決戦5
ヒドラと戦う、火織達は苦戦していた。
「ラードンは100の命を自慢していたが私は違う。伝説にあるヒドラは9つの首を持つというが、私は9つの本体を持っている。9人全員が本物だ!」
その言葉の通り、9人のヒドラが火織と羽月の前に、立ちはだかり襲ってくる。
9対2という絶望敵な状態で一方的にやられている火織と羽月だったが、そこに戦闘に勝利した桜、春香、直、レイコ、レイカ、夢子が参戦し何とか盛り返す。
「戦うのは良いけど倒しちゃ駄目だよ。伝説のとおりなら1人倒すと2人生えてくる。トドメは火織の炎じゃないと」
「倒しちゃ駄目って、手加減できるレベルの相手じゃないのに……」
紗由理の指示に逆らうわけではないが、それが容易ではない事を、春香が口にする。
「やるしかねぇ! コイツを片付けてエキドナの方にいかねぇと……」
チラリと横目で走矢の方を見る桜。
「とりあえず1人」
レイカは羽の模様でヒドラの1人を拘束する。
「ダメッ! あたしの精神攻撃じゃ、動きを止める事はできない!」
夢子の能力では足止めは無理そうだ。
「なっ何だこれは?!」
春香の幻に引っかかり、直の糸状の亜空間に、ヒドラが2人ひっかかる。
動けなくなったヒドラを火織が始末しようとするが、それを他の引っヒドラ達が邪魔をする。
「流石にもったいぶり過ぎ」
そう言って飛び出すウィルウィスプ。
「テメェは?!」
その姿を見て、咄嗟にかつて走矢の命を奪いかけた存在だと気づく、桜。
「落ち着きなさい。経緯はわからないけど、味方だというのなら彼女の力は役に立つわ。ヒドラの対処を間違えるわけにはいかないの」
今にもウィルウィスプに掴みかかりそうな桜を、春香が制する。
春香には、桜が必死に自分を抑えているのが伝わってくる。
「でももし、おかしな素振りを見せたら、私は躊躇しないわよ」
春香も決して彼女の事を許したわけではなかった。
ウィルウィスプは直の結界に捕らえられた2体を狙うが、他のヒドラがそれを邪魔しようとする。
「ちぃっ!」
それを桜と春香が迎撃し、ヒドラ2体はウィルウィスプの炎に包まれる。
「敵の数が減れば妨害も難しくなる。これで均衡は崩れたわ」
春香の言うとおり、9対7と人数で有利となり、次々とヒドラを焼いていく。
「おのれ〜、かくなるうえは……」
そう言うと、最後の1人となったヒドラは、自らの首をはねる。
「まさか?!」
その姿を見て、春香は取り乱す。
「なっ、なんだぁ?!」
はねられた首からは胴体が、胴体からは首が生えてきて、それを見た桜が青ざめる。
「私は体勢を立て直す! 時間稼ぎを頼むぞ!」
2人になったヒドラの1人が戦場から離脱しようとする。
「やべぇ、逃したら増えられるぞ!」
翼を広げ、逃げるヒドラを追う桜。
「邪魔はさせん!」
時間稼ぎを任された方が、桜に襲いかかるが、レイコとレイカに取り押さえられ、ウィルウィスプの炎で焼かれる。
「桜!」
火織は桜目掛けて炎の矢を放つが、それは炎の剣に変化し、桜の手に収まる。
「よっしゃあ!」
気合の入った桜の一撃が最期のヒドラを貫き、焼きつくす。
「おのれぇえ!」
先程までの余裕が消え、激昂するエキドナ。
一度に100近い、龍の妖力波を放つが、蒼炎が余裕の笑みを浮かべるとその半数が支配権を奪われ、残りの半数を迎撃する。
「エキドナの妖力をハッキングして支配しているんだわ。たぶん、その気になれば全ての龍を支配できるんだけど、その必要が無いから半分だけ支配権を奪っている……」
年長者のリリスが、何が起こっているのか解説する。
「フンッ! だけど貴方も私に攻撃できないんじゃないの? 龍の支配権を全て奪わないのも私を攻撃できないから。妖力のハッキングには相当の集中力が必要なはず。私は貴方がミスをするのを待てば良いだけ!」
そう言って妖力波の発射体勢を取るエキドナ。
しかし、その表情は焦りと困惑に変わる。
妖力波は放たれる事なく、エキドナに巻き付き、拘束する。
「勘違いするなよ? その娘を傷つけずに助け出す方法なんていくつも思いついている。どれが一番格好良く助けられるか。俺が悩んでいるのはそれだけだ」
かっこよさげな顔でポーズを決める蒼炎。
「このバカ息子」
そんな彼に身内から野次が飛ぶ。
「陰陽師風情がぁぁぁぁ!」
エキドナは怒りの形相で拘束を破壊すると、猛ダッシュで蒼炎に迫る。
妖力波とは身体の外に妖力を放出するモノ。
そのぶん、支配権を奪われやすい。
しかし、体内の妖力は支配する力が強く、支配権を奪われ辛い。
エキドナは妖力を放出しない肉弾戦で決着をつけようというのだ。
「やっと近づいてくれたな」
あともう一歩で届くというところで、エキドナの足元に五芒星が出現すると、光の柱に飲み込まれる。
「貴方……、誘ったの!」
ほくそ笑む蒼炎。
「そりゃ、その子とお前を分離するために、触れる必要があるからな」
そう言ってエキドナを包む光の柱に手をかざす。
「デルピュネ、手を貸しなさい! このままでは封印されてしまいます。」
「ハッ!」
手短に返事をしたデルピュネから、蛇の形の妖力波が放たれる。
右手の5本指からエキドナに、左手の5本指からは蒼炎向かって飛ぶ。
しかし、計10体の妖力波の蛇はその半分をハッキングされ、エキドナの龍の妖力波と同じ運命をたどる。
が、妖力波に隠れて1本のナイフが蒼炎の眉間目掛けて放たれていた。
既のところでそれを止める蒼炎だったが、同じ様なナイフが、奏美にも放たれていた。
「ぐっ?! デルピュネ……。いったいなんの真似だ!」
ナイフは奏美の腹部に刺さり、エキドナは両膝をつく。
「私が戦っても勝てる気がしませんので、エキドナ様。暴走していただけませんか?」
その微笑みはどこか冷たかった。




