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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
過去と今とその先と
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俊紅の王2

「ソロモン王の遺体でしょ。まるでソロモン王が生きているみたいじゃない」


「私は王が仮死状態説を推すわ。そうなった方が面白いし」


 ボーイッシュな栄子に応える、リーダー格の栄子。


 熊田兄弟が立ち去った後、彼らが乗っていたトラックの荷台を調べる栄子達。


「けど、いったい誰がどうやって……。あの護衛達もそんなに離れていたわけじゃないでしょ? まさか、本当に遺体が蘇って、自分で歩いて行ったとか?」


「だとしたらロマンチックなんだけどねぇ」


 彼女達の言うソロモン王とは、俊紅の心臓を核に72体の妖を使ってその身体を造りだした『理想の王』。


 いわばキメラである。


 そして本来、キメラと俊紅は相性が悪く、俊紅を取り込んだ部位が活性化し、全体のバランスを崩壊させてしまう。


 しかし、このソロモン王は相性の問題をクリアーして造られている。


 そのメカニズムを解析できれば、自分達も俊紅の力を得られるのではと考えたのだ。


「私が俊紅を取り込めれば、完全な私に近づける。そうすればきっと、お父様も私を受け入れてくれる」


 リーダー格の栄子がポツリと漏らす。




「ヤレヤレ、手ぶらで逃げ帰ってきてしまいましたね」


 呉夫の工場を目の前にして、総士がボヤく。


「何か様子がおかしくありませんか?」


 ラードンの言葉に我にかえる総士。


 普段ならば作業音や人の話し声、ながらで聴くラジオの音などで賑わっていたはず。


 違和感に気づいた総士は音を建てないようにゆっくりと戸を開け、中の様子をうかがう。


「ひぇっ?!」


 思わず悲鳴が漏れる。


 そこには、石にされた従業員や呉夫がいた。




「トラックが横転だってぇ!」


「あっぶねぇ運転しやがるなぁ」


 総士達が乗っていたトラックの事故現場を横目に、下校する走矢達。


「巻き込まれた人がいなかったのは、不幸中の幸いね」


「運転手、逃げちゃったってネットニュースに乗ってたわよ」


 咲花が自分のスマホを取り出して見せる。


『……ンク……』


「んっ? 直、なんか言ったか?」


「なにも?」


 キョトンとした顔で首を横に振る直。


『シュ……ク』


「今度は私にも聞こえたわ……。なに、この声?!」


「もしかしてさっきの事故現場の犠牲者の幽霊……」


「巻き込まれた人も運転手も、いなかったんだってばぁ」


 グイッと自分のスマホを、直の鼻先に突きつける咲花。


「なに、これ?! 結界!!」


「前に人が……。さっきまで誰も居なかったよね……」


 真っ先に結界に気づく春香、突然現れた謎の人物に警戒する直。


「つまり、あんにゃろうが結界の主ってわけだ」


「もしかして俊紅って言ってたの?」


 臨戦態勢の桜、謎の人物の狙いが走矢なのではと、注意を促す咲花。


「来る?!」


 走矢に緊張感が走る。


 走矢達の前に立ちはだかるのはボロを纏った、謎の人物。


 真っ直ぐ突っ込んでくるソレに、春香が自分の翼から抜いた羽根を、投げナイフの様に放つが、避けられてしまう。


「にゃろ!」


 それを見て桜がまえにでる。


 勢いをつけた蹴りを見舞うが、感触がない。


「なっ?! 抜け殻! そっちに行ったぞ!!」


 桜の掛け声に反応する一同が目撃した者は、全身包帯に(くる)まれた、ミイラ人間だった。


「ひぃっ?! ミイラ男!」


「男か女かはわからないわよ?」


「この場合はマミーって呼んだ方が、誤解が無いわ」


 まだ距離があると、気がゆるんでいる一同。


 しかし、ミイラは走矢の方に手を向けると、そこから包帯を伸ばし、走矢を捕らえる。


「?!」


 しかし、その走矢に実体は無かった。


「そりゃあ、このくらいは仕込んでおきますから」


 クイッと眼鏡の位置をなおしながら言い放つ春香。


 最初に羽根を投げたとき、すでに結界を張る準備はできていた。


 そしてミイラの周囲には直の亜空間結界の糸が張りめぐらされていた。


「さあ、詰んだわよ。観念なさい」


 ミイラは無言で糸に触れ、その性質を探る。


 春香はそれを見て嫌な予感がした。


 突然、ミイラを包む包帯がほどけ、糸と糸の隙間から飛び出してくる。


「危ない!」


 咄嗟に走矢を庇う春香。


「この野郎!」


 包帯状になったミイラに飛び蹴りを見舞う桜。


 しかし、全く感触が無く、包帯に絞め上げられてしまう。

 

「桜!」


 直が叫び、糸を振るう。


 直の亜空間結界の糸は、包帯を所々捕えるが、その部分をちぎり捨て、千切れた部分同士をつなぎ合わせて、何事も無かったように襲ってくる。


「まずい、こいつに対抗できる手段が無い……」


 打撃系の戦闘手段が(おも)である自分達の不利を、春香は理解し、戦意を失いかけたその時、何かが包帯に降りそそぎ、撃ち抜いていく。


「あらあら、成す術無いって感じぃ?」


 降りそそいだのは氷のつぶて。


 そしてそれを放ったのは上空から舞い降りて来る浪川栄子達だった。


「さてさて、どうするか」


「あの眼鏡の子の幻覚が通じていたから、視覚があるってことになるわ」


 眼鏡をかけた栄子が包帯を睨みつけると、一瞬で石化する。


「王の代わりにこいつが入っていたのね」


「まんまといっぱい食わされたな」


 予想外の出来事に呆気にとられていた一同。


「なっ、浪川センセがいっぱい……」


 ようやく直が口を開く。


「お前たちの事は知っているが、私達が会うのは初めてだ」


 と、ボーイッシュな栄子。


「まだ、こんなにいたのかよ……」


「ゴキブリみたいに言わないで!」


 桜の言葉に反論するリーダー格の栄子。


「とりあえず、コレだけでも回収しましょう」


 眼鏡の栄子がそう言って石化した包帯を掴む。


「待って、これは一体何なの? 何が起こっているの?」


「申し訳ないけどそれに答えるメリットが無いわ。とりあえず、貴女達が無事だったという事で手打ちにしてください」


 春香の問に冷たく眼鏡の栄子が応える。


「では」


 そう言って栄子達は氷水の青い羽毛の翼を広げ、その場から飛び去る。


「クソッ、あいつらに助けられるなんて!」


「何とかマミー対策をしないと……」


 桜達の表情は暗かった。

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