緊急ミーティング
ヘカーテの襲撃を受けた日の夜。
上沢支所を管轄下に置く、第18支部にて臨時の会議が開かれていた。
神クラスの妖、ヘカーテが顕現していたと言う事実。
そして獣人達が彼女と共に行動しているということ。
これらを踏まえて今後の対応、対策を練るというのがこの会議の目的だ。
そして同じ頃、上沢支所では走矢の見知った顔が集まりミーティングが始まっていた。
「まず最初に、この件のゴールを決めないと」
発言の主は魔女の紗由理。
「ゴールを決めるってどういう事?」
と、尋ねる直。
「わかりやすく言うとヘカーテを器ごと始末するのか、器とヘカーテを分離してヘカーテだけを倒すのかって事。器もろとも倒す方が難易度的には低くなるよ。器を助けようとすると、その分リスクが大きくなるからね。あとこれはあたしの読みなんだけど、今開かれている支部の会議では、おそらく器ごとの討伐を選択すると思う。それだけヘカーテの分離は難易度とリスクが高いから」
「ヘカーテだけを倒す一択だろ」
間髪入れず桜が応える。
「気持ちは分かるけど冷静になってね? あの姉妹の母親を助けたい気持ちはあたし達だって一緒さ。でも、それをやろうとすれば、より多くの犠牲を出す事になりかねないんだ。こんな言い方はしたくないんだけど、見ず知らずの女性1人をを助けるために、君と仲がいい友人達が命を落とすかもしれないんだよ?」
「器ごとって言ってるけど、アレを倒す算段があるの? 桁違いの妖力だったわよ?」
何かを言い返そうとする桜を制し、春香が口を開く。
「あるよ。あのヘカーテ、多分完全じゃ無い。結界を破ってすぐに攻めてこなかったのはそのせいだと思う」
「あの、それに関しては望月先輩がくれた情報にあります」
「|ふぉひふはふんほひょうほう《望月君の情報》?!」
望月勇と交戦した夏の言葉に反応するエリス。
アルテミスの宝玉奪い取った彼女達は帰還し、このミーティングに参加していた。
そしてホームシックの反動から、走矢に甘噛みしたまま彼を離そうとしなかった。
「それ、どうにかならないの?」
「どうにもならないからこの有り様なんじゃない。無理やり引きはがそうとすると、ぐずり出すのよ」
呆れる紗由理に玲奈が説明する。
そして、2人のやり取りを聞いたエリスは、自身の翼で走矢を包み込む。
空を飛ぶための部位である翼は、手足よりも力が強く、翼で誰かを包む行為は『絶対に逃さない』と言う意志の現でもある。
「え〜と、良いですか? 話しますね?」
仕切り直す夏。
「望月先輩の話だと1年前、獣人達が綾瀬 藍華さんに無理やりヘカーテを憑依させ、自分達の支配者として招き入れたそうです」
「失踪の原因はそれか」
清十郎が静かに呟く。
「御子には高位の妖の器になる資質がある、と言われているんだけど、相性があるのよね」
「その相性があまり良くないみたいで……」
理奈の言葉に便乗する夏。
「強大な妖力を持っていても、その放出に肉体の方が耐えきれないみたいです。あと、感知能力もムラが大きく守りにかなりの不安があるそうです」
「まぁ、この辺がつけ入るスキだね」
紗由理がまとめる。
「あの、ヘカーテだけを倒すって、何か方法があるんですか? ヘカーテを分離させたり封印したりみたいな……」
母に抱きつかれながら、今度は走矢が質問する。
「望月先輩がヘカーテを召喚したときの術式を残してくれました。これを解析すれば何かわかるかもしれませんが……」
「あたしもこの後、その解析に参加する予定だけど、どうなるかは今の段階じゃ言えないね」
施設内の別の場所にて。
ミーティングに参加しなかった夢子達が奏美を探していた。
「どういう事? まさか舞を追いかけて行ったゃったの?」
「結界は復旧してるんだ。外に出れば何らかの反応があるはずだ」
原口姉妹も必死に探す中、奏美は施設の敷地内で夜風に当たっていた。
「お姉ちゃん……。お母さん……。どうして私も連れて行ってくれなかったの……」
1人寂しげに呟く奏美。
その時、奏美を呼ぶ声がした。
「奏美、奏美!」
ハッとして声の方を振り向く奏美。
「おとう……さん?!」
「奏美、久しぶりだね。ごめんよ、今まで会いにこれなくて」
歳は40代。
スーツ姿で高身長の男が心配そうな顔つきで、奏美に近づいてくる。
「お父さん! なんで、どうしてここにいるの?!」
「お父さん、悪い奴らに追われててね。奏美達を巻き込まないために1人で逃げていたんだ。でも、奏美達が大変なことになってるって知って、慌てて奏美に会いに来たんだ」
その言葉を聞いて泣き崩れる奏美。
「ごめんよ、奏美。寂しい思いをさせて。これからはずっと父さんが一緒だから」
「お父さん、お母さんとお姉ちゃんが……」
「わかってる。お母さん達をおかしくしたのは、お父さんを追っていた悪い奴らなんだ。奏美、力を貸してくれるか? お父さんと2人でお母さん達を取り戻そう」
「お父さん……。人妖機関の人達に会って……」
「駄目だ奏美。家族の絆を取り戻せるのは家族だけだ。それに人妖機関は母さん達を殺す気だ。彼らに任せていては母さん達は救えない」
その言葉を聞いて奏美は青ざめる。
「行こう、僕達で母さんと舞を取り返すんだ」
奏美は覚悟を決め、静かに頷く。




