家族7
「何だテメェは!」
突然の乱入者に驚きながらも激昂する利波。
タンクトップの女も中空から巨大な戦斧を出現させ、構える。
スーツ姿の女だけは冷静に、値踏みするようにヴァンパイアの女を観察していた。
「悪い人達ですね。こんな子供相手に物騒な物を振り回して」
見た目は30歳前後、真っ赤な肩にかかる程度の長さのミディアムヘアの女性。
背中から生えたコウモリの翼がバサリと広がり、相手を威嚇する。
先ずはタンクトップの女が戦斧を振り上げて襲いかかる。
と、同時に、利波がヴァンパイアの女の背後に回り込み、挟み撃ちする形をとる。
ヴァンパイアの女は走矢と奏美を抱えて上昇すると、敵の3人から離れた位置に着地し、ここにいるように言う。
再びヴァンパイア女に襲いかかるタンクトップの女と利波。
しかし、低空飛行でホバリングするヴァンパイアの女は一瞬で利波の懐に潜り込むと、コンパクトに振りぬいた回し蹴りで彼女を蹴散らし、背後から振り降ろされる戦斧を背中越しに指2本で挟んで止める。
「この女、なんて力だ!」
タンクトップの女が叫ぶと同時に後ろ蹴りを腹部に命中させ、彼女はその場に蹲る。
「さて……」
と言いながら残るスーツ姿の女に向き直るヴァンパイア。
その残る最後の1人は、腕を組んだまま表情1つ変えずにヴァンパイアを凝視している。
「この女性は少し、厄介ですね」
ヴァンパイアの表情が、先程までより真剣になる。
その時、物陰から何者かがスーツ姿の女に竹刀を振り下ろす。
「奏美、逃げて! 罠よこれは!!」
「お姉ちゃん?!」
それは妹のピンチを救おうと、奇襲をかけた綾瀬 舞だった。
スーツ姿とタンクトップの女に襲われたとき、スマホを通してしまい、そのせいで妹が罠にかかってしまった。
そう判断した舞は決死の覚悟で奇襲に打って出たのだが、敢え無くそれは回避され、逆に人質に取られてしまう。
「くっ、離せ!」
叫ぶ舞に対して彼女を拘束する女は無言だった。
「これを狙っていたんですね、サイクロプスさん」
「まぁな……。やはり私の正体に気づいていたか……」
そう言いながらスーツ姿の女ことサイクロプスは、左腕で舞の首を極めながら右手で竹刀を持つ手を強く握り、武器を落とさせる。
「朔美、起きろ! 撤退する」
サイクロプスは蹲るタンクトップの女に向かって指示を出す。
「ぐっ、人質がいるならそれを利用してこいつ等を!」
「駄目だ。我々は時間をかけすぎた。これ以上の長居は詰むぞ。のびてる2人を回収しろ」
悔しそうにサイクロプスの命令に従う朔美と呼ばれたタンクトップの女はまだ意識の戻らない仲間を両肩に担ぐ。
それを見届けたサイクロプスは、舞を拘束したままジリジリと後退し始める。
「その娘は置いていってもらいますよ。正直、走矢以外の人間がどうなろうと知った事では無いんですけど、それだとあの子に嫌われてしまいますからね。この命にかけてその少女は取り返しますよ」
「心配しなくても殿を務め終えたら離してやる」
「『離してやる』? 『無事に返してやる』じゃないんですね?」
ヴァンパイアの女は優しく微笑むが、何やら決意めいた物を感じられる。
「ああ、『離してやる』だ」
そう言うと同時に右手の指をパチン、と鳴らすと周囲に霧が立ち込めてくる。
「結界、それも一癖有りそうですね」
そう言うと、ヴァンパイアの女は自分の指先を噛んで傷つけ、流れ出た血を指をはじいて走矢達の方に飛ばすと、彼等を紅いベールで包み込む。
「それは私の結界です。そこから出ないで下さいね」
そう言って翼を広げると上昇し、何も無い空間を手刀で切り裂く。
霧が晴れたそこには舞を捕らえたままのサイクロプスがいた。
さらに上昇するサイクロプスとそれを追うヴァンパイア。
「お前と空中戦をするつもりは無い」
そう言ってサイクロプスは舞を地面に向かって突き放す。
しかし、ヴァンパイアはそれを予想していたかのように慌てることなく急降下して舞を追い、余裕を持ってキャッチする。
「離すと突き放すはだいぶ違うと思いますよ」
すでにサイクロプスの姿が見えなくなった虚空に向かってヴァンパイアは呟く。
「お姉ちゃん!」
紅いベールの中から叫ぶ奏美の声に我に返るヴァンパイア。
「あら、私とした事が」
そう言って指を鳴らすと走矢達を包み込んでいた紅いベールは消滅し、奏美は姉の元に走り出す。
「いったい何があったの?」
上空から聞き慣れた声がすると母、エリスと祖母のリリスが舞い降りて来る。
「はじめまして……。えっと、どちらがエリスさん?」
見知らぬヴァンパイアの女性がエリスとリリスに尋ねてくる。
「私がエリスよ。貴女は? 走矢達を助けていただいたみたいですけど……」
「私は雨上 理奈。雨上新矢、いいえ、佐伯新矢の母です。改めて、はじめまして。エリスさん」
「貴女が新矢の実のお母さん?!」
「えっ……。父さんの実のお母さんって事は……」
「あの……。できれば『理奈』って呼んでほしいです。お祖母ちゃんじゃなくって……。特に走矢は……」
先程までの余裕のある戦いぶりと打って変わって、頬を真っ赤にして上目遣いで嘆願するように見つめてくるもう1人の祖母に走矢は困惑した。
「女の顔をしてるわね。理奈さん……」
一部始終を見ていたリリスが呟く。




