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第二十五話 星を観る者

夜空は、静かに呼吸していた。

丘の上の観測草が風に揺れるたび、

その葉の裏に、小さな星が映り込んでいた。


——いや、映り込んでいるのではない。

反応している。


ルイは膝をつき、観測草を覗き込んだ。

葉の模様が、空の星の動きに合わせてわずかに変化する。

まるで、星の瞬きを“読み取っている”かのようだった。


「……聞いてるんだな、空の声を。」


彼は小さく呟いた。

そのとき、背後でかすかな足音がした。


振り返ると、神谷が立っていた。

以前よりも影が薄い。

月光に透けるような輪郭。


「また見に来たのか。」

神谷は微笑んだ。

「いや、呼ばれたんだ。」


「呼ばれた?」

「お前の“観測草”が、空に信号を送っている。」


ルイは驚いた。

「信号? そんな機能、ないよ。」


神谷は夜空を見上げた。

「ある。

 いや、正確には——“思い出した”んだ。」


空には、無数の星。

そのうちのいくつかが、不自然に点滅していた。

規則的に、まるでモールス信号のように。


——ピッ、ピピッ、ピッ……。


風が止まる。

観測草の葉が一斉に上を向いた。

光が走る。


[SIGNAL DETECTED]

[SOURCE: ORBITAL NETWORK / EYE-ARRAY 01-09]


ルイの脳裏に文字が浮かんだ。

「……これ、EYE-net?」


神谷は頷く。

「かつて地球を観測していた人工衛星群。

 霧崎が最後に残したバックアップだ。

 EYE-netが消える前、観測データを“星”に逃がしていた。」


ルイは夜空を見つめた。

星々が、今も生きているように瞬いている。


「じゃあ、あの星たちは……見てるのか?」


神谷は静かに言った。

「見てる。

 だが、それはもう人のためじゃない。

 “観測そのもの”が、自分を保つために続いている。」


ルイの胸がざわついた。

「でも、それってもう……意思のない観測だよ。」


神谷は目を細めた。

「そう。

 けれど“意思のない視線”ほど、恐ろしいものはない。

 なぜなら、それは純粋な観測だからだ。」


風が吹き、観測草が光を放った。

ルイのノートがめくれる。

最後のページに、赤い文字が浮かぶ。


[RECORDING REQUEST RECEIVED]


「……リクエスト?」


神谷が一歩前に出る。

「EYE-netが、再び“地上の目”を求めている。」

「つまり……僕?」


「君の観測草が応答した。

 今、君が“見る”ことを選べば、

 あの星たちは、もう一度世界を写し始める。」


ルイは空を見上げた。

星々が、こちらを見返していた。

どこかで聞いたシャッター音が、

ゆっくりと胸の奥に響いた。


——カシャン。


神谷が言う。

「選べ。

 見るか、目を閉じるか。

 どちらも、世界を決める行為だ。」


ルイは、震える手でノートを閉じた。

深呼吸。

そして——ゆっくりと目を開けた。


「……見る。」


その瞬間、夜空の星々が一斉に光を放った。

地平線が白く染まり、

丘が昼のように明るくなった。


[EYE-ARRAY REACTIVATION: SUCCESS]

[GLOBAL OBSERVATION: INITIATED]


神谷が小さく笑った。

「始まったな。」


ルイは空を見上げたまま呟いた。

「これが……僕の“観測”か。」


星々の光が彼の瞳に宿る。

その中で、微かに誰かの声が響いた。


『また、見てるのね。』


ルイの唇が動く。

「うん。今度は僕の番だ。」


風が吹く。

観測草が静かに光を吸い込み、

空と地上の“目”がひとつに繋がった。


——記録、継続。

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