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始動

「うん、ピッタリ!」


「似合ってるわよ、アリスちゃん!」


 授業が終り寮室に戻ったアリス達だったが、部屋に入るやいなや、あっという間に『怪盗の衣装』に着替えさせられたアリス。


「後は3人での決めポーズね」


「ちょっと、目的を忘れていない? あたし達はアルテミスの宝玉を探しに、この月宮女学園に潜入しているのよ? 長く居ればボロが出る可能性だってあるんだから、とっとと宝玉を見つけないと!」


 呑気なことを言っている梨央に宝玉探しを促すアリス。


 ここで言うボロには、梨央の性別の事も含まれていた。


 しかし、真央と梨央はキョトンとした表情で、


「宝玉の在り処(ありか)ならわかっているよ?」


 当たり前のように応える。




 闇夜に舞う、人影が3つ。


 それはアイドルの様な怪盗衣装に身を包んだ、アリス、梨央、真央の3人だった。


 3人は、翼は使わずに身体能力だけで建物の屋根を飛び越し、ついには学園の敷地を出てしまう。


「ちょっとぉ、学園の敷地、出ちゃったわよ?」


「コレでいいの。宝玉は学園の敷地内には無いから」


「ええ?! どういう事!!」


 驚くアリスに真央が応える。


「別に、理事長の所有物だからって、学園に置いておくとは限らないでしょ?」


「ても、すぐ近くだよ。宝玉のある場所。何か意味があるのかもね……」


 そう言って到着したのは、学園から200mほど離れた所にある教会の屋根の上だった。


「宝玉はこの教会の中にある。2人で感知したから間違いないよ……。ここから入れそうだね」


 そう言って真央が屋根の一部に手をかざすと、空間が歪み、ポッカリと穴が開く。


「穴開けちゃって大丈夫?」


「これは私達が使う結界術。解除すれば穴も消えて元通りよ」


 そう、梨央にうながされて中に入るアリス。


「そう言えばアリスちゃん、暗闇での視覚はどうなの?」


「妖力を使って見る事ならできるわ」


「じゃあ、大丈夫だね」




 屋根裏を移動するアリス達はとある大きな部屋に出た。


「礼拝堂? じゃなさそうね」


 屋根裏から覗き込むその部屋は窓が無く、部屋のアチコチが傷ついている。


 まるで獣が暴れた跡のように……。


「もう少し見やすくしよう」


 真央がそう言うと、下の部屋から見れば天井裏でアリス達からすれば床にあたる部分が透けて、部屋が丸見えになる。


「これ、下から見えたりしないでしょうね?」


「そんなマヌケなことしないわよ。それより見て、部屋の四隅に石像のような物があるでしょ? アレはこの部屋を守護するガーディアンよ」


 梨央に言われて四隅に目をやるアリス。


「あの動物の石像が? 虎に龍、鳥に亀の石像?」


「白虎、青龍、朱雀、玄武。伝説にある四聖獣よ。私の見立てだと、高品質なゴーレムって感じね」


「あと、壁に書かれている獣の絵。アレも飛び出してきそうね」


 梨央と真央は部屋の状況を分析する。


「部屋の事はわかったけど、肝心(かんじん)の宝玉はどこなの? この部屋にあるんじゃないの?」


「それはたぶん……?! 誰か来るわ。ここからは本気で気配を殺して。獣人達は気配にとても敏感だから」


 確かに梨央の言うとおり、こちらに近づいてくる足音がする。


 息を呑んで部屋に入ってくる人物を観察するアリス。


 最初に入ってきたのは修道女の姿の女性。


 見た目は30代後半くらいか?


「とうぞ」


 その女性が部屋の出入り口に向かって誰かを招き入れる様な仕草をする。


 すると2人の女子生徒が部屋に入ってくるのが見える。


 どちらも高等部の制服で、アリス達には面識が無かった。 


 そして彼女達に続くように入室してくる人物を見て、アリスに緊張が走る。


 それは、秘書らしき女性を連れた月宮女学園の理事長、月宮 光師(ツキミヤ コウシ)


 その正体は『血の浄化計画』の主謀格の1人でワーライオン、獅子島 光師(シシジマ コウシ)だった。


『今まで辛かったね。自分が何者なのかもわからずに……。でも、もう大丈夫だ。今日、君達は本当の自分を知り生まれ変わるんだ』


 光師の言葉にはいくつも嫌な表現があった。


 少なくともアリスはそう感じ、これから起こる何かを止めるべきだと思った。


 そんなアリスの心情を読んでか、梨央が彼女の前を遮るように手を伸ばし、目を見て静かに首を横に振る。


 そして真央はアリスの肩を指先で叩き、下を見るよう促す。


 光師達のいる部屋では、修道女が何も無い空間に手をかざすと、金色の光を発する宝玉が出現する。


(亜空間に隠していた?! アレがアルテミスの宝玉!)


 内心驚くアリス。


貴女達(あなたたち)には僅かですが、獣の血が流れているのです。その血が貴女達を駆り立て、攻撃的にしていたのです。この血は消す事はできません。受け入れて獣人として生きていくのです』


 修道女がそう言い放つと宝玉の発する光が一点に収束し、片方の女子生徒がソレを一身に浴びる。


『うあっ、?! あぁぁぁぁっ? あぁぁぁぁぁぁぁ!』


 光を浴びた女子生徒は悲鳴とも咆哮とも取れる声をあげながら、その身体を獣に変化させていく。


『ふむ。ワードックか』


 獣化した女子生徒を見ながら、光師は呟く。


『ひいっ?! 何? 何で?!』


 もう1人の女子生徒が怯えてペタン、と尻もちをつく。


『怯えることはない。この姿こそ君達の本当の姿なんだから』


 再び獣化の儀式が始まり、もう1人の少女の獣化が始まる。


「助けなきゃ!」


 儀式に乱入しようとするアリスを、梨央と真央が止める。


「わからないの? あの修道女、化物みたいな力を隠している。いま私達が飛び出していってもまとめて秒殺されるのが落ちよ!」


 その言葉にハッとするアリス。


 意識を集中して修道女の気配を探ると、とんでもない妖力を隠しているのがわかった。


 まるで蛇に睨まれたカエルの様に、体が動かない。


 そしてアリスは理解する。


 アリスよりも先にあの女の妖力を感知した梨央達は、動かなかったのではなく、動けなかったのだと。


「これだけの妖力を持っていながらソレを容易には気取らせない。相当ヤバイよ、あの修道女」


 真央の言葉に、ただただ(うなず)くしかなかった。

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