怪盗2
「新矢の事もあったんで、先生に協力して16年前の事件のアルテミスの宝玉について調べていたら、この2人にたどり着いたのよ」
縛り上げた直の両親を見ながら、エリスが状況を説明する。
「この2人、先祖が盗んだ品々を盗んで元の所有者に返しているらしいんだけど、その取り返す物品の中に、『アルテミスの宝玉』があったらしいの」
「ちょっと待って。父さんが追っていた『アルテミスの宝玉』ってレプリカだったんじゃないの? 何か大げさじゃ……」
オリジナルのアルテミスの宝玉は神話の時代から存在するといわれている、言わば超レアアイテムだ。
そしてこのレアアイテムには数多のコピー品が存在し、その多くは獣人達の獣化の補助アイテムとして出回っている。
「それが、ただの宝玉のコピー品ではない様なの……」
エリスはこれまでに分かった事を話しはじめる。
16年前にゴブリンから宝玉を買ったとされる仲介役と思われる人物。
この人物を調べるうちに奇妙な事が分かってくる。
この人物の背後に別の仲介役が居り、その仲介役の背後に別な仲介役と、依頼主を隠すためにかなりのコストがかけられているのが分かる。
「普通のレプリカなら、相場の倍も出せばブラックマーケットで買えるらしいわ。でも、この宝玉を欲しがった人物は、わかっているだけでも相場の30倍はお金を使っているみたいなのよ」
「30倍?! それって一体どういう……」
「あくまでも仮説なんだけど、そのアルテミスの宝玉、本物だったんじゃないかしら。少なくともお金を出した依頼主はそう思っていたんじゃないかしら」
神話級の神器と言っても過言では無いマジックアイテム。
それが16年前までこの街にあったという事だ。
上沢市の南部にある、かつて大地主だった柚木島家。
そこに家宝として保管されていたのが、ゴブリンによって盗み出されたアルテミスの宝玉だった。
当時ゴブリンは上沢市の南側に隣接する南條市に拠点を構え、大地主の家に窃盗に入るタイミングを伺っていたのだと言う。
アルテミスの宝玉以外にも金品を奪ったゴブリンはこの拠点でしばらく息をひそめ、ほとぼりが冷めた頃に逃走を図るつもりだった。
しかしその前に新矢に見つかり、例の河童姉妹を巻き込んだ騒動へと至ったのだ。
母からこの説明を聞いた時、走矢に1つの疑問が浮かんだ。
人妖機関の現場に出る『実務職員』と言うのは基本的に、2人1組で行動するのだが、この話には父とコンビを組んでいたであろう人物が出てこない。
そしてこれはエリスが意図的に隠していた事でもあった。
この新矢とコンビを組んでいた人物とは、綾瀬姉妹とその母、藍華を遠巻きに警護していたコンビの片割れ。
遺体となった相方を残して姿を消した、澄白 余白と言う、狐の妖だった。
エリスは綾瀬家の一連の事件と16年前の宝玉事件が、何か関わりがあるのではないかと考えていた。
「なごり惜しいけど、これでママとパパともお別れね」
笑顔で全然なごり惜しくなさそうに言う直。
「直ちゃん、パパを見捨てないで〜」
ロングヘアの方が涙まじりに訴える。
「直! そんな薄情な娘に育てた覚えは無いわよ!」
ショートヘアの方の言葉に、
「あ〜、聞こえない聞こえない」
と言いながら、直は耳をふさいで首を左右に振ってみせる。
「事情聴取が終わったら解放するから」
と言う、エリスの言葉に、
「ええ〜」
と、あからさまに嫌そうな顔をする直。
「ここ数日、何度かアルテミスの宝玉についてお話を聞こうとしたんだけど、すぐに逃げてしまって。それでアタシが強行策に出たってわけ。さあ、支所の方で貴女達のお祖母さんが盗んだ、アルテミスの宝玉について、色々と聞かせてもらうわよ」
どうやら元凶とも言える怪盗ヴァンパイアと言うのは両親から見て祖母、直からすると曽祖母にあたる人物のようだ。
「けど、夫婦揃って怪盗なんて、そういう界隈でお見合いてもしてるの?」
素朴な疑問を投げかける春香。
「違うよ、2人とも怪盗ヴァンパイアの孫だから」
「直の両親は従姉弟同士なんだ。つまり、どっちも怪盗ヴァンパイアの孫って事だ」
直の言葉を桜が補足する。
言われてみれば、確かに顔立ちとかが似ている。
「似た者夫婦だと思ったら、従姉弟同士だったのね」
納得する春香。
「貴女達はどういうわけか、アルテミスの宝玉の在り処を知って日本に戻って来たんでしょ? アタシ達はその宝玉が今、どこにあるのか知りたいのよ」
「えっ?! そんな事? アルテミスの宝玉は今、月宮女学園の理事長、月宮 光師が持っているはずだよ」
「リーダー格の影井 一郎の記憶から、綾瀬姉妹を連れ去るように支持を出したのは、月宮女学園の理事長、月宮 光師と言う事が分かりました」
場所は人妖機関、上沢支所の会議室。
10名ほどの参加者に向けて、現時点で分かっている情報を話す、早川 由利歌の姿があった。
リザードマン兄弟の長兄、一郎は由利歌との交戦時、早い段階で勝てないと悟ると自身の記憶に封印をほどこして、自分達の情報を機関にわたさないようにしていた。
さとりの里崎 里子の手によってその封印も解除され、こうして黒幕の存在が知れたのである。
一方、敗走したリザードマン達はホテルの一室で今後の方針で揉めていた。
一郎と一郎との護衛についていた三郎、そして四郎の年長組の3人が捕らえられた現状。
序列で言えば二郎が頭になって集団をまとめるべきなのだが、それに対して異論が出ていた。
「五郎兄者が率いるべきだ!」
それは六郎の発言だった。
撤退の時、四郎が自分の護衛を六郎への援軍として送ってくれたため、何とか逃げ切る事ができた六郎。
正直、二郎は集団を指揮できるタイプではないと言うのが兄弟の大半の意見だ。
そして、綾瀬姉妹を拉致すると言う依頼は断り、捕まった兄弟達の救出を最優先するべきだと言う。
「落ち着け、今二郎兄者が依頼主と交渉中だ」
今回の件、依頼主と面識のあるのは一郎とと二郎の2人だけだった。
その二郎が依頼主とと交渉し、その結果を受けて今後の行動を決めようと言うのが五郎の意見だった。
「正直、この有様で依頼を継続するとは思えないんだが……」
「望むところだ! そうなれば兄者達の救出を最優先にできる」
十郎の言葉を受けて六郎がヒートアップする。
「どうした、熱くなって?」
それはいつの間にか部屋に入ってきていた二郎の言葉だった。
「二郎兄者、依頼主はなんて?」
五郎の質問に二郎はため息まじりで答える。
「依頼は継続だ」
その場にいた全員が驚きを隠せなかった。
姉妹を取り逃がした挙句、人妖機関に逃げ込まれそこへの襲撃も不発に終わった。
正直、依頼を継続するとは誰もが思っていなかった。
「近いうちに増援を送るそうだ。それまで傷を癒やし、姉妹を監視しておけとの事だ」
二郎の言葉に全員が押し黙る。




