人妖機関(仮)
ビジネスホテルでの決戦を終え、走矢達が自宅に帰ってきたのは深夜だった。
「あ、あの〜。家に着いたんですけど……」
自宅に到着した事を告げる走矢にピッタリとくっ付いて離れない、リリス、アリス、エリスの3人。
走司の妖力が残り香の様に、走矢に残っていた事からこうして彼に密着しているのである。
「ごめんね走矢ちゃん。パパの妖力が懐かしくって」
「ちょっと、もっとよく嗅がせなさいよ」
「…………」
エリスだけホームシックの反動の甘噛み中の様だ。
「同じ顔が3つ並んで、どこぞの番犬みたいになっているわよ……」
どう接していいか、わからないままジタクニ到着した玲奈。
「ちっ、違うの! ちっちゃい子を襲おうとしたとかじゃなくって、こう、何というか、得体の知れない脅威から守ってあげようとした的な……」
「それ、あの眼鏡に『貴女が得体の知れない脅威では?』って、完膚無きまでに論破されたでしょ?」
アウアウと悲鳴とも断末魔とも取れる言葉を発しながら、両耳を塞ぐ理奈。
「玲奈姉さん、それ以上やるとまた最終形態手前に……」
走矢が手を緩めるように言う。
そしてその日の就寝も普通ではなかった。
走矢の左右にエリスとリリス。
頭を突き合わせるようにアリスが、その左右に玲奈と理奈が陣取ると言う布陣。
走司の残り香を理由にリリスとアリスが一緒に寝ると言い出し、それを監視すると言う名目で玲奈と理奈も泊まると言う話になった。
またひと波乱あるかと思っていた走矢だったが、ハードな1日の疲れが出たのか、全員すぐに眠りについた。
しかしそんな中、走矢は目が覚める。
布団の中に何か違和感を感じたからだ。
まず思いつくのが女性陣の誰かが布団に潜り込んできたのでは、という仮設。
しかし、左右の母と祖母。
そして向かい側にいる2人の姉と理奈。
全員の顔を確認した走矢は背筋が寒くなる。
今まで俊紅目当てで襲われた事は何度もあったが、家で襲われた事は一度も無かった。
俊紅とは関係の無い怪異の可能性もある。
母達を起こすという事も考えたが、疲れて熟睡している事を考えると、まず自分で布団の中を確認してからという結論にいたった。
もしかしたら気のせいかもしれない。
意を決して布団の中を覗き込むと、何者かの双眸が覗き返しているのがわかった。
本来なら悲鳴をあげるタイミングなのだが、あまりの衝撃に声に出ず、息をのむばかりの走矢。
そして双眸が走矢の顔に近づいて来る。
「ごめ〜ん、おこしちゃった?」
それは狐耳の少女、澄白 余白の顔だった。
「余白、アンタいつの間に?」
走矢が気づかないうちに目が覚めていたエリスが問いかける。
「あははは。以前住んでいた寮、ひきはらわれちゃっててさぁ。エリス姉のとこに泊めてもらおうと思ってさぁ」
「一言ぐらい言いなさいよ」
「みんな熟睡してたし、起こしちゃ悪いかなぁ、って」
「何も言わないで潜り込まれたら心臓に悪いわよ」
「ちょっと、貴女何なの? 何で走矢の布団に入っているの?!」
エリスと余白の会話で目が覚めた玲奈が取り乱す。
「なに?! 何なの、この女狐! そこは私の指定席なのよ!」
「お母さんはちょっと黙ってて!!」
さらに理奈も目を覚まして何やら本性をあらわすが、娘に一喝される。
「あら、余白ちゃん。そういえば新矢くんの足元が好きだったもんね」
「余白、久しぶり。現場じゃろくに話す事もできなかったわね」
さらにリリスとアリスが目覚めるが、どうやらこの2人は余白の事を知っているようだ。
「リリスママにアリス姉……zzz……」
「あっ、寝ちゃった。相変わらずね」
いつもの事の様に言うアリス。
「ちょっと、どこで寝てるのよ!」
「そうよ! そこは私の席なんだから!!」
「だからお母さんは黙ってて!!」
「無理よ、この子一度眠りについたらテコでも動かないから」
「だったら私が動きます!」
「ドサクサにまぎれて何やってんのよ母さん! 状況をややこしくしないで!」
騒動の翌日、突然学校が休校となり、そな数日後、走矢達は久々の登校をする事になる。
「おはよう、走矢くん。玲奈さん達は?」
「おはよう春香。姉さん達は何か用があるとかで別行動だよ」
投稿の途中、出会った春香と言葉を交わす。
そして、いつもなら桜と直が合流するタイミングで、いつか見た様な光景を目にする。
「うい〜っす」
それはグッタリとした直をおぶった桜の姿だった。
「今度は誰が帰ってきたのよ……」
以前、直がグッタリした原因が両親が帰ってきた事から、出た言葉。
「いや、そういうのじゃねぇんだ……。その……、結局は両親絡みで……」
「うがぁぁぁぁっ!」
桜が言いかけると、突然直がもがき苦しむように大声を出す。
「わりぃ、説明は学校に着いてからで。」
そう言って誤魔化すように引きつった笑いを浮かべる桜。
「まあ、何があったか知らないけど、人の最終形態を茶化したりするもんじゃないわよ」
春香の言葉にさらに引きつる桜の笑い顔が、何か引っかかる走矢だった。
校舎に入り、教室に向かう一行はその教室の入り口で中をうかがう挙動不審な咲花を目撃する。
「おはよう、咲花。何かあったのか?」
「あっ、走矢。みんなもおはよう。その、ちょっと見てみて……」
教室の中を覗くように促す咲花。
言われるままにする走矢と春香はその光景に絶句する。
「えっ?! 羽月、火織さん?! それに紗由理……ちゃん?」
「ガシャドクロにウィルウィスプ、原口姉妹に何とかって言うサキュバス?!」
「河童のおねえさん達もいる……あれ、もしかして……」
「直がああなった原因がわかったわ……。ええそうね、直のご両親……。なんか動物園みたいになってない?」
「コホン。この件に関してはこれから説明しますから、とりあえず中に入って」
いつの間にか後ろに立っていた愛美。
どうやらこの状況を説明してくれるらしい。
「え〜、この地域を担当している人妖機関の支所の建物が損壊し建て替えが必要になりました。その間、機関施設に収容されていた妖達の一部を、この高校で預かる事になりました。収容されたと言っても、模範的な妖達なので、皆さん仲良くしてあげてくださいね」
上沢高校は模範的な妖の収容だけで無く、一部機関の施設としても利用されるとの事。
河童姉妹や直の両親は事件の関係者として、しばらく機関に協力するという事で、高校通いになったらしい。
桜は直経由でこの事を聞いていたのだろう。
そしてもう1つ。
「それと、転校生を紹介します」
「えっ?!」
紹介されたのは正式に転入する事になった玲奈とリリスとアリス。
そして綾瀬 舞だった。




