一応の決着3
その日の夕方、一同は施設の外に出て帰路につこうとしていた。
そこへ突然、何者かが猛スピードで接近してくる飛行物体があった。
「エリス!」
「わかってるわ、ママ」
エリスとリリスは翼を広げ、謎の飛行物体に向かっていく。
2人は同時に飛行物体を捉えたかに見えたが、ソレは飛行物体の着ていた女性物の服だった。
飛行物体の正体は、コウモリの翼を生やした、おそらくはヴァンパイアの女性。
その女性は走矢に急接近し、地面に押し倒す。
「貴方が走矢ね。一目でわかったわ。ほんと、新矢そっくり」
そう言うと女ヴァンパイアは、走矢を抱きしめたまま何度も何度も頬ずりを繰り返す。
「止めなさい、玲奈! 走矢が驚いているでしょ!」
理奈が女ヴァンパイアを玲奈と呼び、走矢から引き離そうとする。
「なによ! 私を封印して出し抜こうとしたくせに!! 私と走矢の恋路を邪魔しないで!」
「いい加減にしなさい!!」
そう言って理奈は玲奈と呼んだ女ヴァンパイアの胸ぐらを掴み、頭突きを食らわせる。
「この子の名前は『玲奈』。私の娘で、新矢の双子の姉です」
エリス達を振り切るために服を脱ぎ捨てたために、下着姿で正座去られ、うなだれる玲奈。
その横で理奈が彼女の紹介をする。
「その……。何ていうかこの娘は、新矢に強い愛情と執着を持っていまして……」
「当たり前じゃない、私と新矢は結ばれる運命だったんだから!」
その場に居た全員の思考が止まる。
「あの〜、それはいったい、どういう事なんでしょう?」
春香が恐る恐る尋ねると、
「私は父さんと愛し合った母さんのいわば生き写し、そして新矢は父さんの生き写し。愛し合うに決まっているじゃない!」
「あの〜、それでつまり、新矢さんの生き写しである走ちゃん、じゃなくって走矢くんと結ばれるって事ですか?」
何となく玲奈の言わんとすることを理解した直が話をまとめてみると、
「だからそう何度も言ってるじゃない!」
と、ドヤ顔を決める。
「やべぇ、何か会話が成立しなさそうなタイプじゃねぇか?」
「主観だけで生きてそうな人ね……」
小声で近くに居た春香に話しかける桜に、同意と取れる返事が帰ってくる。
「だから、私の事はお姉ちゃん、って呼んでね」
いつの間にか走矢の目の前に移動し、彼の両手を掴んでお姉ちゃん宣言をする玲奈。
「れっ、玲奈姉さん……」
何やら少し不満が有りそうだったが、大人しくその言葉を受け入れる玲奈。
「あの……。新矢からお話だけは聞いております。エリスです……」
『新矢の妻の』と付けると荒れそうなので、あえて付けないエリス。
しかし、やはりそれで納まるような事は無かった。
「あんたね! 新矢を横取りした泥棒猫は!!」
「泥棒猫って言葉使う人、初めて見たかも」
直がポツリと呟く。
「あの、言わせてもらいますけど、アタシは誰かから新矢を奪った事なんてありません!」
エリスもたまらず反論する。
そして口論が続くのだが、走矢が聞き捨てならない言葉が飛び出す。
「なによ! 新矢の事、守れなかったクセに!」
「姉さん!」
新矢を失った後のエリスを見てきた走矢にとって、その言葉は看過できなかった。
『アタシがそばに居れば……』
幼い走矢はその言葉を何度も聞いていた。
決して玲奈も悪意があって言ったわけではないだろう。
走矢も強く責めるつもりは無かったのだが、その表情を見た玲奈は動揺しながらその場から飛び去ってしまった。
「姉さん?!」
「大丈夫よ、走矢。アタシが連れ戻すから」
そう言ってエリスが後を追う。
「居た……」
近くの公園のブランコに腰掛ける玲奈を発見し、エリスは舞い降りる。
「お義姉さん……」
「私っていつもこうなの。新矢の時もそう、あの子を守るって決めたのに、気がついたらあの表情をさせてしまっている。いっつもそう……」
自分の軽率な発言を反省する玲奈だった。
過去の失敗談を吐き出して、少し落ち着いた玲奈は新矢と最後に遊んだ時の話をはじめた。
2人はよく、近所の公園で遊んでいたのだが、そこでかくれんぼをするのがお約束だったと言う。
とは言っても普通のかくれんぼではなかった。
玲奈が隠れるフリをして、上空から見守り、頃合を見て見つかると言うものだった。
ある日、
「お姉ちゃん、隠れんの上手だから全然見つからないや」
その言葉を聞いた玲奈は、その日は真面目に隠れることにした。
しかしその日、2人の父親、燈矢が死体で見つかり、母の理奈はかくれんぼの最中の新矢をそのまま連れ出し、佐伯家に連れて行ったのである。
(お姉ちゃん、隠れんの上手だから全然見つからないや)
それが新矢と最後にかわした言葉だった。
「新矢はよく、貴女の事を話していましたよ。かくれんぼの事も。お義姉さん、自分の影に気を使わないから上空で見守っでいるの、すぐ気づいたそうよ?」
玲奈はその言葉を聞いて、ポロポロと涙を流しはじめる。
「わかったわ、今日から私が走矢の姉にして妻。そしてお母さんになる! 私が走矢を守るの!!」
わかったわ、からわけのわからない事を言い出す玲奈。
正直、エリスもお手上げ状態だったが、お母さんの座まで奪おうというのならば黙ってはいられなかった。
「この辺から妖力を感じたんだけど……」
「あっ、居た!」
エリスの後を追ってきた春香と直が見たものは、コウモリの翼を広げて、腕4つの力比べをする、エリスと玲奈の姿だった。
「ゾンガー対ゾンガーね……」
聞こえるはず無いと、呟いた春香の言葉に、
『誰がゾンガーじゃあ?!』
2人が反応し、ヒイッ、とのけ反る。




