるまで色んな図書館に行ってあの本について聞き回っていった。だがやはりあの本は平山と共にどこかに消えてしまっていた。


「ただいま……」


時間は六時を過ぎていた。真っ暗な部屋をボタン一つで明るくし、倒れるようにベットに飛び込んだ。

もう十分――自転車を漕いで脚はクタクタだった。

このまま眠って平山の言葉を忘れようとした――けれどなにか不安な予感がして寝れずにいて再び立ち上がることにした。


「なんでここに―――………」


案の定その不安は的中した。

今まで気づかなかったのか、突然現れたのか分らないが……机の上に"悟り"と書かれた本があった。



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