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決戦4

 地面に立つデルピュネの周囲の壁や地面から、次々と蛇の形の妖力波が伸びる。


 妖力波と言うのは、主に身体から放出する物だが、妖力のコントロールに()けた者は、他の物質を介して放出する事ができる。


 このデルピュネという女は間違いなく、妖力コントロールの達人と言っていいだろう。


 理奈は妖力波に注意を払いながらもデルピュネに肉弾戦を仕掛ける。


 傍から見れば理奈が押しているように見えるが、当の理奈は違和感を感じていた。


(この(おんな)、まだ実力を隠しているのでは?)


 強引に回し蹴りを繰り出す理奈。


 ガードしたデルピュネごとふっ飛ばすが、これはこの女と距離を取りたかったからだ。


「たしか、エキドナと同一視される事もあるのよね……」


 理奈は自信の血を浴びる。




「とうした? 最初の威勢はどこへ行っちまったんだ!」


 レイコはケルベロスに押されていた。


「以前のあたしを想定したんだろうが、お生憎様。あたしは顕現したお母様、エキドナ様の力で生まれ変わったんだ! てめぇにも、あの骸骨女にも、炎の女にももう負けねぇ!」


 レイコも鱗粉と自身によるコンビネーションで攻めるが、3倍の動きのケルベロスには一手足りない。


 加えて、3倍の時間の流れの中で生きるケルベロスは、レイコが1つ考えている間にその次の次まで考えることができる。


 徐々に追い詰められていくレイコに、ケルベロス渾身の回し蹴りが入り、地に伏すレイコ。


「ここまでだな。しかし何だぁ、その奇抜な羽は? お前、ヴァンパイアだろ? 同族にきもちわるがられねえのか?」


「あぁあ?! テメェには関係無い(ねぇ)だろ!」


「はっ! てめぇみたいな変わり羽を持つ奴は、大抵ろくな人生を送れてねぇからな。それをあたしが笑い話にしてやるって言うんだよ! 感謝しな! この汚らしい蛾女(がおんな)!!」


 トドメとばかりに拳を振り下ろすケルベロス。


 しかし、それはレイコに届く事は無かった。


貴女(あなた)、今なんて言ったの? 私の可愛いレイコの羽が何? 汚いですって?」


「なっ、なんだてめぇ?!」


 それは冷たい表情のレイカだった。


 レイコとケルベロスの間に立ち、ケルベロスな右拳を左手で受け止め、握り潰さんとする。


「なっ?! くそぉ!」


 慌てて反対側の手で、拳打を繰り出すケルベロス。


 しかしそれもレイカは空いていた右手で受け止め、同じく握り潰さんとする。


 いかに3倍の時間の流れの中にいようと、こうやって捕まってはどうしようもない。


「私の可愛いレイコをいたぶった挙句、私の可愛いレイコの可愛い羽を馬鹿にしたうえ、私の可愛いレイコに蛾女なんてあだ名まで付けるなんて……」


「どんだけ『可愛いレイコ』付けるのよ……」


 思いもよらぬレイカの暴走に、ツッコミを入れる夢子。


「姉貴……。こんなあたいのために怒ってくれてるのか……」


「もう、この姉妹は……」


 夢子がため息をつく中、レイカは自身の羽を広げ、その目の模様をケルベロスは見てしまう。


「なんだ?! 体の自由がきかない?!」


「貴女、地獄の番犬なのよね? 良かったわね。見慣れているんでしょ? 地獄」


 そう言うと、動けないケルベロスに対して、レイカのもうラッシュが始まる。


「凄い……。あんたのお姉さんってこんなに強かったの?」


「あたいに戦い方を教えてくれたのは姉貴だぜ」


 かつて姉妹が幼い頃、レイコを常に守っていたレイカ。


 しかし、ある戦いで、レイコが必死に貯めたお小遣いでプレゼントしてくれたリボンを破かれてしまう。


 悲しむ姉を見て、これからは自分が前衛で戦うと決めた、幼いレイコだった。


 レイカの上着のポケットにしまわれた、ボロボロのリボン。


 それを握りしめて、渾身のアッパーカットをケルベロスに見舞う。


 ふっ飛び、地面に倒れるケルベロス。


「クッソォォォ! だがこれでその目の呪縛は解けたぞ! 迂闊だったなぁ!」


 そう言ってレイカの羽を見ないように突進するケルベロス。


 レイカとレイコをすり抜けて、勢い良く壁に激突する。


「夢子ね……」


 ポツリと呟くレイカ。


「そろそろ静かにしてもらわないとね。コイツ、うるさすぎ!」


 壁に頭を突っ込んだケルベロスはピクリとも動かない。




 エキドナと対峙する、エリス、アリス、リリス、玲奈、そして霧香に走司。


 エキドナが放つ、龍の形の妖力波。


 一度かわしても消えることなく、何度でも攻撃してくるそれに一同は苦戦していた。


 一度に10体、指の数だけ放たれる龍。


 最初は走司が妖力で作ったコウモリで対処していたが、次第にそれが間に合わなくなってくる。


「やっぱり本体にダメージを与えないと無理よ!」


 玲奈の悲痛な提案。


 他の者も、奏美を無傷で奪還するのは不可能と考えていた。


「でもその判断、少し遅かったわねぇ」


 そう、エキドナが微笑むと、デルピュネの蛇の様に、地面から大量の龍の妖力波が放たれる。


「しまった。戦いながら彼女は別の妖力波を準備していたんだ!」


 叫んだ走司はありったけの妖力のコウモリを妖力波に向けて放つ。


「クソッ、このままでは……」


 霧香も骸骨で妖力波を抑えようとするが、それでも足りず、エキドナの猛攻を受ける。


「まさか……ここまで……」


 (みな)ボロボロで、立っているのがやっとの状態でエリスが言葉を絞り出す。


 エキドナはそんなエリス達を一瞥(いちべつ)し、舞に向かって言い放つ。


「こうなったのも全部、貴女(あなた)のせいよ。奏美に冷たくしたから、あの子は私を求めた。彼女達が今、ボロボロなのも貴女(あなた)が奏美を助けたいと思っているから、十分な力が出せないでいる。貴女(あなた)ってほんと、疫病神ね」


 舞を挑発しながらエキドナは、クスクスと笑う。


「ふざけないで! あんたが奏美を騙して、あの子の弱みにつけ込んで身体を乗っ取ったんじゃない! 私は絶対に奏美を諦めない!」


 舞の叫びに呼応するかの様に、その背の生えたてのフェニックスの翼が広がり、威嚇する様に羽ばたく。


 舞の言葉を聞いて意地悪そうに笑うエキドナが再び口を開く。


「お姉ちゃん。お姉ちゃんのせいで私、エキドナに食べられちゃったんだよ? お姉ちゃんが私を見捨てたから。私の心のスキにつけ込んで、私……。食べられちゃったの……。もう戻れないの。エキドナを倒しても、私はもう、ここには居ない……。なんであの時、私を捨てたの? たとえお母さんが居なくても、お姉ちゃんがいてくれれば、私はそれで良かったのに……」


 突然、奏美の口調で舞を攻め始めるエキドナ。


 ギリギリのところで耐えていた舞は、限界に達し、その場に泣き崩れてしまう。


「舞、エキドナの嘘に騙されるな。奏美の意識はまだ生きている。だからこそお前と母を殺させる事で完全に奏美の意識を消し去ろうとしているのだ」


 舞とエキドナの間に立った霧香が何とか舞の心を支えようとする。


「霧香さん……」


「お前が折れた時が奏美の最後だと知れ」


「ふふ、ならば貴女(あなた)から片づけるとしましょう」


 そう言って霧香に向けて手をかざすエキドナ。


 しかしその直後、エキドナの顔が強張る。


「なんだ?! 身体が動かない?!」


 焦るエキドナの足元に、五芒星が確認できた。


「選手交代だ、走司。器を生かして、中身だけ始末するって言うなら、いよいよ俺の出る幕だな」


 その言葉は走矢の口から出たモノだった。


「走矢ちゃん?!」


「わりぃな、走司は消耗がはげしくって、戦闘続行は不可能だ」


貴方(あなた)、一体何者なの?!」


 エキドナの問いかけに、焦りが見える。


「俺の名前は雨上 蒼炎(ウガミ ソウエン)最強の陰陽師だ。憶えて……逝け」


 新たに走矢に宿った存在、雨上 蒼炎(ウガミ ソウエン)が名乗りを上げる。


 だが、キメ顔で格好良く決めていた蒼炎の表情が固まる。


 彼の視線の先には、早川 由利歌(ハヤカワ ユリカ)、すなわち蒼炎の母、雨上 由利歌(ウガミ ユリカ)がいた。


「ババァ、なんつぅカッコ、してんだよ!」


 由利歌が穿く、高校の制服のミニスカートにツッコミを入れる蒼炎。


「ババァ言うな。はったおすぞこの前馬鹿息子」 

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