決戦の後
昔、雨の降る中。
黒い着物を着た少女、櫛名田 八重子が傘をさして歩いていると、少年の幽霊と出会う。
「あら、どうしたの? お母さんとはぐれちゃったの?」
話しかける八重子に少年は応える。
「かーちゃんが怪物になっちゃって……」
話を聞くと、どうやら最近この辺りで暴れている怪物というのが、この子の母親らしいという事が分かる。
そして、この子はそんな母を止めたいようだ。
「お母さんを止めたいのね……。そういう事ならあの女に頼むといいかも。ついてらっしゃい、お母さんをどうにかできるかもしれない人の所に連れて行ってあげる」
少年の名は走助。
俊紅として産まれたため妖が強くなる事を恐れた、村人達の手で惨殺された、まだまだ幼い子供だった。
「ここよ、この館の奥。そこに居る館の主の女が、このあたりの陰陽師達を束ねているの。子供には甘い奴だから、君が頼めばきっと力になってくれる」
八重子に深々と頭を下げ、館に向かう少年の幽霊。
それを見送りながら八重子は呟く。
「また来世で会いましょ」
そして現在、獣人達が拠点としていたビジネスホテルの地下施設。
八岐大蛇こと櫛名田 八重子と、ぬらりひょんの早川 由利歌が睨み合っていた。
「この蛇女!」
「タダ飯女!」
「それを言うなら貴女、ただ酒女じゃない!」
「私くらい可愛いと、みんなタダで飲ませてくれるのよねぇ」
「罠にハマっただけでしょ? 挙句にお持ち帰りされて」
今にもつかみ合いの喧嘩になりそうな2人。
「ああ、似た者同士だから中が悪いのねぇ」
『何ですってぇ?!』
春香の迂闊な発言に、同時に反応する2人。
一方、リザードマン兄弟達は直が描いた十郎の眉毛が問題になっていた。
「何だその顔は、十郎!」
「ふざけているのか、十郎!」
「こっちを見るな、十郎!」
七、八、九郎がツッコミを入れる。
「ちょっと待ってくれ、兄者達! これは動けないところをイタズラがきされたのであって、俺の意志じゃ無い!」
必死に弁明をする十郎。
そんな中、直の姿を見つけた十郎は彼女に説明させようと、声をかけるが……。
「とかげくんさぁ、みんな真面目にやってるんだから、トカゲ君も真面目にやったほうがいいと思うよ」
そう、ハイライトの消えた目で、言い放つ直。
その隣では耳を塞いで天を仰ぐ咲花の姿があった。
「ヘカーテ、そろそろ封印させてもらうぞ」
淡々と告げる望月 勇に対して、
「好きにしろ……」
と、投げやりな回答。
「お前達の言う通り、私は不完全な状態で召喚されたようだ。このまま地上に残っても、エキドナの様な奴の餌食になるだけだ」
それを聞き、勇は刀をヘカーテの前に突き刺し、術式を発動させる。
「いさお……くん」
ヘカーテの気配が消え、藍華の口からその名が呼ばれる。
立ち上がり、勇の元に向かおうとする藍華だったが、これまでの消耗のせいか、倒れそうになる。
「藍華さん!」
咄嗟にそれを抱き止める勇。
2人は見つめ合い、そして強く抱きしめ合う。
「あら、あの2人ってそういう関係だったの?」
八重子と由利歌から逃れてきた春香が興味深そうに覗き込む。
「人妻大好き、未亡人ならなお良し、で、おなじみの望月 勇。略してモサオ」
余白が茶化す。
「余白、その紹介やめろって何度も言ったよなぁ」
そう言って余白を威嚇する。
「お母さん……」
そんな中、藍華を呼ぶ舞がいた。
「舞……」
フェニックスの血に目覚め、その翼を生やした娘の姿を見て、言葉を失う。
「おねぇ……ちゃん」
霧香におぶられた奏美が姉を呼ぶ。
「2人とも、そんな顔をしないで」
母と妹の無事な姿を見て、舞は微笑む。
「言いたい事も聞きたい事もいっぱいあったのに、1人で行ってしまったのですね」
光師の亡骸にリリスが語りかける。
「この人、なんで俺をかばってくれたんだろ……」
「わからないわ。この人がなんで血の浄化計画なんて行為に走ったのか、一体最後になにを思ったのか……」
「たとえ理由がわからなくても、走矢をかばってくれた事だけは感謝するは」
そう言って走矢の頭を撫でるエリス。
「走矢くん。まだそこに蒼炎居る? ちょっと話があるんだけど、良いかな?」
『何だババァ。一体何の……』
「その、肋骨についてよ。貴方の見解が知りたいわ」
『ああ、これか……。多分おそらくなんだけど、俺はアダムとイヴの話と意味的には近いモノだと思っている。』
「やっぱり貴方も……。そこに話がつながるわけね」
『アダムの肋骨から妻となるイヴが産まれた。じゃあこの肋骨は誰のものなのか。エキドナの夫のモノって事になるよな……』
「エキドナの夫……。テュポーン」
「お前か……」
暗い牢獄の中、鎖に繋がれた男が言う。
「エキドナは倒され、テュポーンも消滅した。お前の肋骨は回収されたぞ。おそらく機関のそれなりの施設に送られるだろうな」
その言葉を聞いて、男は深いため息をつく。
「失敗か……」
「肋骨はまだ残っているだろ? それを使ったらどうだ?」
「バカを言え、そのうち肋骨が無くなるぞ」
「冗談だ。まぁ、しばらく様子見だな」
そう言ってサイクロプスの新崎は牢獄から消える。
「いつか必ず、世界を俺で満たしてやる。その時こそ、俺は解放される……」




