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決戦8

 獣人達の拠点である、ビジネスホテル襲撃の数時間前。


 獅子島 光師(シシジマ コウシ)の偽者を演じるドッペルゲンガーに昔の仲間が訪ねてきていた。


「なんだ、お前か。忙しいんだ。用があるなら手短に頼む」


 ドッペルゲンガーには名前という概念が無い。


 他者に成り代わり生きていく彼らにとって、意味のないものだからだ。


 しかし、彼ら自身は、同族をそれがどこの誰なのか識別する事ができる。


「単刀直入に言うわね。ヘカーテの血液が欲しいの。貴方(あなた)、取ってきてくれない?」


「何を言い出すかと思えば……。無理に決まってるだろ。あの人は俺を雇っている連中のトップだ。それを傷つけて血液を奪ってこいと言うのか? そもそも、そんな事をしたら俺の命がないぞ?」


「どうしてもダメェ?」


「駄目だ」


「けちん坊……」


 そう言ってもう1人のドッペルゲンガーは光師の偽物の首に両手を回し、口づけをする。


 何かを感じた光師の偽物は慌ててもう1人を引き離す。


「お前……。今何を飲ませた?!」


「大した物じゃないわ。私の血液よ」


「なっ?!」


 もがき苦しむ光師の偽物を見ながらもう1人のドッペルゲンガー、浪川栄子はその変化を楽しんだ。


「すっご〜い。私がもう1人てきちゃったぁ」


「ほんとだ〜。おもしろ〜い」


 2人の浪川栄子は楽しそうに暗躍を始める。




 舞を切り裂いたもう1人の栄子は、手についたフェニックスの血を嬉しそうに舐める。


「なんだ……お前達は」


 得体のしれない乱入者達に、デルピュネも戸惑う。


「最初はへカーテ狙いだったんだけどぉ、エキドナやら貴女やら、いっぱい出てきたんでみ〜んな頂いちゃおうかな〜って」


「とりあえずソレ、渡してもらえるかなぁ」


 栄子達は走矢の持つ助骨を要求してくる。


「バカ言わないでちょうだい。走矢くんには指一本、触れさせないわよ」


 由利歌が走矢の前に立ち、栄子達の接近を阻む。


「それ以上近づかないで!」


 珍しく声を荒らげる春香が、自身の羽根を投げナイフの様に栄子達目掛けて投げる。


 1人は回避し、もう1人は腕でそれを受ける。


「離れろってんだろ!」


 腕で受けた方に回し蹴りを見舞う桜。


 桜達にはかつて、栄子との戦いで走矢が死にかけた事が、トラウマとなっていた。


「浪川センセ、悪いけど容赦しないよ」


 それは直も同じで、普段は絶対に見せない、殺気立った表情で、亜空間の糸を栄子の周りに張りめぐらせる。


 そして一瞬のスキをつき、ウィルウィスプこと藤崎 星垂(フジサキ ホタル)は、負傷した舞とヘカーテを抱えて咲花のもとに連れて行く。


「手当を頼める?」


「えっ?! あっ、うん……」


 舞はともかく、ヘカーテの治癒にイマイチ乗り気では無い咲花。


「君を召喚した術式を調べたんだけど、おそらく、最初から不完全な状態でその女性(ひと)に取り憑かせるように仕組(しく)まれていたみたい。君の器を殺させるだけじゃなくって、君自身も取り込ませて糧にさせる気だったんじゃないかな」


 デルピュネに狙いを定めた紗由理が、ヘカーテに背中を向けながら、自身の見解を述べる。


「貴様……。何が言いたい!」


「べつに……。ただ、後ろからブスリッ、とかは勘弁してよって話。それこそあいつを(デルピュネ)喜ばせるだけだよ?」


 苦虫を噛み潰した様な顔で(うな)るヘカーテ。


「私はキメラの方に行くわよ。大っきな借りがあるからね」


 青い炎髪をなびかせて、桜達の加勢に向かう星垂。


「さて……と」


 紗由理はデルピュネに仕掛ける。


 大広間の戦いが始まった頃、紗由理がばら撒いたガラス片のようなもの。


 ヘカーテ用の封印式が仕込まれた水晶だったのだが、それをエキドナ用、デルピュネ用と封印式を書き換えて準備だけしていた。


「いくよ、『封印結晶陣』」


 紗由理がそう叫ぶと、デルピュネを囲むように水晶が生え、力場を形成する。


「ぐっ、なんだ? 身体に力が入らない?! 力が……出せない……」


 自身の身体の異常に気づくデルピュネ。


「実力を隠しているなら隠したままで良いよ」


 紗由理がそう言うと水晶が輝きだし、よりデルピュネの動きが鈍くなる。


「ここで決めるぞ」


「言われるまでもない」


 凶剴の呼びかけに応える京花。


 凶剴の一撃目を何とか回避するデルピュネだったが、隠し持っていた脇差しを避けそこね、腕で受けようとしてそれを刺し貫かれる。


 間髪いれず京花の刃が遅い来るが、残った腕で受け止める。


 が、感触がおかしい。


 よく見ると京花の刀がほどけ、糸状になりデルピュネの首に巻き付いていた。


「?! まずい」


 残った力で首に巻き付いた糸を排除しようとしたが、体中から水晶が生え始め、一切の力が入らなくなる。


「これまでか……」


 呟くデルピュネの首がゴトリと地面に落ちる。




「走矢くんには指一本触れさせないわよ」


 火織が両手に炎の剣を持ちながら構える。


「なんで2人になってんのよ」


 羽月が愚痴る。


「やるしかないな」


 霧香が刀を構える。


「元々私が走矢のもとに来た理由はあの子が瀕死の重傷を負ったと聞いたから。この手で走矢を守るため。そして貴女がその原因だと言うなら私がここで始末します」


 理奈はそう言って自身の血液を頭から浴びる。


「あんな想い、二度とするつもりは無いわよ」


 エリスは自分の腕を噛み、リミッターを解除する。

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