乱戦
「あの……。清十郎さん」
姉妹との面会が終わり彼女達が与えられた部屋に行ったのを確認して、エリスが清十郎を呼び止める。
「さっきの話、もう少し詳しく聞かせてもらっていいですか?」
「もちろんです」
エリスの質問を予期していたかの様に清十郎は応え、個室に移動する。
「先ず遺体で発見された職員ですけど、発見された遺体は1体何ですよね?」
「ええっ、人妖機関の職員は原則、2人1組での行動なのに、発見されたのは1人の遺体でした」
この情報はあえて姉妹には伏せられた物だった。
では、発見されていたさないもう1人はどうなったのか?
すでに死亡しているが遺体がまだ見つかっていないだけ?
生きていて独自に操作を続けている?
もしくは機関が想定する『敵』の可能性。
この3つ目の可能性は姉妹には聞かせたくないモノだった。
「それともう1つ、彼女達の父親というのが謎の人物で、素性や履歴が全て嘘だったんです。藍華さんの覚醒に何か関わっているんじゃないでしょうか?」
確かにこれは姉妹の前では話せない情報だ。
「それと、これは別件でもあるんですけど、彼女達が預けられていた月宮女学院。ここも胡散臭い所でして、現在職員が調査中です」
この月宮女学院というのは、創立して20年という、比較的歴史の浅い学校だ。
「その20年の間に100件以上の職員や生徒の行方不明事件がありまして……。警察の方も調べていたみたいなんですけど、どうも妖絡みの様で、機関の方に話がまわって来たんですよ」
「年平均、5人以上が行方不明って、絶対に何かあるじゃないですか!」
「それが元々問題のある生徒が多く預けられていて、厳しい指導が嫌で寮から脱走したと言うのが月宮の言い分で……。実際過去に家出経験のある生徒もいたそうです」
「その月宮女学院。確かに調べてみる必要がありそうですね……」
ため息まじりにエリスが言う。
『?!』
2人が同時に部屋の異変に気づく。
「霧?」
清十郎が咄嗟に口にした様に、個室に霧が立ち込めている。
エリスが慌てて部屋のドアを開けると、廊下も同じ様に霧に包まれていた。
「なに……。コレ?!」
異様な光景に、エリスが言葉をもらす。
「あの女が来たわね」
職員同士の会話と言う事でエリスと清十郎の話しに混ぜてもらえなかった走矢達。
自販機の置いてあるエリアで休んでいたところ、急に立ち込めてきた霧に一同は困惑していた。
そんな中、何かを察した理奈が呟いたのだ。
「さっきあの女の子達を襲ったサイクロプスの女の仕業です」
そう言いながら腕を降ると、何も無い空間から何かが砕ける音がする。
それはスパルチスの頭部を破壊した音で、骸骨兵士の首から下が床に倒れていく。
「何だコイツ等?! 何で機関の施設にこんなのがいるんだ?!」
「あの女の結界は2重構造になっているんです。霧の空間と亜空間。亜空間を経由して自由に移動しているのを霧で覆い隠しているんですよ」
「でも、この施設自体、そういった侵入を阻む結界が張られているはずですよ? それを無効化しているって事ですか?」
「そういう事になりますね。『敵』にも手練の術師がいるみたいですね」
桜と春香の疑問に応える理奈。
「くっ、」
春香が翼を広げ幻惑の結界を張ろうとする。
自身の結界で霧だけでも払い、視界を確保しようというのだ。
「私がやるわ、春香ちゃん」
そう言ってリリスが手を叩くと、霧が一瞬で晴れる。
基本、結界は後出しが有利と言われる。
理由は結界を張ったあとに結界を張るという行為は、最初に張った結界の中に別の結界を張るという事になる。
そのため、最初に張った結界は2番目に張った結界に遮られ、その中に影響を及ぼせないからだ。
「?! そこ!」
そう言ってリリスが放った回し蹴りは中空に現れたコボルド達を薙ぎ払う。
「今度はコボルド?!」
眼鏡の位置をなおしながら、倒れた妖を確認する春香。
「貴女の結界、感知系なのね」
理奈がリリスに言うと、
「この結界はね」
と、笑顔で応える。
「お姉ちゃん……」
「くっ、こんな所まで……」
妹を庇う様にして竹刀を構える舞。
敵はスパルチス3体。
それぞれ折った肋骨を武器に変化させてその尖先を姉妹に向けている。
「なんとか奏美だけでも……」
舞が覚悟を決めた時、
「この不埒者!!」
そんな怒号が隣の部屋から聞こえると、壁が吹き飛び丸焼きのコボルドが2匹吹っ飛んでくる。
「何なのコイツ等。突然、人の部屋に湧いてきて!」
吹き飛んだ壁の穴から下着姿の焔緋 火織が姿を見せる。
そして、スパルチス達に襲われている姉妹を見て、
「この出歯亀共! 次から次へと!!」
そう咆えると、炎を纏った鉄拳で、スパルチス達を一掃する。
その勇姿? に姉妹はキョトンとする。
「お母さん、服! 服!」
そう言いながら壁の穴から服を持った小夜子が顔を覗かせる。
「何だ、コイツ等は?!」
人妖機関の施設の外から結界を中和している影井 一郎は困惑していた。
あきらかに自分達とは違う一団が施設の入り口に詰めかけ、強行突破しようとしているのだ。
「アレはオークの集団? 一体何のために?!」
一郎のそばに待機していた三郎が驚きの声をあげる。
「行くぞ皆のもの! 我らの『暴食の王』、ベルゼブブ様のために今日こそ俊紅を手に入れるのだ!!」
リーダー格らしき巨漢のオークが叫ぶと、他のオーク達も一気に沸き立つ。
「邪魔する奴はみなごろしだぁ!!」
オークの群れが人妖機関になだれ込む。




