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乱戦3

「清十郎さん……」


「まさかこの施設の結界が無効化されるとは……」


 コボルドを素手で撃退した清十郎が眉間にシワを寄せて呟く。


 突然、立ち込めてきた霧とその中から次々と出現するスパルチスとコボルド。


「報告によると今回の『敵』はスパルチスを使うみたいですから、情報と合致しますね。ただ、支所に攻撃を仕掛けてくるとは……」


 支所への攻撃は絶対にあり得ない話ではない。


 つい最近もメデューサにメチャクチャにされた事がある。


 しかし、こう頻繁にやられるというのは人妖機関の面子(めんつ)にも関わる話で、今後の事も考えなくてはならない。


 この支所において、高い地位にいる清十郎は現状の打破と並行してソレを考えていた。


「敵の狙いがあの姉妹だとしても、俊紅の走矢が狙われる可能性も十分ある」


「そこは多分大丈夫です。ママと理奈さん、そしてあの子達も一緒ですから。走矢はやたらとヴァンパイアとの縁があるんで」




「おい、ちょうど良い場所に出てきたな」


「今日1日で2回、倒された相手の前に出現するのがちょうど良いわけ無いだろう」


「あたしはまだ、1回しかやられてねぇ!」


 突然、走矢達の後方に出現した、利波、影井十郎、そして朔美と呼ばれたタンクトップの女。


 前方からはオークの群れが押し寄せてくるという、挟み撃ちにされた状態だ。


「おとなしく姉妹の場所を教えろ。そうすりゃ痛い目ですましてやる」


「そういうセリフは痛い目を見せてもらってからでないと、説得力無いわよ」


 利波のセリフを挑発で返す春香。


「んだと、クソガキ!」


「まぁ、言ってる事は間違ってないな」


 激昂する利波に対し、十郎は冷静にその言葉を受け入れる。


「何あれ、猪みたいな頭のオークが混じっているんだけど?!」


 ボアヘッドを初めて見る直が困惑の表情で呟く。


「アレはボアヘッド。オークの一種で亜種とも突然変異とも言われてますが、なぜあの様な個体が存在するのかは、実はよく分かってないんですよ」


「アレ、オークなの?!」


「一般的にはそういう事になっています」


 理奈の解説にほへ〜、と感心する直。


「理奈さん、ボアヘッドは私達で対処しましょう」


「後ろの3人、あの娘達で大丈夫でしょうか?」


「ですから私達で、なんですよ」


「なるほど」


 要はこの場で一番厄介なボアヘッドを熟練者2人がかりで、なるべく短時間で撃破し、後ろの敵に対処すると言う事だ。


「今回は全能力が解禁されているんだ。さっきまでの様にはいかねぇぞ!」


 そう言うと、利波の額の両サイドが突起し始め、角のようになる。


「アレは西洋鬼。トロールあたりかしら……」


 チラリと様子をうかがったリリスが呟く。


「いくぜぇぇぇぇっ」


 戦斧を構えた朔美がそう叫ぶと、頭からは2本の大きな角が、お尻から牛の尻尾が生えはじめる。


「何だコイツ?!」


「ミノタウロスよ、正体を隠していたのね!」


 桜の疑問に春香が応える。


「そうだ、街中での活動のため、擬態解除を禁止されていたが今回は違うぞ?!」


 そう言って剣を構える十郎がトカゲ人間、リザードマンへと変貌する。


「くっ!」


 自身の翼を広げ、舞いちる薄紫の羽根で幻惑の結界を張る春香。


 しかし、ふん、と言う十郎の掛け声とともに彼の結界が張られ、春香の幻惑の結界が無効化される。


「そんな?! 私の結界が……」


「ただの人避けの結界だが、これでお前の結界を防げる!」


 そう言うと、十郎は手に持ったロングソードで春香に斬りかかり、彼女もソレを後方に跳ぶことで回避する。


 しかし、何も無い中空からもう1本のロングソードが現れ、ソレを反対側の手で持つと、追撃をかける。


「なっ?!」


 思わぬ追加攻撃に、対応が遅れる春香。


 回避しきれずに、攻撃を食らってしまう。


 眼鏡が吹っ飛び、床に落ちるが、そこで違和感を感じる。


 眼鏡が落ちたのに音がしない。


 疑問に思いよく見ると、床に落ちたのは眼鏡では無く、1枚の薄紫色の羽根だった。


「なぜ?! どうして?! いつの間に?!」


「私の結界って羽根をまき散らせたりして、結構面倒なんだけど、代わりに一度()き散らすと、結界の解除、再発動をゼロ秒で行う事ができるの」


 その声と共に、春香渾身の回し蹴りが、十郎の顔面に炸裂する。




 正体を(あらわ)したことでパワーもスピードも上がった朔美と利波。


 一方、桜も翼を広げて、高機動力と高感知能力で対応する。


「いつまで逃げていられるかな?!」


 そう言うと、利波の身体から皮膚を突き破ってナイフが発射される。


 彼女はトロールの高い再生能力を使い、武器を体内から自在に出し入れする事ができる。


「くっそ、何なんだ?! こいつは?」


 紙一重で攻撃を回避した桜が叫ぶ。


 翼を使った高機動、高感知状態でなければやられていた。


 しかし、敵の攻撃は終わらない。


「うりゃあ!」


 と、掛け声とともに、桜の首めがけて朔美が戦斧を振るう。


 ソレをスウェーで回避する桜だが、その時はじめて死角から飛んでくる手斧に気づいた。


 朔美が戦斧の大振りと同時に放った物だ。


 スウェーで体が横になっている状態で、タイミング良くつま先で蹴り上げ、何とかしのぐ。


「朔美、もう一度だ!」


 ミノタウロスの反対側に回り込んだ利波が挟み撃ちの体勢を作る。


「うおぉぉぉっ!」


 女2人は雄叫びをあげる。


 利波が両手から出した鎖で桜を拘束し、それに朔美が渾身の一撃を見舞う。


 しかし、その朔美が見たものは、自身の戦斧で切り裂かれ、床に伏す利波の姿だった。


 2人は途中から春香の幻術で、互いを桜だと思い込み、利波は鎖で朔美を拘束し、朔美はそれを力ずくで引きちぎり、利波に戦斧を食らわせたのだった。


「なんで……? どうして……?」


 同士討ちと言う結末に動揺するミノタウロス。


 そんなミノタウロスの顔面に、容赦なく前後から回し蹴りを見舞う桜と春香。


 朔美は立ったまま意識を失い、床に倒れる。

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