予兆2
理奈の制服姿を堪能した一同だったが、リリスが改まって大事な話があると、まだ集いは続いてた。
「これから話す事は、知らない方がいいかも知れない様な事なんだけど、今後月宮と関わっていくと、嫌でも知ってしまうかもしれない。その時、同様しないためにも、今ちゃんと説明しておいた方がいいと思って……」
リリスの話。
それは彼女の夫であり、エリスの父である、条牙咲 走司が命を落としたという、妖同士の争いの話だった。
「パパが命を落としたのがエリスが中学生の頃だったから、26年ぐらい前だったかしら? ただ、その事件はもっと前から始まっていたの」
かつて走司とリリスが巻き込まれた事件とは、獣人と呼ばれる妖達が同種の混血を排除しようとする「血の浄化計画」の事。
混血の産まれないヴァンパイアと違い、人と血が交じる獣人という種族の中には、純血が失われていく事をよく思わない者達がいた。
彼らは混血や純血と愛し合う人間を抹殺し、人間の側で大きな問題になっていた。
当時、人間の夫を殺され、混血の娘まで命を狙われた獣人の女性を匿うことになったリリスと走司。
そこに獣人達が大挙して押し寄せてきたのだ。
戦いとなれば圧倒的な強さを発揮する走司だったが、この時の彼の目的はあくまでも話し合いによる解決だった。
しかし彼の想いは届かず、混乱の中で無残に殺され、リリスも身ごもっていた新たな命を失った。
走司はヴァンパイアの世界でも名の通った人物であり、ヴァンパイアは秩序を重んじる妖である。
元々、獣人達の行動に異を唱えていたヴァンパイアも多く、走司の件で完全にヴァンパイア対獣人という構図になってしまった。
人間の側でも人妖機関に属さない術師や『気』の使い手が報復として獣人達、特に血の浄化計画の中心人物達を抹殺するという動きがあった。
そしてヴァンパイアに同調する妖達も増えていき、獣人達は追い詰められていった。
「パパは……。走司さんは決して獣人が滅びるなんて結末は望んでなかった。私は最悪の事態を止めたかったの……」
「お母さんは獣人と獣人に敵意を持つ妖達の間に入って、争いを収めるために各地を巡っていたの」
リリスとアリスが空白の時間について語る。
「なんでアタシにそれを……」
「言えるわけ無いでしょ! 新矢義兄さんが亡くなったりで姉さんが大変だった頃よ?」
「本当は私1人でやるつもりだったんだけど、アリスちゃんが心配だからって、ついて来てくれたの」
「ほとんどの獣人と敵対していた妖達は納得して矛を収めてくれたんだけど、一部の獣人の首謀者達が姿をくらましていたの」
「それでね、ここからが本題なんだけど、月宮女学園の理事長、月宮 光師はパパの死亡現場に居合わせた、血の浄化計画の首謀者の1人、ワーライオンの獅子島 光師よ……」
「パパの?!」
リリスの説明に驚く一同だったが、エリスが一番のショックを受けていた。
「他にも校長の井岡 虎次郎はワータイガーの大河 虎次郎。副校長の寿 総士はワーベアの熊田 総士。たぶん、学園内に入れば他に知った顔に会うかもね」
「獣人達の起こした事件って聞いた事あったけど、獣人VS全妖みたいな大事だったなんて初耳だわ」
話が一段落ついた頃、春香が事の大きさにため息まじりに言う。
「中学では習わなかったけど、高校で習うのかなぁ」
「どうだろう……。人妖機関が結構情報を押さえ込んでいるんじゃないかな」
直の疑問に個人的な見解を述べる走矢。
「とんでもない事件だけど、それだけに後世に残す影響も大きいし、情報操作はあり得る話よね」
走矢に同意の春香。
「しっかし……」
桜が恐る恐る視線を向けた先には、月宮の制服に身を包んだ理奈の姿があった。
「かなり凄い内容の話だったのに、アレが視界に入ってくると話が全部吹っ飛ぶんだよな……」
「だから私は眼鏡外してたのよ」
「はるちゃんずる〜い。じゃあ、その眼鏡貸して〜」
「借りてどうするのよ」
直に突っ込む咲花。
「ウヒャ〜、目が回る〜」
眼鏡をかけてその場でクルクルと回りだす直。
「いや、割と適合してるだろ……」
「バカやってると視力落ちんぞ」
そう言って桜が眼鏡を外す。
「それにしても、いくら春香があんな事言ったからって、あのスカート丈はどうなんだ?」
「昭和のスケバンみたいね。実物は見たことないけど」
今度は理奈のスカート丈が話題になる。
「よくあったよねぇ、あんな長いスカート」
「長すぎでしょ。あれじゃあ、地面を擦っちゃうよ」
直と咲花も理奈のスカートに注目する。
「と、言うわけで、月宮に潜入するのは、アタシとママとアリス。それに怪盗夫婦の5人よ」
走矢達がワチャワチャしている間にエリスが総括に入ったらしい。
しかし、その言葉に桜は疑問を持つ。
「あれっ? 玲奈姉さんは……?!」
この時、玲奈姉さん達と言わなかったせいで理奈に睨まれる桜。
「私は残るわよ。走矢の事、守らなきゃならないし」
確かにエリスが留守にする間、走矢を守る存在が必要だ。
「留守の間、走矢をお願いしますね」
エリスの言葉に、任せときなさい、と玲奈は応えた。
その日の深夜。
人妖機関の支所の周辺で、何かを仕込む怪しい人影が2つあった。
奥井 トン助と小久保 ケン太。
2人はオルトロスの依頼を受けて、支所の周辺に結界石を配置していた。
「しかし、こんなに離れていて、効果あるのか?」
「そのために結構な密度でバラまいてんだろう。数はあるんだ。タップリ巻いときゃいい」
パワーアップアイテムと引き換えに受けたオルトロスの依頼。
それは支所の周辺に結界石を配置する事。
2人は闇夜に紛れて、作業を進める。
Xデーに備えて。




