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反撃6

 ヘカーテの大広間。


 そこにはヘカーテと舞の2人だけしか居なかった。


「全く、時間稼ぎすらできないなんて……」


 呆れるヘカーテの前に、うずくまる舞が確認できた。


 苦しそうな舞の背中に、赤い燃えるようなフェニックスの翼が確認できる。


 ヘカーテの反応から、儀式はまだ途中のようだが、舞の肉体の変化など、かなり進行しているようだ。


「あれ?! もう1人のお祖母ちゃんは?」


 遅れて到着した紗由理が容赦なく理奈をお祖母ちゃん呼びする。


「サイクロプスとの戦闘で亜空間に引きずり込まれて……。あの人の事だから大丈夫だとは思うんだけど、時間はかかるかも」


 リリスが経緯を説明する。


「構わんだろ。約束どおり先ずは私が行かせてもらう」


 紗由理と一緒に到着したガシャドクロの霧香がそう言って刀を抜くと、ヘカーテ目掛けて走り出す。


「あ〜、もう! 援護しないと……」


 紗由理はそう言うと、ポケットからビー玉ほどの大きさの土粘土を大量に取り出してばら撒くと、霧香そっくりの土人形になり、ヘカーテに向かっていく。


「あんなので撹乱になるの?」


 こっそり紗由理に尋ねるウィルウィスプ。


「感知能力がこちらの読み通り低ければ対応できないはず」


 そう言いながらも次の手を仕込む紗由理はガラス片のようなものを足元にばら撒く。


「こしゃくな!」


 ヘカーテはそう叫ぶと、右手をかざし妖力を放出して霧香の群れに放つ。


 本物といくつかの偽者は回避に成功するが、半数以上が攻撃を食らい、砕け散る。


 しかしこれも計算のうち。


 砕け散った土人形の破片は砂状になって舞い上がり、ヘカーテの視界を(おお)う。


「くっ!」


 明らかに焦りを見せるヘカーテ。


 やはり感知能力に難があるのと、連続で強大な妖力は使えないようだ。


 焦るヘカーテに、砂嵐の中から一太刀浴びせるガシャドクロ。


 妖力の(こも)った腕でそれをガードするが、防ぎきれず出血する。


「おのれぇぇぇ!!」


 激しく怒りを「あらわにするヘカーテ。


「霧香さん、お母さんを傷つけないで……」


「舞、状況が変わった。お前が去った後、奏美が行方不明になった。どうやらお前達の父親が連れ出したようだ……」


「奏美が?! お父さんが……」


 舞は幼少の頃から父親に良い印象を持っていなかった。


 何か母や自分達を家族としてでは無く、別の何かの様に大切に扱う、得体のしれない人物という認識だった。


「お前の母親は助ける。だが無傷では無理だ。必ず助け出すから、そこだけは目を(つぶ)ってくれ」


 そして砂嵐が止むと、大小様々な大きさの骸骨達がそこにいた。


「こっちに」


 リリスがフェニックス化の進む舞をヘカーテから遠ざける。


 と、同時にアリスと玲奈がガシャドクロと共に前線に立つ。


「私も!」


 そう言って前に出ようとするエリスをリリスが止める。


「ママ、どうして?!」


「まず、あの3人で様子見よ……。何だか予感がするの。このヘカーテ戦で終わりじゃない予感が……」


 エリスの母、リリスは決して強いヴァンパイアの血統ではない。


 しかしそれ故に、リミッター解除や爪を操る戦い方など工夫や裏技的な技術を磨いてきた血統でもある。


 そして、危機を事前に感知する『感』のような物も優れていて、これは娘のエリスやアリスも持たない特性だった。


「日本の妖と言うのは時に化け物と恐れられ、時に神と崇められる。神が約束を(たが)えるわけにはいかぬだろ?」


 ヘカーテに切っ先を向け、ガシャドクロは静かに語る。




 ホテル地下の一郎達の泊まる客室にて、一郎を怪しんだ五郎と六郎が縛りあげられていた。


「ちょっと動きすぎちゃったかしら」


 2人を縛りあげたぬらりひょん、早川 由利歌(ハヤカワ ユリカ)が誰に言うでもなく、呟く。


 認識をズラす能力で、自身をリザードマン兄弟の長男、一郎と認識させて一足先に敵の拠点に乗り込んでいたのだ。


「本物の一郎兄者は……」


「貴方達が監視しているのはわかっていたわ。だから監視の目をかいくぐって、彼らはすでに護送済みよ」


 その言葉に、ガックリとうなだれる六郎。


「それより、さっきの話だ……」


「んっ?! ちょっと待ってね。はいは〜い、こちら由利歌ちゃん、こちら由利歌ちゃんで〜す」


『あっ、すいません。蒼条です。今、地下に行こうとしていた敵を追っていたのですが、妙な事になっていまして……。現在、従業員用の裏口に居るのですが、大量の獣人達の死体がありまして……。そのほとんどが、頭部か心臓を一撃で破壊されていて、おそらくかなりの手練が裏口から侵入してきたのだと思います』


『お夏ぅ〜、こっちにも死体がいっぱいだよ〜!』


 夏の通信機越しに聞こえる日奈子の声。


「深追いはしないで。私もすぐそっちに行くから、合流しましょう」


 そう言って通信を切ると、由利歌は五郎の方を向く。


「さっきの話、すぐにでも立証できるかも……」


 真剣な表情で、五郎に伝える。




 その頃、上沢支所は大量の対結界用ゴーレムの投入で獣人達の侵入を許し、戦況は押され気味だった。


「中央室から脱出の準備に入るよう、指示が来ています。順番に車両に移動してください」


「あの、清十郎伯父さんは?」


「佐伯さんは中央室に残って指揮を取るそうです。走矢君は一足先に脱出しておくようにとのことです」


 機関職員の返答に沈黙する走矢。


 自分がここに残っても何もできないのはわかっている。


 先程、光師にはああ言われたが、負い目を感じるなと言うのは無理な話だ。


「走矢さん……」


「あっ、ああ。行こう、小夜子ちゃん」


 小夜子にまで気を使わせている事に気づく。


 今ここでもたつく方が、よっぽど迷惑をかける。


 走矢達が車両に向かおうとしたその時、シェルターのドアがふっ飛ばされる。


「おやおや、宝玉を追っていたら面白い人を見つけましたよ」


 負傷し、包帯の巻かれた光師を見て侵入者、熊田 房士(クマダ フサシ)はほくそ笑む。

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