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過去と今2

「ママ、色々と思うところがあるのはわかるけど、私達の目的はアルテミスの宝玉よ。神器クラスのマジックアイテムをここの連中が持っているとしたら絶対にろくな事に使わないんだから」


「大丈夫よ、エリスちゃん。それ(アルテミスの宝玉)だってパパなら放っておくわけ無いんだから、目的を見失ったりしないわ。ただ……」


 リリスの言わんとしたこと。


 それはアルテミスの宝玉の探索には直の両親である、真央と梨央の協力が欠かせないという事だ。




 月宮に潜入する少し前。


 人妖機関内で潜入後の動きについて、ミーティングが行われていた。


「これが祖母の、怪盗ヴァンパイアの盗品目録です」


 そう言って直の母親、真央が1冊の書を会議室のテーブルの上に置く。


「この目録には盗品の細かい情報や写真の他に、その品の『気配』ともとれる、力の片鱗なような物が封じられているの。この気配を覚えて、探して、たどれば本物に行き着くってわけ」


 直の両親は幼い頃からこの技術を叩き込まれており、宝玉探しはこの2人頼みとなっている。




「実際、この学園の広大な敷地を虱潰(しらみつぶ)しに探すなんて現実的ではな無いわ」


「他には例の首謀格の連中をマークして探るってとこかしら。まぁ、あの2人に任せるのと、どっちのリスクが高いのかって事よね」


 そう言って深いため息をつくエリスだった。




 一方、アリス達が潜入した中等部の3年1組。


「佐伯さん、どお? 月宮に馴染めそ?」


 人懐(ひとなつ)っこそうにアリスに話しかけてくるのは、同じクラスの烏間 香子(カラスマ カオルコ)


 初日からグイグイ来る彼女に苦手意識を覚えるアリスだったが、変に目立つわけにもいかない彼女は、甘んじてそれを受け入れるしかなかった。


 そしてアリスの懸念材料(けねんざいりょう)は他にもあった。


 彼女と同じ中等部に転入してきた直の両親、真央と梨央だ。


 この人懐っこい香子でさえ声をかけるのに躊躇(ちゅうちょ)する、オーバーアクションやスキンシップ。


 そしてたった今、突然香子の背後から抱きついてくる梨央。


「ひゃあ?!」


 と、悲鳴を上げる香子に対し、


「アリスちゃんばかりズルいわ。おんなじ転校生なんだから、私の事も気遣って……」


 そう言いながら頬ずりをする。


「ちょっとぉ、烏間さんびっくりしてるじゃない。やめなさいよ!」


()いちゃってぇ〜。じゃあ、アリスちゃんはあたしが相手してあげる〜」


 注意するアリスのは以後から、今度は真央が抱きついてくる。


「ひぃっ?!」


 と小さな悲鳴をあげるアリス。


 抵抗は無駄だと、理解していた彼女はゲンナリする。




 中等部に転入したアリスと直の両親は、寮では3人部屋の同室になった。


 宝玉を探すには実に好都合なのだが、アリスにとっては試練の日々の始まりだ。


 走矢達の前に初めて姿を現した時のアイドルの様な衣装。


 実はあれが、怪盗として活動する時のユニフォームの様なものだと言う。


 そして、同じ物をアリスに身に着けるよう、要求してくるのだ。


 必死に抵抗し、事なきを得たと思ったアリスだったが、寝ている間に着替えさせられ、動画や写真を散々取られた後、また元のパジャマに着替えさせられるという事件が昨晩あった。


 そして今朝。

 

「今晩は3人での決めポーズを考えるわよ」


 気が付かないうちに着替えさせられて撮られた動画を見せられたアリスはそう告げられる。


 死刑宣告でも受けた気分だった。




 一方、走矢達の方は直の不用意な発言のせいで新たな騒動が勃発していた。


「初めて首筋から血を吸われるのが童貞喪失なら、初めて血を吸うのは処女喪失って事?」


 走矢が慌てて彼女の口を塞ぐが、真っ先に玲奈が反応する。


「つまり処女を走矢に(ささ)げたって言うの?!」


「玲奈、落ち着きなさい。今時、牙を使って血を吸ったことがないヴァンパイアなんて珍しくないんですから」


 また変なスイッチが入りかけた玲奈を理奈がたしなめる。


 そして理奈が言うとおり、昨今では吸血用の血液がパックに入って売られており牙を使う必要が無く、産まれて一度もそれを使わないヴァンパイアというのは珍しくなかった。


「この娘達世代ならむしろそれが当たり前なんじゃない?」


「わっ、私お父さんから血、もらった事ある……。牙で……」


 理奈の言葉を(さえぎ)るように、申し訳なさそうに咲花がカミングアウトする。


「あっ、貴女(あなた)初めてがお父さんだったの?!」


 驚愕する玲奈。


「えっ?! いや、小さい頃お出かけした帰りに渋滞に巻き込まれて、『おなかすいた!』って駄々をこねてたのを見かねてお父さんが血を吸わせてくれたんだけど……」


「じゅ、渋滞?! つまり大衆に囲まれた車内で?!」


「姉さん、ホントの本当に1回落ち着いて……」


 走矢が必死に玲奈をなだめる。


「でも、その手の話ならハルちゃんが1番凄かったんじゃない?」


「ばっ、バカ。やめろ!」


 また直が余計な事を言い出し、ようやく復活した桜が止めに入る。


「だって『童貞千人切り』とか言って、人間の生徒を襲いまくっていたじゃない。それで自分の中学全員吸ったからあたし達の所にまで攻め込んできて……」


「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 桜の努力虚しく、直が春香の過去をカミングアウトすると、その春香が頭を抱えて奇声を発しながら、転がりはじめる。


「童貞千人切りって……」


 完全に言葉を失う玲奈。


「こっ、誇張が入ってるんじゃないのか。それ?」


 走矢が何とかフォローしようとするが、


『ゲヘヘへへ。そこの人間の男子生徒。お前の吸血童貞をもらうぞ』


『やっ、やめてください。僕には直ちゃんっ言う心に決めたヴァンパイアが居るんです』


『ゲヘヘへへ。お前の吸血童貞は直ちゃんではなく、この春香様にうばわれるのだ〜』


『ぎゃぁ〜! ぼ、僕の直ちゃんに捧げるはずだった吸血童貞が……』


『ゲヘヘへへ。これだから吸血童貞狩りはやめられねぇぜ!』


「いや、何なんだこの寸劇は……」


 突然始まった直の一人二役の寸劇。


 どうやら中学時代の春香の素行を再現したもののようだ。


「流石に話を盛りすぎだろ……」


 言いかけた走矢の視界に、さっきよりも猛スピードで転がる春香とため息をつく桜の姿が入ってきた。


「えっ……。マジ?」


 走矢の問に、鼻息荒く頷く直。


「もう、やってる事モンスターとかじゃない……」


「流石に引くわね……」


 玲奈と理奈も容赦ない言葉を浴びせる。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」


 高周波の様な悲鳴をあげながら、ついに跳ねはじめる春香。


『ひぃっ!!』


 それを見て、玲奈だけでなく百戦錬磨の理奈までもが悲鳴をあげる。


「おっ、落ち着け春香!」


「何かハルちゃん、最終形態みたいになってる!」


「直! お前もう喋んな!!」


「○して! 誰か過去に戻って当時の私を○してぇ!!」


 春香の無茶苦茶な要求が教室内に響き渡る。


 そして、不規則な動きで一同は捕らえることができない春香だが、まるで読んでいたかのように先回りした由利歌がタイミングよく手刀を首筋に当てると、春香は気を失い静かになる。


「すげぇ……。あの春香をアッサリと……」


「さすが……」


 と、歳のことを言いかけた走矢だったが、寸前でとどまる。


「気にしなくて良いのよ、走矢くん。今更、歳のことなんて気にないし、私にとってはみんな曽孫(ひまご)みたいなモノなのだから」


 そう言いながらコロコロと笑う由利歌だった。


 そしてようやくこの騒動も終焉かと思った矢先……。


「ねえ、さっきから気になっていたんだけど、処女とか童貞ってどういう意味なの?」


 咲花の質問に一同が凍りつく。


 どう対処するべきかアタフタしていると、


「まずは雄しべと雌しべの説明からね……」


 ムクリと起き上がろうとする春香を走矢と桜が取り押さえる。

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