人妖機関(仮)2
「これからはずっと一緒ね、走矢くん!」
「いや、ずっとじゃ無いでしょ」
早速走矢に話しかけてくる火織と、その言葉に突っ込む紗由理。
「けど、あの支所。これから予算の話をしてそれから建て替えでしょ? 当分、先なんじゃない? 新居ができるのは」
「そういや、縦に穴が空いてたんだったな」
会話に混ざってくる羽月と支所での戦いを思い出す桜。
「あの、リリスさんも学校に通うんですか?」
「そうよぉ。制服似合ってるでしょ?」
「人妖機関の臨時職員よ。上沢高校が一部臨時支所として機能するからあたし達が配属されたの」
春香の質問にノリノリのリリスとキチンと説明するアリス。
「ちなみに母さんも、副担任兼臨時職員って事になってるわ」
「理奈さんも……。昨日の話を聞いていると、不安になるんですけど……」
「だから副担任何でしょ」
ビー玉の様な死んだ目で玲奈は言い放つ。
「まっ、あたい達は以前、この学校に入り込んでいたし慣れたもんよ!」
得意げに話すレイコ。
「けど、そっちの2人は1年生じゃなかったろ」
星垂と霧香を指して桜が言う。
「しょうがないでしょ。1カ所にまとめて管理する方が楽なんだし」
「何なら先輩と呼んでくれても良いんだぞ?」
裏の事情を暴露する星垂と妙に乗り気の霧香。
「舞ちゃんはどうしてまた?」
「あっ、私はフェニックスの力がまだ制御できなくって、ここなら周囲への影響も少ないって事で転校してきました」
「彼女は現在、清十郎さんの家でお世話になっているのよ。お母さんや妹さんと一緒に」
親しげに話しかける直とそれに応える舞、補足説明をする愛美だった。
さらに愛美は、上沢支所の現状について説明する。
「清十郎さん宅、つまり佐伯家本家ね。そこが現在の上沢支所の本部。ここは分室って所ね。こうやって支所の機能を既存の施設に振り分けている状態なのよ」
「旧校舎ってのがあるでしょ? この学校。今、私達はそこに住んでいるの」
自分達の現状を話すレイカ。
「なんか大部屋って苦手だわ」
「そうかぁ? あたいは毎日枕投げできて楽しいけどなぁ」
「だから苦手だって言ってるの!」
夢子がレイコに愚痴る。
「すいません、遅れました」
そんな中、制服姿の母、エリスが教室に入ってくる。
「母さん……」
「説明が遅くなってごめんね。直前までいろんな調整、していたもんだから……」
エリスが言い終わる前に、彼女の脇を抜けて何かが飛び出してくる。
「そうや〜」
そう、名前を叫びながら走矢に飛びつく物体。
「えっ?! ちょっと?!」
何が起こったのか理解が追いつかない走矢。
「こら、余白!」
エリスの叱るような声をきいて、それが何なのかようやく理解する走矢。
「余白……さん?」
「余白でいいってば。僕も走矢って呼ぶから」
「この女狐、私の走矢くんに何してんのよ!」
「貴女のじゃないでしょ……?! させないわよ!」
余白と同じように、何かがエリスの脇をすり抜けて走矢に飛びつこうとするが、玲奈が飛び蹴りでそれを迎撃する。
「なにやってんのよ母さん! この学校の制服まで着て!! 何それ、狐のコスプレ!!」
「えっ……、その……。今なら大丈夫かなぁって思って……」
「何ドサクサにまぎれようとしてんのよぉ!」
玲奈は四の字固めで母親を絞め上げる。
「すいませんね武藤さん。しばらくお世話になりますよ」
「私と熊田さんの仲じゃないですか。遠慮しないで、いつまでもいて構わないんですよ?」
熊田兄弟とラードンは、総士の古い知り合い、武藤 呉夫の元に身を寄せていた。
「ラードンさんも出てきてくつろいだらいかがです?」
「総士さん、僕はあなたの事はよく知っていて信用もしています。けど、彼の事は何も知りませんし信用もしていません。しばらく様子を見させてください」
ラードンは蛇の姿のまま、総士の荷物に隠れ潜んでいた。
「まぁ、私は全然構いませんけど……」
「どうしました、熊田さん?」
自分の荷物の方を見て何やらブツブツ言っている総士を見て、呉夫が尋ねる。
「あっ、いえ。ちょっと考え事をしていまして……。しかし、ここも随分と変わりましたねぇ」
場所は小さな町工場。
武藤 呉夫という小柄な中年男性はその社長であり、正体はグレムリン。
かつて妖を精製し妖力石にするという商売をしていた呉夫。
あちこちに拠点を持ち、大きな富を築いた。
「今はあの頃の様にはいきませんよ。人妖機関の目が厳しくなったのもありますが、ここ20年くらいで機関に協力的な妖が増えました。今、あんな事をしたら速攻で潰されてしまいますよ」
「あの頃は良かったですねぇ。どちらかといえば人妖機関よりヴァンパイア達の方が厄介でしたが」
「アイツラは秩序を重んじますからねぇ」
昔話に花を咲かせる総士と呉夫。
「あの頃、おつきあいのあった方達とも、今は疎遠になってしまいましたねぇ……。熊田さん、実はお願いしたいお仕事があるのですが……」
唐突に仕事の話をしだす呉夫だった。
「最初はどうなるかと思ったけど、授業になるもんだなぁ」
下校時間、その日の学校での感想を述べる桜。
確かに彼女の言う通り、授業になるのかという心配はあったが、思いのほかまともな授業内容だった。
「って言うか、レイコや夢子って勉強てきたのね。意外だったわ」
「むしろキリちゃんがかなりヤバイと思った。なんか『フッ』とか言って誤魔化してたけど」
「星垂とレイコが必死にフォローしてたわね。意味なかったけど」
春香の話題に乗っかる直、とどめを刺す咲花だった。
「あっ、すいません……」
「あっ、いえ、こちらこそ。すいません、急いでますんで」
話に夢中だった走矢がうっかり道行く眼鏡をかけた女性にぶつかりそうになり、謝罪するが、女性は特に気にする様子も無く立ち去っていく。
「…………。今の人、どこかで見たような……」
何かが引っかかる走矢だった。
「ビックリした。佐伯走矢の御一行様と遭遇するなんて……」
走矢とぶつかりかけた女性は自宅のアパートの階段をブツブツと言いながら上る。
「ただいま。こっちは見つからなかったわ」
「あたしの方もだよ。どこ行っちゃったんだか」
「やっぱり闇雲に探すのは無理があったかしら」
それは浪川栄子達だった。
「大事の前だっていうのに」
「だから、あの子を殺した。まぁ、正確に言えばあの子が取り込んだ人間を殺した奴を探すのが確実って事よ」
走矢とぶつかりかけた、眼鏡をかけた栄子が言う。
「節操なく、ドッペルゲンガーを見つけるたびに『浪川栄子』にするからこんな事になるんだよ。何を秘めているか何て傍から見たぐらいじゃわかんないんだから」
ボーイッシュな栄子が安易に浪川栄子を増やす事を咎める。
「この間の子といい、いやんなっちゃう。ヘカーテの血も手に入んなかったし」
「あれは欲張らずにとっとと逃げ帰ってくれば良かったのよ。『浪川栄子』の欲深さが招いた結果ね」
眼鏡の栄子も容赦は無いようだ。
「仕方ないわ。彼女を探しつつ例の遺体、『最初の俊紅』強奪計画を進めるわよ」




