反撃
「無理だ。こちらも昼間の戦闘でのダメージが回復していない状態だ。今すぐ上沢支所に攻め込むのは自殺行為でしかない」
宝玉を奪い返すため、リザードマン兄弟の長兄、一郎にもう一度上沢支所を攻めるよう依頼してきた総士だったが、あっさりと断られてしまった。
「しかし一郎兄者。まだ三郎兄者と四郎兄者が捕らわれたままだ。2人の奪還も兼ねて受けるというのは……」
結局、一郎しかし救出できなかった六郎は依頼に前向きなようだ。
「六郎、お前は俺しか救出できなかった事に責任を感じているのかもしれないが、それは違うぞ。敗北もそれによる拘束も個人の責任。それは三郎も四郎もわかっているはずだ。今、まともに動けるのは俺とお前。そして五郎と新崎、オルトロスくらいだ。勝ち目など無い」
一郎の言葉に大人しくなる六郎。
「ヘカーテ殿は? ヘカーテ殿が参加してくださるのなら望みはあるのでは?」
「残念ですが、今、御子に『力』を降ろす儀式の真っ最中でして、儀式が終わってもしばらくはまともに動けない状態でしょう」
五郎のアイデアも実現せず、手詰まりとなる。
「そういえば、凶星の方々は? あの方たちに依頼できませんかね?」
「凶星とは契約終了で引き取ってもらった。だいたい、あのヤバイ連中をここに連れてはこれんだろう」
一郎の返答にため息をつく総士。
「仕方ありません。数でなんとかしますか……」
「早速来たわね」
中央室のモニターに映し出された獣人達を見て紗由理が呟く。
「かなりの数がいるな。昼間の襲撃の際、相当な数を戦闘不能に追いこんだはずなんだが……」
口調は落ち着いているが、清十郎の表情は険しい。
「重要なのはヘカーテがこの攻勢に参加しているのか、いないのか。いるなら全力で倒す。いないなら敵が手薄なうちに本拠地を攻めて倒す。何とかヘカーテの所在がわからないかな……」
頭を抱える紗由理の横で、清十郎のスマホが鳴る。
「……、ちょっとまってくれ。今、スピーカーモードに切り替える……」
そう言って清十郎がスマホを操作すると、
『はぁ〜い、こちらヘカーテの拠点に潜入中の由利歌ちゃんで〜す』
スピーカーから脳天気な声が聞こえてくる。
「姿が見えないと思っていたら、そんな所に入り込んでいたのか……」
と、桜。
「例の『認識をズラす』能力で敵に紛れ込んだのね」
感心する春香。
「敵の拠点って、月宮女学園じゃないの?」
『その声はエリスちゃん。無事戻ったのね。連中の拠点は複数あって、月宮はその一つにすぎないわ。むしろそうやって意識を向けさせるのが目的なんじゃないないかしら? ここは月宮から北東に10キロほど離れた所にあるビジネスホテルの地下施設よ。現在、敵組織の貸し切り状態で、一般のお客さんは1人もいないわ』
「ヘカーテは?! ヘカーテの動きは分かる?」
『紗由理ちゃん? 随分と慌ただしいわね。まぁ、気持ちは分かるけど。居るわよ、この地下施設に。今、ヘカーテの足りない部分を舞ちゃんに降ろそうとしている最中よ……』
「今すぐ、ヘカーテの根城に攻めいるべきだよ! 宝玉はこの施設に置いてって獣人共を引き寄せておくの。守りは必要最低限にして主戦力を全投入よ!」
「ちょっと、落ち着きなさいよ……」
「守りは必要最低限って、最悪ここが落ちてもいいって事?」
なだめるエリス。
そして春香の質問にスマホ越しに由利歌が応える。
『そうよ。最悪、宝玉を奪い返されてもヘカーテさえどうにかできれば問題無しよ。むしろこの、千載一遇のチャンスを逃す方が後々響いてくるわ』
紗由理と由利歌の意見は一致しているようだ。
所長や他の幹部は支部の会議や本部への報告に出払って居り、清十郎が実質的な最高責任者となっている上沢支所。
「分かった。その作戦でいこう」
と、承認する。
「走矢達は非戦闘員用のシェルタールームに避難していてくれ。いざとなればそこから脱出できるようになっている」
非戦闘員である走矢や小夜子、そして宝玉を封印している真央と梨央、清十郎と一部の術師と戦闘員が残り、他は敵の拠点に攻め込む事になった。
「私は走矢の所に残るわよ」
理奈、そして玲奈は走矢から離れるのを嫌がった。
「この2人はこちら側の戦力の中でも間違いなくトップクラス。絶対にヘカーテ討伐に必要な戦力なんだ」
必死にお願いする紗由理。
「姉さん、理奈さんも、俺からお願いします。ヘカーテをあのままにしておけない」
走矢にお願いされ、渋々引き受ける理奈と玲奈。
「小夜子、貴女もお留守番よ。必ず舞と彼女のお母さんを連れて帰るから。そうすればきっと奏美の事も何か分かるわ」
「お母さん、気をつけて。無理しないでね」
火織と小夜子がしばしの別れを惜しむ中、
「直ちゃんも行っちゃうの?」
「そりゃ、結界とかあったらあたしの出番でしょ!」
「無かったら、本気で戦えない直ちゃんは足手まといなんじゃない?」
「そっ、そんな事無いもん! 獣人ぐらいだったら絶対に負けないもん!」
直とその両親が言い争っていた。
「走矢……」
突然、我が子の唇を奪うエリス。
「なっ?!」
驚く走矢だったが、それが母の言う『特別な加護』だと理解する。
「これはアンタが無事であるための加護よ。これがあるからって過信したり無理をしたら絶対駄目よ」
「分かったよ。ありがとう、母さん」
攻撃組は何台かの車両に乗って目的地まで移動する。
その車両の中で紗由理や術師で高校教師の神崎 裕翔らが望月が残した『ヘカーテ召喚の術式』を解析するという事になっていた。
攻撃組の乗る車両は地下駐車場に停められており、脱出用の通路から獣人達に見つからないように出発する計画だ。
「どうやら置いていかれずにすんだようだな」
その車両の前に、ガシャドクロこと、矢嶋 霧香が現れる。
「霧香?! 昼間の戦闘で結構なダメージを受けていたはずじゃあ!」
「彼女に治してもらった」
親指を立てて指し示した先に咲花の姿があった。
「まだ完治はしてないわよ。残りは車の中でするから」
「あたいの方は万全だぜ。元々そこまでの怪我じゃなかったからな」
咲花に続いて原口レイコが姿を見せる。
「調子にのってると、今度は大怪我よ」
妹をたしなめるレイカ、そしてサキュバスの夢子が続く。
「じゃあ、出発ね」
エリスの合図と共に、攻撃組が出撃する。
「予定通り、走矢くんは居残りですね」
攻撃組を乗せた車両がヘカーテの拠点に向かうのを見届けるオルトロス、その中に潜む霊体の男がニヤリと笑う。




