狂戦士2
「動きが変わった?!」
コボルドと戦う理奈も敵の変化に気づいた。
正直、予想以上に手こずっている理奈。
結界の張り直しで、駒の兵士達が再生するのはわかっていたが、その時コボルドのダメージも回復するのは想定外だった。
それでも相手の動きを読んだりして何とか追い詰めたのだったが、今度は別人のような動きからの反撃を受ける。
「まだ何か隠し持ってますね……。もし、同格の敵と戦っているようなら玲奈やあの娘達では荷が重いかも……。」
そう言って再び自身の血を浴びる理奈。
そうする事によって、身体の外側に妖力が循環する経路を後づけする技術、『血粧』。
血を浴びれば浴びるほど妖力の出力は増し、高い身体能力を得られるが、当然それ相応の妖力を消費する。
そこまでしなければならない敵であり、そこまでしなくてはならない状況。
理奈はそう判断したのだった。
「とりゃ〜!」
直の飛び蹴りが1体のストーンゴーレムの頭部に直撃し、その機能を止める。
1階では避難した生徒達を守りながらストーンゴーレムに応戦する咲花と直の姿があった。
同じヴァンパイアとはいえ、桜や春香の様に戦い慣れしていない彼女達は、戦力としてはどうしても見劣りする。
「せぇい!」
気合の入った掛け声とともに、背負い投げでゴーレムを投げ飛ばす咲花。
しかし、まだ眼前には多くのストーンゴーレムが居り、直と2人でどこまでやれるのかは全く読めなかった。
「大丈夫大丈夫。操っている奴を倒せば問題解決で問題無し」
咲花の心配を見透かしたかの様に、直が楽観的なセリフを言い放つ。
「だと良いんだけど…………」
一方、走矢達が残る教室では何者かに操られているオークに苦戦を強いられていた。
操られて変わったのが武器を使いこなしていると言う所。
このオークが使うモーニングスターはマジックアイテムであり、妖力を込める事で飛翔スピードや破壊力を高めることがてきる。
弾丸の様に放たれるソレを翼を広げ、機動力アップで対応する春香と玲奈。
鉄球を回避してボアヘッドと化したオークに向かっていく2人だったが、
「危ない?!」
咄嗟に玲奈が春香に向かって叫ぶ。
それはいつの間にか春香の横に並走していた鉄球の存在を指し示したものだった。
急ブレーキをかけ、紙一重で回避する春香。
そのスキにボアヘッドに接近戦を挑む玲奈。
肉弾戦では玲奈の方に分があるのだが、意図せず飛んでくる鉄球のせいで決め手に欠ける。
春香は自身の羽根を撒き散らし、結界を発動させると玲奈に加勢するため再び飛翔する。
が、すぐさま鉄球のカウンターを食らいかけ、冷や汗をかく。
「なに?! コイツ私が見えているの?」
「違うわ。おそらくこの武器は妖力を感知して自動で追尾する機能があるんだわ」
春香の疑問に自身の仮設で応える玲奈。
ならば、と結界発動のために撒き散らした羽根に妖力を送り込む春香。
狙い通り羽根に誘導される鉄球を見て、三度飛翔する春香。
2対1になり、鉄球の援護も受けられなくなったボアヘッドはあっという間に劣勢に立たされる。
「てぇい!」
と、掛け声とともに繰り出された玲奈の右ストレートがボアヘッドの顔面にめり込み、そのまま教室の壁までふっ飛ばす。
「とどめよ!」
同時に春香が飛び回し蹴りをボアヘッドに見舞おうとしたその時、モーニングスターの鎖が彼女を絡め取り、拘束する。
おそらくボアヘッドは、自動追尾を切って妖力で直接操る状態に切り替えたのだろう。
「しまった!」
蒼白になる春香に鉄球が迫る。
「うりゃあ!」
しかしそれは、桜が掛け声とともに繰り出して飛び蹴りで破壊され、難を逃れる。
「桜……。貴女大丈夫なの? 何か血色良くなってない?」
「そっ、そうかぁ……」
桜の気まずそうな態度から何かを察した春香は走矢の方を見る。
そこには首筋を押さえてこちらを心配そうに見ている彼の姿があった。
「あ〜っ! 走矢くんの血、飲んだのねぇ!」
「ちっ、違うんだ! 俺が無理やり飲むように言って……」
「いや、俺がどうしても加勢したくて頼み込んだんだ!」
「その話は後できっちり決着をつけましょ。今はコイツの対処よ」
年長者の玲奈が戦闘への集中を促す。
『ふう、予想以上ですね。俊紅によるパワーアップも含めて何とかできると踏んでいたのですが。もっと強い駒を用意するべきでしたね』
突然、ボアヘッドから放たれた言葉に一同は唖然とする。
「やはり何者かがそのオークを操っていたのね。貴方は何者なの?」
『名乗るほどの者ではありませんよ。名乗ったところで信じてもらえないでしょうし』
「何者だろうと関係無ぇ。狙いは走矢の俊紅だろ!」
桜の咆哮にボアヘッドはピンと伸ばした人差し指を口に当てて、
『それは企業秘密という事で』
と、応える。
「要するに自分の情報を与えるつもりは無いって事でしょ。最初からそう言いなさいよ」
春香が突っかかる。
『確かにまわりくどかったですかね。では、ここからは単刀直入にいきましょう』
そう言ってボアヘッドが右手を上げると、その周辺に大量のモーニングスターが出現し、一同を絶望させる。
「せめて走矢くんだけでも下の階へ……」
『賢明な判断ですね。しかしそれは彼女達を見捨てることになりますよ? 良いんですか?』
「こんな奴の言葉、聞いちゃ駄目よ! 彼女の言うとおり貴方だけでも逃げのびて!」
「大丈夫。こんな鉄球、全部俺がブッ壊してやるぜ!」
『さぁ、そろそろいきますよ』
ボアヘッドが上げた手を振り下ろした時、待機していた鉄球が全て砕け散った。
「おい、どこぞのクソ野郎。あんまりウチの坊追い詰めんなよ? ただでさえ気苦労が多いんだからよぉ」
それはいつの間にか桜達の前に立ち、ボアヘッドと対峙していた走矢の口から発せられた言葉だった。
「この感じ……。あの時の」
春香の言うあの時とは、キメラ浪川 栄子との戦闘時、走矢に彼の祖父、条牙咲 走司が憑依した時。
しかし、人間である走矢の身体から妖力が発生しているのは確かにあの時と同じなのだが、その妖力の性質が全くの別物だった。
走司が繋がった時の妖力はとても穏やかで、それでいて力強い物だったのに対して今、走矢から発せられている妖力は、とても荒々しく、獰猛な物だった。
『いったい何者ですか? 並の実力者ではないですね』
「温羅。鬼どもの長をやっている」
その言葉に、その場にいた全員が絶句する。
『これは……。藪をつついてヒュドラでも出してしまった気分ですね……』
「言い残す事はそれだけか?」
『まだまだ沢山あるのですが……』
「却下だ!」
そう言って走矢が手のひらをボアヘッドに向けてかざすと、その掌圧でボアヘッドは吹っ飛び、彼を操っていた腕輪が砕け散る。
霊体の男は仮の肉体、オルトロスの中で意識を取り戻す。
「まさか鬼の長が出てくるとは……。まぁ、収穫は収穫なのですが、流石に肝を冷やしましたね」
そう呟くオルトロスに小学生中学年ぐらいの少女が近づいてくる。
「そんなまどろっこしい事してないで、とっとと乗っ取っちゃえばいいじゃん」
「それは不可能です。彼と特に強い繋がりのある妖を調べて、その繋がりを塞がなければ完全に乗っ取ることはできません。これまでに彼の祖父と以前氷の妖力を引き受けた妖。そして今回の温羅と3人までは大体分かりました」
「氷はそれ系の奴ってだけで、素性までわかってないじゃん」
「だから大体なんですよ。まだあと2、3人はいそうですし、もうしばらく様子見ですね。走矢くんの身体をもらい受けるのは」
そう言い残してオルトロスはビルを後にする。




