反撃5
ヘカーテの大広間前の戦闘。
リリスとアリスを迎え撃つ虎次郎と緋都女。
緋都女がスピードで翻弄し、虎次郎が強烈な一撃を相手に見舞うと言うコンビネーション。
リリスは先ず、そのコンビネーションを崩しにかかる。
爪をマシンガンの様に連続で虎次郎と緋都女目掛けて発射し、2人を分断する。
「アリスちゃん!」
「了解!」
名を呼ぶと、それに呼応して分断された片割れの虎次郎の方に向かっていくアリス。
そしてリリスは緋都女と対峙する。
とにかく近づかないと何もできない緋都女に対し、爪弾で狙い打つリリス。
フェイントを混ぜ、一瞬のスキをついた緋都女だったが、リリスがばらまいた爪がマキビシの様に変化し、足に刺さる。
「くっ、何だこれは?! 足が離れない……!」
見ればマキビシは、地面にも深々と刺さっていて、踏んだ相手をその場に留める効果がある。
一瞬のスキをついたつもりが、実は誘い込まれていた事に気づく緋都女。
リリスは爪をナイフのように伸ばして束ね、ブレードを形成させると、それで緋都女を斬りつける。
「緋都女?! くそっ、こいつなんてパワーだ!」
アリスと力比べの真っ最中の虎次郎だったが、緋都女がやられた事で動揺し、押され始める。
「そろそろ本気で行くわよ」
「なんだと?!」
驚く間もなく、圧倒的なパワーで一気に壁に叩きつけられる虎次郎。
「くっ……」
何とか一矢報いようとする虎次郎だったが、最後に見た光景は、片脚を高く振り上げたアリスの姿だった。
霧に隠れて攻撃してくる新崎に、理奈は防戦一方だった。
結界の後出しで対処しないのは、おそらくそのスキをついて仕掛けてくると、読んでいたからだ。
霧に隠れているだけなら、多少は気配で読めるのだが、亜空間に潜まれるとそれも難しい。
まだ、亜空間を使ってこないのは、ここぞと言う勝負所まで温存するつもりだと理奈は考えていた。
霧の中にかすかな新崎の気配を感じ、警戒する理奈だったが、それとは反対方向から飛んでくるナイフに不意をつかれる。
「これは?!」
咄嗟に対処するも、ナイフを叩き落としたときに、傷を負ってしまう。
「この攻撃にも対応するか……」
霧の中から聞こえる新崎の声。
そして理奈も自分の読みの甘さを反省する。
敵が大きく仕掛けてきたところを、カウンターで打ち取るという算段だったが、敵に余裕を与えすぎたと反省し、自ら仕留めに動く事にする。
ナイフを叩き落としたときについた傷。
そこから流れ出る血が床に魔法円を次々と描き出す。
「これは……あの女の結界?!」
不気味に増殖する魔法円を見て呟く新崎。
霧の結界が消される前にと、手持ちのナイフを全て放ち、それらは亜空間を経由し、理奈を全方位から襲う。
しかし、ナイフは1本も理奈に刺さる事はなかった。
理奈の周囲に出現したものの、何らかの力で空中に固定されてて、ピクリとも動かない。
よく見ると、彼女の周辺の霧が赤く染まり、ナイフに絡みつき捕えているのだ。
「なんだ?! これは一体何なんだ!」
「私の結界は後出ししても相手の結界を消滅させたりできません。代わりに、相手の結界をハッキングして私の支配下に置く事ができます」
理奈がそう言い放つと、新崎の周辺の霧も赤く染まり、収束して手を形づくると、彼女の首を絞め上げる。
「クソッ! 私の結界が乗っ取られるとは……! かくなる上は……」
そう言ってつま先で床を叩くと、彼女自信と理奈の姿が消える。
「理奈さん?!」
「おやおや。新崎さんが奥の手を出してきましたね」
「奥の手?!」
声をあげるリリスに何か知っているような口を聞く総士、それに反応するエリス。
「ここが彼女の亜空間……」
新崎の亜空間結界に引きずり込まれた理奈は、その異様な光景に息を呑んだ。
巨大な一つ目の怪物の石像が、サイクロプス像が何体も並ぶ異様な空間。
おそらくこの石像はゴーレムの一種で、所有者の一声で襲い掛かってくるだろう。
「何となく、何となくだ。お前には手の内全てを見せることになると思っていた。それが現実のものとなったな」
どこからともなく、声が聞こえてくると、サイクロプス像達は一斉に理奈に襲いかかる。
このサイクロプス像は結界の機能ではなく、外から持ち込まれた物だろう。
結界をハッキングしてもこのサイクロプス像は止められない。
「仕方ありませんね」
そう言って手首を切り、流れ出る血を浴びる理奈。
血粧と呼ばれる技術だ。
理奈はバサリと翼を広げ、石像の群れに向かっていく。
「次に姿を見せるのは決着がついた時。おそらく生還するのは新崎さんの方でしょう」
「随分とご機嫌ね。完結主義者の熊田さん。本物の光師さんを陥れたのがそんなに嬉しいの?」
得意げな総士にリリスが突っかかる。
「人聞きの悪い、意地悪な言い方ですね。ほんのちょっと意見が合わなかっただけですよ」
「それにしては光師さんの偽物を、予めよういしておくなんて、用意周到ね。最初から彼を殺害するつもりで準備してたんじゃないの?」
リリスとしては、光師が総士に言っていた、夫の走司の死に関わっていたのではという言葉の真偽を確かめたかった。
「貴方はこれ以上、混血化が進む前に獣人族は滅びるべきだと考えている人。そのために、獣人族を追い込むために私の夫を殺害したんじゃないの!!」
声を荒らげるリリス。
そして、そのリリスの言葉に反応する者がいた。
「熊田さん、その話は本当なんですか? 光師さんが偽物って……」
深手を負った緋都女が苦しそうに尋ねる。
「緋都女さん、こんな奴らの言うことを真に受けては……」
「ぐはっ?!」
言いかけた総士の横で、玲奈と偽の光師の戦闘に決着がつく。
「こいつ、ドッペルゲンガー何でしょ? 気を失ったぐらいじゃ正体を現さないけど……」
そう言ってグッタリとした偽の光師の頭を掴み、妖力を流し込む玲奈。
「ぐあぁぁぁっ?!」
妖力を乱された偽物、ドッペルゲンガーの姿が崩れ、不定形の何かになる。
「これが偽者の証明よ」
玲奈は静かに呟く。
「やれやれ、皆さんだらしが無いですね」
そう言って総士は宝玉を取り出す。
「これは緋都女さん達が使った物より遥かに強力な、アルテミスの宝玉のレプリカです」
そう言って宝玉を胸に埋めこむ総士。
その身体は一回りほど大きくなり、見た目もどこか禍々しくなる。
「全員まとめて始末して差し上げましょう! 先ずは貴女からです!」
そう言って姿が見えなくなる程のスピードを出す総士。
しかし、エリスのは以後に回ったところを、彼女の裏拳が顔面に炸裂し、あっさり迎撃される。
「そっ、そんなぁ、まさか私の動きが見えているのですか?!」
激しく動揺する総士。
そんな彼の右のつま先を左足で踏みつけるエリス。
「なんですか、それは。嫌がらせのつもりですか?」
そんな、呆れる総士のボディにアッパー気味の右パンチを食い込ませるエリス。
右のつま先を踏んだのはこの時、遠くへ吹っ飛んで行かないようにするため。
悶絶し、前のめりになった総士の顔面を右足で垂直に蹴り上げ、追い打ちをかける。
吹っ飛ぶこともできず、その場に仰向けに倒れる総士。
エリスはそんな彼を容赦なく蹴飛ばし、ヘカーテの広間に通じる扉をぶち破る。




