過去と今
「玲奈、いい加減にしなさい。外までよく聞こえているわよ?」
そう言って教室の窓から入ってくる理奈。
「あれっ? 理奈さん、教室のドアから出ていったはずなのに?」
咲花が疑問を投げかける。
「亜空間結界を使う敵と戦っていたんだけど、倒した頃には外に出ていたわ」
と、外に出た経緯を説明する。
「それよりも、この教室からとてつもない妖力を感じたんてすけど、いったい何があったの?」
「ああ、それあたし達も感じた! すんっごい妖力だったね」
「ああ、その事。直と咲花は以前、見たことあったでしょ? 走矢くんの身体に縁のある妖が取り憑いて力を貸してくれた事を。今回もあれが起こったのよ」
温羅の妖力を感じ取った理奈や直達に、春香が事のあらましを説明する。
「俊紅と絆を結んだ妖が力を?! 信じられない、私のまわりでは一度もそんな事、無かったのに……」
一番、驚いていたのは理奈だった。
最年長と言うのもあるが、夫と息子が俊紅であった事を考えると、意外な反応だ。
「燈矢と新矢の身に、妖の憑依なんて一度もなかったわ」
「私も俊紅についてはソコソコ調べたりしているけど、それらしい話は無かったわね。実は結構、珍しい出来事なのかも」
珍しい出来事と聞いて、いったい何が他の俊紅と違うのかと考える走矢。
思いついたのは、火織の一件の時、由利歌に言われた『祈りなさい』という言葉を思い出した。
あの時だけではない。
キメラ栄子の空間に囚われた時も、昔母が自分を守ってボロボロになったときも。
そして今日、無数のモーニングスターの攻撃に桜達が晒された時も、走矢は誰かに助けを求めていた。
「由利歌さんが以前、言っていた『祈り』。もしかしたらソレが鍵なのかも」
「確かに、普通は見ず知らずの妖に祈ったりはしないものね」
走矢の言葉に春香が納得する。
しかし理奈は、今の走矢の発言の別の部分に反応する。
「由利歌……。まさかぬらりひょんの雨上 由利歌?!」
「えっ?! ぬらりひょんはそうですけど、名字は『早川』と言ってました」
「偽名ね。あの女の本当の姓は雨上よ」
その言葉に走矢達は困惑する。
「でも雨上って……」
「ええ、そう。私達の名字……。元々は夫の燈矢の名字よ」
理奈は春香の疑問に応える。
「そして、走矢も新矢も燈矢もあの女の子孫って事になるの」
一同は完全に沈黙する。
「あの女は雨上の家に入って俊紅の双子を産んだり、追われる俊紅を匿ったりと俊紅に関わる事が多かったそうよ。故に俊紅について詳しいと、本人が言っていたわ」
「ほへ〜。ソウちゃんってぬらりひょんの子孫だったんだぁ」
「家系図的にはって事でしょ? 俊紅の子供を産んだってことは、混血が産まれない妖なんじゃないの?」
「そうよ〜。私もあの子達を産んで初めて知ったの〜」
それはいつの間にか一同の中に紛れ込んでいた早川 由利歌こと、雨上 由利歌の発言だった。
「いつの間に?!」
理奈が嫌そうな顔で驚く。
「うふふふふぅ、私はいつだってあなた達のそばに居るのよ〜。ただ、それを気取らせないだけで〜」
その言葉に一同は青ざめる。
「ところで……。なんで桜ちゃん、教室の真ん中で立たされているの?」
とある墓地のとあるお墓。
そこに花を添え、お墓に手を合わせる少女の姿があった。
「流崎 凶さんですね?」
そう言いながら少女に接近する女性が2人。
「我々は人妖機関の職員です。私は蒼条 夏。コッチは同僚の三田村 日奈子。少々お話を聞かせもらえないでしょうか?」
「お前たちに話す事など無い」
そう言ってその場を立ち去ろうとする凶。
「このお墓の下で眠っている方が依頼主ですか」
その墓石には『涼城家』と、彫られていた。
「目的は涼城 一也さんの敵討ち。いったいターゲットは何人いるんですか?」
涼城一也とは拝 獣悟の義理の弟にあたり、獣悟の妹、銀杏と結ばれた青年の事だ。
彼は血の浄化計画により、獣悟達に殺害された。
彼の両親は息子の敵を取るために全財産と、自らにかけた保険金で復讐を依頼した。
だが、計画の首謀者達は、エリスの父、走司が命を落とした事件以降、姿をくらまし、復讐が停滞していた。
その間に依頼を直接受けていた先代の流崎凶は病に倒れ、弟子であった彼女がその役目を引き継いたのだった。
「あ〜ん。逃しちゃった……」
流崎凶に逃げられた日奈子と夏のコンビ。
「涼城夫妻が残した金額はかなりのモノでターゲットが1人、2人ではない事は明白。はたして残りのターゲットは誰なのか……」
彼女を見失った付近で夏は呟く。
「機関職員が外で例の流崎凶と接触したらしいわ。すぐに逃げられたみたいだけど」
夏達からの報告メールを見ながら母にそう説明する。
「あの娘、学園の外に居たの?!」
「そうみたいね。蒼条さんは出入りの業者とかにまぎれて、行き来してるんじゃないかって言ってるわ」
「獣人達の縄張りでよくやれるわね……」
リリスが呆れながら感心する。
「それと涼城夫妻なんだけど、首謀者全員をターゲットに依頼してるんじゃないかって」
その言葉を聞いて、リリスは黙り込む。
リリスと走司。
この2人が当時、最も避けなければならないと考えたのが、憎悪の応酬。
つまり復讐合戦である。
当時、凶星以外にも獣人達への復讐依頼を実行した復讐代行人や戦闘集団は多数あった。
彼らに身内や親しい仲間を殺された獣人達は人間に強い憎しみを持っただろう。
せめてこれ以上、憎悪の拡散が無いようにと月宮学園に潜入したのだが、26年前の事件の根深さを、改めて思い知った。




