乱戦2
前日に高校でガシャドクロやサキュバス、ウィルウィスプといった俊紅を狙う妖達と激闘を繰り広げた翌日。
今度は人妖機関の襲撃に巻き込まれる走矢達。
この日、他所からの増援含め、多くの人員がキメラこと浪川 栄子の起こした事件の調査に回されていた。
それに加えて、捕らえられた舞の救出に人員を割いており、かなり手薄な状態だった。
だが、機関の施設内には羽月達以外の妖達も収容されている。
八嶋 霧香を名乗り、高校に入り込んだガシャドクロもその1人で、寝巻きに使っている薄い水色の着物姿で、突然現れたスパルチス達と交戦していた。
「リーチの差は如何ともしがたいな」
そう言って繰り出した前蹴りでスパルチスの頭部を破壊した霧香。
倒されたスパルチス達は武器を持っており、そのせいでリーチの有利をとられ、苦戦を強いられた。
「着物姿って、もしかして下着、着けてないの?」
突如現れた、青白い炎の人魂。
栄子に食われたウィルウィスプの成れの果てだ。
ガシャドクロにくっついて来て、彼女の部屋に隠れ住んでいる。
「そんなわけ無いだろ。私を何だと思っているんだ?」
ウィルウィスプの質問に呆れた様子で反論する。
そして倒したスパルチスから武器を奪い取り、品定めをする。
「シミターとかファルシオンと言うやつだな。日本刀とは勝手が違うが、贅沢は言ってられんな」
そう言ってドアの鍵を破壊し、部屋の外に出る。
「何?! なんか凄く騒がしいんだけど……」
愛美を助けたかっぱの姉妹、ルリとリル。
かつて新矢の追っていた窃盗事件の犯人である、ゴブリンに騙されて、その捜査を邪魔した過去を精算するため、今回の事件で捕らえたそのゴブリンから情報を引き出していた。
「例の品を売ったのは15年も前だぞ? 売った奴が今どうしてるかなんて俺達が知るわけ無いだろ」
兄ゴブリンばふてぶてしい態度で悪びれる様子もない。
「今どうなっているかについてはこちらで調べますから、当時の情報をならべく正確に答えなさい」
この操作の責任者を務める愛美が強い口調で言う。
本来、準職員である愛美が捜査を主導するというのは珍しいパターンなのだが、新矢がらみなのと恩人の河童姉妹のたっての頼みでこの事件を担当する事になった。
窃盗を生業としていたゴブリン兄弟。
そういった品々を買い取る、窃盗品専門の買取屋との付き合いがあるのだが、その窃盗品を売った相手とはその1回だけしか取引をしていないと言うのだ。
「どこで聞きつけたか、向こうから買いたいと言ってきてな。こちらの想定の倍以上の金額を提示してきやがった」
「その人物に売ったって事?」
「ああ、そうだ」
「その人の似顔絵とか描きたいんだけど……」
「いいけど、たぶん無駄だぞ。あいつは多分、雇われた代理人だ。あれを欲しがった奴は他にいる」
「なにそれ?! どう言う事?!」
愛美と兄ゴブリンのやり取りに、姉河童のルリが割って入る。
「大金をポン、と出すような大金持ちが俺達みたいな薄汚い奴らに直接会うなんてことは先ず考えられない。代理人をたてるのは定石と言ってもいい。そして余計な詮索はしない。これは商売のコツであり、長生きのコツでもある」
「何が長生きのコツよ! あたしが長生きできなくしてやろうか?!」
そう言ってゴブリンの胸ぐらを掴むルリ。
「ぐるじい……」
胸ぐらを掴む腕をタップしてギブアップを伝えるゴブリン。
「ルリさん、落ち着いて?!」
必死にルリを止める愛美。
先程からこのパターンが何度も繰り返されており、なかなか話が進まなかった。
ゴブリン兄弟が盗んだ物。
それは『アルテミスの宝玉』と呼ばれるマジックアイテムで、獣人の様な月の影響を受ける妖が好む。
ただし、多くの偽物が出回っており、ゴブリン兄弟が盗んだ物も、その偽物と思われる。
「もし、本物だったら100倍でも安いくらいだ」
そして、同じ取り調べ室の隅っこで、爆睡する弟のホブゴブリンの姿があった。
「ねーちゃんにおねーさん! なんか廊下が凄いことになっているよ?!」
部屋の外の騒がしさに気づいたリルが、様子を見ようと廊下に通じるドアを開けると、暴れるオーク達の姿があった。
「なに?! オークの群れ? 何で機関の施設に?!」
慌てる愛美だったが、部屋の壁をぶち抜いて、猪頭のオークが入ってきて、さらに彼女を驚かす。
「ボアヘッド?! 何でこんなのが機関の中に?! おいっ! 起きろ?! お前の出番だ!!」
弟のホブゴブリンを猪頭にけしかけようとするが、寝ぼけて立ち向かっていく様子はない。
「ブモォーッ」
と、雄叫びをあげて大声を出している兄ゴブリンの目掛けて、棍棒を振り下ろす。
「ぐあっ!」
直撃は避けたものの、吹っ飛ぶ兄ゴブリン。
そこへ突如目を覚ました弟ホブゴブリンが乱入し、ボアヘッドと取っ組み合いになる。
2階にいる走矢達の一団は舞と奏美の居る4階を目指していた。
「スパルチスにコボルド。数だけは結構なモノね」
呟く春香。
「あれ?! もしかしてオーク?」
1階から7階までをつなぐ階段が見えてきた頃、下の会から大量のオークが現れるのを目撃する。




