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始動2

「そう……。そんな事が……」


 暗い表情のリリス。


 教会を後にしたアリス達は、エリス達のいる高等部の寮に潜入していた。


「血の浄化計画はまだ続いていたのね……」


 力無(ちからなく)くため息をつく。


「修道女の格好からしても教会にずっと居るんでしょうね。彼女が居る以上、宝玉の奪取は不可能に近いわ」


「囮を用意して引き離すとかが常套手段なんだけど、囮役にも相当な実力が求められるのよね」


 あんな化物を見た後でも冷静に対応策を考える梨央と真央に感心するアリス。


 しかし、彼女らの言うとおり、囮役も決して容易ではない。


 今ここにいる面子でソレを実行するならエリス、リリス、自分(アリス)の3人で囮になり、そのスキに梨央と真央が宝玉を奪うという形になるだろう。


「とりあえず報告ね。その上で手練を増援として回してもらえるかどうか……」


 そして梨央と真央、リリスがアルテミスの宝玉について、知っているだけの知識を合わせて、何が起こったのかを解説する。


「おそらく全員では無いんでしょうけど、この学園の生徒は獣人の血を引いている娘達が一定数。もしくは大半がソレって事ね」


 リリスはこの学園と宝玉を結びつける。


「普通の妖や人間があの宝玉を使ってもソコソコ血の濃い混血ぐらいしか目覚めさせられないと思うの。検査とか感知でも引っかからないくらい、薄い獣人の血を目覚めさせられるのは、あの修道女の力によるところよ。きっと」


「そんな(ひと)があの理事長の手下って言うのは考え(づら)いのよねぇ。実はあの(ひと)が黒幕って事はないかしら?」


 梨央の言葉を受けて考え込むリリス。


 首謀格10人の事は知っているが、その様な女の事は今回初めて知ったし、過去に獣人達が人や他の妖から相当な攻撃を受けていたのに、動きも情報も出てこなかったというのがどうにも引っかかった。


「ああ、それとあの獣人の血の目覚め。あれかなり危険だよ。今回は上手くいったけど、急激な肉体の変化はもの凄く負担がかかって、最悪の場合肉体が崩壊して命を落としかねない。行方不明者ってもしかして……」


 エリスは隣で母が、何かに必死に耐えているのが感じ取れた。


「何にしろ仕掛けるなら平日の昼間だね。その方が、教員や生徒の中にいる獣人達の対応が遅れるだろうから」


 しかしチャンスは思わぬ形でやってきた。


 修道女が外出したというのだ。


「間違いないよ。使い魔を通じて出ていった修道女の気配を探ったけど、間違い無くあの(ひと)だった。どうする? チャンスではあるんだけど……」


「やりましょ」


 真央の言葉に即決するリリス。


「その女が動いたという事は、獣人サイドが何か大きく動く予兆だと思うの。エリス、機関の方にもそれを伝えておいて。私達は宝玉の奪取に尽力しましょう」


 時間は昼過ぎ。


 午後の授業をすっぽかしてエリス達は教会攻略を開始する。


「この衣装、着なきゃ駄目なの?」


 怪盗衣装の着用を求められ、戸惑うエリス。


「この衣装自体が簡易的な結界のような物で、着用者の気配や情報を遮断して他者から隠す事ができるの。着用者同士は認識できるから、それを身に着けていないと私達と会話すらできなくなるわ」


 と、怪盗衣装の重要さを解説する梨央。


「急がなきと例の女が戻ってきてしまうわよ」


 いつもならノリノリで着こなしそうな母、リリスだったが、今回それは無く、真剣な眼差しでエリスを()かす。


「じゃあ、行くよ。隠形(おんぎょう)の結界を張るから私からあまり離れないでね」


 エリス、リリス、アリス、梨央、真央の5人は以前、潜入したように教会の屋根から屋根裏に入り、例の部屋の天井裏まで侵入する。


「今更なんだけど、あの女が宝玉を持ち出したって事はないかしら?」


「それも使い魔が確認している。宝玉はここから動いていないし、あの(ひと)も宝玉を持っていなかった。感知に特化した使い魔だから間違いないわ」


 そう、アリスの疑問に応える真央。


「宝玉は私達で回収するわ。たぶん回収後に色んなセキュリティーが起動すると思うから、そこからはお願いね」


『いったいどういう事だ?! なぜ彼女が外出している? 私に隠れていったい何をしている!』


 真央が言い終わると同時に怒号と共に光師が部屋に入ってくる。


『落ち着いてください、光師くん。勝手に動いた事は謝ります。しかし、これは我々の未来のためでもあるのです』


 そう言って、光師に続いて部屋に入ってくる恰幅(かっぷく)のいい中年の男。


 リリスはその男の事を知っていた。


 月宮女学園の副校長、寿 総士(コトブキ フサオ)こと、熊田 総士(クマダ フサオ)


 光師と同じ獣人でワーベア。


 血の浄化計画の首謀格の1人で、リリスの夫、走司の死亡現場にも居合わせていた。


 エリス達も潜入捜査の前に、首謀格3人の顔写真を見せられていたので総士の事は知っている。


 そしてその首謀格同士の言い争いに興味があり、一同は少し、彼らの話を聞く事にする。


『我々の未来だと?! お前が考えているのは結末じゃないのか!』


「結末? いったいどういう事?」


 疑問を口にするエリス。


 しかし、リリスにはその言葉の意味が何となくわかっていた。




 獣人達の純血主義と言うのは、決して一枚岩の考えでは無かった。


 一番主流なのは弱肉強食の妖の世界で、力の弱い混血が増えるのは良くないという考え。


 これは光師や獣悟がそれだとリリスは理解していた。


 しかし、それとは別にあくまでも純血である事が目的で、それさえ(まっと)うできれば、獣人という『(しゅ)』が滅んでも構わないという、『完全純血主義』と呼ばれるものだ。


 あの総士はその完全純血主義者なのでは、とリリスは解釈したのだ。


『ならばはっきり言うぞ。26年前、あの条牙咲 走司(ジョウガサキ ソウシ)の死亡事故。お前が関わっていたんじゃないのか? その後、同族が追い詰められるのを分かっていて!』


 リリスの表情が一気に強張(こわば)る。


 リリスだけではない。


 エリスとアリスも驚きのあまり、声が出そうになるのを梨央と真央に口を押さえられる。


『濡れ衣です。どこにそんな証拠が?』


『俺の名前を使って妙な連中を動かしているみたいだな。それだけじゃ無い。虎次郎や緋都女(ヒヅメ)が居ないのもお前の指示じゃないのか? ……俺を始末するために』


『さすが……。と言いたいところですが、何もかも遅すぎましたね。光師くん』


 そう言って総士が指を鳴らすと、部屋の四隅に設置された四聖獣の像が動き出し、彼の背後の入口から光師ソックリの男が入ってくる。


『ドッペルゲンガーか……。』


『君の血液を与えてあるので、完璧に月宮光師を演じてくれますよ』


『俺に成り代わるだと? やってみろ!』


 咆えると同時に獣化する光師。


 総士ともう偽者の光師も一瞬遅れて獣化する。


 最初に仕掛けたのは光師で、総士に攻撃と見せかけフェイント。


 釣られてカウンター狙いの一撃を繰り出した総士のスキを突き渾身の一撃を食らわせる。


 よろめき、何とか耐える総士。


 しかし、今度は光師のスキを突き、偽の光師が爪を振り下ろす。


 本物の光師はソレを両腕でガードして致命傷を避ける。


『まだまだですよ』


 総士がそう言うと、虎と龍の石像が同時に襲い掛かってくる。


 2体の攻撃を辛うじて(しの)ぐ光師だったが、首と手足を引っ込めた亀が弾丸の様に飛翔し、直撃する。


『ぐあっ?! くそ……。いつの間に四聖獣の支配権を……』


『言ったはずですよ。遅すぎたと』


 バカにしたような笑みを浮かべて総士、ワーベアは爪を振り上げ、とどめの体勢に入る。


 その時、天井を突き破って降下したリリスは、光師を掴んで総士の攻撃から逃れると、自分の爪を伸ばしてワーベアの顔面めがけて発射する。


 爪の1本は総士の左目に命中し、ワーベアは悲鳴をあげる。


「お前は、条牙咲リリス。何故ここに……」


貴方(あなた)の所業を止めるためです」


 そんなリリスと光師、目がけて偽の光師と四聖獣が襲いかかる。


「ママ!」


「貴女達は予定通り、宝玉を回収して!」


「もう、計画メチャクチャよ」


「これじゃあ、怪盗じゃなくって強盗じゃない」


 エリスは落下地点の近くに居た偽の光師にかかと落としを見舞い、次に近くに居た龍の石像、青龍の頭部を渾身の回し蹴りで破壊する。


 弾丸の様に飛翔し、再び光師を狙う亀こと玄武はアリスの正拳突きで粉々になり、リリスは白虎と取っ組み合うが、手の空いたエリスとアリスによる両サイドからの攻撃で粉々にされる。


「こっちに1匹来てるんですけど…、」


 見れば朱雀の石像は、その胴体の部分だけ梨央の作った亜空間結界に捕らわれていた。


 梨央がパチンと指を鳴らすと亜空間が捕らえた胴体ごと消滅し、分断された石像がゴトリと床に落ちる。


「結構えげつない手を使うのね……」


 アリスが小さく呟く。

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