緊急ミーティング2
奏美が父親に連れ出された事に誰も気づかず、ミーティングは続いていた。
「これはあたし達を追ってきた獣人が調子に乗って話した事なんだけど」
アリスは烏間 香子が勝手に話した内容を伝える。
「アルテミスの宝玉にはわずかに流れる獣人の血を活性化させて純血化する力があるの。そしてその真の力を解放できるのがヘカーテと月に縁のある高位の妖だけ。本来、ヘカーテが完全な状態で顕現するはずだったんだけど、器との相性や召喚時のトラブルが原因で、不完全な状態で顕現してしまったらしいわ」
「この辺は蒼条くんの情報や紗由理くんの分析と合致するな」
「ふぉうへふへ」
清十郎の言葉に同意するエリス。
「チョット貴女、喋るか甘噛みするか、どっちかにしなさいよ」
玲奈に突っ込まれたエリスは沈黙を選ぶ。
「喋らないんだ……」
春香が呆れる。
「それでここからが本題。真の血の浄化計画っ言うのは、完全体のヘカーテがアルテミスの宝玉を使って広範囲に獣人の血を活性化させる光を放ち、一度に大勢の獣人を目覚めさせるという計画らしいの。それでヘカーテの足りない部分を、御子を使って補おうって事らしく、舞って娘には何か、月と関わりのある高位の妖を憑依させるつもりよ」
「それ、全部追ってきた獣人が言ったの?」
「ええ、そうよ。冥土の土産にって」
玲奈の疑問にあっけらかんと応えるアリス。
「そういえば、望月先輩もそんなことを言って情報を提供くれましたね」
「わざとでしょ。っていうか望月くん、演技が下手すぎ。戦っているフリなんかしてないで、とっとと情報、全部くれればいいのにさぁ!」
「|はっふぁりほひふひふんはふらひっへははつはほへ《やっぱり望月くんは裏切ったりしてなかったのね》」
「望月くんは責任感の強い男だったからな。藍華さんを助けるために独自に動いていたんだろ」
清十郎は自分の知る望月勇を語る。
「でも、その人って遺体が見つかって、殉職扱いだったわけでしょ。一体どうやって生きのびたのかしら?」
「多分、望月くんの相棒だった澄白 余白が協力してるんでしょ。変化の術が得意な妖孤で、新矢から俊紅を与えられているの。彼女が本気を出せば細胞レベルで変化させられるわ。返り討ちにした敵の死体でも変化させて偽装したんでしょ」
エリスの説明に納得する春香。
「あっ、甘噛み終了?」
「とりあえずはね。残りは家でやるわ」
「まだやるんだ……」
直の質問に応えるエリスと呆れる春香。
「でも、エリちゃん達が宝玉を奪ってきてくれたおかげで、計画は頓挫だね」
直が少し嬉しそうに話す。
「って事は、またここに攻め込んてくるんじゃないのか?!」
「一応、美島さんのご両親……。怪盗夫婦が封印をしているけど、どうもあの宝玉の力で獣人化した娘達には宝玉のある場所がわかるみたいなのよ。咲多さんの言うとおり、あの宝玉がある限り再びここが襲われるでしょうね」
「あの宝玉と獣人化した者の間に繋がりみたいなものがあるって事か……。もしかしたら獣人化した娘達をもとに戻せるかも……」
エリス話を聞いた紗由理が思わぬ事をポツリと呟く。
「そんな事が可能なの?!」
物凄い勢いで紗由理に迫るアリス。
「あ、あくまでも可能性の話だからね! 実際には宝玉と獣人化した娘の両方をよく調べないと!」
必死にアリスをなだめる紗由理。
「あの〜、これは望月先輩が去り際に残していった言葉なんですけど、凄く気になったんで報告しておきます。『この一件にはもう一枚、裏があるぞ』、だそうです」
夏の報告に、ミーティング参加者達がザワつくなか、勢い良く部屋に飛び込んでくる者がいた。
「あの! 奏美さんが見つからなくって、監視カメラの映像とか調べてもらってたんですけど……」
小夜子が奏美の消失を伝える。
「ばかな?! これは……」
奏美が連れ出される一部始終が監視カメラに映像として残されており、それを見た清十郎が驚愕する。
「結界は復旧してるんだよね? この人、一体どうやって敷地内に入り込んだっていうの?!」
「結界をすり抜けて来たってことでしょ……。何者なの、この男?!」
とり乱す日奈子に応える夏も同様が隠せなかった。
「あった、これだ!」
そう言ってノートパソコンわいじっていた清十郎が、その画面に映し出された男の写真をその場にいた者達に見せる。
「同じ人……? 清十郎さんはこの男が誰だかご存知なのですか?!」
「ああ……。この男の名前は綾瀬 公生。綾瀬 藍華さんの夫で、綾瀬姉妹の父親だ……」
それを聞いて再びザワつく一同。
その中で走矢がポツリと呟く。
「もう一枚裏があるって、この人の事?」
「奏美の父ちゃんが黒幕って事なのか?!」
「そうは言ってないでしょ。けど、ヘカーテは彼女を必要じゃ無いって言ったわ。その彼女を連れ去るって、ヘカーテとは別の思惑が存在してるって事じゃないかしら」
と、桜に解説する春香。
「黒幕ってあの熊の事じゃないの?」
アリスは首謀格の光師と異なる死相を持っていた熊の獣人、熊田 総士が望月の言う『裏』なのではと推察する。
「確かに現状、月宮を実質的に支配しているのは彼だけど……」
リリスにはずっと引っかかっている事があった。
それは夫、走司の死についてだ。
ヴァンパイア界隈でも手練で通っていた彼が命を落とすというのはよっぽどの事だ。
もし、明確な殺意を持って、刺客を放ったとしても騒動のドサクサにまぎれて、証拠を残さず暗殺を実行するのは、相当な実力者のはずだ。
そんな人物があの総士の下につくだろうか?
戦った感じ、特別強いわけでもなく、壁画のガーディアンまで手が回らないなど詰が甘いところがある。
リリスとしては彼の後ろに何者かがいて、その人物が走司暗殺の黒幕という方がしっくりくると考えていた。
「清十郎さん、チョットいいですか? たった今、外で獣人を数名、発見して捕らえたんですけど!」
息を切らせながら入室してきた西倉 綾がすでに敵が動いている事を知らせる。




