決戦7
霧香が出現させた巨大武者が奏美の4度目の妖力放出を阻止せんと、その巨大な刀を振り下ろす。
「うぐぁぁぁ!」
攻撃に反応したのか、奏美は全身から発される妖力を全てその巨大武者に放ち、ふっ飛ばす。
「ふふっ、そんな図体ばかりのお人形で、エキドナが倒せると思ったの? なめられたものね」
一部始を横目で追っていたデルピュネがほくそ笑む。
刹那、2つの刃がデルピュネを捉えかける。
それはラードン討伐を終えた京花と凶剴によるものだった。
「お前が黒幕の黒幕というわけか」
「殺さずに何とかするなど我らには不可能だからな。貴様の首を取りに来た」
静かに語る凶剴と京花。
一方、巨大武者と奏美の戦いでは、奏美の妖力波が巨大武者の右腕を切り落としていた。
「ちょっとぉ、一方的じゃない?」
戦況を見てアリスが叫ぶ。
「何か考えがあるみたいなんだけど……」
チラリと、霧香の方を見るリリス。
落ち着いた表情で、次の指示を出す霧香。
残った左手で拳を振り下ろすが、奏美の放つ妖力波を食らい砕け散る。
さらに奏美は巨大武者目掛けて、大量の龍を放ち、その龍は巨大武者を貫いていく。
何とか立ち上がる巨大武者だが、そこに最大級の龍の妖力波を食らい、バラバラになる。
「あ〜、負けちゃったぁ……」
「ふっ、ここからだ」
絶望するアリス。
しかし霧香は、勝負を捨てていない。
「あの巨大武者、中身は空っぽなのね」
エリスがポツリと呟く。
そして、吹き飛んだ巨大武者の鎧は等身サイズになり、奏美に装着される。
「うがぁぁぁぁ!」
もがき苦しむ奏美。
「その鎧、巨大武者が敗北すると勝者に取り憑き、その力を封印する。もし、巨大武者が勝つ様な事があれば、私が封印される」
奏美に生えた、尾や翼、角が燃え落ち妖力の暴走が一旦落ち着く。
「くっ、くそぉ、デルピュネめ……」
正気を取り戻したエキドナが怨嗟を吐き出す。
「少し回り道しちまったな」
余裕の笑みを浮かべながら対エキドナ用の封印式を発動させる蒼炎。
彼の手前に光が集束していくと、それが稲妻のように放たれる。
「くっ、まずい!」
その場から逃れようとするエキドナだったが、蒼炎の封印式の方が早く、短い悲鳴をあげてその場に倒れる。
「封印完了っと」
そんな蒼炎の右手に、骨のような物が握られていた。
「まるで肋骨だな……」
それは、奏美の体内にあったエキドナたらしめたエネルギーを抽出、封印したモノだった。
「奏美……」
消耗しきった舞が身体を引きずるようにして妹に駆け寄る。
「お姉ちゃん……。私……」
「んっ……、何も言わなくていいから。ごめんね、何の相談もせず、1人にして……」
「おねぇちゃん……」
姉の服の裾を強く握りしめて気を失う奏美。
そんな妹を必死に抱きしめる舞を見て、蒼炎は呟く。
「俺の役目はここまでだな」
そして由利歌がその言葉に反応する。
それは、息子との2度目の別れを意味していた。
かつて由利歌が雨上家の当主として陰陽師達を束ねていた頃。
雨がシトシトと降る中、冷たくなった蒼炎の亡骸と邂逅した。
由利歌自身、天才と認め敗北するなど無いとまで思っていたその男は、いくつかの致命傷を負い、絶命していた。
「遅くなってごめんね……」
我が子が雨に濡れてこれ以上冷たくならない様に、雨から守る様に抱きしめる由利歌。
思えば兄の蒼炎を抱きしめるのはこれが初めてだった。
生まれたときから体が弱かった弟の蒼水。
彼ばかりをかまっていて、兄の蒼炎を由利歌が抱き上げる事は一度も無かった。
蒼炎が成長し、やたらと反抗的なのもそのせいだと由利歌は考えていた。
いつか抱きしめてやって、彼がどんな反応をするか見てやろう、などとたくらんだ事もあった。
しかし、そのたくらみを実行する日は来なかった。
そして彼の死後、別の事を考えるようになる。
蒼炎はどこかで、自分が早世する事を察していたのではないか?
だから自分に憎まれ口ばかり叩き、嫌われようとしたのでは、と。
しかし、もしそうなのだとしたら、彼の行為は逆効果だった。
まるで悪友の様に軽口を叩き合う中は、由利歌の長い人生で彼とだけ成立した、特別な関係だった。
彼の亡骸を見たとき言った言葉、『遅くなってごめんね』とは、2つの意味があった。
1つは彼の命がつきる前に、その場に来る事ができなかった事への謝罪。
もう1つは彼が生きているうちに抱きしめてやる事ができなかった事への後悔。
今、再び訪れた我が子との永久の別れの前に、由利歌は走矢の身体ごと蒼炎を抱きしめた。
「おい、ババァ! 借り物の身体なんだぞ、何やってんだ!」
「うるさい……。最後なんだから、ババァって言うな」
「ハッ、最後じゃねぇからババァって言ってんだよ。いい歳だろうに」
「歳のこと言うな! 本当に、このバカ息子……」
「じゃあな……。せいぜい長生きしろよ」
由利歌は我が子の最後の言葉に何も返さず、コツンと額と額を合わせて震えるだけだった。
「さぁーて、これで残るは真の黒幕、ただ1人だよ!」
仕切り直すかのように声を張り上げる紗由理。
凶剴と京花の連携に苦戦しつつも、まだ力を隠しているのは紗由理や戦っている2人には伝わっていた。
おそらく何らかの理由で本来の力を出せないか、出さないようにしている。
迂闊に刺激して、エキドナを片付ける前に本気を出されるのが想定し得る最悪のパターンだった。
しかしエキドナを封印し、奏美を開放した今、全力でデルピュネの相手をできる。
皆がそう思っていたその時。
「グハッ?!」
それはヘカーテ声だった。
見れば黒い不定形なナニカが弱りきったヘカーテを背中から短剣で刺し、その凶器についた血を舐めていたのだ。
「なんで……。何でアンタが?! パパが消滅差せたはずなのに?!」
絶叫するエリス。
不定形なそれは人型をとり、その人物にエリスや愛美は見覚えがあった。
「浪川 栄子?! なんで貴女が?!」
「ヘカーテちゃんの血液、ゲット〜。ず〜っと狙っていたのよねぇ。まさかあなた達と関わりを持っているとはおもわなかったけど〜。あとはそっちのエキドナちゃんも頂くわね〜」
蒼炎の意識が消えた走矢は、ハッとして右手に握られた肋骨を見る。
「お母さん?! この、よくもお母さんを!」
怒りの形相で栄子に殴りかかる舞。
そんな彼女を別の何者かが切り裂く。
「え?! なんで?」
ヒドラの、討伐終えた面々が対エキドナチームに合流してくる。
その中で春香が呆気にとられて、困惑する。
舞を襲ったのもまた、浪川 栄子だったのだ。
2人のキメラ、栄子を前に彼女を知る者達は等しく混乱していた。




