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一応の決着2

 その昔、走次郎という俊紅の男がいた。


 人間に追われ、逃げ込んだ山奥でひっそりと暮らす桜花という妖の娘に助けられ、2人は夫婦(めおと)となった。


 2人は走助という、男の子を(もう)けたが、人々によって走次郎が殺され、そして走助も桜花の目の前で惨殺されてしまった。


 桜花は我が子の亡骸を食らい、怪物と化し、村々を滅ぼして回ったと言う。


 だが、一般的に広まっているこの話には誤りがあった。




 当時、何体もの妖を捕食し、取り込んでいた桜花は元の姿からは想像もつかない怪物と化していた。


 巨大な肉塊に取り込んだ妖と思われる頭部や特徴的な部位のような物が生えた異形の怪物。


「まるで伝承にある八岐大蛇(ヤマタノオロチ)ですね。母上、同対処しますか?」


 陰陽師らしき若い男がすぐ横の女性にそう話しかけると、


「職務の最中は術師長(じゅつしちょう)と呼ぶように言ったはずですよ? その様な気の緩みが敗北を、時には死をまねくのです。たるんでるわよ!」


 申し訳ありません、と頭を下げる男。


 その男が改めて尋ねようとしたところ、もう1人の男が口を挟む。


「おいババァ!」


「はったおすぞ、この馬鹿息子!!」


 この術師長と呼ばれる女性は陰陽師の一族、雨上家の現当主、雨上 由利歌(ウガミ ユリカ)


 後に早川 由利歌(ハヤカワ ユリカ)と名のる事になる妖だ。


 口の悪い男は彼女の産んだ双子の兄、雨上 蒼炎(ウガミ ソウエン)


 そして2人のやり取りを困ったような表情で見守るのが双子の弟、雨上 蒼水(ウガミ ソウスイ)


 かつて妖怪ぬらりひょんとして、陰陽師の屋敷に当たり前の様に出入りしていた由利歌だったが、とある陰陽師の屋敷で出会った俊紅の陰陽師、雨上 蒼元(ウガミ ソウゲン)と惹かれ合うようになり、ついには夫婦(めおと)になってしまった。


 病で夫を亡くしたあとも、由利歌は雨上流をまとめ上げ、陰陽師として活動していた。


 蒼元と結ばれ子を儲けたとき、はじめて自分が人との間に混血ができないあやかしだと知った由利歌。


 双子は父同様、俊紅の陰陽師となり日々修練に励んでいた。


 そして今回の桜花討伐。


 一度は断った話だったのだが、その夜、訪れた桜花の息子、走助の幽霊の頼みを受け、母である桜花の討伐を決意した由利歌。


 決して用意ではないその任務に本人も気が張りつめていた。


「たぶん、あの桜花って言う母ちゃん。正気を(たも)っているぞ」


 その言葉に驚きを隠せない、由利歌と蒼水。


「あんな姿になって正気を保っているなんて、あり得るんですか?」


「あの母ちゃんの目的は人間じゃない。妖だ。この世から全ての妖を消し去ろうとしている。村々はそのついでに滅ぼされているだけだ。人間に気遣(きづか)う理由も無いからな」


 蒼水の疑問に応える蒼炎。


「全ての妖が居なくなれば、俊紅の存在意義が無くなるから……」


 由利歌の言葉をああ、と手短に肯定する蒼炎。


「そんな、無茶な……」


「子も夫も失った彼女には、そうするしか無かったのかもね……」


 由利歌の言葉に一同は沈黙する。


「さぁ、感傷(かんしょう)(ひた)るのはここまでよ。あの子との約束を果たさなきゃ」


 由利歌は手を叩いて切り替えを(うなが)した。




 施設の外で結界の中和に(つと)めていた術師達との合流を(はか)る五郎達だったが、視界に入ってきたのは倒れた三郎と五芒星に(はりつけ)にされた一郎とその状況を作ったと思われる女の姿だった。


「兄者?!」


 駆け寄ろうとする五郎をオルトロスが静止する。


「あの女が相手じゃ、勝ち目ないわ。引くわよ」


「なんだと?! 兄者達を見捨てろと言うのか!」


「二郎、私も彼女の意見に賛成だ。あの女……。只者(ただもの)じゃない……」


 一郎と三郎を倒したと思われる女性、早川由利歌を見て、サイクロプスも撤退に賛成する。


「どうしてもと言うのなら、回収した他の兄弟達をここに置いていくことになるぞ。お前の転移する影が無ければ連中を運ぶ事はできないからな」


 その言葉を聞いてうなだれる五郎は、


「わかった……」


 と、言葉を絞り出す。


 その場から立ち去る五郎とサイクロプス。


「相変わらずですね。母上」


 最後まで残ったオルトロスはそう呟くと、五郎達の後を追う。




「走矢達が無事綾瀬姉妹と合流したようです」


 走矢からの通話を受けたエリスが清十郎と愛美に報告する。


「どちらも無事で良かった。連絡を断っていた救出部隊からも報告があった。とりあえずは乗り切れたようだ」


「逃げた敵は?」


「一応、追跡班(ついせきはん)を編成して追わせてはいるが、なにぶん即席のチーム。無理はしないよう言ってある」


 愛美の質問に応える清十郎。


「それと今回の襲撃、どうも複数の勢力が入り乱れていたようで……」


「コボルドとスパルチスは綾瀬姉妹を、オーク共は走矢を狙っていたと言うことですね」


「ええ、更に加えて例のスライム。オークとコボルド達にも襲いかかっていたと言う報告がありまして。まぁ、未熟な術師がスライムを使役する時設定とかを間違えて、味方が襲われるなんて事は珍しくはないんですが……」


 清十郎の言葉を聞いて、日奈子や夏に化けて近づいてきたスライムをエリスは思い出す。


「一応、『姉妹を狙った敵』、『オーク一味』の他にスライムを使った『3番目の敵』を想定しておいた方がいいかもしれませんね」


 エリスの言葉に清十郎は静かにうなすく。




「君さぁ、わかってる? 昨日、死にかけたばっかりなんだよ? とうして1日ぐらい大人(おとな)しくしてられないのかねぇ」


 意気揚々と4階に訪れた走矢を見て、紗由理が色々とダメ出しをする。


 そんな彼に昨日、致命傷を負わせたウィルウィスプはあまりの気まずさからガシャドクロの部屋に隠れて様子をうかがっていた。


「走矢くん、貴方(あなた)も無事でよかったわ」


 お説教を中断させ、下着姿の火織が飛び出してくる。


「君はいろんな意味で引っ込んでて」


「お母様、いい加減服を着てください」


 紗由理と小夜子に注意されるがどこ吹く風の火織。


「小夜ちゃん、ご無沙汰〜」


 そう言って手を振る直。


 それを見て会釈する小夜子。


「また物騒な物持ち歩いてんなぁ」


「しゃあねぇだろ! 相手が武器持ちなんだからよぉ!」


 桜に反論するレイコ。


「ちょっと貴女達(あなたたち)、なんて格好してるのよ!」


 下着姿の火織とガシャドクロに注意する理奈。


「凄いの着けてるのねぇ……」


 ガシャドクロの下着に興味津々のリリス。


 場のカオスっぷりにアタフタする咲花。


「無事で良かったわ」


 姉妹の安否を確認した春香だった。


 そしてもう1人、外から中の状況を確認する女がいた。


「見つけた、走矢……」


 女は牙をのぞかせながらそう呟く。

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