決戦
「舞?!」
血相を変えて舞の元に駆け寄る霧香。
同時に、エリスは翼を広げてヘカーテと奏美の間に立つ。
「邪魔をしないでください」
「バカ言わないで。邪魔するに決まっているでしょう」
冷たく言う奏美の父、公生に素っ気なく返すエリス。
一方、舞に駆け寄った霧香はフェニックスの炎に包まれ、傷が癒えていく、その姿に驚いていた。
「これがフェニックスの力なのか……」
舞が無事なのを確認して、胸をなでおろす紗由理。
「君達が黒幕? 一体何者なのさ」
公生たちの方に向き直って問いただす。
「我が名はエキドナ。この地を統べる支配者なり」
その名を聞いた、一同の表情に緊張が走る。
「確かエキドナってヘカーテと同じ神クラスの妖じゃ……」
「神クラスと言って、一緒くたにされるのは面白くありませんね。例えばこの僕。エキドナ様……、いえ母上を復活させるために日夜暗躍しております。眷属からしてデキが違うのです」
確かに、公生も公生以外のエキドナ配下達も、相当な実力者である事が分かる。
「だいたい、私達龍の一族と獣風情を同列に語る事が間違いなのよ」
後方に控えていた女が口を挟んでくる。
「何より、奏美はエキドナ様の血を引く僕の娘。すなわちエキドナ様の血を引いた器。その出来損ないの器とは比べ物にならない、最高の器なのです」
自慢気に語る公生。
しかしエリス達には嫌悪感しかわかなかった。
「貴方、自分の娘や奥さんを最高傑作だの出来損ないだのと、そんなふうにしか見れないの?」
リリスが怒りを抑えながら言葉を紡ぐが、公生は何を言っているのかわからない、といった表情で首をかしげる。
「ラードン様、こんな女の言う事など聞く必要はありませんよ」
そう言って飛び出してきた者達が、リリスを囲む。
「ママ?!」
「お母さん!」
娘達の声を聞きながら、異様な空間に引きざりこまれていくリリス。
「ここは我ら『四屍竜』の特殊結界。ここでは時間の概念は無くもとの空間では1秒も時は動いていない」
「お前の夫はここで始末されたのだ」
「どうだ? 嬉しいだろ? 愛する夫と同じ場所で死ねるのだからな」
リリスを包囲する4人の敵。
「風のワイバーン、炎のサラマンダー、水のサーペント、地のナーガ。我らこそラードン様直属の精鋭四屍竜」
『死ねぇ、条牙咲リリス!』
四屍竜が一斉にリリスに襲いかかるが、何かが彼女を覆い、四屍竜がそれごと切り裂き、貫こうとするがそこには何も無く、代わりにコウモリの群れが飛び回ってた。
「良かった、間に合って」
四屍竜から離れた場所に抱きかかえたリリスを下ろす走矢の姿。
「大丈夫? ママ」
その言葉に震えが止まらないリリスはこう応える。
「パパ……。走司さんなの?!」
走矢からあふれ出る妖力は間違いなく愛した夫、条牙咲 走司のモノだった。
今から数分前、房士を倒した直後、何者かの術か力によって上沢支所内に居た者達が敵味方関係なく、この地下施設に転移させられていた。
「ちょっと桜、急にどうしたのよ!」
突然、何かに引き寄せられる様に走り出した桜。
それを追う春香。
「『あの子が……』って言ってたよね」
「うん、私も聞いた……。なんだろ、桜なんだけど桜じゃなかった様な……」
桜の言葉を確認しながら、直と咲花が春香に続く。
そして桜の視界に、獣人達に襲われる走矢の姿が入ってくる。
桜達が合流したのは走矢だけではなく、彼の近くにいた、小夜子、光師、余白。
そして近くで伸びていた房士だった。
「ちょっと待って。走矢以外に飛ばされた人、探して見るから」
そう言って意識を集中する咲花。
「いた! 清十郎さん。ここからけっこう離れているけど」
清十郎の気配を感知する。
「アレを倒した直後、変な感じがしたんだよね〜」
伸びている房士を指差しながら余白が言う。
「一体誰がなんのために?!」
言いかけた走矢に変化が起きる。
「すまない、ママがピンチのようだ。僕は一足先に行かせてもらう」
そう言って走矢の姿は大小、様々な大きさのコウモリとなって飛び立つ。
「えっ?! 今のってまさか!」
「ええ、あの時とおんなじ。走矢くんのおじいちゃんね」
直の言葉を春香が肯定する。
四屍竜の結界内。
走司とリリスは四屍竜と対峙していた。
「ここは四屍竜が力を合わせて作り出した結界。四屍竜を1人でも倒せれば維持できなくなるはず」
走司の言わんとする事を理解し、頷くリリス。
「貴様! 一体どこから入ってきた!」
茶髪の女、地竜のナーガが怒鳴りながら中空から曲刀、ファルシオンを取り出し、リリスと走司に向かって行く。
「彼女にする?」
「そうだね」
言葉少なに見つめ合う2人。
そんな2人目掛けて横一閃。
ナーガの斬撃は2人を切り裂いた様に思えた。
が、斬られた2人は大量のコウモリになり、ナーガを襲う。
「なっ、何だこれは?!」
混乱するナーガ。
「何をやっている、避けろ! くるぞ!!」
赤い髪の女、サラマンダーが叫ぶが、間に合わず、リリスと走司が左右から挟撃を仕掛ける。
ファルシオンは砕け散り、ナーガは宙を舞う。
そして四屍竜の結界は消滅し、リリスと走司は通常空間に帰還する。
「ママ! ……走矢? それにこの気配は……パパ?!」
通常空間にいたエリスにとって、母が異空間連れ込まれ、走矢と共に帰還するまで1秒も時間が経っていない。
エリス以外も同じで当然、混乱している。
そんな混乱の中、奏美達の父、公生の胸を突き破って刀が伸びる。
「20年前の借り、返しに来たぞ。ラードン」
刀の持ち主、禍津 凶剴が静かに宣告する。




